世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?~経営における「アート」と「サイエンス」~ (光文社新書) [Kindle]

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  • 光文社
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  • 「意識高い系2.0」ともいうべきか。
    理論と理性が重んじられてきたビジネスシーンにおいて、直感や感性も必要になりつつあるという。
    ちなみに「美意識」とは読んで頂けると分かるが、単に芸術的素養のみならず、モラルや哲学的思考であったりと意味が幅広い。

    読んで感じたことは安堵感と無力感だった。
    二つの(どちらかというと)相対しそうな感想について主観を多分に交えて書こうと思う。

    まず安堵感について。
    話は飛躍するが私は本棚にビジネス新書と自己啓発本しかない人とは気が合わない。雑多にフィクションから哲学書、漫画本など色々な本を読んでいる人が好きだ。(もちろんその中にビジネス書があったっていい。)
    一方で世間的には実学と呼ばれる学問の評価が高くなったり、いわゆる「デキる奴」は理論的かつ生産性が高くなければいけないというイメージも出来てきていた。
    そんなデキる奴に言わせれば芸術に親しむ(例えば通勤電車で経済誌ではなくSF小説を読む)ことは無意味なことなのかもしれない。
    そうした無味乾燥な価値観を個人的に「面白みがない」とは思いつつも、じゃあいったい芸術に触れることは本当に自分の向上になっているのか?という問いにははっきりとした説明がつかなかった。
    なんとなく芸術に触れた方が人生が豊かになる気がする、という肌感のみで。

    ところがこの本はそうした「美意識を磨く」ことは資本主義社会での競争の上で必要になると説く。
    それはある意味で私の長年の鬱屈した思いをを晴らすものだった。
    仕事を終えて映画を観たっていいんだ、週末に音楽を聴きに行ってもいいんだ、と。

    が、しかし(ここからは無力感の話)、本書で言及しているのは「エリート」だ。
    私自身は中産階級にかろうじてしがみついているので、大きな組織やシステムの意思決定をする「エリート」の影響力には遠く及ばない。
    なおかつ本書では「非理論」を評価しているのではなく、「超理論」(≒スジの良さ)を評価しているのであって、そもそも理論的思考ができない人間は土俵にすら乗っていないのだ。

    なぁんだ、私にはどだい関係のない話か。
    と意気消沈しかけてふと気づく。
    そもそも自分の社会的地位で自己卑下すること自体が「美意識に欠けた」価値観なのでは、と。
    であれば本書の対象はエリートだけではなく、世間一般にも当てはまるのかもしれない。

    ただ難しい点は著者が「おわりに」で述べているように、世の中がシステマチックであることを善とするエリートによって硬直していること。
    変えよう、というインセンティブが働かない。(ゲーム理論のナッシュ均衡と表現されている。)

    この「美意識」をよしとする価値観が私レベルのビジネスシーンに浸透するまでどのくらいかかるのだろう?
    なんだか希望がもてたような、あまりの果てしなさにくらくらするような。

    とりあえず哲学は少し勉強しようと思った。

  • 今までロジカルシンキングやクリティカルシンキングなどロジック重視で会社から指導されてましたが、ここのところすごく違和感を感じていました。

    結局何も出来ない。進まない。動かない。

    何のためにその仕事を進めるのか。やる意味は?利益は出せる?当然100%の答えは出せず、最終的には何も進まない。不確実性の時代において確実に答えを出せることはない。

    この書を読んで感性や直感の大事さというものを感じることが出来た。ただし直感だけでは当然ダメでバランスが大事。

    真・善・美

    武士道に共通する部分もあるのかな?
    美しいと感じるものには普遍的なものがある。人間が古来から美しいと感じるもの。普通に考えたらわかることを利益や便益のために無理やり曲解している時が自分にもある。自己欺瞞。

    美意識を持つことも大事だが自分を厳しく律することがさらに大事である。人間は弱い生き物だから。

    • マッピィさん
      こんにちは、

      山口周さんはjwaveでラジオ番組をやってます。
      この番組でいろいろな本を紹介してますのでオススメです!

