- Amazon.co.jp ・電子書籍 (491ページ)
感想・レビュー・書評
-
もうそろそろウクライナ侵攻をうけてのロシア史関連の新刊が書店に並び始める頃かもしれないが、その大半はこの事態をうけてハインドサイト的にロシア史を論ずるものになるだろう。もちろんそれはやむを得ない仕儀ではあるのだが、僕はそういう先入観から可能な限り自由でいたい(自分がバイアスと無縁の存在だというのではもちろんない)ので、2014年のクリミア併合以前、すなわちロシアがヘゲモニー再獲得の姿勢を顕にする以前に書かれた、ロシア史専門家の著述を読みたいと思っていた。本書は情報量が多いにもかかわらず文庫版の手軽さも備え、さらに著述内容の一貫性にも富んだ良書。
無学な僕にとって何よりも驚きだったのだが、帝政ロシアとそれを受け継いだソ連邦は顕著な「多民族国家」だったという。帝政末期にはロシア民族の総人口に占める割合は半分以下であった。それは、中世期に「タタールのくびき」に悩まされ、苦闘の末にこれを克服する過程でロシアが身につけた処世術、すなわち「国境警備の結果としての戦争による領土拡大」の賜物だと著者はいう。あくまでも安全保障上の目的から周縁部に勢力を伸長させて行った結果、非ロシア的な「民族地域」が増大していったのだ。
このことがロシアの産業に与えた影響は大きい。なぜなら、これらの広大で肥沃な地域は、農民らの移住(植民政策)に対する強いインセンティブとなったのだが、農業適地があまりに低コストで入手できたために、生産性の向上(農地集約と増産)がおろそかにされ、常に移住によって生産量の拡大が図られてきたからだ。そのため、ロシアの農業は低生産性が温存される一方、「土地割替」と呼ばれる共有地制度のために社会的には平等が維持され、他のヨーロッパ諸国のように個人主義が頭をもたげる余地がなかった、というのが著者の主張だ。以上は基本的に帝政末期のロシア史学者クリュチェフスキーの論旨に沿ったものでありオリジナルなものではないが、各時代での農奴制とその解放の試みが詳細に記述されることで、より説得力のあるものになっていると思う。
日本のような国境を海洋で閉鎖された国から見ると奇異に映るが、すでに広大な版図を有するロシアが更なる領土拡大に自らを駆りたてることは、以上のような地理的・社会学的観点を踏まえれば合点がいく。戦争による領地拡大と移民による社会安定が、ロシアという共同体のDNAに深く刻み込まれているとすれば、一見理解を超える今回のウクライナ侵攻という暴挙も、やや異なる色彩を帯びて目に映るというものだ。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
ロマノフ以前とロマノフはよかった。ロマノフ終わってからの駆け足ソ連はいらなかったと思う
-
タイトルにあるロマノフ朝に限定するというよりは、モンゴル支配からソ連崩壊までのロシア通史。年月が長いのでどうしても政治中心で記述はあっさりしている。
-
ロマノフ朝を中心に通史として読める本。著者が認める通り、通史にした分説明が足りない感じはあるけれど、文庫一冊分で読めるのはいい。
ロシア学者として著者は長いタタールのくびきのせいでロシアはヨーロッパと切り離され、遅れをとったと何度も書いている。
しかし、同時に西洋に接近した改革者ピョートルは西洋と同化するつもりはなく、西洋から必要な要素を吸収した後ロシアの伝統を強化するつもりだったという。
・では、タタールのくびきはロシアの伝統に影響を残さなかったんだろうか? タタール時代は本当に負の面しかなかったのかな?
・ロシアの伝統ってどんなこと? 現代ロシアは相変わらず多民族国家だけど、ロシア人のイメージはどんな感じなんだろう?
読後こんな疑問がのこった。というわけで次の読書へ進む。 -
『名画で読み解く ロマノフ家 12の物語 』(光文社新書)
中野京子著と並行して読んだ。
帝政ロシア、ロマノフ300年の通史。
タタールのくびき、よきツァーリ、ペテルブルグとモスクワ。
ボリュームのある内容で、一度読んだわけでは、ついていけない感じ。