いま世界の哲学者が考えていること [Kindle]

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  • ダイヤモンド社
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感想・レビュー・書評

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  • ポストモダン以降の哲学的潮流を整理したうえで、IT、BT、資本主義、宗教、環境といった世界を大きく変容させうるテーマについて、これらに係る昨今の主張を整理。入門書を手にする前のガイドの一冊としておすすめ。

  • 最近哲学の本を読みあさっていて、ポスト構造主義までの流れは少し掴めていたけれど、それ以降はどうなっているのか全くわからなかった。
    AIや遺伝子組み換え、クローン技術、宗教、環境問題、いま現在起こっている様々な課題に対して、哲学者たちの意見が記載されていた。知らない人たちばかりで、頭がパンクしてしまったけれど、いまだに賛否両論、というか多様な意見が入り混じっているのだと思った。
    そういう意味で、改めて現代は多様性の社会なのだろうと思う。これをどうやってインクルージョンしていくのかがキーになるのだろう。

    私個人的には宗教の章が面白かった。
    かつて宗教時代からルネサンス期を経て脱魔術化してきたが、再びサイ魔術化している現代において、何を信じるかは宗教じみてきている。
    科学が発展しすぎて、一般人には理解できないシステムで目の前のことが起こっている。目の前の仕組みを理解でいないのにも関わらず科学を信じるという行為も私にとっては宗教的に感じられるからだ。
    だから、反科学主義の人や自然主義の人たちが、科学を信じられないという気持ちもなんとなく理解できるし、自分がなぜこんなにも科学を信じているのかもわからないが、ここまで高度で複雑になった社会では何を信じるかも自分の中の信念、宗教的なものになるのだと感じた。

  • 「いま世界の哲学者が考えていること」(岡本裕一朗)を読んだ。
    『人間は、われわれの思考の考古学によってその日付の新しさが容易に示されるような発明にすぎぬ。そしておそらくその終焉は間近いのだ(ミシェル・フーコー)』
    とか、たくさんマーカーしながら楽しく読みました。
    理解してないけど。

  • Ⅰ 現代の哲学は何を問題にしているのか
    1 哲学は今、何を問うているのか
    ① 日本でてつがくはごかいされている?
    哲学=人生論をイメージする人が多い。
    →しかし、現代の哲学者たちは、人生論としての哲学を語っていない。
    ② 哲学説研究者は哲学者か?
    哲学を研究する人はまず「誰を」研究するかを決める。
    →しかし、それはただ学説にとどまって、その先に向かわない。

    ③哲学はいま、何を問うのか?
    →自分の生きている時代を捉えるために、哲学者は現在へと至る歴史を問い直し、そこからどのような未来が到来するかを展望する。
    ④モダンを問い直す
    活版印刷術に変わり、メディアなど多くの記録媒体が変貌を遂げているいまは近代から新たな時代への歴史的転換が進行しているモダンの転換時代
    →モダンの転換は私達をどこへ導くのか考えなければならない。
    ⑤哲学の潮目が変わった
    →アメリカへと向かった哲学の潮流は、21世紀を迎えると、再び逆流し始める。

    Ⅱ 世界の哲学者は今何を考えているのか?
    2 ポストモダン以後、哲学はどこへ向かうのか?
    17世紀→認識論的転回。意識を分析
    20世紀→言語論的転回。言語を分析
    21世紀→?
    ○ポストモダン以後の3つの潮流
    21世紀
    ・自然主義的転回。認知科学的に心を考える
    ・メディア・技術論的転回。コミュニケーションの土台になる媒体・技術から考える。
    ・実在論的転回。思考から独立した存在を考える。

