「戦争学」概論 (講談社現代新書) [Kindle]

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  • 戦争を起こさないためにも戦争をよく知るべき
    日本は、戦争は悪である、との考えから、そんなものを勉強するとまた戦争を起こす、として避けられてきた
    欧米では戦争学を学ぶが日本ではタブー視されてきた

    3つの視点から近現代の戦争を俯瞰していく
    ①欧米めは平戦両時を通して大戦略の基礎として普遍的な考え方となっている地政学の視座
    →戦争は政治目的を達成する1つの手段なので、政治目的を具体化した大戦略の基礎となっている地政学の視点は欠かせないから
    ②「政治」と戦争、戦争における「政治」と「軍事」の関係
    →戦争は「政治」が起こすものであり、「軍事」は「政治」の命によって戦争を実行するため
    ③これまでの時代を画した戦争の中心的思想を見出し、時代の変化と共にそうした思想がどう変化していったか
    →戦争も社会の変化発展とともにカメレオンのように姿を変えるため

    ◼️第一講 地政学と大戦略
    海洋国の地政学(マッキンダーの理論)
    ・英国は、ドイツによるハートランドの支配を阻止するために、フランスを支援してヨーロッパ大陸に陸軍を投入する事。対独戦略の第一義とした
    →フランスは橋頭堡
    →ドイツがまずロシアでなくフランスを攻撃したのは、シーパワーが大陸進出する時の足がかりとなるから
    →英国にとってヨーロッパ大陸への橋頭堡はフランスのみ

    海洋国の地政学(マハンとスパイクマンの理論)
    マハンのシーパワー理論
    ・海軍力の優越によって制海権を確立し、そのもとで海上貿易を行い、海外市場を獲得して国家に富と偉大さをもたらす力
    ・戦時だけでなく、平時でもシーパワーを増強するのが広義の海軍戦略
    ・いかなる国もシーパワー大国とランドパワー大国を両立出来ない
    スパイクマンのリムランド理論
    ・西半球の防衛が無理なら、リムランドの諸国と共同して、ハートランド勢力の拡大を抑止する事を提唱 ※リムランドはスパイクマン命名
    →資源に恵まれてても不毛なハートランドより、リムランドには多くの人口と産業がある
    ・ハートランドが世界島を制してアメリカ大陸を包囲するなら、その逆手を取ってアメリカ大陸からハートランドを包囲しようというもの

    大陸国の地政学(ラッツェルとハウスホーファーの理論)
    ・日本人の間では地政学といえばハウスホーファー
    ハウスホーファーの業績にドイツ国境論とともに、汎アジア代表としての日本論があったように、ハウスホーファーは日本に興味があった
    ・彼が提唱したパンリージョン論の汎アジア地域から東シベリアを除くと、日本が唱えた大東亜共栄圏とほぼ一致
    ・大東亜共栄圏は、地域内の資源と産業を相互に融通して域内全民族の共存共栄を理想したのは、パンリージョン思想とほぼ一致
    ・いずれにせよ、第二次世界大戦でドイツと日本が敗れたため、理論そのものも否定された
    →以降、大陸国家の地政学は影を潜めた
    ・考えてみれば、第一次世界大戦後の日本は、商船隊も海軍も英米に次ぐシーパワーを保有
    →大陸国ドイツの地政学を適用したことに、大戦略上原の間違いがあった
    ・戦前の行動は全て悪であったと反省している日本人は、地政学そのものを大学科目から削除した

