ユートロニカのこちら側 (ハヤカワ文庫JA) [Kindle]

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  • 早川書房 (2017年12月15日発売)
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みんなの感想まとめ

個人情報が価値を持つ未来を描いたこの作品は、情報社会における人々の意識の変化を鋭く捉えています。AIの進化による自己循環的な関係や、機械が人間の習慣を変えていく様子が描かれ、読者に深い考察を促します。...

感想・レビュー・書評

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  • こういう話、すごい好き。
    個人情報=価値 がここまで膨らむのはすごい。

  • ニートをやるにも向き不向きがあると思います。私は比較的ニートに向いているので、社会に出てからも特に理由もなく合計3年半ほど働かず、学ばず、何かを修めることもなく過ごしていたことがあります。

    ニートは自分の好きなことしかしなくていいからさぞかしストレスが少ないんだろう、と思われる方も多いかと思いますが、意外なことにその当時感じていたストレス量は仕事をしている時とあまり変わらなかったです。

    私は他人とコミュニケーションすることで疲れやすいタイプです。ある言葉に対して持っている概念が根本的に違うからそこからすり合わせするのは面倒くさいなぁと感じたり、この人の見ている世界ではそうなのであろうなと思って何も言えなくなったり、私の言い方が悪く伝わってないなぁとか、さっきの私の発言は以前の発言と矛盾するなぁなどととにかく面倒くさいことを考えてしまいます。そういった面倒くさいを乗り越えるのが仕事だろうと言えばそうなのですが、とにかく私からすると人とのコミュニケーションはストレスになる。

    そんな私なので、一般的な会社で人に塗れて働くのはそれだけで強いストレスになります。逆に言うとニートをしていればその強いストレスが無いわけなんですが、今になって思い返してみると、当時はそれまで気にも留めなかった小さなことにストレスを感じるようになったり、自らストレスを感じに行っていた節があります。

    以前読んだ本によるとストレスと言うのは刺激と言う意味なので、適度にあれば良くて、過剰にあると良くないというものだそうです。そう考えると、人間と言うのは多少のストレスは常に感じていたいものなのかもしれないですね。よくストレスのない生活などと言いますが、その枕詞には(過度な)と言う単語が隠れているんでしょう。

    『ユートロニカのこちら側』では選択や思考を外注して無意識に生きている人が出てきます。意識の定義についてはややこしいので、ここではAIに言われるままの生活に満足を覚えている人と定義します。

    確かに、情報を精査せずにデマゴーグに踊らされる人や、自身の快感のために炎上に油を注ぐ人を思うと人間の選択なんてものは碌なものではありませんし、細かいことは考えなくてもこれまでの経験で我々は半自動的に生活できるというのも事実です。また、多量な情報を与えれば、人間同様に思考したように見えるアウトプットをする生成AIが既にあることを勘案すると、人が選択をAIに外注して無意識に生きる未来と言うのはあり得るのではないかと思ったりもします。

    ただ、ストレスと同じように思考を0にすることはできないのではないでしょうか。例えどれだけイケてるAIに選択してもらっても、起こっている出来事をどう解釈するのか、までは外注できないですし、AIの選択肢に対するフィードバックはその人だけの物であるはずですからね。

    生きていれば年々知識や体得している概念は増えるので、私自身の世界の見方や、出来事に対する解釈の仕方は年々多様になってきていると感じています。その代わりに反応が鈍くなっていますが、個人的にはどんどん楽に、楽しくなってきていると感じています。

    グラデーションなので2つに分けられる話ではないと思いますし、他人の頭の中は覗けないので、実際のところそんな人はいないかもしれませんが、逆に経験の蓄積によって年々概念を手放している人がいるのかもしれません、そういった人は年々蓄積された経験ののみで動けるようになるのでそれはそれで楽なのかもしれません。ただ、そういった人が思考しないかと言うとそんなことはなくってその思考が陰謀論や現代の科学を超越した理論なんかに結び付くんじゃないかと思ったりしたりしなかったり。

  • ・一定のストレスがかかるからこそ人は意識を持つ
    ・人間による機械のプログラミングは、機械が人間をリプログラミングする自己循環サイクルの一部
    ・最後にユートロニカが訪れる

    この辺が凄いなと思いました。
    AI発展によるAIの反逆などはよく題材になっていますが、人々の意識領域が弱くなるというテーマには初めて触れました。進化し過ぎたが故に、意識レベルが後退するのは、自宅トイレが自動で消えるが故に電気を消す習慣がなくなることの延長線上にある気がします。
    PSYCHOPATHと同様のテーマである、意思決定能力をAIが持つことへの疑念も描かれていて、考えさせられました。

  • 小川哲のデビュー作。小川哲作品を読むのは4作目だけど、良くも悪くも個性が強いので、自分と合わない作品は、とことん合わない。そして、本作は合わない方の小川哲だった。

