表現と書く技法 ――『グローバライズ』創作をめぐって [Kindle]

著者 :
  • 河出書房新社
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  • 『グローバライズ』収録の短編は、「語り」を排して「描写」することを意識したという。簡潔に叙述することや、心理描写、設定の説明、情報の提示も「語り」になってしまうので、地の文では登場人物の行動をなるべく具体的に書くようにした。なぜ「描写」のみの文章を用いたかというと、(かつては小説で書かれていた)「語り」の文章はいまやネットに溢れていて、小説ならではの独自性がないから。

    著者が常に意識していることに、初対面同志の(もしくはそれに近い)人物を遭遇させることによって何かを起こすことだという。創作は共通体験や共感をもとになされるが、これらもネット上に溢れている。こうしたものに依った創作は、物語られているものを物語っていて、つまり何も物語っていない、と著者は感じるようになった。

    しかし、この無関係人間を遭遇させるには「描写」だけでは十分ではなく状況の説明や推測を「語る」必要が出てくる。そこで、複数の登場人物からなるユニットを出して、会話で状況を掘り下げ、そのユニットごと初対面の相手に遭遇させることにする。

    こうすると禁欲的になり、その方向で進めるとともに、もう一方で爆発的な「語り」も用いたくなる。「語り」を何篇かはさみ、最後の一篇では「描写」と「語り」がせめぎ合い、ついには「語り」が突き抜ける、という短篇集になった。


    著者の作品内容がくだらないことや、この論考の注釈がやたらと長いことから、真意なのか冗長な詭弁なのか判然としなかったが、ネットのインタビューなどを読んでみると、どうやら以上のようなことを色々と考えた上での作風のようで驚いた。


    以下、インタビューの内容。

    言葉遣いが過剰だった『ポジティヴシンキングの末裔』とは違う方法で「他人」を感じさせる文章が書きたかった。
    「We are the world」の歌詞が続くのは、登場人物の行動をリアルタイムで描写するため。
    下ネタは誰がやってもあまり変わらなず無個性さがある。また動物的なエネルギーも感じる。自分自身がそういうタイプではないので、書いていて「他人」を感じる。
    文章の技法・技術に重きを置いている。文学はテーマや内容が重視されがちで、文章の書き方を伝えてこなかった。
    小説を書くようになったきっかけは、ネットで個性的な文章を読んできたのと、カフカの文章に出会ったこと。


    木下古栗さんインタビュー | BOOK SHORTS
    https://bookshorts.jp/kinoshitafurukuri

    7. 「困難な山登り」としての執筆。 | 木下古栗
    https://www.1101.com/n/s/furukuri/2021-06-29.html

  • kindleで出ているのを知り、掲載誌で読みました。
    正直木下氏の作品は一応単行本は全て読んでるんですが、ほんとふざけてるなあという印象しかなかったので、『グローバライズ』がここまで計算して書かれているというのは俄かに信じがたい…と思ってしまうのが正直なところ。ただ『グローバライズ』は一皮剥けたな、という印象だったので、やはり作者の中でも何か違った決意があったのかもしれません。果たして『生成不純文学』やいかに。

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著者プロフィール

1981年生まれ。著書に『ポジティヴシンキングの末裔』、『グローバライズ』、『生成不純文学』、『人間界の諸相』など。

「2020年 『サピエンス前戯 長編小説集』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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