読者ハ読ムナ(笑) ~いかにして藤田和日郎の新人アシスタントが漫画家になったか~ [Kindle]

  • 小学館
4.10
  • (11)
  • (12)
  • (6)
  • (1)
  • (0)
本棚登録 : 147
感想 : 13
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・電子書籍 (259ページ)

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 「読者ハ読ムナ」藤田和日郎(著)
    マンガは、日本の文化でも世界に誇れるものだと思う。といっても、子供の頃は、よく読んだが、大人になってからは、「美味しんぼ」「ゴルゴ13」「島耕作」くらいしか読まなかった。
    そうだ、小説を書くなら、マンガの手法を取り入れた方が、小説のメリハリがつくかもしれないとおもった。しかし、マンガは編集者の存在があり、その編集者たちは、マンガのネーム(絵コンテ)を1ページ見ただけで、良いマンガかどうかが判断できるというからすごい。マンガの世界は、絵がうまいだけでは、マンガとして認められない。
    本書を書いている「藤田和日郎」が、どんなマンガを書いている人(調べると「うしおととら」「からくりサーカス」「月光条例」「双亡亭壊すべし」。ふーむ。知らん。)か知らないが、「マンガ創作論」として優れているという評判だったので、読んだ。
    マンガの創作には、やはり大きなルールがあることを知り、勉強になった。藤田和日郎は、たくさんの弟子を独立させたことで、有名らしい。つまり、この藤田和日郎は、少年サンデーによく描いている人らしい。たくさんの弟子を作るというのは、商売敵を作るわけだから、「お人好し」なんでしょうね。職人としてもれば、日本ではあまりないタイプの人である。
    ムクチキンシ!
    事務所には、無口禁止(ムクチキンシ)と書いてある。このムクチキンシという教えは、実に素晴らしい。確かに、職人の世界は、無口で、ワイワイガヤガヤしていない。
    「コミュニケーションを楽しくするようにして、相手からいろんなことを引き出すのは、漫画家を続けていく上で損ではない。うちの仕事場は、絵より何よりまず会話だからだ」という。
    「思ったとおりのことをすぐ言う」と言うことではなく「相手と会話のキャッチボールをする」
    ひとの話を聞かない奴がいくら主張しても、相手がキミの話を聞きたいか?という。
    コミュニケーションの取り方も、なぜそんなことしているのかという興味を持って接することだともいう。単純にワイガヤするわけでもない。仕事の上の話につながるムクチキンシなのだ。
    「人に対して敬意を払えない人間はどこの業界でもダメですわ」というのが基本ルールなのだ。
    おもしろいこと、人を感動させること。
    「おもしろいものを描きたい。そのためにはなんでも吸収したい」という姿勢なのだ。
    ラブコメで、主人公が女の子に好かれる理由もワカンねぇのに、モテまくるような奴は大嫌いだ。
    主人公を立たせて、その後で世界観を作るのが、少年漫画の本道だよ。少年漫画には、「ひとの心が変わるドラマ」が必要だという。そうか。目標がデカイなぁ。人の心をかえるということは、少年漫画のルールなのだ。確かに、「あしたのジョー」なんかには、影響されたなぁ。
    漫画のキャラクターで一番重要なのは表情だ。その言葉のさらに奥にある本質は「目」だと思う。眼球に感情を込めなければいけない。目に力を入れないと読者はつかめない。漫画はイラストではない。止まった絵になったら、それは漫画の絵ではない。キャラクターに魅力を与えられる人。そのやり方をきちんと言語化できる人。
    やる気を持っていることとフットワークの軽さは、運を自分に向ける重要な要素だ。
    マンガ独特のルールもある。目をきちんと描くことをポイントにしている。
    その上で、キャラが立つ。キャラの特徴と弱点をうまく添える。そして、大きな世界観を浮かび上がらせる。最初に俯瞰の絵を入れるなりして、主人公が今いる場所をわかるようにする。まずはドラマの世界へ招待する。その後何をする話なのかと言うテーマを示す」「誰と誰がなんのために戦っているのか」を明らかにする。
    さらにどうう読後感を持って欲しいか?スカッとして欲しい。愉快な気持ちになって欲しい。ちょっと寂しくなって欲しい。泣いて欲しい。読者目線で、ちゃんとした人。はっきりした感情を持つ人。いい奴であること。意外性を用意して、期待通りに終わることだ。1シーンに一ついいセリフがあればいい。正義のやつが勝つ。そこには、犠牲を伴う。そうでないと感情移入ができない。
    ふむ。少年漫画の成り立ちは、多くのルールの上に成り立っているのだ。面白かった。
    ここまで、少年漫画のルールを理解しているのなら、弟子は育つでしょうね。納得。ガッテン。

  • こういう指南書?では珍しい形式だけど、物語として読んでも面白かった。本当に漫画家目指している人が読んだらシミュレーションできていいと思う。
    キャラの履歴書はかかなくていい、キャラが固まったら項目は埋まるし漫画に出てこない設定を詰めても仕方ない、という話は納得。

  • 「漫画家・藤田和日郎の元に、新人アシスタントがやってきた」という設定の下、彼がデビューするまでの日々を追っていくという内容。
    新人へのアドバイスという体で、藤田和日郎のマンガ論・創作論が語られる。