      こんにちは、

      山口周さんはjwaveでラジオ番組をやってます。
      この番組でいろいろな本を紹介してますのでオススメです!

      2023/07/27
    • ケロヨンさん
      マッピィさん、コメントありがとうございます!

      一度聞いてみたいと思います!
      マッピィさん、コメントありがとうございます!

      一度聞いてみたいと思います!
      2023/07/27
  • 出版から時間が経っているから、前半は退屈に感じたけど、後半はコンプライアンスとの関係にも触れていて、興味深く読めた。他の本も読んでみたい。

  • 名前は前々から聞いていたが、最終的にたぐに勧められて手に取った本。(半年前を思い出して投稿)

    論理的思考力に始まる基本的なビジネススキルは登場初期には競争力の源泉になり得たが、今となっては飽和状態で全盛期は過ぎ去っている。そんな状況下において、今現在はアーティスティックな思考の有用性に注目が集まり始めている、という内容。

    直感的に理解が出来ない言説を、美しい論理構造で根拠を示しながら展開していくから、納得感があった。


    ”エリートが美意識を鍛えている理由はわかったし、俺も美意識ムキムキマッチョになろうと思う。で、肝心の美意識とやらはどうやって鍛えるんだい?”

    という疑問への回答が最後の章に記載されているが、これだけはお粗末な内容だった。

    読んだ当初は肩透かしを食らった気になっていたけど、今なら分かる。そんな耳触りの良い答えのようなものは存在しないし、コツコツと積み重ねるしかない。多分著者も本当は最後の章を書きたくなかったのに、売るために仕方なく追加したんじゃないかな。

    答えを手に入れたと錯覚させられる刺激の強いコンテンツに吸い寄せられがちだけど、そんなものはなくて、うんうん唸りながら自分の頭を使ってみることが大事だなとようやく理解し始めた22歳。

  • 現在のような複雑で不安定な世界では「分析」「論理」「理性」で判断するには限界があるため、美意識を求めるという本。

    「はじめに」の段階でここまで残念な本はなかなかない。現在の世界を説明するのに「マズローの欲求5段階説」を持ち出してくる。これが現在では否定されていることを知らずに書いているなら救いようがあるが、長々とした脚注で「否定的なのも知っていてあえて書いている」と述べている。曰く、科学的に検証されていないからといって「偽」とは限らず、主張には「アート(直感)」と「サイエンス(論理)」の両方が必要である。だから筆者が直感的に正しいと考えたものについては、科学的根拠が薄弱でも使うのだ、と。

    これはいろいろとおかしい。まずマズローの段階説は科学的に実証されていない (本当か嘘か分からない) というより、「データは否定を示している」というのが実情に近い。仮に段階説が真偽不明の仮説だとしても、やはり主張はおかしい。本書の主張は「現在のビジネスには美意識が求められる」であり、この主張を支えるための根拠を提示する必要がある。それなのに自分の直感で正しいと思うから仮説を根拠にするというのは、論理的におかしい。もちろん現実世界においては、全てを論理で説明することは不可能で、直感や体験でないと分からないこともある。しかしこのメディアは本であり、言葉と論理でしか伝達することはできない。それなのに直感を持ち出して説明するのはなんなのか。

    さらに言えば、本書は美意識や直感に期待しすぎなように思える。直感の本質とはパターン認識であり、これが通用するのは「ルールが不変」で「フィードバックが早い」環境においてのみである。優れたデザインの製品開発のために美意識を鍛えるのは理解できるが、複雑で変化が激しい状況にパターン認識で挑むのは間違っている。おそらく著者は検証をしないタイプなのだろう。

  • 今日のように複雑で不安定な世界では、「論理と理性」に軸足をおいて経営することは難しい。全体を「直覚」的に捉える感性と、「真・善・美」が感じられる打ち手を内省的に創出する構想力や創造力が、求められる。

