一揆の原理 (ちくま学芸文庫) [Kindle]

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感想・レビュー・書評

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  • 「一揆」と言えば「農民が竹槍担いで代官屋敷を襲う」という苛烈な『カムイ伝』の世界をイメージしますが、著者によれば生きるか死ぬかの反体制運動というよりは条件闘争に近かったそうです。教科書に登場する「土一揆」「国一揆」江戸時代の「百姓一揆」は、条件闘争を戦うグループであり「一揆」とは二者間でも成立する契約の一形態だそうです。法整備が不十分なために神仏を介在させた?現代のカンパニーに近い?国人一揆の発展が戦国大名?など考えさせられます。ただ国人層を排除した「一向一揆」はどうなのか、言及あったかな?(2012年)

  • 一揆の実像と原理を解説した本。

    私たちがイメージする「一揆」とは農民が竹槍で戦うものが多いと思います。しかし、実際は竹槍で戦う一揆は明治になってからだといいます。また、中世の一揆は「人と人との契約」で成立するものだと本書は述べています。

    本書は、中世に誕生して同じ時代にピークを迎えた「一揆」について、現代の社会運動と対比しながら読み解いていきます。

  • 中世はなんでも契約関係にあったのだなー、と思いました。
    現代のデモやSNSの話に結びつけるのはどうかと思いましたが、それがこの本の固さを取り除いているというか、持ち味なのかもしれません。

  • 一揆は「おこす」ものではなく「むすぶ」もの。竹槍にむしろ旗の古典的な一揆のイメージから語り始め、それまでの人間関係が揺らいだ中世に生まれた一揆と言う概念を現代のSNSの隆興に絡めて語る、動的な歴史研究の先端を垣間見られる良著。

  • 本書のコンセプトは「日本における民衆運動の歴史を客観的に分析する」というもので、「一揆の本質は人と人をつなぐ紐帯にある」とする。
    一揆というと竹槍を持った百姓一揆をイメージする。要求が通っても通らなくても首謀者は打ち首みたいなどうしようも行き場をなくした農民が窮鼠猫をかむ的な行為の様に思われる。本書ではそういった一揆のイメージが払拭されるのである。
    先ず、百姓一揆で農民達は農作業の道具しかもたない。実のところ百姓といっても弓矢や鉄砲、刀の類いはもっているのだが、一揆ではそんなものは手にしない。それは自分たちはあくまでも農民であるということを示すためである。百姓農民であれば領主は彼らの生活が立ちゆく様にする義務がある。百姓一揆は、体制に刃向かう行為ではなく、体制の中で自分たちの要求を訴える行為である。
    次に、一揆というと百姓一揆の様に江戸時代がその最盛期と思いがちだが、「中世こそが一揆の黄金時代」である。中世においては一揆は社会的に認められていた。中世の一揆が一揆のスタンダードなのである。中世において、農民だけではなくう武士も僧侶も一揆を結んだ。一揆は契約行為であり、血縁地縁関係でない"人と人との結びつき"なのである。
    そして、「日本中世の一揆の原点が一対一の「人のつながり」にあるという事実に注目すれば「一揆の思想」には将来性が残されている」というのが本書の結論である。

    一揆の原理をSNS等で結びつけられた現代の民衆運動と結びつけようとする著者の目論みには少々同調し難いが、本書で展開される一揆の原理はいちいち納得がいくのである。一揆の原理に現代的な意味があるかどうかはともかく、契約という視点で一揆を観ていくと、一揆で発現される行為・現象の意味が良く理解できるのである。

  •  「一揆」と言われて思い浮かべる光景は大勢の農民が農具や竹槍を持って打ち壊しをする、いわば暴動のようなものだったが、そのイメージはかなり間違っていたようだ。本書によれば実際の一揆で武器を使うことはあまりなく、基本的には「交渉」だったという。一揆とは今でいうところの組合とか同盟のような組織だったようだ。

     自然発生的な暴動などではなく決まった作法に従って進められる行動だったという点や、農民による一揆でも文書を用いて契約を結ぶ手続きがあったことなど、かなり意外なエピソードが多かった。中世から近世の農民はほとんど文盲だったと思っていたがそうでもなく、武士に対してただ搾取されるだけの弱者でもなかったようだ。

     本書の特長は、一揆を何百年も前に起きていた歴史上の出来事として解説するだけでなく、現代における人々の活動とも結び付けて考察している点だ。中東のジャスミン革命はフェイスブックやツイッターによって人々が繋がって起きたが、中世の一揆も書状や落書で形成された人の繋がりによる活動だった。時代と場所が変われば道具や規模は変わるけれど、「同じ思いを持つ人々が団結して何かを要求し、勝ち取る」という構図は共通だ。

     ただし、従来の学者が唱えていたように一揆を階級闘争と捉える見方には否定的だ。武士などの支配階級に対して労働者である農民が団結して一揆を起こしたとは言っても、あくまでも封建制のシステムの中での「団体交渉」であり、支配そのものを否定する動きだったわけではないという。

     同じ著者が本書の翌年に出版した『応仁の乱』はこの分野の書籍として珍しくベストセラーになった。そちらは未読だが、本書の印象からして多分かなり面白そうだ。門外漢をひきつける語り口や着眼点はすばらしい。こういうのが良いアウトリーチなのだと思う。

  • 僕は視線の先には世界があるてな高校生だったし、唯物史観は性に合わんてな大学生だったので日本史とは無縁に生きてきました。だが、歳食って日本にも興味が出てきたので、何かいい本ないかなと手に取ったのが本書です。大当たり。
    「反原発デモは百姓一揆」って言説がずっと気になってたのですが、やっと理解できました。歴女じゃあるまいし英雄史に手を出すのもなあと思ってたんですが、こういう日本史ならもっともっと読みたいかもです。

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著者プロフィール

国際日本文化研究センター助教
著書・論文:『応仁の乱 戦国時代を生んだ大乱』(中央公論新社、2016年)、「永享九年の『大乱』 関東永享の乱の始期をめぐって」(植田真平編『足利持氏』シリーズ・中世関東武士の研究第二〇巻、戎光祥出版、2016年、初出2013年)、「足利安王・春王の日光山逃避伝説の生成過程」(倉本一宏編『説話研究を拓く 説話文学と歴史史料の間に』思文閣出版、2019年)など。

「2019年 『平和の世は来るか 太平記』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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