不屈の棋士 (講談社現代新書) [Kindle]

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感想・レビュー・書評

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  • 2010年代の初めから半ばにかけて、プロ棋士とコンピュータの将棋ソフトが戦う、電王戦という棋戦があった。プロ棋士の中でもトップクラスの棋士が徐々に参加するようになっていたが、それでも全体としては、ソフトの側が優勢だった。電王戦は、2017年の対局をもって、「役割を終えた」として棋戦としては廃止された。ソフトがトッププロに追いついたというのが、おおよそのコンセンサスであり、ディープラーニングによるコンピューター側の学習スピードなどを考えると、今後は差がついていくだろうというのが、「役割を終えた」という言葉の意味だと理解した。
    本書は、2016年の発行である。
    ちょうど、プロ棋士と将棋ソフトの実力が拮抗していると考えられていた時期である。そういった時期に、筆者はトップクラスの棋士11人にインタビューを行い、本書を著した。
    問題意識は、プロ棋士がソフトとの戦いをどのように認識しているのか。仮にソフトの側が強いということが分かってしまった時に、プロ棋士という職業は成立し続けるのか、すなわち、ソフトよりも弱いプロ棋士同士の対戦をファンは観戦し続けるのか、また、棋戦のスポンサーは、後援をし続けるのか、要するに将棋界は成り立ち得るのかということであった。

    結論から言えば、筆者の心配は、今のところ、幸い杞憂に終わっている。本書の発行後、藤井聡太という、とんでもなく強くて若い魅力的な棋士が登場したこともあり、将棋は、これまで以上に注目を集めている。
    ファンの見たかったものは、機械同士による、最強の将棋ではなく、人間同士の戦いであったということなのだろう。
    少し乱暴な議論であることは分かった上で言うと、機械の方が重いものを持ち上げる能力には優れるが、オリンピックに重量挙げという種目が残っていたり、機械の方が早く走れることが分かっているのに、陸上競技が人気なのと同じことなのだと思う。

  • 長年(本当に年単位で)アマゾンのカートの「後で買う」に入れっぱなしにしていたものを市立図書館のカードを作ったのをきっかけに借りて読みました。
    結論から言うと内容が古く成りすぎてました。カートで寝かしすぎ。
    本が出たのは2016年7月、掲載されているインタビューは2016年の正月ごろ。まだ竜王戦の不正疑惑も起きてないし藤井聡太は二段のころです。
    いまとなってはソフト研究は当たり前の時代なのでそういう時期もあったんだねという、後世の将棋ファンが歴史を知るための本です。

  • この数年間は、人工知能によって進化したコンピュータ将棋ソフトが勝ち負けという点で人間を抜き去りつつある、歴史上一度きりの「瞬間」です。この「瞬間」にたまたま人間の頂点に立つ者として対峙することになった棋士たちが、どんな景色を見て、どんな決意でこの状況に立ち向かおうとしているかを、正面から描きだそうとした、とても潔い印象のあるインタビュー集です。
    筆者も「棋士とソフトのどちらが強いのか」「棋士がソフトに勝てなくなった後、棋士の存在価値とは何か」という、下手に問いかければ禍根を残しそうな質問を、腹を括って正面から投げかけており、11人11様の答えを鮮やかに聴き取ることに成功しています。
    勝ち負けという点では、チェスではすでにコンピュータに人間はまったく歯が立たない状態であり、将棋より状態空間が広い碁でも人工知能がトップ棋士を破りました。将棋も、数年以内に人間が人工知能にまったく勝てなくなるのは不可避でしょう。
    11人の棋士は、立場や信条の違いは多様ですが、みな、勝ち負けの点で人間がいずれ人工知能に勝てなくなるという事実を正面から受け入れているように感じました。インタビューに応じた11人全員が、現実から目を反らすことのない潔く理知的な態度をとっていることに、改めて深い敬意を覚えました。
    人工知能と棋士が対局すると、人工知能が勝つ、という勝ち負けの逆転が、現在の状況をつくりだしている最大のエポックではありますが、本書では、どのようにして勝敗が決し、どのように人工知能が人間を打ち負かせるに至るのかという機序については、台風の目のように空っぽで、敢えて何も語りません。人工知能の技術的な側面にもほとんど言及はありません。
    これまでは、将棋を指すあらゆる存在の中で、プロ棋士が最強集団であったことに何の疑いもなかったのが、現在を過渡期として、これからは勝ち負けという点では、プロ棋士がまったく敵わないモノが存在する状況へと不可逆に推移する。こうした状況の中で、棋士たちが自分自身の人生の価値や目標、社会における棋士の存在意義をどう考えていくのかという問いかけに、棋士の中にも実にさまざまな立ち位置があるのが面白く、これは社会の縮図でもあるのだろうと思いました。例えば、若手の棋士は、将棋を覚えたころから今に至るまで、つねに自分より強いソフトが存在していたという指摘には、なるほどなあと得心しましたし、その状況は、ある時点より後に生まれた若い世代は、物心ついてから現在まで、一度として「日本が成長している」という実感を得た経験がないという事実にも重なるものがありました。
    本書は、人工知能という「黒船」が到来した棋士の世界で、いまどんな景色が見えているかを真摯に描きとろうとしています。今この「瞬間」にしか書き留めることのできない貴重なスケッチです。

  • 安宅さんのブログで面白そうと思い、サンプル読んだらやっぱりすぐ読みたくなったので購入。

    とても面白かった。すでに、将棋の世界では、ソフトを使わずに研究をするというのは無理なところまで来ているのだな、と。対戦相手としてどうか、ということとは別に。そのせいで、解法を自分で考える時間を惜しんでソフトにかけてしまう怖さというのを誰もが口にしていて、難しさを象徴していると思った。肉体を使うスポーツとはここが大きく違う。自分で考えなかったら本番の力は出ないだろうし、かけることで得られるものも大きくて。

