Born A Crime: Stories from a South African Childhood (English Edition) [Kindle]
- John Murray (2016年11月17日発売)
- Amazon.co.jp ・電子書籍 (306ページ)
感想・レビュー・書評
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トレバー・ノア、ってコメディアンだってことしか知らなかったんだけど、渡辺由香里さんの洋書ブログでこの、トレバー・ノアがみずから書いた自伝、って知って読んでみた。
アメリカの人気テレビ番組の司会もしているトレバー・ノア、南アフリカ共和国のアパルトヘイト時代に、黒人の母と白人の父のあいだに生まれる。当時、黒人と白人の結婚は犯罪だったので、彼は人目につかないように母親のもとで育てられて自由に外にも出られなかった、っていうのがまず驚きで。たかだか30年前くらいのことなのに。(アパルトヘイトが終わったのは1991年)。とにかく、アパルトヘイトについて、アフリカについて、知らないことばかりで驚きの連続だった。
彼の母親は、信仰心厚いキリスト教信者で、自立心があって因習に縛られなくて、ものすごくポジティブで働き者で、そんなすてきな母親に育てられて(「ふたりはチーム」ってのがいい)、彼はたくましく賢く育っていく。そうしたエピソードの数々が実際はかなり悲惨な体験なんだろうけど、ユーモアまじりに語られて、おもしろい青春モノとして楽しく読める。とにかく、信じられないようなできごとばかりで、サバイブしてきたってとにかくすごい!!!としか思えない。
章の頭に、書かれる自分の体験について、解説というかエッセイのような文章があるんだけど、それによってより、アフリカの状況などをよく理解できたし、いろいろ考えさせられもした。(なんでだか印象に今残っているのが、よく、開発途上国の国とかに「魚を与えるより、魚のとりかたを教えろ」っていうけど、それだけじゃだめで「魚をとる道具も与えるのが本当の親切」みたいなこととか。)
この作品の映画化がすすんでいるというので楽しみ。あと続編も書かれるそうで、それがものすごく楽しみ。いったい彼、どうやってコメディアンになったんだろう!!詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
南アフリカ共和国出身のコメディアンで「デイリー・ショー」のホストに抜擢され、一躍有名になったトレバー・ノアの自伝。ベストセラー。
過去、南アフリカを訪れ、とても印象に残る国だったので、その意味でもこの本には関心があった。
デイリー・ショーは三大ネットワークの夜のトークショーと並ぶ人気番組。トレバー・ノアの前はジョン・スチュアートがホストを務め、彼の番組もとても好きだった。
デイリー・ショーは、やはり風刺を効かせた政治ネタがメインで昨今ではトランプネタが炸裂?している。
南アフリカ出身ということで、客観的にアメリカを見ているところが、他のトークショーのホストとは違い、新鮮味もあり面白い。
彼は悪名高きアパルトヘイトの最中、黒人の母と白人の父の間に生またので、法的には「Born a crime」。
その出生の理由も面白い。
アパルトヘイトもそうだが、この本では人種に関する様々な思いや考察があり、本著の大きなテーマになっている。アパルトヘイトの可笑しな仕組み、人種と言葉の問題、子供の際にどのグループに所属するか悩む場面等々。
ただ、この本の最大のテーマは母と子の関係、そしてとてもユニークな母親の存在について。
彼の成功は、この母親なくしては有り得ないのだろうし、垣間見る親子愛に心を打たれる。
コメディアンらしくユーモアも満載だが、シリアスな面が中心であるのがいい。 -
トレバー・ノアは「アメリカの面白いにーちゃん」としか知らなかった。でもこの自伝で語られる彼の半生はまだ若いながらなかなかに壮絶。黒人と白人の間に生まれ、属するコミュニティを持たずに生きるしかなかった青年。この本ではアパルトヘイトという制度のこと、南アフリカにおける人種差別の実態、貧困のなかに暮らす人々の生き方などと並行して彼と彼の母親について語られている。悲惨とも言える境遇の中で、ユーモアを忘れず、境遇に埋没することなく生きるというのは簡単にできることではないが、彼の母親は息子にそれを教えた。母はトレバーに武器としての英語を与え、食べるものにもこと欠く中で本をふんだんに与え、教育と惜しみない愛(と容赦ないお仕置き)を与えた。アパルトヘイトという制度が終わってもなお差別と貧困に苦しむ黒人が多い中、母は息子に「外の世界」を見せた。人は知らないものを夢見ることはできないという信念が、やがて彼をアメリカの人気コメディアンにしたのだと思うと感慨深い。