THIS IS JAPAN 英国保育士が見た日本 [Kindle]

  • 太田出版
3.70
  • (2)
  • (3)
  • (5)
  • (0)
  • (0)
本棚登録 : 30
感想 : 5
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・電子書籍 (249ページ)

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 読みやすく、すごくわかりやすくておもしろくて、とてもとてもためになった。
    今の日本の、貧困、格差、保育、労働者、経済などの問題がよくわかる。
    イギリス在住で保育士の著者が日本滞在中に実際に、保育園やデモの現場、ドヤ街を訪れて現場の人たちの話をきくという構成も読みやすくて飽きないし、よかった。比べて語られるイギリスの状況も興味深い。
    労働者の問題と保育の問題が近い、つながりあるものだとか、日本では権利と義務がセットになってしまっている、とか、あらためてなるほどと思うこともすごくたくさんあった。
    イギリスでは、小学校でヴィクトリア朝時代について学んで人権とか社会格差とか貧困の問題を知る、っていうのがすごいなあと。オリバー・ツイストとか。日本じゃ、人権、なんてきちんと教わるかなあ。大人でもよくわかってないような。。。

  • 3

  • 「富者と貧者が襖を閉めて同居している」

    貧困層のドヤと中流層が住むマンションが混在する一角を見たブレディみかこの感想は、今の日本が抱える矛盾、私達が肌に感じる違和感を的確に表している。
    保育士の資格を英国で取得した著者が、現代日本の福祉や保育、労働争議の現場をルポした一冊。
    政治に無知無関心な私もハッとさせられるような突っこんだ視点が散りばめられており、行く先々で撮った写真も掲載されているのでリアリティが増す(というか、これが今の日本のリアルか……)

    賃金未払いの抗議にいくキャバ嬢と労組に「働け」と罵声を浴びせかけるキャッチやホームレス、それに便乗する客やブログの匿名コメント……
    「なんでわざわざお金を払って女の子としゃべりに行くの」との質問に、「お金を払えば女の子に言いたいこといえるじゃん」と身も蓋もなく返し、雇い主から雇用者へ、客から担当へ、そして同業者間のピラミッドで蔓延る差別の構造を露呈する。
    結構昔、スターバックスで授乳する若い母親を見、「見苦しいから追い出せ」と別の中年女性がクレームを付けたら、店員が機転を利かせて庇ったことがまるで美談のように取り上げられたが、「どうして自分はほっとかれたのにアイツは贔屓されるんだ」という不公平感から来る怒りは人間だれしも持っている。
    正直、気持ちはよくわかる。
    苦労した分だけ人は優しくなれるなんて嘘だ。詭弁だ。理想論だ。
    現実には苦労した分だけ人は僻みっぽくなるし、他人の幸せが許せなくなる。自分と同じ状況におかれながら戦うひと、助けられてるひとを目の当たりにすれば尚更だ。
    著者はアクティブなスタンスで様々な場所にでかけ、英国の現状と照らし合わせた問題点を浮き彫りにする。
    根底にあるのは貧困と人権問題。
    欧州では人であるだけで最初から備わってるものとされる人権が、日本では支払い能力に還元されているという指摘にはギクリする。
    即ち、税を払えない人間に人権はない。
    生活保護で生きてる人間はフルスペックな人権など望むべくもなく、また訴える資格もない。
    この国では貧困は自己責任だ。
    だから自分でなんとかしろ、働けと皆言うところに、一億総中流の同調圧力の怖さがある。
    少し前、テレビニュースでバイトの最低賃金を1500円に上げろとデモする若者たちを見て「図々しい」と思った。お金が欲しければ正社員を目指せばいいのにと。
    が、そうじゃない。彼らの活動には相応の理由があった。この本を読めばそれがよくわかる。
    最近の若い母親は「ださい」と子供を叱る。
    にんじんを食べられないのはださい、ファミレスで行儀悪くするのはださい。私自身何度か耳にしたが、若者は「ださい」と見なされるのに強迫的な恐怖心を抱いている。一度アンクールと見なされると復権は難しい。
    政治的な運動はもっとカジュアルになっていい。
    たとえば無人の交差点で踊りたいように踊る、たとえば露店を出して餅付きをする。「楽しさ」を演出しないと草の根の人の心は掴めない。
    著者は言う、人権は神棚に上げて拝むものじゃない。
    人権は障害者や外国人や在日や性的マイノリティや被差別部落出身者だけのモノじゃない。それらの人々含め、どん底の一歩手前にいる私たち全員が本来持っている「ギリギリを受け止めてくれる蓋」なのだ。
    草の根から始まる政治活動にフットワーク軽く飛び込んでいくブレイディみかこの人柄は、イギリスの西原理恵子ともいえる肝っ玉母ちゃんのバイタリティに満ち溢れている。
    ポリティカルな感覚をフィジカルにリンクさせるのが巧みで、印象的なフレーズがぽんぽん飛び出すのも魅力的。
    「レミゼラブル」「ニューカマー」他多数、唐突なカタカナ語が地の文にフラットに混ざってるのが好き嫌い分かれるが、独特の文体がイイ感じに堅苦しさの抜けた生き生きしたリズムを生み出す。
    ロックというかライブというか……むずかしいことをむずかしく語るのはだれにでもできるが、むずかしいことをだれにでもわかるように語るのはむずかしい。この本はそれを実践してる。

