日経サイエンス 2017年 03 月号 [雑誌]

  • 日本経済新聞出版社
3.25
  • (0)
  • (1)
  • (3)
  • (0)
  • (0)
本棚登録 : 25
感想 : 1
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・雑誌
  • / ISBN・EAN: 4910071150374

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 特集は「脳を作る 脳を見る」。
    ちょっと衝撃的なタイトルだが、現在作られている「人工の脳」は、モデル系としてのもので、その脳自体が何かを考えたりする段階からはほど遠い。脳は高次器官であり、多数の種類の細胞が組み合わされて構築されている。ヒトと動物の脳の相違も多く、動物脳を研究してもわからないことも多い。多能性幹細胞から分化させることで、ヒトのものによく似た「ミニ脳」を作り出すことが可能になってきている。これを用いて、脳の発生や胎児の初期段階で起こる疾患を研究したり、あるいはアルツハイマー病などの疾患モデルを作って薬剤開発に役立てるといった可能性もある。
    とはいえ、この「ミニ脳」には懸念を抱く人も多そうだ。感覚器にはつながっていないこともあり、研究者らは「ミニ脳」が意識を持つ可能性は「ゼロ」だと主張しているが、そもそも脳に似た構造を作り出すことに嫌悪感を抱く人はそう少なくないように思う。このあたり、注意深い検討が必要になっていきそうだ。
    「脳を見る」の方もインパクトのある話で、こちらのキーポイントは「透明化」である。脳内には複雑な回線が張り巡らされているが、奥の方がどうなっているのかは通常「見えない」。蛍光標識などの発展により、注目しようとする細胞や分子に目印を付けたり、光らせたりすることは可能だったが、脂質などに邪魔されて、三次元構造を保ったまま見ることはできなかった。ここで現れたのが、「CLARITY法」と呼ばれる方法である。簡単にいうと、ハイドロゲルと呼ばれるポリマーで脳全体の構造を固定し、脂質や測定に不要なものを洗剤などで取り除いた後、蛍光などのマーカーを導入するという手法である。マーカーは洗い流し可能であるため、同じ脳を用いて、さまざまな視点からの研究が可能になってきている。インパクトのある技術だが、こちらも倫理的に十分に留意した対応が必要になっていきそうである。

    まったく違う話題で進化のトピックから「シャチの種分化」。
    進化において、多様性を生む1つの大きな要因は、地理的な隔離だ。別々の場所に住むうちに、次第に見た目も違った集団になっていくわけだ。ところが、シャチの場合、集団が地理的に隔離されていないにもかかわらず、別々に進化しているように見える例がある。同じ地域に、獲物の種類や背びれの形などが異なる集団が存在するというのだ。近年の研究から、餌の獲得に関連する「文化的な違い」が進化を促しているのではないかと示唆されてきている。
    例えば、アザラシなど哺乳動物を狩るシャチ集団には、海岸にわざと打ち上げられて水際の子アザラシを狩る方法を「発明」し、「社会的学習」によって仲間に伝える例が見られる。こうした「文化」の継承が集団を差別化し、徐々に進化が進んでいるのではないかというわけだ。地理的ではなく、文化的に隔離されるようなものだろう。進化を考える上で、なかなかおもしろい事例であり、仮説である。

    このほか、「AIロボットに必要なのは「ノー」が言えること?」といったトピックや、「枯葉剤の何世代にもわたる影響はエピジェネティックな影響を受けている可能性がある」といった記事が注目される。後者については、原因の究明と同時に、被害者への支援が重要だろう。


    *こちらの雑誌とは直接は関係ないのですが、雑誌「Newton」版元の民事再生申請と元社長らの出資法違反容疑による逮捕のニュースに少々衝撃を受けました。詳細はよくわからないのですが、背景にはやはり科学雑誌が(特に日本では)「売れない」ことがあるのだろうなと思います。「Newton」創刊は1981年といいます。ちょうど、カール・セーガンのテレビシリーズCOSMOSが大当たりした頃で、あの時代、「OMNI」やら「Quark」やら雨後の筍のように多くの科学雑誌が生まれました。1つ欠け、2つ欠け、と徐々に減っていき、現在総合科学誌として残るのは岩波の「科学」と「Newton」、そして「日経サイエンス」くらいでしょうか(「ナショナルジオグラフィック」も広い意味ではそうかな)。「Newton」はビジュアル的には飛び抜けている感がありましたが、そうか、「Newton」も厳しかったのか・・・というところです。雑誌自体の存続は図っていくようですが。経緯を見守りたいと思います。

全1件中 1 - 1件を表示
  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×