まるまるの毬 (講談社文庫) [Kindle]

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  • 麹町のお菓子屋・南星屋は、庶民相手の小さな店だが、行列ができてあっという間に売り切れてしまう人気店。店主・治兵衛は、修行しながら全国を旅し、各地の名菓の味を憶えた菓子職人で、各地の名菓を日替わりで2品ずつ作っている(この治兵衛、元は旗本の次男坊で実は将軍の御落胤)。治兵衛には出戻り娘のお永と孫のお君がおり、3人で店を切り盛りしている。実弟の石海(四ツ谷相典寺の住職)が時々菓子を食べに訪ねてくる。この4人を中心に、南星屋の日々の営みが生き生きと描かれていく。

    連作短編形式(「カスドース」「若みどり」「まるまるの毬」「大鶉」「梅枝」「松の風」「南天月」)。各章には、季節感のある魅力的な和菓子の数々も登場すし、彩りを添える。

    家族愛、職人魂、魅力的な和菓子、そして江戸の武家事情等々が盛り込まれた、魅力ある作品だった。引き込まれた。

  • 南星屋で起こる難解な事件。お菓子を通して綴られていく。温かい家族愛に満ち溢れていて良かった。
    甘いものは得意でないけど食べてみたくなった。

  • 徳川の世で、小さな和菓子屋南星屋を営む主人公治兵衛とその娘お永、孫のお君のお話。
    若い頃、和菓子作りのため、放浪しながら修行をしてきた治兵衛は、庶民にも買うことができるよう諸国の名物に工夫をこらし、手頃で美味しいお菓子をこしらえながら、家族三人慎ましくも楽しい日々を送っていた。

    ところが、南星屋で大人気だった印籠カステラが、肥前平戸藩門外不出のお留め菓子カスドースと瓜二つと言うことで、作り方を何処かから漏れ聞いたのではと平戸藩松浦家から疑われてしまう。
    その場は、弟である高僧の石海が口添えをしたことで何とか切り抜けられたものの、身の潔白を証明するには、印籠カステラがカスドースとは違う作り方のものであると納得させなければならない。
    しかし実は、治兵衛の印籠カステラは平戸藩のカスドースの味を再現させたものだった。
    町民にすぎない治兵衛がなぜ行ったこともない平戸のカスドースの味を知っていたのか、ここには娘にも孫にも言えない治兵衛の秘密が関係していた。そして、治兵衛はこの窮地をどのようにして切り抜けるのか。

    季節ごとに出てくる美味しそうな和菓子。
    穏やかな治兵衛にしっかり者のお永、看板娘のお君と、わんぱく坊主が大人になったような石海の、楽しくも優しいやり取り。
    ほのぼのした流れの中、のんびり読んでいると、降ってわいたように災難が降りかかり、一つ解決するとまた一つ、新たな問題が起きてくる。
    話が進むごとに、平穏に幸せに暮らしているように見える中にも悩みがあるとわかり、治兵衛の秘密も家族に大きな影を落としていく。

    その時代やら因果やら、自分ではどうにもならないことが立ちはだかり、それでも治兵衛親子が幸せになってほしいと、読んでいるこちらも憤ったり涙したり。シリーズものなので続きも楽しみ。

  • Kindle Unlimitedで読了。
    親子三代で営む小さな菓子屋「南星屋」の家族の心温まるストーリー。ほっこりしました。
    真摯に作る美味しいお菓子と良心的な値段で商いをするその心意気。貧しい人たちも口にできるように、と薄い儲けで南星屋は商売をしています。
    幸せになってもらいたいと祈りたくなるくらいの優しくて素敵な家族の物語です。

  •  江戸時代の家族の情緒と深い愛情に満ちた作品。麹町の小さな菓子屋の南星屋。行列ができる菓子屋で売り切れ御免の評判の菓子屋。菓子職人の治兵衛は62歳。娘のお永は、出戻り。夫の不貞に怒り離縁した。そして、その娘の16歳のお君。テキパキとこなす、愛嬌のいい看板娘。治兵衛には、人には言えぬ秘密があった。そして、お永も悩みを抱えていた。お君にも、500石の武士の河路金吾とからの求愛があった。それぞれの人生を生きている家族。その絆は、愛情に満ち溢れている。
     久しぶりに、いい家族の物語を味わった。
     菓子には、名前がある。カスドース、わかみどり、まるまるの毬(いが)、梅枝、松の風、南天月と。和菓子の持つ魅力を放つ。南星屋の菓子は、その日の限定で二から三品、季節ごと、仕入れ具合や天気で毎日のように変わるおまかせの菓子屋。治兵衛は日本の各地を巡って、名菓を味わってきた経験を思い出し、再現する。そして、最後の自分のオリジナリティの南天月を作る。和菓子の世界も奥行きがある。月見団子のいわれ、ザボンを使ったお菓子など興味を惹く。
     カスドースは、カステラのこと。平戸藩の秘伝の菓子。カスドースは、秘伝の菓子の技術を盗んだと言って、店の禁止を命じられる。平戸藩の菓子とは、レシピが違うといって治兵衛は申立する。その当時はタマゴも砂糖も高く、治兵衛は、タマゴは豆腐、砂糖は干し柿を使って作っていた。そこから、平戸藩の武士である河路金吾との縁談に発展していくのであるが、治兵衛の出自が江戸幕府は、二人の縁談を取りやめさせるのだった。平穏な江戸時代、武士は何をすべきなのか?手に職がある方がいい富樫職人になろうとする下級武士の息子。その息子は妹思いであり、父親思いだったのだ。治兵衛は、武士の身分を捨てて、菓子職人になった自分の人生を振り返る。家族三人が、自分の生き方を見つめ生きている姿が清々しい。忘れていた家族のあったか味がなんとも言えず、いい味を出している。