    ・質問が新人の唯一の武器だ。
    ・漫画は商売だ。好きなものを描いてお金儲けが出来る場所ではない。
    ・1回雑誌に載っただけでは漫画家になったとは言えない。何年も連載してこそだ。
    ・プロになれるかどうかは、技術よりもメンタルの方が大きい。
    ・プロになりたかったら夢は見るな。地力をつけろ。

    などなど、プロになること、プロであり続けることについて、厳しい目線の言葉が並んでいる。

    中にはちょっと「昭和の匂い」がするようなものや、首をかしげてしまうものもある。
    それは本書の冒頭で「あくまで藤田のやり方」と注釈がある通りで、必ずしも正解とは言えないだろう。
    加えてWEBコミックが隆盛してきた現在では、事情が異なる面もある。

    しかしそれでも、何年も業界の一線で戦い続けてきた人の言葉は、やはり重みが違う。
    漫画家を目指す人はもちろんのこと、そうでない人でも、学べることは多いはずだ。

    とても良いエネルギーをもらえる本なので、ぜひ読んでみて欲しい。
    読んでよかった。


    ……余談ですが。
    本書の中で、藤田和日郎が「俺もまだまだ絵が下手だし、もっと上手くなりたいなぁ」という一言を発する衝撃のシーンがあります。

    いやいや、あなた、日本でもトップクラスに絵が上手い漫画家の一人だと思いますが…。
    本人がそう思ってるからこそ向上するんだろうなあ…すごいなあ…。

  • 単純にうしおととらが好きなので読んでみたが、これは凄い。漫画家でなくても、その辺のビジネス本よりよっぽどの仕事のやり方、進め方の参考になる。新人の時に冒頭の無口禁止に該当する態度だったことを思い出して深く反省…

  • 岡田斗司夫さんがおすすめしていたので読んだ。序盤は創作論というより、仕事の進め方の話が多い。あと、自分への評価と作品への評価は分けて考えろということはどこででもよく言われておりこの本でも言及があるが、ただやれというのではなく思考法の導きがあると良かったかなと思う。(映画の批評で慣れろという記述があるが)

  • 漫画家の藤田和日郎さんが書いた、漫画家志望者に向けた本ではあるんだけど、すべての業種で働く人が読んで損がない話がゴロゴロしており、創作をする人はもとより管理系で仕事をする人も読んでみると参考になる話が多く出てくると思う。

    具体的には「ムクチキンシ」から始まり、職場で如何に振る舞えば良いのか、どうすれば自分自身が成長できるのか、周りの人間の言うことをどのように解釈したら良いのか等々、参考に出来る金言が多い。目から鱗がたくさん落ちる(笑)

    また、上司として如何に振る舞うと良いか、部下として如何に立ち回ると良いか、というのがよく分かる気がしたので、マネージャー(上司)が読んでも参考になるし、プレイヤー(部下)が読んでも参考になると思う。

    ライムスター宇多丸さんのラジオをきっかけに読んだんだけど、ほんと読んで良かった。

  • 藤田氏の漫画論も興味深いが、
    アシスタントへの深い愛情がにじみ出ていて感動的。

    作品同様、熱くてやさしい人なんだな~

  • 「一つの目的を完璧に遂行できるようにつくられたシステムは、他の目的にも転用は可能になる。」

    この本はマンガ家を目指す人、それも賞に応募するくらいのレベルの人を対象としている。だが、他の分野を目指している、活動している人にも役立つ本だと言える。

    この本で最も重要視していることは言語化するということ。なぜそれが好きなのか。なぜこのシーンはこう描いたのか。そういったことを説明できるようにならなくてはいけない。そうすることで目指すところが明確になり、無駄なく分かりやすい作品となる。

  • 面白い!本書は藤田和日郎氏という如何にも少年漫画!を未だに書き続ける作家が、その創作手法を惜しみなく語っている体のエッセイ?である。
    本書を読み終えて同じような創作手法を取ってるのではと思ったのが、ハロルド作石氏である。BECK、RINとほぼ同じような展開で進めるのは彼にそのストーリー展開が好きだという思いを体現しているのであろう。もちろん、話の内容は音楽と漫画と異なっているが、筆者の画風と展開力からそのストーリー展開がベストであるのは間違いない。
    エッセイとするには少し長めではあるが、漫画好きの読書人であればあっという間に読み終えてしまうだろう。漫画とほぼ同じような価格設定でもあり一見の価値あり。

  • 藤田和日郎と、『うしおととら』連載開始に導いた担当編集による、少年漫画で連載を目指す人への指南書。
    アシスタントをしつつ連載を目指す新人の話に答える、という形式で進んでいく・・・んだけど、この新人、藤田和日郎本人も少し入っているのか・・・?

    絵の描き方の話も出ては来るけれども、大部分がネームの話で、さらに入りはネーム以前の藤田プロでのコミュニケーションのあり方から入る。
    まったくマンガでデビューする気なんてないんだけど、読んでると実際のマンガにどれくらいあてはまるかなって試してみたくなったりして良くないなこれw

全13件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

北海道旭川市出身。1964年生まれ。88年、『連絡船奇譚』(少年サンデー増刊号)でデビュー。少年サンデーに連載された『うしおととら』で91年に第37回小学館漫画賞、77年に第28回星雲賞コミック部門賞受賞。ダイナミックかつスピーディー、個性的ながらエンターテインメントに徹したその作風で、幅広い読者を魅了し続けている。他の代表作に『からくりサーカス』(少年サンデー)がある。

「2007年 『黒博物館 スプリンガルド』 で使われていた紹介文から引用しています。」

藤田和日郎の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×