大国の掟 「歴史×地理」で解きほぐす (NHK出版新書) [Kindle]

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  • NHK出版
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感想・レビュー・書評

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  • 元官僚、一時期は鈴木宗男氏絡みで色々な出来事があり、今は多作な作家となっている佐藤優氏による、アメリカ、EU、ロシア、中国といった大国が動くメカニズムを地政学等の観点から紐解いた1冊。
    Kindle Unlimitedに著者の作品が色々あるので、しばらく退屈しなくて済みそうです(笑

    佐藤氏の著作、流れるような構成が見事なのと、知らない(そして、意味のある)情報が多いので、正直個人的にはそれだけで感心させられてしまって、その上の考察みたいなトコロまでなかなか行けないです。
    例えば、アメリカに関しては神学者ラインホールド・ニーバーの影響力が未だ大きいということ、トッドの言う「人種的差別は、アメリカ民主主義がよってたつ基盤の一つだ」という主張など、ただファクトを知るだけでも考えさせられてしまいます。
    他にも、ドイツは輸出大国で内需が弱い(GDPに占める輸出の割合が日本の4倍)、ロシアの地政学に基づく行動原理、サウジアラビアの王族(原理主義的なワッハーブ派ムスリム)がウイスキーを飲める理由、等々、ただただ「へー」となってしまう知識量です。

    少し残念なのは、基本的にはファクトをストーリー立てて並べた内容になっていて(それだけでも凄いことなのですが)、そこから先の著者独自の考察が読めないことです。
    まぁ本職でインテリジェンスやってた方の見解を新書に載せてしまうのはいかがなものか…でしょうし、メカニズムを紐解いた先の見立ては読者に委ねるという考えだと思いますので、考察まで求めてしまうのは贅沢すぎるのでしょう。

    昨今のウイグル絡みの報道を見るに、なんで中国はあんな強権的なコトをして国際社会の評判を落としているのか…と思っていたのですが、本著を読むと少し納得できる部分も。
    「中国が対応を誤れば、『第二イスラム国』に、新疆ウイグル自治区内で実効支配地域をつくることを許してしまうかもしれない」ということだそうで。
    しかし、毛沢東は「中国で民族紛争が起きたら深刻なことになるから、少数民族に利益を少しシフトして国家運営をした方が良い」と言っていたのに、現状はそうなっていないのは大丈夫なのかどうか。

    情報を体系立てて整理できれば、先を見通すことも少しカンタンになるんじゃないか。そう思わせてくれる1冊でした。
    あとがきのインテリジェンス業界の格言「悲観主義者とは、事情に通暁した楽観主義者である」というのはなかなか重いですね。。

  • 一気に読了。
    直近、駿台茂木先生の地政学の本を読んでいたので、すんなりと頭に入った。
    中国の海軍に実戦経験がないこと、新疆ウイグル自治区における周辺地域との連関に関する考察は腹に落ちた。
    東南アジアに関する章がなかったのは残念だが、本書で得たフレームワークを意識して、歴史教科書を紐解いてみたい。

  • 歴史だけでなく、地理を知ることの大切さを知りました。
    知らないことだらけで、いろいろ目からでした。

    アメリカ、イギリス、日本はシーパワー。そして、アメリカもイギリスも孤立主義に向かっていること。

    ロシア、ドイツ、フランスはランドパワー。そして、ドイツがEUでヨーロッパを取り込もうとしている。ロシアは緩衝地帯を作るために国を作るんだ…という驚き。そしてギリシャも人工国家だったとは。中国との境界は不安定。

    アラブの春は、民主選挙を通して、民主主義を否定する政権ごできるというパラドックス。そして、イスラム教は宗派の違いでこれだけいがみ合うのね…という驚き。イスラムの世界観はなかなか理解し難い。