  • 親子三代でやってる 「南星屋」という
    手作りのお菓子やさんの お話です。
    和菓子なんだけど 駄菓子っぽいのも作ったりする
    元お武家さんの おじい様と ばついちの 娘さんと 元気はつらつの お孫さんらが 繰り広げる 時代小説です。

    え~~そんなぁ~~~って 
    後半思っちゃいましたけど
    でも、もし 自分の身内が 遠くに行っちゃうのは 寂しい事だから
    こういう結果になって 良かったようにも思えましたね。
    まぁ 初恋は 淡いままが いいのかも~~~

    ほっこりの 本でした。

  • 親子3代で営む江戸の菓子屋さんが舞台。家族の絆や人情が詰まったお話しにホッコリします。人間関係のギスギスに疲れた私の気持ちを癒してくれた一冊^^

  • 親子孫三代で仲良く営む菓子屋『南星屋』で起こる事件を綴った短編集。
    読みやすい文体に、人情味溢れる登場人物たち。朝ドラにしたら人気が出そうな心温まるお話が収録されている。

    なのに★2という評価は、単純に自分には合わなかっただけである。
    話としては平凡なので、事件が起きた段階で先が読めてつまらない。先が読めてもページを繰りたくなるような魅力もない。また毎回その事件にからめて菓子を作るのだがその菓子がなくても解決できる問題もあり、こじつけ感が拭えない。

    ほっこりとしたお話を好む方にはお薦めできる。

  • 2023.08.15.聴了

  • お君の気持ちを思うととても辛い。最後はなんとか希望をもたせているものの、それ以上に辛かった。
    お菓子の力は人を動かすこともある。
    徳川家斉は正室、側室もろもろ16人いて、子どもは50人以上ということが事実であるにも驚いた。
    木から折りない弟を下ろそうと菓子を拵える様子、高すぎて降りられなくなる様子が印象的。

  • いろんなことが家族3人を巻き込んで起こるけど、家族の力とお菓子の力でハッピーエンドにつながる。美味しいお菓子を家族と一緒に食べたくなる小説。ほっとしたい時に。

  • 面白かったな〜人物描写が丁寧で、時代描写が時代小説初心者でも読みやすく、受け付ける量だったのも良かった。主人公の和菓子屋の商い方は今日でも受けるはず。

  • (kindle unlimited利用)
    人情物時代小説。小道具の菓子もなかなか美味しそう。岩井志麻子の後なのでちょっとほっとできた(とはいえ物語の中ではいろいろあるが)。直木賞作家ということでそれほど面倒くさくなさそうだし割と面白いので、この続編を含め何冊か読んでみようと思う。

  • 江戸の麹町六丁目にある親子三代で菓子屋「南星屋」を営む職人の治兵衛。
    治兵衛には他人に言えない秘密があった。
    親子三代で菓子屋を舞台にしながら心の温かさを描いた時代小説。
    今回も短編連載小説となっているので読みやすかったです。

    南星屋シリーズは「亥子ほろほろ」を読んでから
    この作品を読みました。
    「亥子ほろほど」では治兵衛の生い立ちや武家を捨ててまで
    和菓子屋職人となったいきさつ、出戻り娘のお永のこと、
    看板娘のお君のことなどの詳細は描かれていなかったので、
    こちらを読み進めていると細かく描かれているのでよく分かりました。

    孫のお君の縁談が破談になってしまったことが、
    治兵衛の生きてきた人生の思わぬところから、
    それも後になってはどうにも覆すことが出来ない事情ということが
    納得が出来ないことだけにお君もとても可哀想だし、
    治兵衛も可哀想でならなくて、破談の理由になった相手がとても
    憎らしくも思い心が狭い人間だなと思ってしまいました。

    今の時代であっても結婚の破談となったら心底落ち込み、
    一生結婚への思いも無くなってしまう可能性もありますが、
    この時代だったら今以上に心の落ち込みも深く、
    江戸の長屋生活だとしたら周囲の人達に知れ渡ってしまい何処にいても居心地の悪いものになってしまうのではないかと思いました。

    けれどこんな窮地の場合であっても治兵衛をはじめとして、
    お永は母親らしく愛情を持って見守っていたり、
    治兵衛の弟の石海も明るさを持って接して
    どんな困難な問題でも乗り越えていこうとしている
    姿がとても良かったです。

