ナルニア国物語5 ドーン・トレッダー号の航海 (光文社古典新訳文庫) [Kindle]

  • 光文社 (2017年9月20日発売)
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  • 光文社の刊行順に読んでいるが、冒険物語としては今までで一番ワクワクする展開だった。
    同じ未知の世界の冒険でも、陸地とくらべると海洋冒険ものはなぜか不思議な魅力がある。

    YOUCHANの挿絵もふんだんに使われていて良かった。
    今回はいつもの冒険地図にくわえてドーン・トレッダー号の内部説明図があり、物語の描写と照らし合わせながら、なるほどそういう造りになっているのかとけっこう見入るのも楽しかった。

    一章ごとに違う島を訪れては次へ向かうという一話完結型のシナリオになっており、連続ドラマかゲームっぽい展開だった。

    各島はいろいろな謎を秘めて出てくるが、どれも完全にはその謎が解明しきらず、想像力を働かせる余韻を残す。

    ドラゴンの島に当初いたドラゴンは結局、七卿のひとりだったのかどうかは不明だし、死水島は触れると金になる湖だけでなく、カスピアンやエドマンドが攻撃的な思考になる場面が出てくるが、なぜそうなったかもわからない。

    「声の島」で出会った魔法使いコリアーキンが、かつては空に輝く星のひとつだったが、何らかの"罰"を受けて宇宙にいることを許されず地上に降りてきたらしいことが後にほのめかされるが、それ以上のくわしいことは語られない。

    「暗闇の島」に至っては海面に浮かんでいたループ卿を助けるだけで終わり、島があったのかどうかも確認していない。

    この場面、カスピアンやドリニアンが暗闇の中へと突っ込むのはやめておいたほうがいいと思ったにも関わらず、リーピチープの勢いに押されて入ってしまう場面は、本気かよ? と思った。

    正体のわからない暗闇へ無防備に入っていくなんて"蛮勇"でしかなく、とくに教育的な意味も強いこの物語においては、その無謀さはありえない展開だ。
    (ただ中に入っていかずに去ってしまえば、読後に残される謎が大きすぎるが。)

    途中でリーピチープの言うことを無視して暗闇を脱出して、彼のいうことを聞きすぎるのはやっぱり問題だったね、という軌道修正をしてバランスを取っていた。

    最後にタツノオトシゴに乗った海の住人が出てきたり、見渡す限り睡蓮の花が咲く海も印象的。

    またルーシーと魚の放牧をしていた海の住人の娘が、ほんの一瞬目があっただけで、おそらく今後二度と会うことがないにも関わらず、友だちになるという場面も心に残る。

    (以下、ユースティスの考察を書いていたら長くなったので、ここからは線を引いて分ける。)
    ======================================================================================

    そして、なんといってもこの巻はユースティス。

    冒頭からユースティス少年の紹介がはじまるが、この彼の性格の悪さときたらすさまじい。
    初期のエドマンドとはまた別種の陰湿さがある。

    とくにユースティスの認知のゆがみの激しさが、彼の日記という形で描写されている。
    読者にはよく見えているルーシーやエドマンド、カスピアンの優しさ、誠実さ、勇気といったものがユースティスの目にはまったく見えておらず、それどころか彼らのほうをこそ性格の悪い歪んだ人間として捉えている。

    "しかし、ユースティスは、カスピアンもエドマンドもルーシーもみんな人間の皮をかぶった悪魔だと思いこんでいた。"

    反対に自分自身のことはもっと称賛されるべき人間だと思っていて、なぜほかの人間に自分の価値を認められなかったり、ぞんざいに扱われるのかがわからずに苦しむ。
    ユースティスの本音を日記で見せられることで、自分にとっては当然のように見えるものが、他人にとってはそう見えているとは限らないことを読者は発見するし、自分自身の認知がユースティスのようにゆがんでいる場合もありえることに気づく。

    エドマンドもかつては似たようなものだったが、何気ないセリフに彼の成長が見られて安心する。

    "これまでの航海のあいだにいくつも奇妙な冒険をしてきた経験から、ものごとが必ずしも見た目どおりとはかぎらない、と学んだのです"


    そしてもうひとつ、ユースティスの読書の趣味が偏っていることが幾度も描写されているのが印象的だった。

    "本も読まないことはないが、もっぱら情報や資料を集めた本が好みで、穀物倉庫のエレベーターの写真や外国の実験学校で肥満児童が体操をさせられている写真などがのっている本ばかりを読んでいた。"

    "さっきも書いたように、ユースティスはろくな本を読んでいなかった。ユースティスの読む本は、輸出入のこととか、政府の仕事とか、都市排水の問題とかは書いてあるが、ドラゴンの生態に関してはお粗末もいいところで……"

    "なにしろ、ユースティスはそれまでろくな本を読んでいなかったせいで、話をわかりやすく物語るということがまるっきりできなかったのだ。"

    "そして、ユースティス自身のお粗末な頭では何かを想像して作りあげるなどということはとうてい不可能だったので、ナルニアの話はユースティスにはおもしろくなかった。"

    フィクションやファンタジーを軽んじる奴は想像力が育たず共感力にも欠ける人物になるぞ、と少年少女に刷り込もうとするかのような、執拗な描写である。

    著者ルイス自身が、ノンフィクションやビジネス書しか読まないような大人が嫌いだったのだろう。

    そういえば近頃は日本の国語の教科書から「羅生門」「山月記」といった文学作品が消えているらしい。
    学習指導要領が改綱され、国語教育は論理的な文章の読解力を重視する方向に変わったかららしい。
    いつ何の役に立つかわからない小説の行間を読み解くよりも、ビジネス書や新聞記事の行そのものをかっちり理解しろというわけだ。

    世界の潮流的には、ルイスの嫌いな方向にどんどん向かっているような気がする……

    エドマンドもルーシーも、もうナルニアに来れるのは今回が最後だとアスランから告げられる場面で、「ユースティスはどうなるのか、彼はナルニアにまた戻ってこれるのか」とルーシーがたずねる場面があるが、アスランは「わが子よ、あなたがそれを本当に知る必要があるだろうか」と語る。

    このようにアスランが「わたしはあなたのことだけを語る。ほかの人の運命にまであなたが関わる必要はない」といったことを言う場面がよく出てくる。
    これは何を示唆しているのか、出てくるたびにちょっと考えるが、そういうところにも面白さがある。
    聖書の一場面のオマージュなのだろうか。

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著者プロフィール

「ナルニア国物語」シリーズの著者。ケンブリッジ大学で中世・ルネサンス文学を講じた教授でもあり、『愛とアレゴリー』(1936年)などの評論やキリスト教に関する著作も多い。悪魔論『悪魔の手紙』(1942年)は世界的ベストセラーとなった。代表作「ナルニア国物語」シリーズ最終巻『最後の戦い』(1956年)は、優れた児童文学に贈られるカーネギー賞を受賞した。

「2023年 『新訳 ナルニア国物語7 最後の戦い』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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