    内容は、自分の私生活の情報を渡すのと引き換えに、不自由のない生活を送れるアガスティアリゾートに参加する人々、それに反発する人々をオムニバス的に描く(一応)SF短編集。ハヤカワSFコンテストの受賞作だけど、個人的にはSF感は薄く、どちらかというと現代風刺がテーマなのかな、と思った。

    合わなかった理由は、単純に登場人物に共感できなくて、ストーリーに入り込めなかったこと。本書の正しい読み方は、各話の登場人物の悩みに共感して、その哲学的な意味を考えるところにあるような気がするけど、自分はそこまで入り込めなかった。

    小川哲は自分に合う作品もあるので、引き続き合う小川作品を探していきたい。

  • 2025/6/21 Amazonより早川書房Kindle本プライムデーセールにて462円でDL購入。

  • あらゆる個人情報を提供する代わりに働くことなく生活が保障された街、アガスティアリゾートを舞台としたSF短編集。
    フィルターバブル、AIと予測可能性、快適さと自由の関係など。生々しく突き刺さる内容だった。
    特に突き刺さったのはこの一節「いいかい、人間による機械のプログラミングは、機械が人間をリプログラミングする自己循環サイクルの一部なんだ。」

  • 管理社会のディストピアを描いた作品。I・バーリンの二つの自由概念ならば、まず、消極的自由に耽溺していく管理社会が存在しているとも言える。しかし、それをおかしいと考え、抵抗、破壊しようとする者が現れることで、この小説がエンターテイメントとして成立している。しかし、たとえば、バーリンであれば、消極的自由/〜からの自由、解放ではなく、積極的自由/〜にアクセスする自由を根底とした社会をたとえ理想郷としてでも対案、代替案として提出できていないので、そりゃまあ、管理社会の転覆も成功しない結末は当然かな、と思った。

  •  情報が価値になる世界の連作集。

     SFらしく設定が込み入っているところがあるんだけど、面白い。

     物語としての面白さと、個人情報、プライバシーが貨幣的な価値を持つ世界で、あらためて今ある現実を考えさせられるというかなぁ。

     SF設定といえばSF設定なんだけど、バズってそれを金銭に結び付けたり、悪名は無名にまさるとかいって、趣味の悪いことを動画に流して売名したりという話を合わせて考えると、それほど遠い話ではない気がした。

     え?と思うところから、今自分の身の回りを考えさせる。こういうのが、SFらしいと思うところだけど、純文学にもそういう役割があるのかもしれない。

     まぁ物語って、今ある現実を振り返らせるものなのかもね。

     複雑な議論は、読み上げ読書では読み切れなかったところもあるだろう。また読み返そう。

  • 2024/1/10読了。同じ作者の『君のクイズ』が面白かったので購入。小川哲のデビュー作。
    個人情報を提供する見返りとして、生活全般を保証する実験都市アガスティア・リゾートを舞台としたディストピア系のSF作品。住人、設計者、都市の警察官等、複数の人物の視点の複数の章から成り、各章の時間軸も異なっているスタイル。
    個人情報を差し出せば差し出すほど生活は便利になっていく。でも、意思決定をどんどん外部化していき、人間は無害な羊の群れになっていく。表面上の平穏と、その裏の抑えきれないザラザラした感触が読む側を上手に不安にさせる。ディストピア感は1948ほどではないものの、今住んでいる世界との地続き感はそれなりにあるので、やっぱり居心地の悪さがある小説。そもそもこの世界に描かれているのがディストピアなのかどうかという点含めて気持ち悪さがあって面白い。
    また、巻末の入江哲郎氏の解説が印象に残った。AかBかの選択肢を提示された際、そもそもその選択肢が成立しうる根拠を疑ってかかる、この選択肢に対するメタレベルでの応答が小川哲の小説には随所に現れているよね、という話。

  • ディストピア的な設定でありながらディストピア小説ではない、というところが決定的に重要。

  • 年始早々、素晴らしい和製SF作家に巡り会えたなと。伊藤計劃以来の感覚かも知れない。(伊藤計劃にはちょっと劣るものの)
    それくらい素晴らしい作品だと思うし、二作目の長編『ゲームの王国』も楽しみだし、不謹慎ながら、早逝しないことを祈ってしまう。

    こういう振り切った設定の世界だからこそ、人間の本質的な価値観を問うことができる。それがSFの面白さだと思う。(ただ単にハチャメチャな世界でドタバタするSFは好きじゃない)

    ディストピアあるある?の問題提起したかっただけ系ではなく、ちゃんとストーリーもサスペンス・ミステリーとして楽しめる。

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著者プロフィール

1986年千葉県生まれ。東京大学大学院総合文化研究科博士課程退学。2015年『ユートロニカのこちら側』で、「ハヤカワSFコンテスト大賞」を受賞し、デビュー。17年『ゲームの王国』で、「山本周五郎賞」「日本SF大賞」を受賞。22年『君のクイズ』で、「日本推理作家協会賞」長編および連作短編集部門を受賞。23年『地図と拳』で、「直木賞」を受賞する。

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