    ◼️第二講 二十一世紀への地政学
    冷戦下での地政学
    二つのパワーの究極の対立
    ・ハートランドに君臨するランドパワーのソ連と、北米大陸を根拠地とするシーパワーの米国が対立する構図は究極の対立
    ・大陸と海洋、いずれの縦深性も長射程よ大陸間弾道弾により消えた
    ・核での全面対決を避けるために従来の通常兵器での局地戦を頻発したので、大陸と海洋の縦深性は価値があり、マッキンダーやマハンのりろから逃れられなかった
    ソ連を封じ込めよ
    ・ケナンのソ連への認識は、ロシア史の教訓から、拡大に向け弱い所に絶えず進出する
    →西側諸国の政治や精神面の弱さに付け込もうとしている
    →西側諸国を脅かしているのはソ連の軍事力ではなく、共産主義のイデオロギーにもとづいた政治力
    ・ソ連を挫くには、西側諸国の抵抗力を強化し、米国の経済援助によって強固な資本主義経済を構築する事
    ・そのために長期に亘る封じ込めが必要
    ・しかし、ソ連は核を持ち中国は共産化され、ケナンに代わりニッツェが軍事力も含めて封じ込めが必要としていった
    キッシンジャーの罠
    ・国務長官を務めた
    ・冷徹な現実主義にもとづいた勢力均衡の戦略
    ・ベトナム戦争で国際的地位を低下させた現実を捉えらソ連とのデタント(緊張緩和)に乗り出す
    →核兵器の睨み合いの中でバランスを取って均衡を作る
    ・デタント政策の裏では、米中が接近してソ連を孤立化させる作戦
    ・ところが日本が勝手に中国と国交正常化
    ・田中角栄が地政学的思考を理解せず、スパイクマンの理論に反したリムランド主要国の中国と手を組んだ
    →キッシンジャーは、米国、西欧、日本とソ連、中国の5つの地域で均衡を計りたかった
    →ロッキード事件で田中角栄が失脚させられた
    ソ連を崩壊させたレーガンの大戦略
    ・デタント政策を放棄してソ連封じ込めを復活、第二次冷戦の開始
    ・まずは裏庭の中南米のソビエト政権を打倒
    ・宇宙からソ連のミサイルを撃ち落とす戦略防衛構想
    →ソ連も軍事強化したが、資本主義と共産主義のシステムの優劣の差で、ソ連は経済と技術の両面で継続できなかった
    ・ゴルバチョフはペレストロイカという改革、グラスノスチという情報公開をしたが、この外交政策は東欧諸国に自立的な政策をすすめることを認めるものだったため、中央権力の崩壊に繋がった
    →ソ連は共産主義の矛盾による自壊
    →ケナンの封じ込めが功を奏する
    →シーパワーの米国が冷戦に勝利、米国の世界覇権

    冷戦後の地政学
    見えなくなった構図
    ・米国一強になる一方、ならず者国家のイラン、イラク、北朝鮮、リビア、キューバなどどうする?
    →反米傾向だが単独では米国の脅威にはならない、団結しそうにもない
    →冷戦期のソ連と米国、のように単純明快な構造では無くなった
    ブレジンスキーの地政戦略
    ・ソ連を破って世界覇権国になったが、次はそれをユーラシア大陸での優位をどこまで長期に維持できるか、という論点
    →戦略的管理が重要(以下3点)
    ①ユーラシア西部の勢力圏の拡大を促し中央部をしだいに引き寄せる
    ②南部を単独で支配する国なの登場を許さない
    ③東部が連合してアメリカ軍を近隣の基地から追放させない
    ・長期的には世界覇権を国際協力体制の枠組みに徐々に変えていく

    ◼️第三講 ナポレオン戦争とクラウゼヴィッツ
    クラウゼヴィッツの戦争論
    ナポレオンの遺産
    ・ジョミニの理論
    ・ナポレオン軍参謀とロシア軍の両方で勤務
    ・必勝の戦略原則は、「軍の主力を可能な限り戦争舞台の決勝点にらまたは敵の後方連絡線に向け、戦略的移動により継続的に投入する」というもの
    クラウゼヴィッツの理論
    ・普遍的な原則は信じず、時代や社会の変化こそが原理原則を更新すると考えた
    ・戦争の本質と戦争の政治的側面を探究したのが特色
    ・戦争の本質=戦争は一種の強力行為、相手に意思を強要する事=敵の戦闘力を撃滅する事=制限戦争ではなく絶対戦争
    ・クラウゼヴィッツは、戦争は政治目的達成の手段であると定義しながら、戦争を手段として選ばせる政治目的とは何かについては分析していない
    ・現実的には戦争における思考の出発点の重要ポイントなのに、抜け落ちている
    →それ故に、両世界大戦では技術の発達も合わせて質的にも規模的にも戦争が拡大
    →膨大な犠牲者を出し多量の資源を浪費させた
    ・この政戦略こそ、フリードリッヒ大王にありナポレオンに欠けていた点
    戦争における「政治」と「軍事」の関係
    ・戦争の開始を決定し、方向づけ、好機を逸することなく戦争を終結する主体は政治でなければならない
    ・それを妨害する関係諸国も受容できるような和解に到達させる責任がある
    ・だから政治関係者は戦争を学ばなければならない
    →とはいえ、将軍並みの知識を得るのは不可能
    →最高の将帥を内閣の一員に加え、重大な時機には内閣の審議や議決に関与させる制度のみが唯一解、というのがクラウゼヴィッツの意見

