アポロンの嘲笑 (集英社文庫) [Kindle]

  • 集英社 (2017年11月22日発売)
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  • 本 ・電子書籍 (347ページ)

感想・レビュー・書評

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  • う~ん、最近読む中山七里ものはどうハズレが多いなあ……
    本書に高評価している方々には申し訳ない。が、結論から言うと私は面白くなかった。

    前半はなかなか読ませてくれていたので、今回こそ行けるか?!と大いに期待したのだが、仕掛けは途中で透けて見えたし、なによりいちばん盛り上がるはずの後半は私は読み飛ばしで充分だった。

    テーマは東日本大震災と福島第一原発事故、そして当時の政府、東電の腰の引けた対応をベースに、架空の殺人事件とそこに絡む某国テロリストの影とでも言おうか。

    この”某国テロリストの影”がいただけなかった。もう陳腐としか言いようがない。こんな陳不なフィクションを混ぜ込んだため、せっかくのリアリティが台無しだ。

    避難した住民が放置したため野犬と化した犬との死闘(!)など、けっこうしっかりリサーチしたんだろうなあと思われた前半から中盤までのお膳立てが台無しになってしまった。
    最後のヒーローな感じの彼と彼の行動。
    これ、もうどうしたらいいですか。ここは本書でもっとも胸アツになるはずなのに、私は一人置いてけぼりであっけにとられ、しまいに読み飛ばしという結末。

    これ、思うんですけど、変に実際の震災やら原発をベースにせず、同著者の『魔女は甦る』のように現実にヒントを得た完全なフィクションにしたほうがよかったんじゃないでしょうか。そうすればあの「逃げる」「追いかける」シーンや野犬とのアクションなどそれなりに読ませたと思うんですが。

    まあ、そうなると大枠の舞台設定が全く変わってしまいますが…。

    なかなか難しいテーマでフィクションを絡めようとする意欲は買いますが、今回はどっちつかずで台無しになってしまった感じがする一読者でございます。


    ====データベース===
    <管内に殺人事件発生>の報が飛び込んできたのは、東日本大震災から五日目のことだった。
    被害者は原発作業員の金城純一。被疑者の加瀬邦彦は口論の末、純一を刺したのだという。
    福島県石川警察署刑事課の仁科係長は移送を担うが、余震が起きた混乱に乗じて邦彦に逃げられてしまう。
    邦彦は、危険極まりない“ある場所"に向かっていた。仁科は、純一と邦彦の過去を探るうちに驚愕の真実にたどり着く。
    一体何が邦彦を動かしているのか。自らの命を懸けても守り抜きたいものとは何なのか。そして殺人事件の真相は――。
    極限状態に置かれた人間の生き様を描く、異色の衝撃作!

  • 少し甘めの星4つ。

    正直ベースで言うと、中山七里さんの作品にしては、ラストあたりのストーリーが少し粗かったように感じました。しかし、逃走した殺人犯の過去が明らかになってからの展開は非常に読みごたえがありました。特に、福島第一原発の6次請けの会社で働く人たちの苦悩が丁寧に描かれており、彼らの状況について考えさせられました。

    6年ほど前、福島第一原発の除染作業に特定技能の在留資格を持つ外国人労働者を受け入れることが検討され、社会問題にもなりました。現在も多重の下請け会社が介在する中で、危険手当などが中抜きされるという現実があることに驚きました。

    昨年公表された第7次エネルギー基本計画を読む限りでは、脱炭素電源を名目にまた原発推進に向かおうとしているようですが、果たして一部の誰かを犠牲にしてまで原発を推進する必要があるのか、改めて問い直させられました。

  • 震災後の福島を、否応なしに見せつけられる。いや、実際はこんなものでは無かったのだろうと、背筋が凍る。主人公にこれでもかと襲いかかる様々な苦難に読んでいて辛かったが、最後に護るものがある幸せに辿り着けて、心安らかになれたのだと信じたい。この物語を東電の人、福島の人が読んだらどう感じるのだろうか。世の中の情報、報道は信じられるのか。考えさせられる。

  • 慣れない推理小説。

    前半はちょっと重め。
    ドキドキする基盤の土台作り。

    後半のテンポ感。
    展開はどんどん変わっていくのに、読者は置いていかれない。
    最終的にきっと犯人を応援しちゃう。

    手錠を外す場面の信頼関係。
    守るってきっとこうゆうことだ。
    世界に何度裏切られても、絶望を何度味わっても、「自分の死」以上に世の中を大切にしたいって感情はどこかに持ってる。
    残酷で、怖くて、生きるのしんどいから、世の中に怒りを感じてるけど、記憶のどこかで、知らない人の優しさに触れたことがある。だから、全員死んでほしいなんて思ってない。
    世の中を殺したいほど恨んでいるのと、世の中って素敵って思いたい。
    矛盾するようで矛盾しない。
    社会と私の関係を描いた一冊。

