四万年の絵 (月刊たくさんのふしぎ2016年7月号)

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  • 福音館書店
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  • Amazon.co.jp ・雑誌 (40ページ)
  • / ISBN・EAN: 4910159230769

感想・レビュー・書評

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  • アボリジニ(オーストラリア先住民の総称)が四万年前から手形を洞窟いっぱいに描き続けてきた岩絵があるという。「世界で一番長くかかれた絵」である。赤い絵の具を塗ってペタッと貼ったもの、絵の具を口に含んでプッと手の形をかたどったもの。

    観光地の落書きじゃない。40000年。気の遠くなる様な昔から、人々の生きた証をそこに描き続けてきた人たちがいる。その想いは、同じ人類として容易に想像できる。装丁家山田英春さんは、世界の古代遺跡を渡って、そんな「不思議写真」を撮り続けてきた。考古学者や人類学者ではない視線が、写真にも現れて、私をドキドキさせる。

    後半は手形以外の岩絵の紹介になる。アボリジニたちの具体的な生活と精神世界が展開する。もちろん日本の弥生時代にも、さまざまな絵画は存在する。岩絵を選ばなかった(古墳の「装飾」はあったが、あれは多分別系統)ために、岩絵よりもかなり抽象度が増してしまったのだろう。こちらはひどく具体的だ。狩猟の道具(槍やブーメラン)や儀式の道具(飾りや笛)が描かれる。食料たる動物やその他生き物(カンガルー、ワラビー、ハリモグラ、エリマキトカゲ、エミュー、イリエワニ、オオトカゲ、ナマズ、ディンゴ、ノコギリエイ)が描かれていて、まるで動物図鑑のよう。絶滅したフクロオオカミ、ゲニオルニス、ディプロトドンなども描かれている。

    特徴的なのは、その幾つかが、まるでX線を通したように生き物の体を透かして描かれていることだ。とても興味深い。

    更に興味深いのは、精霊たちが同じように描かれていること。その具体性は、ホントに見てきたよう。いや、見てきたのかもしれない。その構造を知ると、改めて上橋菜穂子「守り人シリーズ」に現れるナユグールなどの(もうひとつの世界)描写は、アボリジニのそれをモデルにしているのだな、とガッテンがゆく。

    改めて、アボリジニたちの「人類としての知性の高さ」を尊敬する。武器を開発しなかったから、長い間他国の侵略者に苦しめられたけど、是非その叡智を存続させて欲しいと思う。

    写真の絵本というべき福音館の「月刊たくさんのふしぎ」シリーズ。やまさんのレビューでこの岩絵の存在を知りました。ありがとうございました。

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      kuma0504さん
      アボリジニと聞くと「ピクニックatハンギングロック」を撮ったピーター・ウィアーの「ザ・ラスト・ウェーブ 」を思い出しま...
      kuma0504さん
      アボリジニと聞くと「ピクニックatハンギングロック」を撮ったピーター・ウィアーの「ザ・ラスト・ウェーブ 」を思い出します。
      この言い方は適切じゃないかも知れませんが、文明とか個人の権利とかから遠いほど、災厄から逃れる力があるような、、、(猫の寝子言です)
      2022/07/28
    • kuma0504さん
      猫丸さん、
      「文明とか個人の権利とかから遠いほど、災厄から逃れる力がある」言い得て妙です!
      戦争は、人類20万年の歴史から言えば、ついほんの...
      猫丸さん、
      「文明とか個人の権利とかから遠いほど、災厄から逃れる力がある」言い得て妙です!
      戦争は、人類20万年の歴史から言えば、ついほんの最近数千年前に始めたばかりです。
      アボリジニは、何故か国を作ろうとはしなかった。戦争も始めなかった。それは何故なのか?きっとどこかに研究書はあるとは思えるのですが、上橋菜穂子さん辺りに解説してもらいたい。
      2022/07/28
    • 猫丸(nyancomaru)さん
      kuma0504さん
      > 上橋菜穂子さん辺りに解説してもらいたい。
      良いですね!

      オーストラリア政府観光局のサイトに
      「オースト...
      kuma0504さん
      > 上橋菜穂子さん辺りに解説してもらいたい。
      良いですね!