    ◼️第四講 第一次世界大戦とリデルハート
    ・シビリアンコントロール=文民たる政治家が軍隊を統制するという政軍関係における基本方針、軍事に対する政治の優先を意味する
    →政治が軍事行動の具体的目標、要綱などの政略的決定を行うべき
    ・リデルハートは、第一次世界大戦で勝利したが戦前よりも疲弊した英国の姿を見てら人的犠牲、物的損害を極小化するにはどうすべきか、という問題意識を持った
    ・間接アプローチ戦略として、敵の軍事力の直接的な撃滅を目的にせず、敵のバランスを心理的に崩し、麻痺させる事で間接的に抗戦意思を挫く事を目的とした
    →敵の指揮所ら通信施設、交通補給線を目標とした
    →敵が先制する可能性の最も少ない、かつ、最も抵抗されにくコースを選択し、側面から攻撃
    →最小予期線、最小抵抗線
    ・機甲戦理論=戦車部隊を主力に歩兵部隊と砲隊部隊が随伴して共同、かつ、急降下爆撃機による支援
    →敵地縦深に迅速に突進する
    →航空機と戦車という新兵器の登場による新たな戦い方が可能になっていた

    ◼️第五講 第二次世界大戦と絶対戦争
    ・ヒトラーの構想「わが闘争」の世界観の根底は人種論
    →優秀なドイツ民族の純潔維持
    ・ドイツ、英国、米国、日本の四大強国によって世界は動く
    →明らかにハウスホーファーのパンリージョンの影響
    ・生存圏の獲得には力の行使しかないと考える
    →ベルサイユ体制への挑戦
    →英仏は宥和政策
    →秘密裏の再軍備を知りながら、干渉すれば何をされるか分からないから黙視
    ・ヒトラーの「広域生存圏の獲得」の背景は、鉱物資源や食料を輸入に頼っていた事
    ・枢軸国=第二次世界大戦で連合国と戦った国々を指す
    →ドイツ、イタリア、日本、フィンランド、ハンガリーなど
    →ベルサイユ体制における植民地を持たざる国であることと、反共主義が共通点
    ・パルチザン戦=ゲリラ戦の事。ナチスドイツやファシズム時代のイタリアの支配に抵抗した各国の運動。非正規の軍事活動を行う遊撃隊、ゲリラ隊。
    ・ファシズム=独裁的な権力、反抗の弾圧と産業も商取引の制御などの思想、運動、体制のこと

    ◼️第六講 核の恐怖下の戦争(冷戦)
    1 核抑止戦略の基礎
    ・大量報復作戦=戦略爆撃機に核兵器を装備し、その報復力によってソ連がほゆすふ優勢な地上軍の脅威に対抗する
    ・大量報復作戦の落とし穴=局地的に制限された環境での戦争での報復に核兵器の使用は規模が大き過ぎて現実的には選択肢になり得ない
    →リデルハートは、大量報復作戦がかえって局地的、または小規模な軍事紛争を多発させると指摘
    →通常戦力も必要
    2 相互確証破壊という人質
    ・マクナマラの確証破壊戦略=ソ連が第一撃をしかけたら、米国はソ連に耐えがたい大損害をあたえる反撃力を持っていると認識させる事
    →ソ連の人口の1/3-1/4など定量で示した
    →心理的な威嚇でソ連や中国の介入を阻止する意図
    ・70年代になるとソ連の戦略核戦力増強が進み、数量で米国とほぼ同等
    →米国はベトナム戦争で国力消費してた
    →米国は技術的優位のみ
    →ニクソンとキッシンジャーが戦略兵器の制限交渉を開始した
    →ソ連も技術課題で苦労したので協定を受け入れた
    →これを相互確証破壊戦略という(以下MAD)か
    3 「核の人質」からの脱出
    ・レーガン政権は新ソ連封じ込め戦略を打ち出し
    →戦略防衛思想を打ち出し
    →これはミサイル発射直後、宇宙空間、大気圏の各段階で迎撃する多層防衛網
    →技術的に困難でスターウォーズ計画と揶揄
    ・とにかく米国は核戦力を増強
    ・ソ連も増強
    ・すると軍事力を造成する経済力の競争
    →社会主義経済の脆弱さでソ連は耐えられず
    ・スパイクマンの「リムランド諸国と共同してハートランドの勢力拡大を抑止する」の達成
    核兵器と「戦争論」
    ・核の出現により、使用は人類の自殺行為であり、核兵器を持つ大国同士は戦争できなくなった
    ・核兵器を持たないか、持つ国を同盟国に持たない国は、戦争しなくても抑止力で負ける
    ・現実では、核戦争への発展の可能性を踏まえると通常戦争も極力防止する
    →するとしても政治的判断が慎重になされる
    →現在は軍事は徹底的な政治統制が効いている
    ・仮に戦争になってもらキッシンジャーの言うようから相手国の存亡に関わる政治目標は掲げない
    →双方の報復力に手をつけない聖域を残す
    →作戦も段階が変わる度に政治的話し合いを行う

