三部作の最後、「パワー」の主人公は、奴隷であるガヴィア。メマーも征服された都市に隷属していたが、一応主人を持たない市民であった。しかし、ガヴィアは完全に奴隷であるのに、その環境を当然のこととして生きている。彼は記憶力に優れ、優秀な学生で、学ぶ権利を与えられていた。しかし奴隷にすぎないことを思い知るのは、ある悲劇が起きてから、さらに時間が経った後のことになる。
ガヴィアは都市を離れ、放浪する。通りがかる村、解放された奴隷の共同体、故郷である水郷の人々、どこにも属さない世捨て人。ガヴィアはそのどこにも所属できない自分を感じる。導いてくれたのは、オレック・カスプロの詩の本。(この頃には彼の詩が本になっている)
悩みと、サバイバルと、スリリングな逃亡ののち、素晴らしい結末が待っている。彼が北を目指したのは象徴的だ。
物語は、再び一人の自立へと還っていく。
最後に、萩尾望都氏が解説を書いておられる。アーシュラ・ル・グゥインがどれだけの影響を氏に与えていたかがよくわかる。このことを知れば、この物語がたくさんの人に読まれるだろうか。願わくば若い世代が、ゲドと同じように、ガヴィアの旅にも同行してほしい。