消えたい ──虐待された人の生き方から知る心の幸せ (ちくま文庫) [Kindle]

  • 筑摩書房 (2017年2月10日発売)
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感想・レビュー・書評

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  • 著者の本は、本書で2冊目である。前に読んだのは「子は親を救うために『心の病』になる」だったが、本書はその後続著書のようだ。

    なんともショッキングなタイトルで、読む前から少々身構えてしまう。副題が「虐待された人の生き方から知る心の幸せ」だが、どうも「消えたい」と「心の幸せ」とは結び付かない。

    本書の最初に、「死にたい」という言葉と「消えたい」という言葉の違いを著者は説明している。「死にたい」は、生きたいとか、生きているということが前提であり、生きることの喜びを知っているが、それを達成できない絶望感から発せられる言葉であるのに対し、「消えたい」とは行きたいとか、生きているということを一度も思ったことのない人(=被虐待者)の発する言葉だという。むしろ「死にたい」よりも辛い言葉である。

    本書は、精神科を訪れた何人ものクライアントを見てきた著者の臨床レポート的位置づけの書であり、その中で被虐待者に焦点を当てている。本書のタイトルを「死にたい」でなく「消えたい」としているのは、そういう意味からだ。

    最近、「虐待」に関するニュースが度々報道されるが、TVを見ていても何か特殊な世界であるように感じられる。前著で「虐待」の定義として、次の4種類をあげていた。これは、「児童虐待の防止に関する法律」に定められているもののようだ。
    ⓵身体的虐待
    ②ネグレクト(育児放棄)
    ③心理的虐待
    ④性的虐待

    これに対し、本書では著者がもう1種類を加えている。それは、「心理的ネグレクト」という概念であり、先の4種類の虐待に併存することもあるし、単独で存在することもあるとういうものだそうだ。

    ⓵~④は攻撃的なイメージだが、「心理的ネグレクト」は親としてそういう攻撃的な行為を行っておらず、むしろ子どもに対する最低限のことを(義務的に)果たしてはいるものの、親が子どもに接する際の愛情が欠如している状態を意味しているようである。「愛着関係の欠如」という表現もあった。

    こうなると法律にひっかかる特殊な状態ではなく、見落とされがちであったり、問題視されないまま過ごされるケースがありうる。にも関わらず「心理的ネグレクト」を受けた児童は、他の虐待を受けた場合と同じような症状で相当な苦痛の人生を歩むことになる。それゆえ著者はあえて本書で項目を追加しているのである。

    著者は多くの臨床事例から、虐待経験のあるクライアントは、普通の世界に生きる人と区別し、別の世界に生きる人たちとしている(著者は「異邦人」というワードを使っている)。

    その両者はともに共通の社会規範に従って生活しているが、その大きな違いは、他人との感情の共有ができるか否かであると述べている。虐待経験者は、不安、緊張、恐怖の中で、共通の社会規範に自らを適応させながら、「普通の世界の人」の何十倍もの苦労をして生きているという。見えている世界が全く別だという。

    治療により、まず人の幸せの基本となる次の3点をめざす。すなわち、①良質の睡眠がとれる、②食事を楽しめる、③誰かと通じ合うことができる。この⓵②は比較的改善に進むが、③については簡単には克服できない。それでも、自身が虐待を受けたことに対し、心の中での割り切りができたときに進む事例が示されていた。

    この被虐待者がこれらを克服できたとき、そこで得られる幸福感は、絶対的な幸福感であると著者述べている。一般的に得られる幸福感は、他者との比較による相対的な幸福であるのに対し、被虐待者が得る幸福感は、これまで味わったことのない体験的な幸福であるようだ。

    この克服者は、その克服により、「普通の世界に生きる人」とは比べ物にならないほどの能力を発揮し、とてつもない成功を手にすることがあるようである。著者はそのような人物を何人も知るという。

    巻末に作家・橋本治氏の解説が掲載されている。橋本氏自身が、被虐待児であったことをカミングアウトし、その幼少期を語り、最後に「異邦人」としてレッテルを貼られることに苦言を呈し、そして「どうでもいいや」と割り切った心情を述べ、さらには「普通の人達」とはどういう人たちなのかと疑問を持ち続けるだろうと語っている。

    作家・橋本治氏の人生そのものが、被虐体験を克服し、才能あふれる作家の成功者として、本書の内容を証明しているようでもある。

  • 某脅迫犯の文章に、被虐うつについての本を読んで得られたことについて書いてあったのですが、残念ながら私は、あの怪文書とも言えるものに書かれた心情がそこそこわかってしまうので、読んだら何か参考になるのではないかと思い本書を手に取りました。
    本書には、「ふつう」に生きていたら知ることのない"感覚"についてありありと纏められており、驚かされます。「異邦人」と社会の間には、見えないけれども強固な壁が存在している。ここに出てくる人達よく生き延びたな、と辛いやらせつないやら。
    独特の死生観については自分も、人生詰んだ!って思った時に同じような境遇で自○した人の噂を聞いて「なるほど、それも一つの賢い選択だな!」とナチュラルに思ったことがあるので今思えば病んでいたんだなと。
    現実の痛みに耐えきれないから感覚を解離させることでこの本の症例のようになるのだと思いますが、これをやると人生どこかで破綻するのでカウンセラーの協力を得てあるべき状態に戻すことが大切でしょう。

  • 流し読み。
    「社会的関係によって存在が保証されている」

  • 涙が出る。

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著者プロフィール

高橋 和巳(たかはし・かずみ):精神科医。医学博士。1953年生まれ。慶應義塾大学文学部を中退、福島県立医科大学を卒業後、東京医科歯科大学神経精神科(現:東京科学大学)に入局。大脳生理学・脳機能マッピング研究を行った。都立松沢病院で精神科医長を退職後、都内でクリニックを開業。カウンセラーのスーパーヴィジョンも行っている。著書に『「母と子」という病』『精神科医が教える聴く技術』『親は選べないが人生は選べる』(ちくま新書)、『子は親を救うために「心の病」になる』『人は変われる』『消えたい』(ちくま文庫)、『新しく生きる』『楽しく生きる』(三五館)等がある。

「2025年 『大人の愛着障害 人生を縛る心の傷』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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