人類と気候の10万年史 過去に何が起きたのか、これから何が起こるのか (ブルーバックス) [Kindle]

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  • 若狭湾の一角にある水月湖には,厚さ45m(7万年分)もの年縞がたまっており,これを持って水月湖は地質時代の標準時計になった。著者は,これを分析することにより1年単位の詳細な過去の気象データを復元する研究に取り組んでいる。過去の地球は氷期と間氷期を繰り返し,全球凍結の時台もあれば恐竜の時代のような現在より遙かに温暖な時代もあった。氷期はダイナミックな気候変動を伴う時代であり,数十万年のスケールで見れば氷期が「正常」な状態で,現代のような変動の少ない温暖な時代は例外的な時代なのだ。過去の大規模な温暖化(1万4700年前)では,東京がマニラに変わるほどの激しい温暖化が起き,海の水位が350年で20m上昇した。人間の活動を考えることは勿論重要であるが,そんなことにお構いなく,知見が得られていない理由で気候が突然変動することだって起こる可能性があるのだ。分かりやすい本だった。

  •  名著。昨今、気候についての著作物は「地球温暖化に対する立場」を反映したものばかりである。温暖化説に反対しているわけではないが、もっと学術的なものだけにフォーカスした解説を求めていたところ、本書にたどり着いた。
     研究内容を温暖化に対してニュートラルに解説しながら、気候変動の周期性とその影響について示唆に富んだ自説を披露してくれる。

  • 二酸化炭素排出量の増大による地球温暖化が、世界全体の重要課題として位置付けられるようになって、けっこうな年数が経過しました。
    近年では、取り組む姿勢や具体的な対応状況が、企業さらには国の評価に及んでいると認識しています。
     
    十年、百年単位で見ると気温が大幅に上昇している、ということについては、メディア等で取り上げられているデータを見て理解しています。
    ただし、「さらに長いスパンで見るとどうなんだろう?」という疑問が、以前からありました。
    その問いに答えてくれそうな本が、Audibleにラインアップされていたので、聴いてみることにしました。

    本書は全7章で構成されています。

    第1~2章では、複数の時間軸で、気温がどう変化してきたかが解説されています。
    億年単位、百万年単位で見ると、現代は気温が低いというのは、意外に感じました。
    そして10万年単位で見ると、気温の上下にはリズムがあり、それは地球の公転と関係があること、さらに1万年単位では、現代は氷期が終了した後の温暖期にあたり、これまでの記録から、今の温暖期がいつ終わってもおかしくないことを、学ばせてもらいました。
    また、気温の変化に影響を与える地球の動きはあるものの、気温のように複数の(無限と言える)変数が関係する現象は、予測することはできないのだと理解しました。

    第3~6章は、著者が研究に携わった、福井県の水月湖での発見、およびその研究から分かったことについて。
    恥ずかしながら、水月湖という湖の存在は、本書を読んで初めて知りました。
    有史以前の気温や気候がなぜ分かるのか、不思議に思っていたのですが、その背景には長年の地道な研究があったのですね。
    急激な気温の変化が繰り返し起こっていたこと、その変動幅とスピードは現代の地球温暖化のペースをはるかに超えていたということに、驚きを感じました。

    第7章は、大きな気候の変化に、人類はどう対処するかについて。
    長いスパンで見ると、現生人類は過去の急激な気候変動を乗り越えてきた。
    ただし、農耕時代に入ってからは経験していないこと。
    「いつ起こるかわからない」ということも踏まえると、対策が難しいのは間違いない、と受け取りました。

    全体を通じて、専門的な内容を、データや比喩を交え、一般向けにわかり易く解説しているなと感じました。

    非常に大きな気候の変化が、短期間で起こる。
    その変化は予測ができず、いつそれが発生してもおかしくない。
    ではどう備えるか、備えても無駄なのか、備えなくて良いのか。

    二酸化炭素排出量の抑制のみならず、食料の確保や人口増加の抑制等々含め、さまざまな視点で議論・検討すべき課題だと感じました。
    この件については今後も、関連する書籍を読んで、自分なりに考えていきたいと思います。
    .

  • 福井県の「水月湖」という湖の湖底の地層に一年に一ミリぐらい堆積する地層が特殊な条件のせいで数万年分綺麗に残っている。これを利用して炭素年代測定を「校正」する基準の世界標準を作る、という前半。
    後半はその地層に含まれる植物花粉などから過去の気候変動を読み解く。それによると過去一万年ぐらいは地球気候としては例外的に安定している。それ以前は氷期で、激しく気温変動するカオス的な状態だった。気温が短い期間に10度ぐらい変動したり海水面も大きく動いていた。現在の温暖化とは全然違うレベル。
    過去、このような安定期は一万年も続かなかったので、これがいつ終わるかはわからない。もし終わると人類文明は壊滅的な影響をうける。それは緩やかな温暖化より恐ろしい