    このような考え方はとても新鮮だった。たしかに、ロジカルに考えれば考えるほど、みんなが同じ答えにたどり着いてしまう。それでは、スピードとコスト以外に戦う武器がなくなってしまう。
    少しでも美意識を鍛えて、いざという時の直感力を養っていきたい。

    ==
    ・世界のエリートが、「美意識」を鍛えている理由は、数値化が容易ではなく、論理だけではシロクロがはっきりつかないような問題について、適時・適切に意思決定をするための究極的な判断力を鍛えるため。

    ・現在のように、システムの急激な変化に対して、法の整備が追いつかない状況で、法律で明文化されているかどうかだけを判断の基準する考え方は、倫理を大きく踏み外す危険がある。明文化されたルールや法律だけを拠り所にするのではなく、内在的に「真・善・美」を判断するための「美意識」が求められることになる。

    ・「論理と理性」に軸足をおいて経営をすれば、必ず他者と同じ結論に至り、その市場は必然的にレッドオーシャンとなる。そこで戦うためにはひたすらスピードとコストを武器にして、従業員を疲弊させていくしかない。これが、現在、多くの日本企業の陥っている状況。

    ・どう「美意識」を鍛えるか?
     哲学(主張そのものよりも、そこに至った気づきと思考の過程や、哲学者自信が社会へ向き合う姿勢)、文学、詩。

    ・「生産性」「効率性」といった外部のモノサシではなく、「真・善・美」を内在的に判断する美意識という内部のモノサシに照らして、自らの有り様を考えていく必要がある。

  • ■ひとことで言うと?
    アート思考の実践→美意識=直感的判断力の向上

    ■キーワード
    - 美意識が求められる背景
    - 合理的判断の限界・自己実現欲求の大衆化・社会変化の高速化
    - 自分のスタイル=美意識を判断の拠り所とする
    - 美意識による判断+論理による検証
    - 美意識=真・善・美
    - 真:直感
    - 善:倫理・道徳感
    - 美:審美感
    - 美意識を鍛える
    - アート鑑賞:見る力の強化
    - 哲学教育:思考過程・社会との向き合い方の学習
    - 詩を読む:メタファーの学習

