服従 (河出文庫) [Kindle]

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感想・レビュー・書評

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  • 今までの日常があること(ここでは政権交代)をきっかけに大きく変わってしまった時の反応を描いている。ディストピア度は低いがリアリティがある。

    フランス文学の知識があると面白い。主人公の専門のユイスマンスと作品との関係が見出せるともっとよかった。

    2022年追記
    本書で描かれる2022年のフランス大統領選を機に再読した。最初読んだときは駆け出しのフランス文学専攻の学生だったが、長い月日を経てフランス政治や世界情勢の知識を身に着けた上で再読するとまた違った印象を受ける。

    2022年の世界は本作が示す通り伝統政党が崩れ、極右政党の力はますます強くなった。しかし、第3勢力からはベン=アッベスではなくマクロンが登場し、フランス社会はこの小説ほど大きく変化していない。本書は刊行当時かなりの人気を博していたが、それは2010年代がアイデンティティ・人種が政治において、それなりに重要な地位を占める特異な時代だったからなのかもしれない。

    表現の面に着目すると、性描写が作品のかなりの割合を占めているところが気になってしまった。大学生の自分がこの部分を全く気にせずに読んでいたことも驚きだが、やはり年齢を重ねるにつれて、このような表現が徐々に苦手になってしまったのだろうか(年を取った...)


  • ウェルベック、凄いなあ。あくまでもフィクションであり小説であるとしっかり意識して適切な距離を保って読まないと現実と混同しそうな危険さ。それだけ巧い。ウェルベックの頭の中では複数の人がブレインストーミングをしてるんじゃないかと思う。読む価値あり。

  • 『セロトニン』を読み終わって、『服従』を半分まで読んだが、気分が悪くなってきて「もっと別の本に時間を割こう」と思った。
    元大学教授の女性が、かつてはおしゃべりで、主人公から「両生類」と描写されていたが、途中から、料理の才能だけ褒められてセリフすらない辺りで、もう続けるのは無理だった。
    この世に本はたくさんあるんだし、無理して読むべき本でもない。
    「ポトフ女」と「(寝るための)若い女」でみんなが救われる世界がどうか来ませんように。

  • 博士号取った教養高い超インテリで高尚なこと言いつつも、「よくわかるイスラム教入門書」の一夫多妻制の項目すぐ見ちゃうとか、妻にする女の人を選べるのかと聞いちゃうとか、所詮めっちゃ世俗の人間だなぁという感じ。まあそれも滑稽であるけど。

  • 結構エッチな描写が各所にあっていかにもフランスものって印象なのだが、通勤2往復で読めるくらいのお話だ。宗教観に乏しい日本人の一人として、わからない気分というのもあるのだが、パリでイスラムを標榜する者たちによるテロがおこったばかり、イスラム政権の誕生もあながち架空のものとは感じられないというのが、フランスの気分なのだろう。
    解説の佐藤優が言うように、「知識や教養がいかに脆いものであるか、対するイスラムの想定する超越神は強い」のかもしれない。ただ一夫多妻の理論は、男の理屈で、世の半分の女たちが納得するとは思えず、うちのヨメは猛反発だろうな。オレも富の極端な偏在こそが、人としての社会だというのは、なんだかなあである。30年先のヨーロッパはどうなっていることやら。

    ・人間の絶対的な幸福が服従にあるということは、それ以前にこれだけの力を持って表明されたことがなかった。それがすべてを反転させる思想なのです。
    ・イスラム教徒の真の敵、彼らが何より恐れ憎んでいるのはカトリックではなく、世俗主義、政教分離、無神論者たちの物質主義です
    ・裕福なサウジ女性はまったく中を見ることのできない黒いブルカに日中は身を包み、夜になると極楽鳥に姿を変え、ガーター付ビスチェ、透かし模様のブラジャー、華やかな色のレースと宝石に彩られたストリングスを身につけるのだ。西欧の女性は、それとは逆で、日中は社会的ステイタスが掛かっているから上品かつセクシーに装い、夜、家に帰ればぐったりと疲れ切って、魅力を振りまこうなんて考えを放棄し、だらだらとリラックスした服に着替えるのだ
    ・フランス軍は33万人を雇っています、毎年の雇用人数は約2万人です。ほぼ15年でフランス軍スタッフの全体が総入れ替えということになります。もし若い活動家が大量に軍隊に志願するならば、彼らは比較的短期間で、軍を思想的にコントロールするようになるでしょう