    全体的に見通しは暗いが、本書はある種の希望、可能性も提示されている。
    英国ではソーシャルアパルトヘイトが進み、違う階級同士の交流は断絶しているが、日本の保育の現場には親の所得と無関係に園児が混在する一点で風穴があいている。
    それを端的に象徴するのがエピローグのカトウさんの話で、これがすごくいい。廃材を利用した手作りオモチャのエピソードにジーンとしてしまった。

    しかし著者、遅刻しすぎだぞ。

  • 英国で保育士として貧困の現場で働く著者が見た日本の風景。
    階級社会、英国の現状との比較を興味深く読ませてもらいました。
    日本だと「保育」って、親に変わって面倒を見る・・というイメージがありますが、英国では結構自立を促すための教育、という役割も果たしているんですね。集団でおとなしく過ごすのが普通、な国内の保育の現場と比較して面白かったです。
    遠く離れたふたつの国で確実に進行する格差と貧困。有効な処方箋があるわけではありませんが、権利意識の低い日本では「自己責任論」が先行しているのに対して、さすが人権の先進国、英国では生き延びる権利としての人権意識が共有されているんですね。
    国内でもこの本で紹介されているように、当事者間での反貧困運動が存在するわけですが、それが社会全体で認識されているか・・となるとまだまだ、という印象です。もっと状況が悪化しなければ問題視されない、だとすると未来は暗いですね。

  • この数日、男性保育士に関する投稿がネットに増え、議論は性的なリスクに集中しているが、本質的な社会問題をすり替えられていることが、本書を読むことで見えてくる。
    「中流」を自称し、生活水準を徐々に下げている(下げられている)ことに目をそむける日本の実情。ネットに転がる情報を得意げにみている場合じゃないですわ。人間に、自分に、必要なものを、他人や社会のせいで見失ってはいかん。のだ。

全5件中 1 - 5件を表示

著者プロフィール

ブレイディ みかこ:ライター、コラムニスト。1965年福岡市生まれ。音楽好きが高じて渡英、96年からブライトン在住。著書に『花の命はノー・フューチャー DELUXE EDITION』『ジンセイハ、オンガクデアル──LIFE IS MUSIC』『オンガクハ、セイジデアル──MUSIC IS POLITICS』(ちくま文庫)、『いまモリッシーを聴くということ』(Pヴァイン)、『子どもたちの階級闘争』(みすず書房)、『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』(新潮文庫)、『他者の靴を履く』(文藝春秋)、『ヨーロッパ・コーリング・リターンズ』(岩波現代文庫)、『両手にトカレフ』(ポプラ社)、『リスペクト――R・E・S・P・E・C・T』(筑摩書房)など多数。

「2023年 『ワイルドサイドをほっつき歩け』 で使われていた紹介文から引用しています。」

ブレイディみかこの作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×