      オーストラリア政府観光局のサイトに
      「オーストラリア大陸の大地、海、水の伝統的所有者であるアボリジナルピープル及びトレス海峡諸島の人々と、6万年以上に渡るその文化ならびにカントリーの管理に敬意を表します。」
      最近ではアボリジニと言う呼称は使われなくなっているそうです。
      2022/07/29
  • 凄まじいとしかいようのない……悠久の歴史を感じます。

    オーストラリアの先住民族アボリジニの人たちが、4万年前から岩に描きつづけた岩絵について書いたものです。

    手、手、手……。岩壁に数えきれないほどの多くの手の絵が描かれています。
    大きな手、小さい手、赤いもの、青いもの、細かい模様が描かれているものもあります。誰が、いつ、何のために描いたのか…?

    南半球にあるオーストラリアでは250年ぐらい前までは、アボリジニと呼ばれる人たちだけが住んでいました。絵は、このアボリジニの人たちが描いたもので、こうした「岩絵」がオーストラリアのあちらこちらにたくさんあります。

    手の絵は、アボリジニの人たちの手形です。絵の具ををつけて押し当てたり、手の上から口に含んだ絵の具をふきつけたりしたものです。絵の中には、人の手や、カンガルー、魚、ワニや鼻の尖った小さい動物、ヘビなどが描かれています。

    でも多くはごちゃごちゃしてよく分かりません。長い間、たくさんの人たちによって描かれてきた絵が、厚く重なっているのです。絵の多くは、大きな岩が屋根のようにせり出している場所に描かれています。雨のたくさん降る季節に、雨風があたらないように選ばれた場所です。

    【読後】
    なんとも凄いものです。
    この絵は、親から子へ、子から孫へ、またその子へ、長く長く引き継がれて行ったものと思われます。古い絵は新しい絵の下に、消されることなく描きつづけられたもので。このために厚くなり、古い絵が下になっています。

    言葉のない何万年も前から身近な事を描き続けてきたものと思われます。そして、いまは、岩に描くことが禁止されたために、布に、家の壁に、いろんなものに描きつづけています。
    私が、この土地に居たら私も描き続けていたのではと思うと、悠久の歴史を感じます。

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    四万年の絵 ー 月刊たくさんのふしぎ
    2016年7月号。字の大きさは…大。2022.07.06読了。★★★☆☆
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    ウサギ
    「情報発信としての絵本」
    この絵本は、欧米人によって、北米でインデアンが、中南米でマヤが、インカが、アフリカで黒人が…と、多くの土地で行われた侵略の歴史を、欧米人を、奇妙な、幾何学的なウサギで。先住民族を、奇妙な動物で描かれた、とても不思議な絵本です。
    オーストラリアの先住民族アボリジニにおこなった事が描かれています。
    https://booklog.jp/users/kw19/archives/1/4309291244#comment
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  • 『たくさんのふしぎ』7月号「四万年の絵」を書きました。 - lithos Graphics web log
    https://lithos.hatenablog.com/entry/20160625/1466821256

    四万年の絵|福音館書店
    https://www.fukuinkan.co.jp/book/?id=4591

  • アボリジニの歴史文化智識が解りやすく
    壁画に描かれたであろう動物
    描かれた場所や人々の写真も一緒に載っているので
    とても解り易かった。

  • 世界で一番”長い”絵、岩絵。アボリジニが描き継いで来た、四万年の歴史。

    ライフルを持った白人や蒸気船まで描かれているなんて知らなかった。

    沢山の手形は自分はここにいるよーっていう記念に残したのかな。

  • オーストラリアのアボリジニたちのつくりあげてきた壁画を紹介する写真絵本。オーストラリアの移民の歴史をふりかえりつつ、大昔から延々と描き足されてきたという絵のモチーフだけでなく、アボリジニに伝わる伝説なども紹介していて興味深い。上橋菜穂子の守り人シリーズはやはりこういった先住民族文化などもおおいに参考にしているのだろうとあらためて思った。

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著者プロフィール

山田 英春(やまだ・ひではる):1962年東京生まれ。国際基督教大学卒。ブックデザイナー。古代遺跡・先史時代の壁画の撮影を続けている。石の蒐集家でもある。著書に『巨石──イギリス・アイルランドの古代を歩く』(早川書房)、『不思議で美しい石の図鑑』(創元社)、『石の卵──たくさんのふしぎ傑作集』(福音館書店)、『インサイド・ザ・ストーン』(創元社)、『奇妙で美しい石の世界』(ちくま新書)、『風景の石パエジナ』(創元社)、編書に『美しいアンティーク鉱物画の本』(創元社)、『奇岩の世界』(創元社)などがある。

「2023年 『ストーンヘンジ 巨石文化の歴史と謎』 で使われていた紹介文から引用しています。」

山田英春の作品

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