    Ⅲ IT革命は人類に何をもたらすのか?
    1 人類史を変える2つの革命
    →バイオテクノロジーとインフォメーションテクノロジー
    →人類の終焉につながる(ホーキング博士)
    →この革命がわたしたちをどこにみちびくのか?
    ○SNSは独裁国家を倒して民主主義を実現できるのか?
    →チュニジアの民主化運動などを見ると、IT革命が民主化を可能にしたように見える。
    →しかし、SNS以外にも抗議運動に影響を与えており、SNSの影響については検討が必要
    ○スマートフォンの存在論
    →書くことの時代がおわり、音声・映像の時代(マクルーハン)
    →しかし、それとは逆に「書くことのブームに向かっている」(フェラーリス)
    →スマートフォンが、書き、読み、記録するための機械となっている(フェラーリス)
    →ドキュメント性の3つの特徴
    ・公共的なアクセス可能性、消滅せずに生き残ること、コピーをうみだせること
    →スマートフォンがなかったらアラブの春は起きなかった。
    ○SNSは市民のためのメディアではない?
    →ソーシャルメディアの危険性(ライアン)
    →監視の手段としても利用される
    →「一本のナイフはパンを切るためにも喉を切るためにも使用できる(バウマン)」
    →IT革命と呼ばれる出来事にも、違った味方が必要
    2 監視社会化する現代の世界
    ○マイナンバー制は監視社会を生むのか。
    →パノプティコン。監視によって人々が規律訓練される。
    ○ITが生み出した自動監視社会
    →監視はいわば自動で行われていく。
    ○シノプティコン。多数による少数の監視(マシーセン)
    →見世物、スペクタクルの側面もまた飛躍的に増大
    ○現代のコントロール社会の正体
    →個々人は、断片的な情報にまで分割され、それらが絶えず記録されていく。
    ○フェイスブックとグーグルの野望?
    →ビッグデータの影響は計り知れない。
    3 人工知能が人類にもたらすもの
    ○ビッグデータと人工知能ルネサンス
    →自律的に学習していく、ディープラーニング
    ○人間と同様に会話できるAIは生まれるか?
    →チューリングテストが完全にクリアできたとしても、中国語の部屋の問題にあるように、コンピュータが心を持ち、理解することはできない。(サール)
    →しかし、自動翻訳が適切にできる人工知能を作成できたならば、社会に及ぼす影響は計り知れない。
    ○フレーム問題は解決したのか?
    →ロボットは、目的に関して、関係のある結果と関係のない結果を、見分けられない(デネット)
    →しかし、ビッグデータにより、フレーム問題に陥らずに働くようになりつつある。車の自動運転など。
    4 IT革命と人類の未来
    ○ホーキング博士の警告
    →2045年に技術的特異点、シンギュラリティが起こる。
    ○人間の仕事がロボットに奪われる
    →知的労働に携わる仕事にまで及ぶ
    →機械化が進んだからと言って、経済全体に及ぶ組織的な雇用喪失には至らないとしつつ、シンギュラリティが起きた場合、同じように否定できるかはわからない(フォード)
    ○人工知能によって啓蒙される人類?
    →人工知能は人間のような知能を持つために作成されたが、自律的学習によって人間の知能を超えつつある。
    →ロボットの3原則について改めて検討する必要がある。