  • 福井県の水月湖の湖底の堆積物が過去7万年の気候の記録を正確に示している『スケール』となった経緯や理由を主軸に、そもそも過去の気候はどのような変動をしてきたのか、その原因は何か、といった古気候学の基礎が説明される。
    過去の気候についてザックリと「氷河期と温暖期がくりかえす」くらいの認識しか無かったので、その主な理由や、理由がわかっていてもいつ切り替わるかは計算できないなど、知らない事がたくさんあった。
    後半にある、なぜ人類は温暖期になる1万6千年前まで農耕をしなかったのか、という話は仮説とは書いてあるがとても納得できる説明だと思った。
    人類の進化にとって気候はとても大きな要素だと思うし、温暖化が進行している状況で未来について考える場合にもこの本の内容は重要な知見であると思う。

  •  著者は福井県の水月湖の湖底に沈殿した年縞堆積物の調査などから、過去の地球の気候変動について精密に時期を特定できるようにする研究をしている。本書はその成果とそこから得られた知見を一般向けに解説しているのだが、なかなかショッキングな話だ。

     気候変動は普通、何万年とか何十万年といった非常に長い年月を経て徐々に起こるものと考えられている。今話題になっている地球温暖化にしても、来年どうなるという話ではない。しかし本書で著者は、そうでもないと言っている。ある年を境に突然、スイッチを切り替えたように気候が大きく変わってしまうことが、過去に起きているというのだ。しかも、それがいつ、なぜ起きるのか予測ができない。安定期と激動期の切り替わりは、ちょうど二重振り子のカオスのように計算不能だという。

     また本書で何度も取り上げられているミランコビッチ理論は、地球の自転軸の傾きが約2万3千年サイクルで首振り運動するのと、地球の公転軌道の離心率が約10万年サイクルで上下することで、地表への太陽光の当たり方が変わり、それに伴って気候が変動するというもの。最近の調査でこの理論が実証されつつあるそうだが、同時に最近8000年程度は説明が難しい変動が起きているという。これが人類の活動の影響かどうかはまだ断定できないだろうが、そうであるなら根が深い。

     いずれにせよ、私達が個人的に何かできる話ではない。温暖化対策として二酸化炭素削減に向けた取り組みに協力するといったことは今後も続けるが、そうしていれば破局は必ず避けられるとも限らない。諸行無常を受け入れるしかないのだろう。

  • 気候の歴史。
    人類史以前も含めた地球の気候変動を解き明かす試みや、人類や文化が歩んだ(歩まざるを得なかった)背景について学べる。
    年縞堆積を掘削しその試料を調べるという地道な研究だが、著者は世界に誇る研究者であり、日本からその試料が掘削されたことにより、この領域に深く貢献していることが知れて面白かった。

    とても読みやすく分かりやすく、面白い本。
    同時に、今や未来の気候変動についても憂慮してしまう内容であった。

  • 過去の気候はどのように研究するのだろう、というのが気になり購読。

    年代測定代表の炭素法は誤差が大きく、1年単位で過去の事象を研究するには不向きだという。
    そこで1年に1層ずつ形成される湖底堆積物が高解像度での研究に適していると仮説を立て、数万層から成る堆積物を1枚ずつ精査し、花粉から植生を推定していくことで過去の気候が解明されてきた、というのは非常に印象に残った。

  • ブルーバックスは久しぶり。
    すごく読みやすくて面白い。実証的だし。いい本だな。

  • コテンラジオを聞いてからか、ある観点を軸に歴史を振り返るのがとても好きになった。
    今回は気候についての歴史。それも人類が生まれる前からの。

    氷河期と間氷期が繰り返されている、というのは知識として知っていたけど、過去がどうでこれからどうなるか、という視点でちゃんと考えたことがなかった。そして、この本を聴いて(Audibleで聴きました)、温暖な今の気候がいつまでも続かない、ということをしっかり教えてもらった。もし、氷河期に入ったら、人類はほぼ経験したことがない領域に投入するかもしれない

    気候と農耕の話が出てきて、寒い氷河期時代は狩猟採集が主で、温暖な気候に変わってから農耕が各地で始まった、という説はとても興味深かった。
    農をやってると、不作は異常気象のせいにしがちだけど、そもそもが異常気象を前提とした農のあり方を考えた方が良いのかもしれない。

    農にも多様性を。それも人間の想像を超えた適当な多様性を。

    今の収量最大化を目指すのではなく、異常気象が起きても耐えられる多様な農業を目指したいと思った。ヒントは縄文か!?

    なんか、絶対王政(啓蒙君主)より民主主義の方が良い、という論理に似てる気もする

    非効率でも良い。皆の幸福を願おう

    あと、気候変動研究の並々ならぬ努力に感謝したいのと、筆者が気候変動から見た世界のあり方の研究に対して、末席にでも名前が残るようにがんばる、と言っていたのが印象に残った。
    私も農を取り入れた良き社会作りの末席に名前が残るように頑張る!!

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著者プロフィール

1968年、東京都生まれ。1992年、京都大学理学部卒業。1998年、エクス・マルセイユ第三大学(フランス)博士課程修了。Docteur en Sciences(理学博士)。国際日本文化研究センター助手、ニューカッスル大学(英国)教授などを経て、現在は立命館大学古気候学研究センター長。専攻は古気候学、地質年代学。趣味はオリジナル実験機器の発明。主に年縞堆積物の花粉分析を通して、過去の気候変動の「タイミング」と「スピード」を解明することをめざしている。

「2017年 『人類と気候の10万年史 過去に何が起きたのか、これから何が起こるのか』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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