忘れられた日本人 (岩波文庫) [Kindle]

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  • 日本全国の地方の「生きた生活」をフィールドワークした著者が、いくつかの領域(農民、漁民、馬喰など)における江戸時代から明治時代にかけて生きていた日本人たちの生きざまを克明に紹介するとともに、その背景についても若干考察した民俗学の古典。

  • 民俗学ってこういうことか。民俗学=柳田国男みたいなフレーズだけ中学生のときに覚えたけど、この本に出会うまで民俗学の意義や中身を全く理解できていなかったんだな。
    誰かが地道に訪れて聞き取って書き残さないと、ここに記されているような文化や慣習は簡単に忘れ去られてしまうのだろう。著者の地道な研究には頭が下がる。公式な歴史からは人の息づかいを感じることはできない。語り部による生きた物語を伝承することの大切さと難しさを感じた。

  • 内容は「各地方の古老との世間話」集で、「偉人の出世話」と対局をなすもの。
    私のこれからの人生に有益な情報はもらえないが、昔の田舎の日本人はこうゆう生活をしていたのか~と感心する内容。

    「土佐寺川夜話」のらい病の話が、映画の「砂の器」を思い出して興味深かった。ほんとに映画みたいなことがあったのだ。知らない隠語(放送禁止用語?)が多数出てくる。人種差別が公然のことなのだ。

    「名倉談義」の山窩の話も、映画の「瀬降り物語」を思い出して興味深かった。これもほんとにあったことなんだな~と実感した。映画のロケは四国だったが、これは愛知県。

    「女の世間」の、モンペ(ズボン)はいて田植えをしてはいけない、女性の陰部を田んぼの神様に見せながら田植えは行うと、豊作になる?話は面白かった。田植え時などの女たちのエロばなしは、女たちが幸福であることを意味しているらしい。

    この本を読んだ理由
    「巻頭随筆 百年の百選」という本の「司馬遼太郎」の随筆で、日本人は神代の時代から、思想は高価な舶来品という位置づけで、日本で使えそうな商品だけを選んで使ってきた、という話があった。
    この司馬さんの話は、河合さんの「日本人の中空構造」の歴史的な根拠を示しているではないか!!と私はびっくりした。
    調べているうちに、司馬さんの考えは民俗学者である「宮本常一」 に影響されているという。
    「忘れられた日本人」を読んで、直接に中空構造の話にはもっていけないが、そのつもりで読むと、日本の底辺にいる人々の生活では、村の共同体の中の人間関係だけで必要にして十分で、わざわざ思想なんて必要ないんじゃないか、と思えてくる。

    「忘れられた日本人」はwikipediaに解説があります。

  • 明治大正昭和戦前あたりの日本人の暮らし、価値観などを描く。のんびりでおおらかでいい加減な日本人の姿が見えてくる。通り一遍の能力主義とは異なる価値観。男女関係もかなりおおらかな風俗。

    旅人を泊める、話やら芸がお返しになる。村の大事は皆の任意参加で決まるまで話す。早く決めようとしない。納得するまで話し合う。

    ムラで失敗しても、他のムラで生きていける。家庭を持っても出稼ぎ中に別の家庭を持ってしまう。

    村の掟を守って暮らせなかった、転々とした盲目の乞食夫妻の昔話などは、まさに事実は小説より奇なり。

    そんなこまったさんだが憎めない、一人一人が個性的な世俗。資本主義や画一的な教育制度が染み渡る前の日本。それらによって得たものは多い。一方で、失ったものもある。それが 「忘れられた日本人」 。まだまだ色んな話があったろうに、失われてしまった。この作者が僅かでも拾い集めてくれたことに感謝。

  • 刹那的でドラマティックで、非論理的な人生の数々。ほんの少し昔の日本が、これほど今の自分の人生と違うなら、近年の劇的な社会の変化も些細なものなのかもしれない。

  • その土地々々の人々の暮らしがとてもリアルに纏められている。小説にも読んだことのない土着の文化。性に関する開放的なことに驚きましたが、面白く読みました。

  • 意外と読みやすい文章で昔の日本各地の寄り合いの様子やら伝わっている民話などを記録してあった

  • 中の一篇「土佐源氏」が圧倒的にいい。並の短編小説など比べ物にならない。
    橋の下に住む乞食の語りという形式であるが、「チャタレー夫人の恋人」と「富島松五郎伝」を一つにしたようなドラマが掌編の中に淡々と、しかしドラマチックに書かれている。江戸から続く明治の一断面とそこに生きた人間が活写されている名品。
    柳沢白蓮と伊藤伝右衛門との関係・時代背景にも似ている。

  • この本は「宮本民族学の代表作」ということで、
    「昔の日本人」の生活を、ある程度ではあるが、
    知ったように思う。

  • 戦争は女の顔をしていないを少し前に読んだ前なのでそう思ったのか、これも一つの小さな物語のひとつなのではと思いました。
    今目の前に生きている人が、どのような村で、どのような生き方をしてきて、目の前の人になっていったのかを見る。歴史上の大きな物語じゃない人レベルでの営みを聞くのはとても興味深い。
    特に前半が面白かったです。

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著者プロフィール

1907年(明治40)~1981年(昭和56)。山口県周防大島に生まれる。柳田國男の「旅と伝説」を手にしたことがきっかけとなり、柳田國男、澁澤敬三という生涯の師に出会い、民俗学者への道を歩み始める。1939年(昭和14)、澁澤の主宰するアチック・ミューゼアムの所員となり、五七歳で武蔵野美術大学に奉職するまで、在野の民俗学者として日本の津々浦々を歩き、離島や地方の農山漁村の生活を記録に残すと共に村々の生活向上に尽力した。1953年(昭和28)、全国離島振興協議会結成とともに無給事務局長に就任して以降、1981年1月に73歳で没するまで、全国の離島振興運動の指導者として運動の先頭に立ちつづけた。また、1966年(昭和41)に日本観光文化研究所を設立、後進の育成にも努めた。「忘れられた日本人」(岩波文庫)、「宮本常一著作集」(未來社)、「宮本常一離島論集」(みずのわ出版)他、多数の著作を遺した。宮本の遺品、著作・蔵書、写真類は遺族から山口県東和町(現周防大島町)に寄贈され、宮本常一記念館(周防大島文化交流センター)が所蔵している。

「2022年 『ふるさとを憶う 宮本常一ふるさと選書』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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