    Ⅳ バイオテクノロジーは人間をどこに導くのか?
    1 ポストヒューマン誕生への道
    ○人間のゲノム編集は何を意味するのか?
    1950年代→DNAの二重らせん構造、生命科学
    1970年代→試験管ベビー誕生、遺伝子工学
    1990年代→ヒトゲノム計画、体細胞クローン牛誕生
    →人間をどこに連れて行くのか?
    ○人体の改変をめぐる論争
    →費用、安全性、有効性の条件がクリアされるならば、人間に対する遺伝子組み換えも賛成すべき(ストック)
    →受精卵に対して遺伝子操作を行うことを何世代にも渡って繰り返すことで、ポストヒューマンが誕生する。
    ○バイオテクノロジーは優生学を復活させるのか?
    →社会改良運動。ナチスなど。
    →個々人が自分の生き方を自由に選ぶのが、現代社会の大前提であるならば、親がこどもをどのように教育するかも自由。
    →こどもの人生を有利なものとするため、親が子供の遺伝子を改良するのは悪いことなのか?早期教育が早まったという見方もできるのでは?
    →現代のリベラルな優生学は、国家による強制的な優生学ではないから、単純に反対すべきではない。
    ○トランスヒューマニズムの擁護
    →人間超越主義
    →人間の能力を増強することが、どうして人間の尊厳を侵害することになるのか?むしろ目指すべき方向ではないか?
    →現代はまさにポストヒューマンの出発地点(ボストロム)
    2 クローン人間は私達と同等の権利を持つだろうか?
    ○クローン人間にまつわる誤解
    →年齢の違った一卵性双生児のイメージ
    →安全で実用的になったとき、禁止する理由はあるのか。
    ○一卵性双生児とクローンは何が違うのか?
    →親は、望ましい人の遺伝子のタイプを選んでこどもをつくるから、こどもを傷つけるわけではない。(ペンス)
    ○クローン人間の哲学
    →クローン人間の場合、出生性がなくなってしまう。(ハーバマス)
    →バイオテクノロジーによって、その技術は人間に向かい始めた。人間の自然を変えるようになり始めたという現実は、しっかり見ておく必要がある。
    3 再生医療によって永遠の命は手に入るのか?
    ○寿命革命はもうはじまっている。
    →動物実験の段階で若返りが可能になっている。(シンクレア教授)
    ○不老不死になることは幸せか?
    →近代科学の願望の中心には老化の克服があった。
    ○老化遅延と生命延長の是非
    →若くて活動的な生活を営むことができるならば、その生命を救うために延長するのは悪いことなのか?
    →今の時点で不安視して、研究に歯止めをかけるのは懸命ではない。
    4 犯罪者となる可能性の高い人間は予め隔離すべきか?
    →脳科学の発達により、犯罪の原因はその人の脳にある、と言われる日も遠くないかもしれない。
    →刑務所に収容しても犯罪の原因はかわらないから、近代的な処罰にかわるどんな方法があるか、構想すべきときがくる。
    5 現代は人間の終わりを実現させるのか
    →IT革命によって書物にもとづく人文主義が、バイオテクノロジー革命によって人間主義が終わろうとしている。

    Ⅴ 資本主義は21世紀でも通用するのか
    1 資本主義が生む格差は問題か
    →ピケティ現象。アメリカとヨーロッパでは、1970年以降、再び格差が拡大している。
    →この傾向が続けば世界的に格差が拡大する。
    →格差是正がいいのかどうか問う必要がある。
    →そもそも格差は政治的問題ともいえる。政府が企業やウォール街、金権政治家が望むことに力を入れているから格差がうまれる。(ライシュ)
    →どんな格差がよくてどんな格差が悪いのか。
    →道徳的に重要なのは格差ではなく貧困(フランクファート)
    →格差是正か貧困救済かで政策がかわってくる。
    →仮想通貨の登場により貨幣の定義が変わってきている。
    →通貨の根底にある信用と生産のメカニズムこそが、マネーの本質(マーティン)
    →資本主義のエンジンであるイノベーションがITによって自動化され、イノベーションが枯渇していく。資本主義は成功することによって生き延びることができない
    →しかしそれは時期尚早

    Ⅵ 人類が宗教を捨てることはありえないのか?
    →近代は脱宗教化の過程だった。
    →しかし、いままた宗教が広まっている。ポスト世俗主義。
    →多様な宗教は共存できるのか?
    →グローバリゼーションは、一方で世界的なテロリズムを生み出したが、他方で国民国家そのものを再編していくように見える。
    →科学とは宗教とはまったく別の領域で機能している(グールド)
    →宗教がなくても人間は道徳的な行動をする。むしろ宗教が反道徳的な行動を誘発している。(ドーキンス)
    →宗教を多くの自然現象のひとつと捉える(デネット)
    →すべてを自然科学だけで証明できるわけではない(ガブリエル)