  • 将棋
    インタビュー

  • では、「いまいちばん強いソフトと対局したら勝つ自信はありますか?」という質問にはどう答えますか? ,羽生 本当にわかりません。もちろんソフトが強くなっているのはわかっていますが、具体的にどれくらいかというとちょっと想像がつきません。,,羽生 バックギャモンの世界では、コンピュータの指し示す手と同じ手を指せるかどうかがすでに一つの強さの基準です。,,羽生 学ぶことは結局、プロセスが見えないとわからないのです。問題があって、過程があって、答えがある。ただ答えだけ出されても、過程が見えないと本質的な部分はわからない。だからソフトがドンドン強くなって、すごい答えを出す。でもプロセスがわからないと学びようがないという気がするのです。,,そもそも私はコンピュータとどうしても対局したいわけではありません。元々コンピュータと指すためにプロになったわけではない(笑)。,,渡辺 将棋の面でトクになるとは思えません。人間の勝負とはまったく別物ですから。トップ棋士同士とはいえ、やはり人間の将棋はミスありきなんです。でもコンピュータ将棋はミスがないから、事前にソフトの弱点を探る練習が大事になる,,──渡辺さんはソフト同士の対局(「フラッドゲート」)は見たりしますか。 ,渡辺 ほとんど興味がありません。人間と違いますからね。人の頭なら相当わからない難解で長手数の詰みでも、ソフトはわかっている。この変化は詰むか詰まないかがわからないから踏み込めない、という話がソフトにはないわけでしょう。つまり人間が持つ「怖さ」という感覚が存在しない。それはちょっと違いますよね。強いんだろうけど、別物というか。,,勝又 うん(小声で)。羽生さんはレーティングなどすべての数値が別格というのは、開発者側からも言われています。YSS開発者の山下宏さんの「将棋名人のレーティングと棋譜分析」という論文がネット上に出ています。これを読むと、羽生さんだけはNHK杯戦のような短い持ち時間(20分)でもタイトルが取れるとありますね(笑)。もちろん対戦相手は普通の条件で、何時間も持っている。羽生さんは持ち時間が少なくても実力はそれほど落ちない、と。あの方がモンスターというのは数字上からも表れているようです。,,将棋は自分が思っていたより、もっともっと可能性の広いゲームなんだなってわかったのは純粋にうれしかったですね。ソフトが登場する前は、棋士がいちばん強い存在というのは揺るぎなかった。でもソフトの方がはっきり強くなったら、棋士の存在価値はどうなるのでしょうか。 ,西尾 それについては私もいろいろ考えましたけど、結局はニーズがあるかどうかだと思うんです。人間同士の将棋を見たいと思ってくれるファンがたくさんいるのであれば、ちゃんと存在価値がある,,──ソフトが登場したことは将棋界にとってプラスだったのでしょうか。 糸谷 いつの日か棋士という存在がいらなくなる可能性を除けば、メリットばかりだと思います。叡王戦という棋戦もできましたし。電卓が開発されたらそろばんを使わなくなったように、将来、棋士という職業が必要とされなくなる可能性はあると思いますよ。ただし、自動車が発明されて走るスピードでは人間がかなわなくなっても、マラソンを見る人は多いというたとえ話もある。結局はファンのみなさまが棋士や将棋界にどれだけ魅力を感じるかだと思います。,,──人間にしか指せない将棋はあると思いますか。 行方 それはあるでしょう。ミスもするけど、そこから生まれる何かもあるわけですから。終盤で1分将棋というギリギリの状態で、わけのわからない局面を肩で息をしながら戦っている姿というのは、絶対に何かを感じるはず。そういうものを見せていきたいですし、そこにしか価値はない、くらいに思っています。

  • 人工知能というものが注目を浴びるようになって、私たちの将来や生活にも大きな影響を与えるようになってきています。その人工知能の影響について、将棋界という場所での影響は、昨今ニュースにもなっています。棋士とコンピュータとどちらが強いのかというプレッシャーにさらされている棋界の方々に対して、長年将棋の記者として活躍されてこられた著者がインタビューされています。この大きな変動に対して、それぞれの立場や考え方から取られる選択は、さすが深い読みを必要とする将棋という世界の方々らしく考えさせられます。周囲の環境の変化に対して、ただ流されるではなく、どのように対応していけば良いのか、その姿勢を本書で学ぶことができると思います。

  • 将棋ソフトに棋士がここまで追い詰められているってのは意外でした。どうせソフトには勝てないんでしょ?ってなった、本当に新聞社がスポンサーを降板するかも。最近の棋士が広報や教育に力を入れてるのはこういう理由かあ。

  • 千田 (中略)よく「ソフトを妄信してはいけない」と言いますけど、それもどうでしょうか。全部正しいと思った方が強くなるんじゃないかと思うこともあります。

  • 話せる範囲での本音が書いてある。皆さん、さすが分析力に長けている。チェスはもうかなり前にソフトにトッププロが負けているが、棋戦は相変わらずあるので、世界に普及していくのも今後将棋のプロが残っていくカギかな、と思う。

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著者プロフィール

(おおかわ しんたろう)1976年静岡県生まれ。日本大学法学部新聞学科卒業後、出版社勤務を経てフリーに。2006年より将棋界で観戦記者として活動する。著書に、将棋ソフトとの関わりや将棋観について羽生善治や渡辺明ら棋士11人へのロングインタビューを収録した『不屈の棋士』(講談社現代新書)のほか、『将棋・名局の記録』(マイナビ出版)、共著に『一点突破 岩手高校将棋部の勝負哲学』(ポプラ社)がある。


「2020年 『証言 羽生世代』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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