貘の耳たぶ (幻冬舎単行本) [Kindle]

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  • 幻冬舎
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  • 泣いた。
    泣いて泣いて、声が漏れるほどだった。

    同じ産院で同日に男の子を出産した繭子と郁絵。保育士として働いており何十時間もかけて自然分娩で出産した郁絵と比較し、帝王切開で出産したことに罪悪感を抱きこれからの子育てに自信が持てずに恐怖心にも似た絶望感をもつ繭子。
    産後の不安定な情緒も手伝い、また新生児の足首につけられたネームタグが外れているのを目の当たりにする偶然も重なり、繭子は我が子と郁絵の子を取り替えてしまう。

    その後、血の繋がりはないものの我が子同然に(郁絵はそもそも血の繋がりも疑っていないのだけど)愛情深く育てられた2人の子。

    しかし幼子たちが4歳になった頃、ひょんなことから郁絵は夫の哲平から浮気を疑われ、子 璃空との親子関係を確かめるべくDNA鑑定を行う。その結果、哲平のみならず母である郁絵とも血の繋がりがないことが判明し、産院を巻き込んで真相究明に乗り出すのだ。当然、同日に出産した繭子夫婦にも連絡が行き、お互いの子どもが入れ替わった事実が明るみに出る。

    原因は定かではないものの産院側のミスとして手厚い補償を受けることを前提に、お互いの子を今のうちに、物心が完全についてしまう前に交換した方が良いということで話し合いに決着がつき、それぞれに生活環境の見直しや心境の変化を行いながら交流を続けていく。

    いよいよ交換日が目前に迫った頃、補償内容の説明で関係者が集められた際、繭子は堪らずに自らの意思で子を入れ替えた過去を告白することになる。当然、騒然とする一同。
    郁絵も動揺して、繭子をなじる。
    繭子夫婦は離婚し、璃空はこれまでどおり、そして航太も郁絵夫婦が引き取り、家族4人の生活を選択する。


    何度も何度も心が引き裂かれそうになる。
    保育園にも通ったことがない航太が、実の両親である郁絵たちの家に初めて泊まることになった日に繭子を恋しがり泣きじゃくる場面。
    同様に繭子夫婦宅に泊まったが、気丈に振る舞っていた璃空が翌日待ち合わせ場所で郁絵を見つけた瞬間に表情を崩して、涙でくしゃくしゃになりながら駆け寄ってくる場面。
    交換するしかないとる決めた夜、夫婦で「何でこんなことになったんだろう」と途方に暮れ、泣きながら抱きしめ合う場面。

    繭子の罪が露呈して航太を引き取ることになった日、航太が繭子夫婦に抱かれながら、帰っていく父親の元に必死に戻ろうとする場面。

    「悪い夢を食べてくれる」と最後に母である繭子からもらった漠のぬいぐるみをゴミ箱に捨てて、郁絵に、「ねえ、ママに、つたえて」「ぼく、だいじょうぶじゃないよ」と渾身の訴えで大泣きする航太ー。

    最後は少しずつ、4人でホンモノの家族になろうと心を整えていく希望が描かれているが、
    いやいや、こちらの気持ちがまだ整いません!

    もしも、もしも、
    同じような取り替え事件が自分たち家族に降りかかった時、
    作中の子たちよりも幼い我が子を、血の繋がりだけを理由に交換しようとするんだろうか。
    本当かどうか分からないが、このような事件当事者たちはほぼ、交換して血の繋がりを持つ子の方を今後育てていく道を選ぶのだそう。

    理由は様々らしいが、
    「将来何かあった時(非行に走るとか)、血の繋がりの有無で気の持ちようが違う」
    「子どもにも本当の両親を知る権利があり、記憶が定着しないうちに本当の両親の元に戻るのが子供のため」
    とかがその一例らしい。

    頭では理解できるけど、でもやっぱり問いたい。
    「血の繋がり」が「本当の親」の必要条件なん?

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著者プロフィール

1984年東京都生まれ。千葉大学文学部卒業。出版社勤務を経て、2012年『罪の余白』で、第3回「野性時代フロンティア文学賞」を受賞し、デビュー。16年刊行の『許されようとは思いません』が、「吉川英治文学新人賞」候補作に選出。18年『火のないところに煙は』で、「静岡書店大賞」を受賞、第16回「本屋大賞」にノミネートされる。20年刊行の『汚れた手をそこで拭かない』が、第164回「直木賞」、第42回「吉川英治文学新人賞」候補に選出された。その他著書に、『悪いものが、来ませんように』『今だけのあの子』『いつかの人質』『貘の耳たぶ』『僕の神さま』等がある。

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