  •  著者の『読書を仕事につなげる技術』を読んで、いい本だったので、続けてこの本を読んだ。まぁ。我田引水というか、経営を美意識につなげる苦労をしている感じである。「分析」「論理」「理性」に軸足をおいた経営、いわば「サイエンス重視の意思決定」では、今日のように複雑で不安定な世界においてビジネスの舵取りをすることはできないという指摘はよくわかる。
     本書でいうサイエンスは、データやマーケティング調査という意味合いが多い。市場にないものを売り出すときに、市場調査をしたとしてもよくわからないということだ。
     それにしても、日本の企業の痛み加減は、半端ではない。コンプライアンス時代になりながら、売上至上主義と効率性追求によるコンプライスに抵触する企業が多いのだ。東芝の粉飾決算、三菱自動車の23年にわたるリコールの隠蔽(池井戸潤(著)『空飛ぶタイヤ』で取り上げられた横浜母子3人死傷事故。)、本書で取り上げられているDeNAの2万1000件に及ぶ著作権侵害、医薬品医療機器等法(薬機法)や医療法などに違反する可能性のコンプライアンス違反。最近では東京オリンピックをめぐって、組織委員会の元理事が、スポンサーの契約業務を請け負った紳士服の「AOKIホールディングス」、出版「KADOKAWA」、広告会社の「大広」、広告のADKホールディングスなど会社のトップが捕まっている。まだまだ、その暗闇は出てくる可能性がある。まぁ。中国の賄賂の規模とはかなり少額なのだが。本人たちは、悪いことをしたと思っていないところに、闇がある。
     真面目にやっているはずなのに、どこかで不具合おこし、それを隠蔽することが、当たり前になってしまったという日本の企業の危うさ。日本の最低賃金の低さ、賃金の低さなど、目を覆う状況だ。一部上場会社が、派遣職員や海外実習生を使ったりすることで、低賃金を維持しているのである。一部上場会社は、派遣など、ヤメレと言いたい。
     本書で強調されているのは、アート、サイエンス、クラフトの3つのバランスが経営には必要だという。今の日本の会社は、論理、理性、効率性を重視することで、スタンダードなコモディティの商品を作り、みんな同じような仕事になっている。それでは変化の激しい世界のビジネスには対応できない。以前のようにスピードとコストでは勝てなくなってきている。会社経営にアートやクリエイティブ性が欠如しているというのである。サイエンスとクラフトは、アートに勝ちやすい。経営の根拠が表しやすいからだ。そのために、アートやクリエイティビティが押さえられる。会社経営のトップが、アートに力を入れ、ワクワク感を持った経営をし、それを実行できるような布陣を引くべきだという。
    現在は、VUCA(不安定、不確実、複雑、曖昧)という言葉に象徴される時代で、正解が出しにくい。そのために、直感、感性による「真善美」からの構想やクリエティビティに軸足を持った経営が要求される。現在強調されている「デザイン思考」をさらに押し進めた経営手法が必要だ。
     コンサルティング会社が、デザイン会社を買収したりするのも、グレイコンサルティング(経験者のこと)から、脱してアート的なコンサルティングが必要になってきている。世界が自己実現要求による消費が高まり、ビジネスが表現行為となることで、美という普遍性に共感を生み出す。
     自動車会社のマツダは、日本美を追求したクルマを作り出している。このことに意味があるのだ。
     著者は、オーム真理教は、高学歴なのに関わらず、美意識が低いということが、端的に表していると指摘する。サティアンの形状が倉庫みたいであることや掲げられている絵画などが美意識に遠すぎる。受験戦争に鍛え抜かれた高学歴者だから、オーム真理教にハマった。美意識レベルが、あまりにも低いことだった。この指摘はおもしろい。まぁ。今は東大出て、クイズ王というタレントになるというなんとも言えない貧しさ。質問があれば、答えを出すというパブロフの犬の反射神経で、受験戦争を耐え抜いてきた結果だ。考えることの大切さ、人と交わることなどの重要性など、小林秀雄と岡潔の強調していることが、理解できる。
     美意識、直感、感覚を鍛えること。それを学ぶことは、そう簡単ではない。秩序を維持するのではなく、秩序を突破することこそが、経営に必要なのだ。美意識を鍛えるために、哲学に親しみ、文学や詩を読み、写真を撮る。会社のビジョン、行動規範、経営戦略、プロダクトに美意識を判断基準に入れることだ。まぁ。この本は経営には、美意識が必要だということを多面的に考察している。意味がある本である。

  • 今日は山口周の「世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?~経営における「アート」と「サイエンス」」を読んだ。
    感想としては素晴らしい著作だった。共感しかない。日本人の民族としての欠点を見事を描いていた。そう日本人の経営には「美意識」がないのである。お金が稼げれば手段は問わないという美意識の欠如。それがコンプガチャやキュレーションメディアであり異次元緩和でありアベノミクスである。
    世界の経営者は美意識そして哲学を大事にしている。日本人には哲学がない。日本人のエリートはアドルフアイヒマンそのものなのである。
    この本では悪とは何かを問う。それは「システムを無批判に許容すること」とある。アイヒマンは何十万の人間を殺したが、自分自身を無罪だと疑わなかった。
    戦艦大和が米軍に特攻したのも日本国民1億人玉砕の先駆けという意味だった。日本人の精神性がユダヤ人を大量虐殺したアイヒマンと全く同じである。
    悪とは、システムを無批判に従うことなのだ。その観点で言えば日本は悪そのものである。そして、善とは何か、善とは考え続けることなのだと思う。すぐに慣習に従い、思考を放棄する日本人は善とは遠い存在である。
    ただ日本人には「美意識」があるそれは「武士とは死ぬことと見つけたり」というような死に様である。日本人は「空気」という悪魔に支配されているが、誇りさえ取り戻せばまた景気は回復すると思う。そのためにも美意識がない企業は倒産させるべきなのである。