    そして、今更ながらに気づいたのが、海や山は変わらないけど、国境は引き直される、ということか。

    もっと知りたい、勉強したいと思わせてくれた本でした。

  • オセロは角をとると、そこが盤石の拠点になり圧倒的な強さを発揮する。
    実際の国同士の覇権争いはボードゲームなど比べるべくもない複雑な条件が左右するだろうけれど、オセロで言う角のような場所が「海」。
    アメリカ、イギリス、スペインのような覇権国家の共通項は圧倒的なシーパワー。
    だけれど、ネットワーク化されたテロリストのような勢力が拠点とするのは「山」で、地政学的な価値も変わってきているらしい。
    では、半島は?大陸と地続きの国は?そして我が日本は?
    そんな風に世界地図を見る目がガラッと変わる地政学。
    地形というものがこうも人間社会に影響を与えるのかと、知的好奇心が大いに刺激される。

    地政学的な国際情勢の見方には普遍的なスキルとして身につけておくべきことが判る。
    2022年現時点でのロシア×ウクライナ戦争に通じる、ロシアが背負った宿命のような事情が良く理解できる。
    善悪のような一方からの二軸の見方ではなく、歴史と国境の移り変わりから見える、複雑なうねりの中で、アナロジカル的に一定のパターンを見抜く力が養われる。

  • 堪能

  • かなり面白い。

    地政学というのもよく知らなかったが、絶対的ななにかでなく、意図が国家主権によってあることを想定し、いくつも考えていくのは知的感を感じる。

    著者自体もほとんど知らなかったため、良い入門書となった。世界史や地理など世界動向についての解像度が上がったと思うので、世界史や地理、各国の現代動向についてなにか補助線が欲しい人はぜひ読んで見て欲しい。

  • 読了後、作者の経歴を知り、鈴木宗男の影響と余波の大きさに今更驚く。
    地政学で検索してもわかるようで意味のない解説ばかりが表示され、辟易していたところに本書の存在はありがたかった。政治と外交は魑魅魍魎が跋扈する大変な世界だ。

  • 2016年に書かれた本。トランプ当選前のアメリカ大統領選や、イギリスのEU離脱について触れられている。どちらも、十九世紀の孤立外交政策への回帰を表しているらしい。
    ギリシャの近現代史は本書で初めて学んだ。イギリスとロシアの思惑でできた人工国家ギリシャは、欧米の勢力圏となったが、産業化を支援されなかった。その上ドイツ製品を「借金してでも買え」と押しつけられたため、債務危機に陥った。
    ヨーロッパの北部は経済的に強く、南部が弱いのは、宗教の違いだとか、知らなかったことがたくさん。
    ギリシャが崩壊したら、ロシアやイスラム国が侵攻してくるため、ヨーロッパは見放すことができない。
    中東情勢は、ややこしくて一読しただけでは頭に入らない。トルコの参戦でさらにややこしくなってる。中国の新疆ウイグル自治区近辺に「第二イスラム国」が誕生する可能性もあるらしい。
    「現代の地政学を考える場合、地理的な要因のほかに、サイバー空間の重要性を加味する必要があります。」これも地政学に含まれるのね。

  • 2016年の出版だが、地理をベースに論じているので何年経っても色褪せない論説。各国の歴史を並行して論じているので新たな発見がある。元外交官として、ニュースなどでは分からない裏話や捉え方を教えてくれる。

    学生時代の歴史をアップデートし続けなければならない。私達が関わる商売や教育も、時代を読まなけば空回りするだけだから。

  • さらっと纏めてあって分かりやすいんだけど、池上彰さんとの対談本とかなり内容はかぶっていた。

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著者プロフィール

1960年1月18日、東京都生まれ。1985年同志社大学大学院神学研究科修了 (神学修士)。1985年に外務省入省。英国、ロシアなどに勤務。2002年5月に鈴木宗男事件に連座し、2009年6月に執行猶予付き有罪確定。2013年6月に執行猶予期間を満了し、刑の言い渡しが効力を失った。『国家の罠―外務省のラスプーチンと呼ばれて―』(新潮社)、『自壊する帝国』(新潮社)、『交渉術』(文藝春秋)などの作品がある。

「2023年 『三人の女 二〇世紀の春 』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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