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- / ISBN・EAN: 4988013288393
感想・レビュー・書評
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これほど展開がないのに、これほどしみじみと美しい余韻を残す不思議な群像劇にはそうそうお目にかかれないかもしれません。
舞台は郊外の寂れた古い団地。主人公は三組の男女。
団地に引っ越してきた落ち目の中年女優と、母親が常に不在の男子高校生。
ある事情から夜中にしか外に出られない車椅子の中年男性と、夜勤の物憂げな中年女性看護士。
団地に不時着したNASAのアメリカ人宇宙飛行士男性と、服役中の息子を持つイスラム系移民の老齢女性。
束の間の儚い触れ合いを、繊細かつ巧みな演出を駆使して情感豊かに描き出しています。
六人がそれぞれに抱える孤独を象徴するかの様な、閉塞感を感じさせる真四角に近い4:3比率の小さな画面と、褪せた色彩。
極端なほど少ない音楽と、それに反してとてもよく響く様々な生活の音。
足音、エレベーターの音、扉の鍵を開ける音、風の音、カメラのシャッター音、食べ物をかじった時の音…。
同じ団地内にいるはずなのに、三組の世界は決して交わらない。
時間の流れ方も同一ではなく、あくまでもそれぞれに独立・完結した物語として描かれていく。
どの関係も、空気感だけはどことなく緊張感をはらんでいて、とても濃密なのに、とりたてるような劇的な展開はしない…。
それでも確かに、六人は同じ空の下にいて…。
決して悪い意味ではなく、このようなとりとめなく、シンボリックな作品を撮りきって、ちゃんと魅力的なものにした監督さんの手腕がすごいと大感心した映画でした。俳優さんたちの抑えた演技もとても良かったです。
孤独って、本当に多様で、そして、根が深いものだけど、日々のささやかな出来事で彩りと慰めを添えながら付き合っていくものなのかなと、最後にはしんみり…。
好みは分かれそうですが、展開ではなく空気感で映画を楽しめる方にはオススメしてみたい映画です。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
何だか心が穏やかになる映画。
淡々とストーリーが進んでいく。
コミュニケーションがテーマなのかな。
イザベル・ユペールの若い頃は超アンニュイでザ・フランス女優って感じ。『エル』も楽しみ。 -
ある団地に住む人達の日常の1部を かなり変わった視点で捉えている。古ぼけたあのアパートから あんなドラマが生まれてくるとは…三人三様 可笑しく悲しいけど…優しい気持ちになれる映画だった。淡々とした映像の中に 人間の中にある自然な宇宙を導き出してるよう
結構 いい映画だったと思う。 -
フランスの映画らしい、シニカルなユーモア、といったところ?
郊外の低所得者向け住宅にはやはりアラブ系の存在があり、そして、それはモロッコでもなくシリアでもなく、やはりアルジェリア系であって、そしてアラブ系のヒトに対してはアメリカ人のステレオタイプな反応もあって、というあたりが個人的にピンときたところ。 -
団地というと日本のものだと思ってたけどフランスにもあったのか!
と最初のシーンはふんふんと思っていたのだが、そんなことどうでもよくて少しずつ少しずつ気付いたら、この映画の世界に惹き込まれていった。
わりとフランス映画は好きで漏れなくこの映画も好きだった。
そしてこの映画の中に、映画「マディソン郡の橋」のワンシーンが出てくるのも、なんか良かった。
この映画に出てくる6人の男女が皆愛しかった。
普段から孤独な気持ちをなんとなく感じてる人は好きだと思う。
どこにいても違う場所に帰りたくなる人は好きだと思う。
自分みたいだった。なんとなく。 -
大きな展開があるわけではないが、人と出会うことで自分の中で何かが変わる、ささやかな心の解放と旅立ちのお話。
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ASPHALTE
2015年 フランス 100分
監督:サミュエル・ベンシェトリ
出演:イザベル・ユペール/ジュール・ベンシェトリ/ギュスタヴ・ケルヴァン/ヴァレリア・ブルーニ・テデスキ/マイケル・ピット/タサディット・マンディ
http://www.asphalte-film.com/
舞台はフランス郊外のおんぼろ団地。エレベーターの壊れがちなこの団地に住む3組の住人たちのオムニバス的群像劇。まずは偏屈で吝嗇な中年男がある理由で車椅子生活を送ることになり(一時的なものだし理由がたいへんマヌケなので遠慮なく笑いましょう)他の住民にバレないように深夜に徘徊するうちに、わけありっぽい夜勤の看護婦と出逢い自分はカメラマンだと嘘をつく。
二組目は越してきたばかりの落ちぶれた中年女優(イザベル・ユペール)と、同じ階に住む生意気な高校生くらいの男の子。母親がいるらしいけど一切姿は見せず一種の放置子。この男の子役の俳優、実は監督の息子だそうで、なかなかのイケメンでした。母親はマリー・トランティニャン、つまり祖父がジャン=ルイ・トランティニャンという一種のサラブレッド。将来有望。
三組目は息子が服役しているアルジェリア移民の初老の女性と、手違いで団地の屋上に不時着してしまったNASAの宇宙飛行士。この組み合わせが個人的には一番面白かった。英語の通じないお婆さんと、フランス語はわからない宇宙飛行士がとんちんかんな遣り取りを繰り広げるのだけど、そのうちだんだん断片的な単語や身振り手振り、図解などで意思疎通できるようになっていく経過が微笑ましい。
突拍子もないファンタジー設定なのだけど見ず知らずの他人が出逢って「交流」する三組共通のモチーフの中で、彼らの不器用なコミュニケーションが一番心温まりました。で、宇宙飛行士役、どっかで見たけど誰だっけ?とずっと思いだせず、エンドロールでやっと「マイケル・ピットだったのか!」と(笑)若い頃のディカプリオ似の線の細い美少年だった頃のイメージしかなかったので、なんか若干マッチョになっていて全く気付きませんでした。
それぞれ、最後にちょっとした成長やカタルシスがあり、なんか良かったね、と言ってあげたくなる感じ。ドラマチックな盛り上がりなどはないですが、とても後味が良くて悪くなかったです。