  • 【目的】
    ビジネスにおいてアートが必要か?
    【まとめ(1P)】
    過度にサイエンスに頼らず、美意識に基づく自分のモノサシでも見れるようになるべき
    【ポイント(What)】
    ・社会のような複雑系では論理だけで意思決定できない
    ・サイエンスは再現性がある故に差別化できない
    ・自分の中に倫理観がなく、サイエンスだけを基準にするとコンプライアンス違反のリスクが高まる
    【アウトプット(How)】
    ・所属システムに適合しながらも批判的である
    ・アート作品を「見て、感じて、言葉にする」
    ・知的能力の中枢を司るメタファーを使う

    【その他】
    ・アート=直観、サイエンス=論理
    ・デザインと経営はエッセンスを抽出する共通点がある
    ・システムを無批判に受け入れることが「悪」
    ・アートは説明がなくとも一目で人を感動させなければならない

  • 冒頭の「忙しい読者のために」というサマリーを一読して購入を決めました。普段、僕が感じていたことを表現されていて驚きました。「哲学者から学ぶものとして、コンテンツ、プロセス、モードがあり、プロセス、モードに多くの学びがある。」という主張はその通り。だから、僕が経済学史、特にマルクス関連の書籍を読み漁っていたのはそれが理由。どの経済主張が良いかというところではなく、彼らのモードとプロセスに触発されるものがある。

  • 空気を読んで失敗した敗戦のトラウマからサイエンス偏重に陥り、正解のコモディティ化に陥っている今、必要なのは自分の中に美意識という判断基準を持ち、限られた情報の中で決断(要らないものを捨てる)をしていくこと。

    アート思考だデザイン思考だなんだと騒がれているが、ロジックで考えること、データを集めることが不要なのではなく、アートとサイエンスとクラフトのバランスが重要であるということ、ただただ直感で決めるのはただのバカだということ、気をつけないと流れに飲まれてしまうなと思った。

    自分の身を振り返ると、哲学的な思考を自分の中に持つための時間、アートに触れる機会はとても少ないので、それらは積極的に作っていかねば。

  • これまで読んできたビジネス書、見てきた時代の流れ、聞いてきた一流のビジネスパーソンの言葉に対する抽象度をグッと上げてくれる最高の一冊。

    出会ったエリートに視野の狭さや芯のなさを感じたことがあるなら、その理由は全部この本に書いてある。

  • 哲学や美術が好きな自分を肯定してくれるようで嬉しくなった。美術については虚心坦懐に見て、それを誰かに伝えてみることで新しい見方ができる。哲学はその考え方自体というより、その時代背景でどう問を立てたかに思いを馳せることで、VUCAな時代の問いの立て方が身につくのかなと感じた。

