§最高のアニメーション芸術を是非
日本で「アニメ」と言われると一般には「巨大ロボット」「サザエさん」「宮崎駿監督」といった認識でしょう。所がそうした「商業アニメ」とは一線を画した、芸術領域(ファインアート)にあるアニメーション映画が世界に、日本に有るのです。
このディスクは世界中のアニメーションファン、関係者から好かれているユーリー・ノルシュテインの旧ソ連時代の作品集です。
多少ネタバレしますが・・・
1)「話の話」
時制が錯綜し、非常に難解な映画とも思われていますが、監督による映像エッセイに思えます。不幸な第二次大戦、戦争未亡人、戦後の高度経済成長期、モータリゼーション、官僚主義と教育ママ、アルコール依存症のパパ。かの国にも我が国にも同じでは無いにせよ、戦後史の共通性に共感があります。
遅筆な詩人から白い紙を狼の子が奪って逃げ、その紙が赤ちゃんになってしまいますが、赤ちゃんは白紙=無限の可能性を秘めていると言う意味らしく、私には遅筆な詩人は監督の自画像に思えます。
また、不条理な表現でも暖かいユーモアがあり、監督の心の奥底にある「反戦」の思いも伝わって来ました。貨物列車は愛する男達(息子、旦那さん、恋人、兄弟)を戦場に運ぶ軍用列車。実写映画の「誓いの休暇」等でも使われている、この国では忌まわしい思い出の象徴。
ソ連製コンチネンタルタンゴ「疲れた太陽」のレコードが針飛びを起すたびに、奥さんや恋人と踊っていた男達は文字通り、戦地に飛ばされます。残された戦争未亡人の一人は後々も登場する静かで重要なキャラクターです。
ロシアがウクライナに対する侵略戦争を始めた今、監督はどうお考えか、それをどのよう表現に反映されるのか私には感心があります。東欧圏の映画はストレートに権力を批判出来ず、暗喩を駆使して来た歴史があります。芸術の分からない役人や政治家の目をくぐって表現してきたのだと思います。
2)「霧につつまれたハリネズミ」
そこには勧善懲悪はおろか起承転結も存在しない、自由に解放された映像詩。かといって難解な抽象表現でも無く、しかしまた、ただただ幽玄としている。
こんな映像詩がお子さん向けなのです、なんと贅沢な事でしょう。第二次大戦後一切戦争をしていない我が国でお子さん向けに戦争を賛美し煽るアニメばかり作られているのとは大違いです。
3)「ケルジェネツの闘い」
キリスト教美術=14、5世紀のフレスコ画をモチーフにしたシネスコを奢ったカットアウトアニメ。
馬の扱いが何処となく黒澤明風に思えます。そして歴史絵巻であってもやはり農夫が種を撒き、子供たちが遊ぶ・・・平和が何よりと言うのが描かれています。
4)「25日・最初の日」
本当の所は、ロシア革命直後、残忍なスターリンに掌握される前の夢と自由が有ったこの国へのオマージュなのでしょうか。
5)「キツネとウサギ」
有名な民話らしい。ウサギを捕食しようとした動物達がウサギの言い分を聞いて同情し、ウサギを助けようとして・・・・ウサギを助ける事が出来たのはヘビースモーカーのニワトリというのが爆笑。
6)「アオサギとツル」
愛する人を想えばこそ・・・誤解が生じ中々結ばれない二人。考えすぎで不器用な大人の恋の物語を水鳥で表現。
この初回限定版には監督の東京藝術大学での講演が収録されています。