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感想・レビュー・書評
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高地の族長の息子、オレックは血族が受け継ぐ特殊能力「ギフト」をめぐる重圧と己への疑念の末に進むべき道を見つける。
ル・グウィンのファンタジーといえば「ゲド戦記」で、これを書き上げた後に着手したのがこちら、「西のはての年代記」シリーズ。「ギフト」はその世界観を形作る最初の部分になるのでシリーズ中でも一番重要かもしれませんね。
ということで、読み返しですが久しぶりに読んでみました。やっぱり世界観にせよテーマにせよ、この圧倒的な重厚感は他の誰にも書けない唯一無二の存在なのではないかと思います。特に細部の描写が緻密というわけではないのですが、まるで高地の人々の姿や服装が、その暮らしぶりが、彼らが暮らす、豊かでは無いけれども美しい集落が、目の前にあるかのようにイメージできるのは、やはりル・グウィン自身が生きて生活している人々の姿をこそ、書きたいと思っていたからなのでは無いかと思わされます。その中で語られるストーリーのテーマもまた重厚で、自分はこの世界で何を求めてどう生きるのか、強く問いかけられているようです。訳も世界観にすごく合っていて、浮ついたところがなくオレックの昔語りそのものを味わえました。ということで、読み始めるともうすっかりこの世界観のとりこになってしまいました。
読みやすいのにずっしりと心に残るこのシリーズは作者の晩年の作品です。それだけにこれほどの味わいと奥深さが醸し出されたのか、とも思いますが、これを読むともう一段も二段も深く彫り込んだファンタジーをまた書けるのでは、書きたいのでは、と期待すらしてしまいます。亡くなってしまったのが本当に残念。もっともっとたくさんファンタジーの世界を創って欲しかったですね。「西のはての年代記」は、個人的にはゲド戦記シリーズを超える、ル・グウィンの最高傑作シリーズだと思っています(SFの方はほとんど読んで無いのでわかりませんけど)。
時間を見て「ヴォイス」と「パワー」も読み返したいと思います。