  • P 120
    これまでのような「分析」「論理」「理性」に軸足をおいた経営、いわば「サイエンス重視の意思決定」では、今日のように複雑で不安定な世界においてビジネスの 舵取りをすることはできない、ということをよくわかっているからです。
    P 128
    一つ目は、多くの人が分析的・論理的な情報処理のスキルを身につけた結果、世界中の市場で発生している「 正解のコモディティ化」という問題です。
    P 131
    正しく論理的・理性的に情報処理をするということは、「他人と同じ正解を出す」ということでもあるわけですから、必然的に「 差別化の消失」という問題を招くことになります。
    P 135
    二つ目は、分析的・論理的な情報処理スキルの「 方法論としての限界」
    P 155
    全体を直覚的に捉える感性と、「真・善・美」が感じられる打ち手を内省的に創出する構想力や創造力が、求められる ことになります。
    P 186
    3.システムの変化にルールの制定が追いつかない状況が発生している
    P 192
    そのような世界において、クオリティの高い意思決定を継続的にするためには、明文化されたルールや法律だけを拠り所にするのではなく、 内在的に「真・善・美」を判断するための「美意識」が求められる ことになります。
    P 258
    では「測定できないもの」「必ずしも論理でシロクロつかないもの」については、どうやって判断すればいいのか?  そこにこそ「リーダーの美意識」が問われる、
    P 260
    つまり、本書における「美意識」とは、経営における「真・善・美」を判断するための認識のモード、
    P 279
    世界のエリートが、いま必死になって「美意識」を鍛えている理由もまた同様です。それは、彼らが今後向き合うことになる問題、すなわち数値化が必ずしも容易ではなく、論理だけではシロクロがはっきりつかないような問題について、適時・適切に意思決定をするための究極的な判断力を鍛えるためだということなのです。
    P 309
    「論理」と「理性」では勝てない時代に  経営における意思決定にはいくつかの対照的なアプローチがあります。ここではそれらを「論理」と「直感」、「理性」と「感性」という二つの対比軸で整理してみましょう。  まず「論理と直感」という対比軸については、「論理」が、文字通り論理的に物事を積み上げて考え、結論に至るという思考の仕方である一方で、「直感」は、最初から論理を飛躍して結論に至るという思考として対比されます。  次に「理性と感性」については、「理性」が「正しさ」や「合理性」を軸足に意思決定するのに対して、「感性」は「美しさ」や「楽しさ」が意思決定の基準となります。
    P 357
    私たち日本人の多くは、 ビジネスにおける知的生産や意思決定において、「論理的」であり「理性的」であることを、「直感的」であり「感性的」であることよりも高く評価する 傾向があります。
    P 366
    「直感」はいいが「非論理的」はダメ
    P 371
    論理や理性で考えてもシロクロのつかない問題については、むしろ「直感」を頼りにした方がいい、ということ
    P 374
    決して「論理や理性をないがしろにしていい」ということではなく、「論理や理性を最大限に用いても、はっきりしない問題については、意思決定のモードを使い分ける必要がある」ということ
    P 435
    物事が複雑に絡み合い、しかも予測できないという状況の中で、大きな意思決定を下さなければならない場面では、論理と理性に頼って意思決定をしようとすれば、どうしても「いまは決められない」という袋小路に入り込むことになります。このような問題の処理については、どこかで論理と理性による検討を振り切り、直感と感性、つまり意思決定者の「真・善・美」の感覚に基づく意思決定が必要
    P 545
    経営における意思決定のクオリティは「アート」「サイエンス」「クラフト」の三つの要素のバランスと組み合わせ方によって大きく変わる
    P 572
    つまり、アートとサイエンスとクラフトを並べてみた場合、現在の企業組織においては、三者が対等な立場で戦えばまず間違いなくアートが敗れるということです。これが、三者のバランスが大事だと言われながら、結局のところサイエンスとクラフトに意思決定の重心が寄っていってしまう最大の要因です。
    P 576
    アカウンタビリティというのは、「なぜそのようにしたのか?」という理由を、後でちゃんと説明できるということ です。では「アート」「サイエンス」「クラフト」と並べてみた場合、後で説明できるのはどれかということになると、これはもう圧倒的に「サイエンス」と「クラフト」ということになるわけです。
    P 588
    これを別の角度から言えば、アカウンタビリティというのは「天才」を否定するシステムだ、ということになります。
    P 642
    アートを担う創業者が、会社を育てる過程でサイエンスを担うプロ経営者を雇い、しばらくの間は蜜月が続くものの、やがてサイエンス側に会社を牛耳られてしまうという構図は、アップルにおけるスティーブ・ジョブズとジョン・スカリーの関係を持ち出すまでもなく、よく見られることです。
    P 685
    この問題を解決する方法は一つしかありません。 トップに「アート」を据え、左右の両翼を「サイエンス」と「クラフト」で固めて、パワーバランスを均衡させる ということです。
    P 1,445
    システムの変化があまりに早く、明文化されたルールの整備がシステムの進化に追いつかない世界においては、自然法的な考え方が重要になってきます。
    P 1,724
    変化の激しい状況でも継続的に成果を出し続けるリーダーが共通して示すパーソナリティとして、この「セルフアウェアネス=自己認識」の能力が非常に高い ということを発見しました。  セルフアウェアネスとはつまり、 自分の状況認識、自分の強みや弱み、自分の価値観や志向性など、自分の内側にあるものに気づく力のこと です。
    P 1,994
    リーダーシップの問題 だということになります。なぜならば、何が「真・善・美」に適うのかを判断するに際して、「客観的な外部のモノサシ」に頼って右往左往することなく、自分の立ち位置をしっかりと見定めた上で、「主観的な内部のモノサシ」に従って意思決定することが必要になるからです。
    P 2,170
    手法の名称に「デザイン」などと入っているのでややこしいのですが、「デザイン思考」というのは問題解決手法であって、創造の手法ではありません。従って、ゴールは「問題が解決されること」であって、そこに感動があるかどうかは問われない。
    P 2,268
    アートを見ることによって観察力が向上する ことを証明しまし
    P 2,419
    エリートの見識を養成するための教育施策として最も普遍的に行われているのが、哲学教育
    P 2,475
    エリートが得てして「すぐに役に立つ知識」ばかりを追い求める傾向があることを指摘し、「 すぐに役立つ知識はすぐに役立たなくなる」と言って基礎教養の重要性を訴え続けましたが、哲学の学習についても同じことが言えます。
    P 2,521
    自分にとっての「真・善・美」を考えるにあたって、最も有効なエクササイズになるのが「文学を読む」ことだと思います。

