サウルの息子 [DVD]

監督 : ネメシュ・ラースロー 
出演 : ルーリグ・ゲーザ  モルナール・レヴェンテ  ユルス・レチン  ジョーテール・シャーンドル  アミタイ・ゲダー  イエジィ・ヴォルチャク 
  • Happinet
3.55
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感想 : 31
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  • Amazon.co.jp ・映画
  • / ISBN・EAN: 4907953085732

感想・レビュー・書評

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  • ‘ゾンダーコマンド’
    ナチスの収容所のいくつかで編成された収容者たちの部隊。
    死体処理など、収容所運営への協力をその任務とした。
    背中に赤い色で×の印を書かれている。
    働かせられるだけ働かせられて、4ヶ月後には殺される。

    冒頭から、この映画はそのゾンダーコマンドのひとりを追いかけていく。観るものは徐々に徐々にそこで何が行われているのか、彼の仕事、その醜悪な環境に気づかされていく。それは彼にとっては今の日常で、たいした説明もされずにぼんやりと切り取られている。
    この「人間を効率良く殺すためだけの工場」のような所で、必死に人間性を保とうとする人々にも出会う。逃亡を企てる者たち、カメラで、文字で記録を残そうとする者たち。しかしそのゾンダーコマンドは彼らと深く関わりあうことなくある思いを遂げるために行動する。人死にを出しながら...。

    主人公の背中を追いかけるようなカメラワークに、ガス・ヴァン・サントの『エレファント』を思い出した。たまに心の中で叫びだしたくなるのも一緒。「なんでこんなところにいるの」って。
    主人公は静かに狂っているのですが、その混乱、そして彼の最後の希望みたいな、こだわったものは分かるような気がします。

  • SAUL FIA
    2015年 ハンガリー 107分
    監督:ネメシュ・ラースロー
    出演:ルーリグ・ゲーザ/モルナール・レヴェンテ/ユルス・レチン
    http://www.finefilms.co.jp/saul/

    第二次大戦下のアウシュヴィッツ、ユダヤ人の収容所。ハンガリー系ユダヤ人のサウルはそこでゾンダーコマンドとして働かされている。ホロコーストの映画は何作か観ましたが、ゾンダーコマンドという言葉は初めて知りました。虐殺するために集めたユダヤ人の中から、労働力として生かされている人たちがいて、ナチス側の末端の兵士のような扱いを受けていたらしい。彼らの主な仕事は、虐殺のために連れてこられた大勢のユダヤ人をガス室へ誘導し、その死体を運搬、焼却、汚れたガス室を清掃することなど。自分の同族の虐殺に手を貸すその仕事に嫌悪を感じながらも彼らは黙々とこなすしかない。もちろん彼らもいずれは同じように自分たちも殺されることを知っている。完全にモノとしてしか扱われない多くの人々の死体。収容所の内情がとても生々しい。

    そんな中である日サウルは、ガス室でかろうじて生き残った少年が殺される現場を見る。その遺体をなぜか「自分の息子だ」として埋葬しようとするサウルの暴走がここから始まってしまう。結論から言ってしまうと自分は、その遺体はサウルの息子ではないし、そもそもサウルには息子などいないと解釈しました。サウルは一度も息子の名前を呼ばないし、彼の友人も「お前に息子はいない」と言っている。それでもサウルは「妻以外の女に産ませた」などと明らかにデタラメとしか思えない言い訳をし、息子を埋葬すると言い張る。おそらく、同胞の虐殺に手を貸し続けるゾンダーコマンドという立場にいてサウルは心を病み、その罪の意識がアカの他人の少年の死体を息子だ、と思い込ませ、正しく埋葬してやることで罪滅ぼしをしたいと考えたのだろうと推測。ちなみにユダヤ教の正式な埋葬は土葬だそうで、さらにそれに立ち会うラビ(仏教でいうお坊さん)が必要。解剖のため焼却を免れた少年の遺体をサウルは盗み出し、ラビを探して奔走する。

    しかし仲間たちは収容所脱走計画を立てているのに、その重要な局面でもサウルは息子の埋葬のことしか考えておらず、正直、本末転倒。死体より生きてる仲間のほうが大事だろ、何やってんだ、と見てるこっちはイライラ。少年とはいえ15~16歳?結構大きなその死体を抱えて走り回るサウルの姿はもはや狂気の沙汰。でもそれも当然といえば当然かもしれない。だってもう彼はずっと正気ではなかったのだから。サウルの狂気もかなり怖いのだけど、ただそれに目を奪われていると大切なことを見落としそうになる。本当に狂っているのは、サウルをそこまで追い込んだ状況のほう。ユダヤ人というだけで何万人もの人間をゴミのように焼き捨てて平気でいられる人間たちのほう。