    Ⅶ 人類は地球を守らなくてはいけないのか?
    →人類が滅亡すると言われている。
    →はたしてそうなのか?人間中心主義は環境破壊につながり、滅亡させるのか?
    →生態系という価値が、サービスという人間的な経済利益と結びつく(コスタンザ)
    →しかし、価値を利益という経済的な観点だけでしか見ていない。
    →多元的に環境の価値をみなければいけない。
    →ロンボルグのコペンハーゲン・コンセンサスでは、地球温暖化対策などの環境に関する優先順位は低く、実のところ、人間にとって環境への対策よりも効果的な対策は多々ある。
    →データ上、エネルギーも天然資源も枯渇しそうにないし、食糧も増えるし、酸性雨は森林を破壊しないし、水も空気もきれいになっている。
    →環境問題がとりざたされるときは、政治的な要因もからんでいる。国連でもこうした議論はタブー視されている。
    →地球環境問題としていままで作り出されてき理解のし方を根本から捉え直す時期に来ている。

  • ずっと知りたかった哲学議論の前線がきっちり俯瞰されていて非常にありがたい一冊だった。
    テクノロジーに関する議論が多かったのが以外だった。技術が人間の土台をなしていることがよくわかる。また、資本主義や宗教についても整理されていて、知りたかったことなので良かった。

    AIやバイオ技術、そして資本主義や宗教など、ほとんどはこれまで自分で調べてきたことの域は出ず、期待していた「新しい答え」というものは少なかった。とはいえ俯瞰できたことはありがたく、ここを起点にまた調べていきたい。むしろ新しさがなかったというのは、前線に到達できていたということで好ましい。

    第1章のポストモダン以降の潮流の整理がいちばんおもしろかった。自然主義的転回が一つの分野であり、またそれとは別に実在論的転回のような世界があることは大きな指針になる。



    【目次】
    1.世界の哲学者は今、何を考えているのか
     -ポストモダン以後、哲学はどこへ向かうのアk
     -メディア・技術論的転回
     -実在論的転回
     -自然主義的転回
    2.IT革命は人類に何をもたらすのか
     -監視社会
     -人工知能、
    3.バイオテクノロジーは「人間」をどこに導くのか
     -ポストヒューマン
     -クローン人間
     -永遠の命
     -犯罪者となる人間を予め隔離するべきか
     -現代は「人間の終り」を実現するか
    4.資本主義は21世紀でも通用するのか
     -資本主義が生む格差は問題か
     -資本主義における「自由」をめぐる対立
     -グローバル化は人々を国民国家から解放するか
     -資本主義は乗り越えられるか
    5.人類が宗教を捨てることはあり得ないのか
     -多様な宗教の共存は不可能なのか
     -科学と宗教
    6.人類は地球を守らなくてはいけないのか

    【「哲学」をどのように取り上げればいいのかの本書の指針】
    ・「たった今進行しつつあることは何なのか、 われわれの身に何が起ころうとして
     いるのか、この世界、この時代、われわれが生きているまさにこの瞬間は、いったい
     何であるのか」(ミシェル・フーコー、1982)
    ・「自分の生きている時代を概念的に把握する」
     → 自分の生きている時代(「われわれは何者か」)を捉えるために、哲学者は
      現在へと到る歴史を問い直し、そこからどのような未来が到来するかを展望する

  • 現代社会に対して様々な哲学的観点からの考察をまとめていて大変良書だった。どのテーマも割と表面的な議論に止まるのではと思ったのだが、それなりに深く書かれていて勉強になった。

  • 170605 パームスプリングス空港で読了

  • あえて自分の立場は主張せず、現代の世界の哲学がどんな状況なのか、簡単に解説するとともに、現状の世界の諸課題に対して、哲学者たちが何を考えているのか?解説した本。

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著者プロフィール

玉川大学文学部名誉教授。九州大学大学院文学研究科単位取得退学、博士(文学)九州大学。専門分野:哲学・倫理学。主要業績:『異議あり!生命・環境倫理学』(単著、ナカニシヤ出版、2002年)、『ネオ・プラグマティズムとは何か』(単著、ナカニシヤ出版、2012年)

「2019年 『哲学は環境問題に使えるのか』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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