日経サイエンス2017年4月号

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  • / ISBN・EAN: 4910071150473

感想・レビュー・書評

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  • ダイエットは現代人の大きな課題である。世にダイエット法は数々あれど、決定的なものはいまだない。「運動すれば痩せるだろう」と頑張ってもなかなか痩せられないのは多くの人が実感するところだろう。
    特集「運動と健康」の最初の記事「運動のパラドックス」はこの問題に取り組む。
    サバンナで野生動物を追って暮らす狩猟民族がいる。直観では、彼らのエネルギー消費は都会人に比べて相当高いだろうと思われるが、予想に反してそうではない。記事の執筆者は、2種の同位体(重水素と酸素18)を含む水を被験者に飲んでもらい、排泄される尿中の同位体濃度を調べた。ここから毎日体内で産生される二酸化炭素の量を計算し、これを用いて毎日のエネルギー消費量を割り出す。その結果、狩猟採集民も都市生活者もエネルギー消費量に大きな変化がないことがわかった。どうやらヒトはエネルギーをやりくりして、多少激しい運動をしてもカロリー消費をしにくいように出来ているようなのだ。
    明確な答えはまだわからないが、例えば、運動をすると、その分、身体の「保守」に当てられるエネルギーが押さえられている可能性があるようだ。炎症反応が弱まったり、生殖ホルモンの分泌が下がったりするのだ。こうして全体で辻褄を合わせていると考えられる。
    ヒトの脳は他の霊長類に比べても大きい。脳はエネルギーを「バカ食い」する臓器だ。それなのにヒトが繁殖してきたのは、エネルギーを他でやりくりする「仕組み」を発展させてきたためと考えるのが妥当であるようだ。
    だから生半な運動では痩せない。痩せるためには摂取カロリーを抑える方がどうやら有効であるらしい。

    かといって運動が無意味なわけではない。次の記事「うつ病治療に運動を取り入れる」では、適度な運動が、身体だけではなく心の健康にもよいとする研究結果を報告する。
    もやもやいらいらしていたが、気分転換に運動をしたらすっきりした、という経験を持つ人は少なくないだろう。軽度・中度のうつ病には運動が有効であることを示す証拠が蓄積されてきている。どの程度の、どんな種類の運動がどの程度の症状に有効かまでははっきり推奨できる段階にはないが、おおまかに、心が沈みがちなときに、運動をすることはプラスかマイナスかと言えばプラスだと言い切れるくらいには相関関係がある。逆に、閉じこもって体を動かさないでいるとうつ病のリスクが高まるというのもまた真である。
    運動がよいのはストレスに対する生化学的な回復力を強めるためだ。
    運動の「処方」は場合によっては薬やカウンセリングと同等の効果が認められるほどだとうい。

    人類学から「神話の変化」。
    古今東西の神話のモチーフに似通ったところがあるのは以前から知られていることだが、この記事でおもしろいのは、この分析に進化生物学の統計ツールを利用しているところである。例えば、狩人に追われた動物が星座になるといった神話の場合、追われる動物の種類が何か、狩人は一人か複数か、狩人は犬を連れているか、動物はどのように狩られるか、など、いくつもの属性に分ける。これら1つ1つを生物の遺伝子のように見なして、解析ソフトを用い、系統樹を作成する。これにより、各神話の近さ、成立時期の古さが見えてくるという仕組みだ。
    これを進めていくと、神話のつながりから、民族がどのように移動していったかなども見えてくる可能性がある。もしかしたら、民族同士の交流により、物品だけでなく神話の「交換」もあったのかもしれない。
    他分野の手法を使って意外なことが見えてくる可能性に期待したい。

    生物学から「ヒトの臓器を動物で作る」。
    これはなかなか議論を生みそうなトピックスである。
    世界中で、臓器移植を待つ人は多いが、臓器は十分に行き渡るわけではなく、常に不足状態にある。これを何とかするために、動物(特にヒトと同程度のサイズの臓器を作製可能であるブタ)に臓器を作らせ、ヒトに移植しようという試みがある。
    もちろん、ブタの臓器をそのままヒトに移植すれば拒絶されてしまうので、ヒト臓器を作らせる必要がある。おおまかには、ブタの受精卵を採取し、膵臓であれば、膵臓を作るために必須の遺伝子を取り除く(CRISPER/Cas9を用いる:cf:『ゲノム編集の衝撃』)。この受精卵をある程度育て、胚盤胞と呼ばれる状態になったらヒトiPS(人工多能性幹)細胞を注入する。この段階で、胚はヒトの細胞とブタの細胞が混ざった「キメラ」になる。この胚をブタの子宮に入れる。そのまま発生が進めば、ヒトの膵臓を持つブタになるだろうというものだ。
    理屈から言えば可能ではありそうだが、実際にはいくつも問題がある。
    倫理的な問題もあるが、技術的にもハードルは高い。現段階では実現には少々遠そうだ。
    iPS細胞は「多能性」ではあるが、卵と同程度にまっさらな状態というわけではない。ある程度、特定タイプの細胞に近くなるように分化が進んでいる。そのため、キメラの中でシグナルにうまく反応できず、異物として排除されてしまう。
    ヒトとブタがそれほど近縁でないという問題もある。ヒト細胞はそもそもブタの生化学シグナルに思うように反応しないかもしれない。
    逆に、ヒト細胞が胚の中でうまく発生の先の段階まで進めたとして、細胞が膵臓以外の場所にも漏れ出したらどうなるのか。例えば脳に、例えば精子や卵子に混じり込んだら・・・?
    いろいろ考えると、リスクが大きすぎる発想のように思うのだが、著者らは精力的に取り組んでいるようだ。「いいのかな? これ、進めちゃって?」と個人的には思うのだが。

    「非科学的デマを斬る。知っておきたい5つの事実」は、「反科学」への反論。
    取り上げられているのは、進化論、ホメオパシー、気候変動陰謀論、ワクチンと自閉症、宇宙人の来訪である。いやまぁどれもこれも簡潔にまとまっていて主張もごもっとも、と思うのだが、これを読んで同意する人はそもそも「反科学」に染まりはしない、という気もする。息の長い、地道な取り組みが必要なところなのだろう。

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