- 新潮社 (2007年7月1日発売)
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感想・レビュー・書評
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多感でありながら、無口な小学五年生の宇佐子。
公園でトランペットを吹くお兄さん(有木くん)や、転校してきたミキちゃんの影響で、花の木ウィンドオーケストラ改めピンクバナナの練習に行くようになる。
ブラバン小説なのだが、主人公の宇佐子は最後までバンドと一緒に演奏することはない。舞台にも立たない。
道路を渡るのにも、大人が通りかかるのを待って一緒にわたってもらう子どもの生活から、次第に自分の世界をもちはじめるころの感覚や気持ちがつぶさに書かれていた。
例えば、夏休みに入る終業式の午後の広々とした空気。
すっかり忘れていたけれど、はっとする。
そんな感覚はたしかにあったから。
それから、ミキちゃんをめぐってきしんでいくクラスの雰囲気。
お母さんを亡くし、お墓をどうするかで親族が争う中にいるミキちゃん。
早く大人にならざるを得なくなった子どものもつ孤独、異質さを、他の子どもたちは感じ、排除しようとする。
息がつまるような空気を、繊細に描いている。
この小説は、実は不協和が主題なのではないかと思えてくる。
人間関係では、ミキちゃんをめぐる関係だけでなく、宇佐子とお母さんの冷たい戦争も描かれる。
自分の世界を持ち始めた宇佐子と、それを危ぶむお母さんの間で、沈黙の戦争が激しくなっていく。
ピンクバナナにも、不協和がある。
こちらは、音楽の不協和。
まだできたばかりで、メンバーの力量もまちまちであるために、うまくいかない。
コンクールでも、最初はうまくいっていたのに、ちょっとしたことでパートとパートが掛け違い、大崩壊に至る。
ただ、面白いのは、メンバーの川島が崩壊する面白さを認めているところ。
生真面目な有木に否定されてしまうのだが、冒険して実力以上の曲にチャレンジして崩壊していくのは面白いことだ、という川島のことばは、この物語に必要なもののような気がする。
不調和といえば、宇佐子のクラスメイトの銀河君とエリカちゃんが、ミキちゃんにひどい内容の替え歌を歌うシーンも印象的だった。
宇佐子の耳には、ミキちゃんを傷つける耐え難い歌詞なのだが、音楽としてこの上なく美しく響く。
こんな風に、この小説は矛盾する要素が、矛盾したままに次々と出てくる。
簡単な解決には至らない。
読んで、すっきり晴れやかになりたい人には向かないかもしれない。詳細をみるコメント0件をすべて表示
著者プロフィール
中沢けいの作品
