ギフト 西のはての年代記I (河出文庫) [Kindle]

  • 河出書房新社
4.00
  • (1)
  • (1)
  • (1)
  • (0)
  • (0)
本棚登録 : 19
感想 : 2
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・電子書籍 (263ページ)

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 仮想の世界は「西のはて」。アイルランドの北部をイメージした。隣り合う領主たちは今にも剣をたがえそうな緊張感を持っている。あまりに重苦しい世界で、読む私も主人公のように荒涼とした大地に立たされ、閉塞感を覚えながら読み進まなくてはならなかった。
    この物語の世界観は重たい。しかも、物語はオレックの一人称でありながら、回想として語られるので複雑な印象を受ける。オレックの、怖れのあまり塞がれた目は、その能力は、本当に「ギフト」なのか?衝撃のラストが待っている。「ゲド戦記」のような分かりやすさはここにはないが、一人の青年が、与えられたギフトを使うことよりも別の選択をして人生に挑むというところは、ゲドの人生に通じるかもしれない。
    救いはグライの明るさだ。今後のオレックと深く関わる彼女との物語が後になかったら、辛い読後になったと思う。「ヴォイス」「パワー」の三部作。

    後の2編では舞台が移り、世界がひらけて、別の主人公たちの冒険が始まる。物語としての面白さも増していく。この物語が「ゲド戦記」と同じくらい、多くの人、特に若い世代に読まれることを強く願う。
    三部作には多くの問いかけがあり、考えさせられることもたくさんある。「ギフト」の重苦しさに耐えて、是非とも「ヴォイス」「パワー」上下へと辿り着いてほしい。

  • 高地の族長の息子、オレックは血族が受け継ぐ特殊能力「ギフト」をめぐる重圧と己への疑念の末に進むべき道を見つける。

    ル・グウィンのファンタジーといえば「ゲド戦記」で、これを書き上げた後に着手したのがこちら、「西のはての年代記」シリーズ。「ギフト」はその世界観を形作る最初の部分になるのでシリーズ中でも一番重要かもしれませんね。
    ということで、読み返しですが久しぶりに読んでみました。やっぱり世界観にせよテーマにせよ、この圧倒的な重厚感は他の誰にも書けない唯一無二の存在なのではないかと思います。特に細部の描写が緻密というわけではないのですが、まるで高地の人々の姿や服装が、その暮らしぶりが、彼らが暮らす、豊かでは無いけれども美しい集落が、目の前にあるかのようにイメージできるのは、やはりル・グウィン自身が生きて生活している人々の姿をこそ、書きたいと思っていたからなのでは無いかと思わされます。その中で語られるストーリーのテーマもまた重厚で、自分はこの世界で何を求めてどう生きるのか、強く問いかけられているようです。訳も世界観にすごく合っていて、浮ついたところがなくオレックの昔語りそのものを味わえました。ということで、読み始めるともうすっかりこの世界観のとりこになってしまいました。
    読みやすいのにずっしりと心に残るこのシリーズは作者の晩年の作品です。それだけにこれほどの味わいと奥深さが醸し出されたのか、とも思いますが、これを読むともう一段も二段も深く彫り込んだファンタジーをまた書けるのでは、書きたいのでは、と期待すらしてしまいます。亡くなってしまったのが本当に残念。もっともっとたくさんファンタジーの世界を創って欲しかったですね。「西のはての年代記」は、個人的にはゲド戦記シリーズを超える、ル・グウィンの最高傑作シリーズだと思っています(SFの方はほとんど読んで無いのでわかりませんけど)。
    時間を見て「ヴォイス」と「パワー」も読み返したいと思います。

全2件中 1 - 2件を表示

著者プロフィール

1929年カリフォルニア州バークレーに生まれる。1962年に作家としてデビュー。斬新なSF/ファンタジー作品を次々に発表し、ほどなく米国SF界の女王ともいうべき輝かしい存在になる。SF/ファンタジー以外の小説や、児童書、詩、評論などの分野でも活躍。主な作品に、『闇の左手』、『所有せざる人々』、「ゲド戦記」シリーズ、「空飛び猫」シリーズ、「西のはての年代記」三部作など。ネビュラ賞、ヒューゴー賞、ローカス賞を何度も受賞しているほか、ボストングローブ=ホーンブック賞、全米図書賞、マーガレット・A・エドワーズ賞など数々の賞に輝く

「2021年 『文体の舵をとれ ル=グウィンの小説教室』 で使われていた紹介文から引用しています。」

アーシュラ・K・ル=グウィンの作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×