    今回もいくつかの南星屋ならではのオリジナルの和菓子が
    出てきますが、和菓子を嗜むだけの物語ではなく、
    家族の絆の物語でもあると思います。

    現代小説でも様々な家族模様が描かれていますが、
    時代小説では現代社会のように複雑な社会背景や
    個性などが絡み合わない無いこともあるせいか、
    シンプルに家族の絆や愛情が浮かび出されているような
    気がするので、読んでいてストレートに心に温かいものが流れて込んでくるような思いがしました。

    治兵衛はもうこんな歳だからと仕事に対してや
    物事に対して謙虚な部分があったり消極的な部分が
    見られるところがありますが、この家族と一緒に暮らしていけるとなればいつまでもバリバリと和菓子を作って
    和菓子屋に来るお客さんの舌を満足させてあげたり、
    沢山の幸せを分けてあげたりしてもらいたいなと思いました。
    これからの南星屋の繁盛も期待したいところです。

    和菓子と一緒に読んで心をじんわりと温まらせて
    欲しいと思えるお勧めな一冊でした。

    今秋には「うさぎ玉ほろほろ」が刊行予定ということなので今からとても待ち遠しいです。

    今まで時代小説をあまり読んでいなかったですが、
    西條さんの作品を読んで時代小説の良さを見つけたような気がするので、これからは時代小説も進んで読んでいきたいと思いました。

  • 和菓子屋を構える親、子、孫の三代の家族と親の弟の人情と和菓子が絡まる時代物連作短編集。
    正直、読み始めはあまり手応えがなく、読み進めるのも大変だった。けれども、短編が続いていくにつれ、キャラクターがいきいきとし、胸に刺さる言葉や思いに溢れ、泣き笑いしながらラストは一気読み。よい人情、家族物語だった。

    和菓子の日に読み終わったのも僥倖。続編も先日出たとのこと、読んでみようと思う。

  • 作中の和菓子が、読んでいるだけでなんとも美味しそうで思わず虚空をほおばりたくなります。

    江戸の街で家族3人が切り盛りする小さな和菓子屋を舞台にした、人情あふるる時代小説です。

    とても読みやすく、かつ過度に説明的でなく、情景や表情、しぐさで心情を語ってくれるきれいな文章です。和菓子のおいしそうな表現も素晴らしいですし、町人たちの気さくさ、子供のけなげさ、職人の矜持、武士家系の苦悩などがそれぞれ互いに作用しながらドラマが展開され、物語として読み応えもあります。

    章ごとに1個の和菓子がピックアップされるのですが、その和菓子が人と人をつないだり、気持ちを代弁したりとドラマに彩りを添えます。主人公がつくるまんじゅうや餅、せんべいなど様々な和菓子の上品かつ親しみやすい佇まいが、そのまま主人公家族を表していて微笑ましいです。

    個人的には時代小説を読むのは初めてでした。本屋で表紙の大判焼きの絵を見た時、自分の甘いもの好きな性分から思わず手を伸ばしたのがきっかけでしたが、よい時代小説デビューであったと思います。

    調べてみると作者の西條奈加さんは、いわゆるかっちりとした重厚な時代小説というよりは、ファンタジー色の強い「江戸ファンタジー」な作風のものや、現代ものも手掛けているらしく、それらのものも気になりました。もちろん今作の続編である「亥子ころころ」もチェックします。

  • しっかり楽しめる作品。

    孫には孫の、娘には娘の、そして治兵衛は祖父として、また父として、兄として、そして菓子職人としてのちゃんと立ち位置と役割があって、それを守ろうと支えてくれる人たちがいて、その安心感の中でいろいろな出来事が起きては時間が流れていく。

    「支えあう」本当の形のようなものが見えた気がした。
    もう一冊この作家さんの本を読もうと思う。

  • 西條さんの著作、「銀杏てならい」に続いて二作目。
    全国を行脚して各地の和菓子作りを習得し、江戸でこじんまりとしたお店を営む治兵衛一家のお話。
    微笑ましい人情噺に時折湿り気が…。
    看板孫娘のお君、健気な。

  • 好きな具合の湿っぽさ。

  • 江戸で人気の和菓子屋「南星屋」。武家育ちながら菓子職人になった主人にはある秘密が。秘伝の菓子のパクリ疑惑をかけられたり、武士の子どもが弟子入り志願にきたり、和菓子屋を舞台に巻き起こる家族愛の物語。NHKの木曜時代劇とか土曜時代ドラマとか好きな人にオススメ。

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著者プロフィール

1964年北海道生まれ。2005年『金春屋ゴメス』で第17回日本ファンタジーノベル大賞を受賞し、デビュー。12年『涅槃の雪』で第18回中山義秀文学賞、15年『まるまるの毬』で第36回吉川英治文学新人賞、21年『心淋し川』で第164回直木賞を受賞。著書に『九十九藤』『ごんたくれ』『猫の傀儡』『銀杏手ならい』『無暁の鈴』『曲亭の家』『秋葉原先留交番ゆうれい付き』『隠居すごろく』など多数。

「2023年 『隠居おてだま』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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