子どもの貧困-日本の不公平を考える (岩波新書) [Kindle]

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  • 2006年、OECD加盟国の中で、日本の相対的貧困率がアメリカについで第二位であることが明らかになった。
    統計データによって子供の貧困問題がどのようなものであるか教えてくれる本。
    読んでいる間ずっと、眉間の皺が消えなかった。

    父母の学歴や職業によって、子供の学歴に格差が生じており、それは年々拡大している。
    親が子どもを育てる環境も、家庭の経済状況によって、大きく左右されている。
    年収が少ないほど、相談相手も、いざというとき支援してくれる人もいない、休日に子供とゆっくり遊ぶこともできない。
    「暖かな家庭」で「のびのび」と育つことが困難となっている。
    日本に無保険状態の子供が大勢いるというデータにはショックを受けた。

    子供期に貧困であったという不利は、大人になっても、一生付きまとう、という諸外国の調査結果がある。
    所得の差のみで子供の学力に差が出たという研究結果も。
    乳幼児の貧困率が、近年特に悪化している。
    この頃の貧困が、その後の健康やIQ、成人してからの学歴達成度などに大きく影響している。

    欧米においては、共働きという手段が子供の貧困率改善に一番有効だが、日本においては女性の賃金が安いため、母親の就労が貧困率の改善に繋がっていない。
    家族関連の政府の支出は、ヨーロッパ諸国の数分の一しかない。税制からの給付を加えると、その差は更に広がる。
    高等教育への補助も日本は少ない上に、ほとんどは貸付である。
    児童手当は薄く広く拡充されてきたが、物価の上昇に全く追いついておらず、少子化対策には程遠い。

    貧困率の高い母子世帯に対する政策は、むしろ縮小傾向にある。
    社会保険料の負担は、低所得者ほど重くなっている。
    貧困率を「市場所得」と、再分配後の「可処分所得」で比べたときに、日本だけ再分配後のほうが高くなっている。
    つまり、社会保障制度や税制度によって、日本の子供の貧困率は悪化している!
    日本の「低所得層」は所得に不相応な負担を強いられており、「高所得層」は負担が少ない。

    母子家庭の母親たちへのアンケートから悲惨な生活が想像できて涙が出てくる。
    「収入の増える見込みがないので自分の老後の蓄えをする余裕がない。将来働けなくなったら、すぐに死んだほうが子供に迷惑をかけないで済むのではないかと考える。」という悲痛なコメントも…。
    母子世帯の貧困は、女性の所得の低さとも密接に関わっている。
    そして、男女に関わらず、所得の低さは子どもの学歴と明らかに関連している。

    「母子世帯」という形態に囚われすぎると、母子世帯の貧困が、何か特別な状態であるような錯覚も起こさせる。
    児童手当を母子世帯になってからの一時的な支援と位置づけるのではなく、「今、現在」の子供がどうであるか、という視点が必要。
    世帯形態に関係なく、子供に着目することによって、様々な状況にある子供の貧困に対処できる。

    「必需品」で見る貧困のデータが興味深い。
    日本で子供の貧困対策が進まない理由が明らかになった。
    イギリスが子どもの貧困撲滅宣言をした1999年、同じような貧困率の日本では問題視すらされていなかった。
    「日本版子どもの貧困ゼロ社会への11のステップ」、実現する日は来るのだろうか。

    日本政府による母子家庭の締め付けには怒りを覚えた。
    両親の揃った子供のいる家庭を「普通」として、それ以外の家庭を「異常」として存在を認めていないように私には思える。

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著者プロフィール

首都大学東京教授

「2017年 『20年後、子どもたちの貧困問題』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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