  • 新鮮

  • 2023年、フランスでイスラーム政権が成立する。政治や経済にとどまらず、教育や芸術、食も瞬く間にイスラームに完全に塗り替えられることになる。
    主人公のフランソワは、政治や宗教とは距離をとってきた一般的なキリスト教徒の大学教員だが、人生半ばにさしかかり、妻や本当の意味での友人なく、自らの知的活動以外に特に守るべきものはない。社会が劇的に変化していく中、恋人は海外へ逃れ、大学教員の職も失い、生きる意味を喪失するも自殺するほどの動機もない。キリスト教に固執する情熱もなく、友人の勧めのままイスラームも悪くはないと思えるようになり、自らもムスリムへの改宗を果たす。
    インテリ層でも社会の大きな流れに楯突くことは難しく、また楯突こうともせず、大きな流れに飲み込まれていく。社会の圧倒的な潮流の前では、個人の教養や知識といったものはあまりにも無力である。

  • オランドのあとが、マクロンではなく、2022年、ムスリムのモアメド・ベン・アッベスがフランス大統領になった設定で、ユイスマンス研究者の大学教授を主人公に書かれた物語。変化とは、急激にではなく、気がつくと起こっていて、手もなくからめとられてしまう、そんな読後感。解説の佐藤優は、知識や教養はもろく、人間が自己同一性を保つのに無力だ、とソ連崩壊時の知識人を例にひくが、おそらく日本の1945年の敗戦時も同様だったのだろう。では何をもって人が人の自己同一性を保つのか、また時代が変わったとしても保ち続けることは是か、時代のせいにしてしまうのは個人のよって立つところを否定し…ととめどもなく思いがころがっていく。そしてタイトルの含意が語られる時に、O嬢の物語が出てくるとはおもわなかった。/「過去は常に美しく、未来も同様なのだ。ただ現在だけが人を傷つけ、過去と未来、平和に満ちた幸福の無限の二つの時間に挟まれて、苦悩の腫れ物のように常に自分につきまとい、ぼくたちはそれと共に歩くのだった」(p.280)

  • 「これぞ炎上商法」という感じの本ではありますが、作品の出来自体はなかなか良く、普通に考えれば非現実的な内容でありながらその可能性を否定し切れないリアリティさを持った、良くも悪くも刺激的な本ではありました^^;。何となく働く独身女性の方は楽しい気持ちでこの本を読めないような気もしますが、政治に対する無関心さに対する警鐘という意味ではそれなりに価値のある本なのかなとも思いました☆…まあ、そこまで真剣になって読むような本では無いですが^^;。

    ちなみに、「日中は社会的ステイタスのため上品かつセクシーに装っていた嫁が、夜家に帰ってだらだらとリラックスした服に着替える」というシチュエーション、とりあえず僕はむしろ嬉しいかも♪完全にオシャレを放棄するのはどうかと思いますが、毎日常に完璧な女性で居る事よりも、ON/OFFの切り替えやそのギャップにこそ男は萌えると思いますし、それだけ安心しきってもらえる事って大多数の男は嬉しいと思うな~♪

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著者プロフィール

1958年フランス生まれ。ヨーロッパを代表する作家。98年『素粒子』がベストセラー。2010年『地図と領土』でゴンクール賞。15年には『服従』が世界中で大きな話題を呼んだ。他に『ある島の可能性』など。

「2023年 『滅ぼす 下』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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