    独特のカメラワークや音楽なども含めて、インパクトのある映画でしたが、ただ、フライヤーやHPのアオリ文句「息子を正しく弔いたい・・・その思いがサウルに再び生きる勇気を与えた」「極限状態におかれてもなお、息子を正しく埋葬することにより、最後まで人間としての尊厳を貫き通そうとした、一人のユダヤ人の二日間を描いた感動作」みたいなのは、個人的にはちょっと違うんじゃないかという気がしました。生きる勇気なんかサウルはもらってないよ。感動作なんて安っぽい言葉は逆に失礼な気がするくらいヘビーな映画だった。人間としての尊厳を奪われ狂気に陥った男の破滅的行動を描いた問題作、くらいのほうがしっくりくる。

  • オープニングからピントが合っていないことに驚き、そのあとも主人公の男以外はぼやけている(ピントが浅い)ことに驚く。それがずっと続く。(時々周囲もきちんと見える。その場面に意味がある。)
    ナチスドイツ時代、ユダヤ人強制収容所で、ゾンダーコマンドという職について、同胞をガス室に送ったり、死体を処理したりするユダヤ人がいた。彼らも数か月後には同じ運命を辿る。
    身の毛もよだつ所業が行われていることが、ぼけた映像でもはっきりとわかる。
    ゾンダーコマンドに選ばれた男たちは、脱走を計画したり、強制収容所の様子を記録して残そうとしたりしている。しかし、それは親切には語られない。あくまで見る者が読み取っていくようにできている。
    主人公のサウルが、息子だという少年をユダヤ式にきちんと埋葬しようと骨を折るのが物語の中心となるが、本当に息子なのかはわからない。(多分違う。)
    ラビを探して躍起となるが、いざ祈りの言葉を唱えてもらおうとすると、実は偽物で、途中で言えなくなったりする皮肉。
    結末は悲劇的だが、希望がないわけではない。
    いい映画だと思うが、正直言って、見ていて疲れる。
    万人におすすめはできない。
    ヒットさせようと思えば、もっとドラマチックに、(勿論ピントも合わせて)、音楽もつけて撮ることは可能だったと思う。それを敢えてしなかったために、一般向けには見にくい映画となってしまった。批評家はこういうの好きだけど。

  • 今年公開の映画で気になっていたので早速観てみました。

    率直な感想は、厭な映画だなと。
    これは貶しているわけではなく確実に心を抉られる鋭さを持った作品だなということです。

    まずゾンダーコマンドという制度の冷酷さがヤバイですよね。ナチスのために同胞の死体処理をさせられ、用済みになったら抹殺される。命だけでなく尊厳までグチャグチャに踏みつぶす。野蛮なだけでなく、効率的な感じも心底ゲンナリします。

    そんな最悪の仕事に従事させられる男、サウルの姿を移動撮影で追っていくドキュメンタリックな手法が今作最大の見所でしょう。
    視界の制限された窮屈な画面にサウルの姿だけをハッキリと映し、サウルが観たくないものは徹底的にボカしている。このおかげでサウルの心理状態をスリリングに疑似体験できるんですよね。
    だから死体がチラッと映ったりすると、その悲惨さがより際立つ。その奥にどれだけの死体がうず高く積まれているか想像してより一層厭な気持ちになる。この映画の思惑としては大成功だと思います。

    ただ自分的にイマイチ乗れなかったのはサウルの行動ですね。
    自分の息子の死体を見つけ正式に弔う事に妄執する姿、これに高潔さを感じるか、狂気を感じるかでこの映画の好き嫌いは別れるんだろうと思います。

    確かに亡き息子(本当の息子かどうかはわからないが)を弔う事で、未来に想いを託すとか、残された者の人間である矜持を保つとか、そういう考え方は大切だし素敵だと思いますよ。

    でもそれは生きている人間に迷惑かけてまですることか?と疑問に思ったりするんです。
    サウルはラビを探すために強行な手段に出て人死にを出してるし、クーデターのための貴重な火薬をどっかに落としてくるし、とにかくそのノロマっぷりにイライラするんです。息子を弔うために他人の事を考えられなくなったら本末転倒というか、息子を弔うことが偉いことだと感じられなくなってくるんです。

    あるシーンでサウルがこんなことを言います。
    「俺たちはもう死んでる」
    うん。お前が死に急ぐのは勝手だけど、他の生に執着してるヤツらを否定するのってナメてない?とか思うんです。

    個人的にサウルは「未来に想いを託す」ためではなく、「観たくない現実から目を背ける」ため息子を弔うことに固執していただけだと思います。何をすべきかわからないから自己満足のため、適当な目標を設定しただけにすぎないと、そう思いました。

    白石和彌監督の「凶悪」という映画で池脇千鶴が言います。
    「死んだ魂を救うために生きている人間を犠牲にしてどうすんの?」
    まさに同じことをサウルに感じました。