    ◼️第七講 冷戦下の制限戦争とゲリラ戦
    ・第二次世界大戦後は、通常戦争も核戦争にエスカレートする危険があるため現象
    ・ゲリラ戦が増えた
    ・ゲリラ戦は独立した武装集団による非正規戦
    →国民の一部が蜂起して政府と戦う革命タイプ
    →ある国が敵国の不平分子をそそのかして蜂起、または、蜂起した武装勢力を支援するタイプ
    ・ゲリラに対する二つの方法
    ①賢明な政策による対処
    ②強力な警察、軍事による対処
    →ゲリラは民衆の支持を得て支援をおおぐ
    ・トルーマン大統領とマッカーサーの抗争
    →マッカーサーは国民的英雄で長老
    →マッカーサーの軍事がルーズベルトの政治を優越
    ・朝鮮戦争ではマッカーサーは北朝鮮全土を占領する事を目的とした。トルーマンは制限戦争で38度線の回復を目的としていた。
    →北朝鮮の占領に乗り出せば中国が介入の可能性大
    →マッカーサーを早々に解任すべきだった
    →これがシビリアンコントロール(政治>軍事)

    ◼️第八講 二つの新しい戦争(イラク戦争)
    テロとゲリラの違い
    ・テロ組織は少人数だがゲリラ組織は多人数の準軍事組織
    ・テロの目標は現実的には既存政府や社会の破壊による恐怖支配
    ・ゲリラの目標は既存政権に変わる新たな政権作り
    →なので闘争過程で民衆を標的にしたり巻き添えにもしない
    湾岸戦争のツケ
    ・9.11テロが起こるまでの経緯
    ・イラクのフセイン大統領がクウェート侵攻、サウジ国境近くの油田に進出し、世界の石油が危機に
    ・パパブッシュが100以上の国の連合を外交で作り、イラク軍を100時間で停戦
    →イラクが国連安保理決議を受け入れた
    ・この判断の背景は、米軍の損害拡大による国内批判の回避、フセイン政権後の受け皿が無い事
    ・そのおかげでフセイン政権は生き延びてしまう、米軍もサウジ駐屯する事に
    間接アプローチの極地(イラク戦争)
    ・振り返りとして間接アプローチとは?
    →敵の軍事力の直接的な撃滅を目的にせず、敵のバランスを心理的に崩し、麻痺させる事で間接的に抗戦意思を挫く事を目的とした
    →正面衝突を避ける作戦
    →ハイテクを駆使して敵の頭脳である指揮通信組織を少人数で破壊、被害を双方で極小化
    ・米軍は衛星による上宮映像、通信傍受、CIAの人的情報でイラク軍が地上の強襲への対抗が弱い事を把握していた
    対テロ戦争においても主役は「政治」
    ・マーシャルプランの中東版が必要
    ・マーシャルプラン=第二次世界大戦で被災した欧州のために、米国が推進した復興支援計画
    ・イラク戦争の終わりが見えないのは、政治、経済、社会活動にわたって「政治」がうまく機能しないから
    →テロが起こる理由の民衆の不安不満が消えないから

    ◼️第九講 アジア太平洋の戦争学
    ・集団的自衛権=ある国家が武力攻撃を受けた場合に、第三国が協力して防衛を行う国際法上の権利

  • 安全保障に興味を持ち始めたので、本書から。まずは歴史からって発想が人文的だな>俺。題名どおり地政学史と戦争史の概論を知ることが出来ました。10年ほど前の本ですが、日本の置かれた状況は現在も変わってない感じ。

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