  • 教養としてのドラッカー
    カント
    ー真:純粋理性批判
    ー善:実践理性批判
    ー美:判断力批判
    選択と捨象
    脳科学は何を変えるか
    失敗の本質
    科学と仮説
    消費社会の神話と構造(人々はけっしてモノ自体を消費することはない。理想的な準拠として捉えられた自己の集団への所属を示すために、あるいわより高い地位の集団を目指して自己の集団を抜け出すために、人びとは自分を他者と区別する記号として(最も広い意味での)モノを常に操作している。ージャンボードリヤール)
    ブランド帝国LVMHを創った男 ベルナール・アルノー、語る
    デザイン思考を超えるデザイン思考
    菊と刀
    資本主義の中心で、資本主義を変える
    人生を変える読書 人類三千年の叡智を力に変える
    デザインのデザイン
    プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神

  • 期待を大きく超える面白さ。サブタイトルの方がしっくりくる。全体の流れ、時代のうねりを捉えようとする試みには共感する。確かにその通り、と思える言葉がたくさんあった。
    ■「分析」「論理」「理性」に軸を置いた経営、言わば
     「サイエンス重視の意思決定」では今日のように複雑で
     不安定な世界においてビジネスの舵取りはできない。
    ■正解のコモディティ化
    ■「真・善・美」が感じられる打ち手を内省的に創出する
     構想力、創造力
    ■自己実現的消費 「アップル製品を使っているワタシ」
    ■実定法主義と自然法主義。システムの変化が早すぎる
     現在、グレーゾーンでのビジネスは自然法主義で行う
     べし。
    ■Google "Don't be Evil" 邪悪になるな
    ■人生を評価する、自分なりのモノサシを持ちなさい
    ■セルフ・アウェアネス 自分の状況認識、自分の強みや
     弱み、自分の価値観や志向性など、自分の内側にある
     ものに気づく力。
    ■システムを無批判に受け容れず、相対化する
    ■市場におもねる目線ではなく、自らの美意識で市場を
     教育する目線

  • 言語化が難しい美意識・センスの部分の重要性に再度気付かされた本。
    感覚的なところが、理論的に記載があることで、頭にスッと入ってくる。山口周さん大好きです。

