妊娠小説 (ちくま文庫) [Kindle]

  • 筑摩書房 (1997年6月24日発売)
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みんなの感想まとめ

文学を新たな視点から読み解くことの面白さを体感できる作品で、特に「妊娠」というテーマを通じて名作を再評価する試みが魅力的です。著者は、過去の文学作品における「望まない妊娠」を切り口に、男と女の関係性や...

感想・レビュー・書評

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  • いや抜群におもしろかった。三宅香帆さんが推していたので読んでみたくなった。仕事に関する本や理系の本ばかりで全然こういうものを読んでこなかったんだけれど。

    書評ってなんて奥深い(笑)

    この本を読むことによって、読書以外に無趣味な私は新しい趣味を得た。「過去の名作文学と呼ばれる本を「妊娠」という切り口で読み直し、それを書き成功した過去の【偉大】な作家(おじさん)たちを最低と言って笑う」非常に意地の悪い趣味。

    だってね、だってだよ、つまりは、
    「地位も名誉も教養もある男が/なにも持たないうんと年下の女を/妊娠させて、病いにいたらしめて、捨てて/最後に安泰をえた」
    (森鴎外の「舞姫」と島崎藤村の「新生」の共通項をあげた一文を本文から引用させてもらった。)
    いや、もう、まさに。
    おいおいおっさんたちいい加減にせーよ何をやらかして悦に入ってるんじゃ!と現代を生きる私は思うのです。

    これを文学と呼ぶわけなので、一体文学ってなんだろう?と途方にくれませんか?

    その上、解説の金井景子さんが書いておられる通り何が怖いって《「男にとってののっぴきならない状況を、なにかしらん案配し、上手に加減しながら」語っているにすぎないこの二作品が、日本近代文学の不朽の名作に押し上げられたということなのである。》
    《日本近代文学の不朽の名作》、、、
    ますます文学がわからなくなった今日この頃なのでした。

  • 鴎外の「舞姫」を筆頭に、近代以降の日本文学界で連綿と生産され続けている〈望まない妊娠〉の物語。それらの「妊娠小説」を解体し、中絶をめぐる法律の変遷と小説の関係や、創作がジェンダーロールを強化するメカニズムを暴いていく。川端も三島も春樹も龍も、妊娠小説の書き手として微に入り細に入り精査されるさまが痛快な文芸批評。


    話芸としての批評ってこういうのを言うんだよなぁと唸る面白さだった。前に斎藤さんの書評本を読んだときは面白いと思いつつ、90年代的軽薄文体がこそばゆく感じてしまったんだけど、本書のように「中絶」という世間的に重いテーマには、このドライで皮肉でユーモラスで軽い語り口がむしろぴったり。最高の滑稽小説を読んだよう。
    妊娠とセックスにエモと“伝統”を重視する日本のスタンスは、2023年現在ですらピルをめぐる諸問題によくあらわれている。94年に「妊娠小説が文化財としての自力をかちとれば、社会的悪影響なんてものは、たとえあってもいずれ解消し、妊娠小説は洗練された伝統芸能としての新たな地位を得ることになる」と書いた斎藤さんは苦笑いしていることだろう。
    先月読んだグレアム・スウィフト『ウォーターランド』は、近親相姦やら若気の至りによる妊娠やら魔女じみた堕胎請負人やらがでてきて、しかもそれが「なぜ妻は幼児誘拐者になったか」というミステリーの謎解きになっている完全な妊娠小説だった。私は面白かったけど、斎藤さんのあの小説の感想を聞きたいような怖いような(笑)。スウィフトは語り手を「自己正当化のため都合のよい物語を妄執的に求めて失敗した男」に設定することで相対化しているわけだけど。
    私は昔からフィクション世界の堕胎シーンがすごく怖くて、たとえば映画なら『ミッドサマー』より『アマロ神父の罪』のほうがトラウマなんだけど、考えてみればそもそも堕胎シーンは怖がらせなければわざわざ描写する意味がないのだ。なのでおどろおどろしい堕胎・中絶シーンを挿入する書き手側の心理をかなりいじわるに分析してみせる「アニミズムの帝国」の章は、読みながら自分のトラウマも解体されていくようで特に楽しかった。
    本書を読んでいるあいだ、Webラジオ「オーバーザサン」のドラマSATCを語る回のことを何度か思いだした。ドラマ内に女たちが中絶回数を打ち明けあう会話があり、それがどれだけ新しく、経験者を救うものだったかと話されていたのだが、日本の妊娠小説の系譜のなかでは橋本治が近いのかな。いままで私が堕胎シーンを怖がっていたのも、バイアスをかけて差別的に考えていた部分があるのだと思う。よい批評は世界を捉えるための新しいチャンネルを増やしてくれ、自分の価値観を俯瞰で見る力を与えてくれるのだ。

  • 題名はちょっとどっきりだが、れっきとした文芸批評論。斎藤美奈子のデビュー作。

    こんな小説の読み方があったんだーと非常におもしろかった。

    「文学をこんなふうに読む物じゃない」と元編集者は斎藤美奈子を叱ったらしい。元の人にはにがにがしい現象かもしれないが、現代では珍しくないよね。(例えば「文学賞メッタ斬り!」や「百年の誤読」など私も慣れてる)