    もちろん優れた作品で面白かったし当時の異常環境は十分学ぶことができますが、あまり好きになれない映画でした。

  • 2016/7/15 ホロコーストの映画は いつも どんな作品も悲しすぎるし、非道な人間に対する苛立ちしか感じないが、これもまた、悲しすぎる映画の一つだが、今までと視点を変えた映画だと感じた。ゾンダーコマンドと言うユダヤ人の死体処理の部隊 いつかは殺される運命を背負いながらも
    生かされる?部隊か?そういうものを存在させるドイツ軍に憎しみと違和感しか覚えないが、主役のサウルが自分の息子と信じて…ラビを見つけて正式に埋葬したいと願い必死に駆けずりまわる
    生者より死者を葬いたいのか?と仲間から言われつつ、あんな非道な世界の中に自分なりの秩序と信じるものを見つけたかったんだろうなぁと思う。ラストは 小屋に少年の姿が見えた時に 弔えなかった息子と信じてた男の子が生き返ったように感じたサウルの表情にすべてが集約されてた気がする。

  • ただひたすらに情緒を失わせるアウシュビッツの、
    死体まみれ恐怖まみれの状況に、
    あえてフォーカスを当てない狭い映像が、
    サウルを背中から主に追っているのに、
    サウル自身の視野にも見える効果。

    命をかけているのに、
    何度も「お前には息子はいない」と言われるのは、
    真実なのか、どうなのか。

    いずれにしても、
    人間として他者への慈しみを保とうとすると、
    あのような極限的な現状では、
    それ自体が狂気に見えてしまう。

    そのような異常さを伝えるためにも、
    戦争に関連した作品は、
    この世に残されるべきものだし、
    そこから学ばなくてはならないと痛切に感じるのだが、
    今なお戦争と差別は消えない。

  • アウシュビッツで働くサウルの2日間。背中にべったりと貼り付いて離れないカメラが死神のようで息が詰まる。一度だけ転調する。「報い」という言葉が浮かぶ。その言葉が報酬だけじゃなく罰も表わすという皮肉に後から気づく。

  • タイトルコールが出るまでの画像だと何やってんだかよくわからないんだけど、
    分かった瞬間の気分の悪さったら…
    生きる為に、生き残る為とはいえ、同胞を追い詰め、死に至らしめる行為に加担するなんて…
    どうやって理解すればいいだろうか?
    やはり「生きてこそ」だと捉えるべきなのか、暴力に耐え、非情に耐え続ける。
    素ッ裸の男を、素ッ裸の女を引きずる行為の凄まじさ…
    もはや事切れた肉塊と化してはいても見るに耐えない、
    こんな胸糞悪いシーンを見ることはそうない。
    戦争はクソだ…
    命令は絶対だ。逆らう事も抗う事も許されず、懸命に服従し続ける。生きる為…

    こんなにも強烈に互いの身を慮りながらの怒りに満ちた逢瀬は初めて見た。
    その手を振りほどく想いの強さ…

    なんて殺し方するんだ。尊厳も何もあったもんじゃない。
    戦争ってなんだ。なんであんなことができる…
    こんな状況、こんな環境において尚、死者を、息子を弔う行為に心血を注ぐ。
    宗教とは一体なんだろうか…宗教が争いを呼び、宗教が平穏を運び来る。
    実の子ではない仮想の亡き息子の魂の救済の為にユダヤのしきたりに則った葬式を執り行う。そこにどんな意味を見出せばいいのか。

    生き残れ、逃げろ、生きろ…

    蘇りの暗示、
    生きる気力の芽生え、
    微かに救われた気にさせる。

    だけど…現実の惨さを恨めしく思う。

    この作品どうやって撮影して入るのかな?
    終始、被写体との距離が近過ぎるほど近い、
    それなのにまるで固定カメラで撮っているように見える安定感…
    ハンディカムとかじゃもっとブレるんじゃないかな…不思議だな

  • ゾンダーコマンドであるサウルはどこまで狂っているのか。死んだ少年をユダヤ式に「正式に」埋葬するため、サウルは奔走する。本作を見る限りでは、その少年がサウルの息子であるかどうかは判然としない。そもそも、サウルに息子がいるのかどうかもわからない。しかし彼はその「息子」を埋葬しようとしている。死者を埋葬するために生者を犠牲にしてもよいのか。そんな理屈はもはや通用しない。この狂気はけれども、最後に善悪を超えた「無垢さ」という一抹の光に触れる。

  • ゾンダーコマンドとよばれた同胞ユダヤ人達をガス室送りにする裏切り囚人のこと。他の囚人とは隔離され、何ヶ月後に殺される。
    そんな中の一人サウルが、ある日送られてきたユダヤ人の中に自分の息子を見つける。もうそろそろ殺されるのではないかという危惧の中、仲間は計画を立てているが、サウルは息子の遺体を盗みだし、ユダヤ教の埋葬をしたいと強く望む。ラビを探し、息子の死体を持ったまま…

    穴、手錠のまま脱獄と似たような、BGM一切なしの緊迫感がすごい。つねに近影にしぼった映像で彼ら囚人が取り巻かれていた状況そのものがR18=人間のいるところではない地獄であることを表現しているのがすさまじかった。

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