  • これまでのような「分析」「論理」「理性」に軸足を置いた経営、すなわち「サイエンス重視の意思決定」では、今日のように複雑で不安定な世界において、ビジネスのかじとりをできないから。「直感」「感性」をもとにしたアートが求められる。
    ・以下具体的な理由
    ①論理的・理性的な情報処理スキルの限界が露呈しつつある
     ・正解のコモディティ化=差別化の消失
     ・方法論としての限界=問題を構成する因子の増加、かつ動的に複雑に変化。
     ・要素還元主義の論理思考は機能せず、全体を直感的に捉える感性と、「真・善・美」が感じられる打ち手を内省的に創出する構想力や想像力が求められる
     ・太平洋戦争の諸々の作戦の失敗が「空気」をもとに決まったことのトラウマから、日本は「理性」「論理」に傾きすぎている。「アート」「サイエンス」双方のバランスが大切である。
    ②世界中の市場が「自己実現的消費」へ向かいつつある
    ・市場において、消費者が求める便益は、機能的便益→情緒的便益→自己実現的便益へとうつっていく
    ・全ての消費ビジネスがファッション化しつつある
    ・商品において、機能、デザインは簡単にコピーできるが、ストーリーはまねできない。
    ・日本はすぐれた世界観とストーリーをもっており、これを利用しない手はない
    ③システム変化にルールの制定が追いつかない
    ・エリートは達成動機の高さのために、しばしば法のグレーゾーンを踏み越えてしまうことがあるため、内在化された倫理や美意識をもつことが重要

    ・ソマティック・マーカー仮説:情報に接触したとき、前頭前野腹内側部に影響を与えて感情的に「ありえないオプション」を排除する
    ・「美しい」と感じたとき、内側眼窩前頭皮質が活性化する。またこの部位は意思中枢の決定にかかわっている

    ・ハンナ・アーレント:ナチスのアドルフ・アイヒマンについて書いた本の副題が「悪の陳腐さ」。悪とはシステムを無批判にうけいれること。そこには一種の「誠実さ」があり、「誠実さ」のために悪がおこるのだとすれば、我々は誰でも悪に手を染める可能性がある
    ・これの対策は「システムを相対化」することしかない=自分なりの「美意識」を持ち、その美意識に照らしてシステムを批判的にみる
    ・システムを修正できるのは、システムに適応しているひと=エリートしかいない

    ・美意識を鍛えるためにアートを。特に哲学。「コンテンツ」ではなく、「プロセス」や「モード」をまなぶ。他に詩。「レトリック=修辞」を学ぶ

    ・自分自身の行動指針とするために、「美意識」を鍛える必要がある

  • 筆者のニュータイプの時代と言う本が印象的でしたので、タイトルが目を引く本書を手に取ってみました。
    要所要所で小さくまとめがはいるので、読み手としてはとてもわかりやすかったです。
    内容では、経営におけるアート・サイエンス・クラフトのバランスと言う考え方は、経営だけでなく子どもたちの教育でも役に立ちそうです。
    その他にもサイエンスとクラフトにあたるデータと経験に基づいた考え方の限界や、美しいものを目指すと必然的に良いものになると言う考え方など、色々と学べる事ができました。

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著者プロフィール

1970年、東京都生まれ。慶應義塾大学文学部哲学科美学美術史学専攻、同大学院文学研究科美学美術史学修士課程修了。電通、ボストン・コンサルティング・グループ、コーン・フェリー等で企業戦略策定、文化政策立案、組織開発等に従事した後に独立。現在は「人文科学と経営科学の交差点で知的成果を生み出す」をテーマに、独立研究者、著作家、パブリックスピーカーとして活動。現在、株式会社ライプニッツ代表、世界経済フォーラムGlobal Future Councilメンバーなどの他、複数企業の社外取締役、戦略・組織アドバイザーを務める。

「2023年 『新装版 外資系コンサルが教えるプロジェクトマネジメント』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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