    小説のジャンルには恋愛小説、ミステリと分類するほかに、「病気小説」や「貧乏小説」があり、そのひとつに「妊娠小説」もあるのだという。

    斎藤美奈子いわく「妊娠小説」とは普通の「めでたい妊娠」ではなく「望まない妊娠」を描いた小説のこと。

    世の名作、話題作といわれるものを「望まない妊娠」というフィルターを通して分析する。古くは森鴎外の「舞姫」島崎藤村の「新生」から新しきは村上春樹、村上龍や辻仁成の作品まで。

    うーむ、小説に男と女が登場して、付き合いがあれば(恋愛ともいう)その経過で、困る妊娠もあるのがこの世、どうするするのか悩むのは必定、小説の醍醐味だ。

    その「妊娠小説」にこんなおかしなことがあるんだよ、と解き明かしてくれるその新鮮さ。つまり妊娠の悲喜劇だけじゃなく、認識、知識のおろかしさを小説の中から浮きだしてくれる。21世紀になった今にしてみれば、前近代的なおかしさといって笑えればいいけどね。どうも引きずっているのでは(そういう小説があいかわらず続いているということ)と思われる。

    痛快でもあったのだが、私など今まで読んだ名作がずたずたにされて、回復するかどうか。川端康成の「山の音」などは芸術的ともいえる分析、解明で感心することしきりなんだけど。

    また、妊娠(中絶、避妊)についてストレートに、明快に解説してあるので青少年の啓蒙書としてもいいかも。文芸書としても勿論。

    *****

    上記感想は2007年3月15日読了時によるもの。
    今回、蔵書で再読しました。
    本当に斎藤美奈子さんの文学論は刺激的で、おもしろい。
    奥深く、再発見もあり、再読に耐える文学案内です。

    ブクログに紙の本の表示がなかったので、電子書籍に分類しましたが、もう紙の本は再版されないのかなあと、時代を感じました。

  • 鋭い分析。
    とても斬新な切り口で、示唆に富んでいる。
    すごい勢いでまくしたてられているような気分にさせられる語り口。
    小気味よいときもあるし、暴走するな~と感じるときも。。

    一番、残ったのは、本題からはすこしずれるけれど
    「ザ・キング・オブ僕小説作家、村上春樹」の妊娠小説
    『風の歌を聴け』のトリック について。
    なるほど~~~!!
    私にとって、理解が難しかった村上春樹を
    これほど明快に分析してくれて、すごく感激。

    ちなみに、妊娠物語の類型学として、
    望まない妊娠~中絶がセットになっていることに改めて気づいた。
    源氏物語も妊娠物語で、望まない妊娠の話なのだが、
    「中絶」という、子どもを産まない選択がないことに気づいた。
    今まで、そのことをうっかり気に欠けていなかった。
    平安時代は、妊娠したら流産するか以外、子どもは産まれるものなのだ。

  • 「はじめに」の冒頭に

    旧来の文学史や文学研究、文学批評はこのジャンルを今日まで頑として黙殺し続けてきました。

    とあるが、やっぱりそれはこの「妊娠」というモチーフが、小説の中のなにか(登場人物に降りかかる災難とか、主人公の成長のステップとか)の道具としてしか扱われていなかったからなんだろうなあと思う。そして「病気小説」における結核や「貧乏小説」における貧困ほど真面目に描かれていない(見当違いだったりやたらと仰々しかったりする)のは、その小説を書く側も読む(評価する)側も男性が大多数だったからなんだろうとも思った。
    とは言うものの、私自身はここに取り上げられている作品の中では『舞姫』『われらの時代』『寵児』『風の歌を聴け』くらいしか読んだことがないのだった。藤村の『新生』とかどんな話なのかすら知らなくて、ここでの紹介を読んであんまり酷すぎるのでかえって読んでみたくなったりして。あと三田誠広『赤ん坊の生まれない日』って、なんとなく映画の『SF赤ちゃんよ永遠に』みたいな話かと思っていた(バカ)。
    著者のデビュー作だが、「斎藤節」とも言うべき軽妙で人をおちょくるような文体はすでに完成していて、まあ嫌いな人は相当ムカつくだろうなーという感じ(私は大好き)。とはいえ作品分析のウデはたしかで『舞姫』論などたいへん見事な記号論的分析で、故前田愛教授が読まれたら相当感心されたのではないかと思う。
    ところで文庫版の解説者が「『暮しの手帖』の「暮しの実験室」という商品チェックリストの記事」に似ているのを思い出した、と得意げに書いてるのだけど、そもそもすでに「あとがき」で

    本書は、ひらたくいえば、ある種の文学製品に関するバイヤーズガイドないしユーザーズハンドブックのようなもの

    と言ってるので、なんか物覚えのわるい人が解説書いてんだなあとヘンに気になってしまった。

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著者プロフィール

斎藤 美奈子(さいとう・みなこ):1956年生まれ。文芸評論家。1994年『妊娠小説』でデビュー。2002年『文章読本さん江』で第1回小林秀雄賞受賞。他の著書に『学校が教えないほんとうの政治の話』『中古典のすすめ』『日本の同時代小説』『忖度しません』『挑発する少女小説』『出世と恋愛』『あなたの代わりに読みました』『ラスト1行でわかる名作300選』ほか多数。

「2025年 『絶望はしてません ポスト安倍時代を読む』 で使われていた紹介文から引用しています。」

斎藤美奈子の作品

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