  •  二つの大きな震災を経験した。その時の経験を風化させない作業が、小説なって登場する。フィクションでありながら、ノンフィクションの部分が存在し、関東大震災の直後の風景が描写される。物語が、厳然たる事実をベースにして、組み立てられる。
     主人公は、仁科忠臣。福島県石川警察署刑事課所属の刑事である。東日本大震災時、妻は官舎にいたため無事だったが、息子は女川町の実家に遊びに行っており、津波によって実家は跡形もなく現在も息子は行方不明のままである。仁科に、震災の傷が刻み込まれている。刑事にしては、柔軟な発想と行動力がある。
     物語は、東日本大震災からわずか5日後の2011年3月16日、福島県石川郡平田村の金城和明宅で長男の金城純一(30歳)が刺された。平田駐在所の巡査が駆け付けた時、被害者の金城純一は脇腹を刺され、絶命していた。そして被疑者の加瀬邦彦が純一に覆いかぶさっていた。邦彦を逮捕し、連行している最中に、余震が起こり邦彦は逃亡する。仁科刑事は、被疑者を逃した間抜けな刑事となる。純一と邦彦の関係を探り、なぜ邦彦は純一を殺し、逃げようとしたのか?いわゆる逃亡の物語である。その逃亡は、目的を持ち、愛する人とその家族を守るための逃走だった。誰かを守るという強い意志なのだ。邦彦は、阪神大震災で、両親を亡くしている。そして、東電の6次請けの会社「リーブル」から派遣され、福島第一原発の作業で働いていた。原発での仕事は、過酷だった。
     金城和明は、16年前に須磨区で阪神・淡路大震災に被災後、家族全員で神戸から福島県に引っ越してきた。東電の子会社に勤めており、福島第一原発で働いている。長男の純一も原発で働いていた。純一は、原発内でパイプが破裂して純一が支柱の下敷きになっていたのを邦彦が助けたことから家族ぐるみで仲良くなった。純一の妹の裕未と恋仲になり、結婚したいと打ち明けたところ純一に猛反対されたため、逆上して刺殺したとして逮捕された。純一は、平成15年に傷害致死で実刑判決を受け、4年後に仮釈放処分になっていた。純一家族は、ある意味では村八分の状況で、邦彦と純一が仲良くなり、そして家族ぐるみの付き合いとなった。
     酔っ払った純一、そして揉み合った邦彦。そして、刺された純一は「4号機の建屋に、爆弾を仕掛けた」と邦彦にいう。それは、純一が殺した男の兄から強要されたことだった。兄は、某国のエージェント。純一は原発に爆弾を仕掛けた。それが爆発すれば、被害は広範囲に及ぶ。邦彦は、その危険を取り除くために、逃走し、大熊町を目指すのだった。ふーむ。物語の立て付けが、希薄すぎるが、関東大震災による被害の風景がなんとも切ない。
     4号機の建屋を見ていう。「それにしてもなんという禍々しい姿だろう。壁の上部はほとんど崩落し、屋根もあらかた吹き飛んでいる。鉄骨と鉄筋が剥き出しになった隙間から内部が覗く。上部の圧力容器を柱だけで支えている状態であるのが、ここからでも推察できる。自重で倒壊しないのは奇跡と言ってよかった。しかもその内部には桁外れの放射能が渦を巻いているのだから、まさに魔窟だ」
     中山七里の崩壊寸前の4号機建屋の描写が素晴らしい。その光景が浮かび上がる。そして、そこに爆弾が仕掛けてあるのだ。それが爆発すれば、想像力が大きく爆発する。
     被災後の風景が、出てくるだけでも、辛くなる。なぜ、このようなことが起こったのか。想定外という人間の愚かさを、中山七里が渾身をこめて原発事故で破壊した自然と家屋を逃亡者の目で描写する。原発に対して、こんなアプローチがあったとは。太陽(アポロン)の火を手に入れたニンゲンの傲慢さを嘲笑する。
    #中山七里 #フクシマ #原発事故 #阪神大震災

  • 「護られなかった者たちへ」がすごく面白かったので、中山さんの他の作品も読んでみようと手に取ってみた。これもリアリティがあって、最後まで予想出来ないストーリーの続きが見たくて一気読みしてしまった。原発の恐ろしさを改めて感じさせられた。

  • 3.11東日本大震災の直後。混乱する福島県の村で殺人事件が発生した。
    石川警察署の仁科が犯人の加瀬を搬送していたが、車から逃走される。
    被害者の純一は同じ原発の同僚で、純一の家族も加瀬を息子のように可愛がっていた。
    加瀬は何のために何処に向かうのか。
    未曾有の事態の裏に隠された、本当に恐ろしい狙いとは。

    阪神大震災に遭った家族と加瀬。
    自然の理不尽な摂理、喪うことの絶望感、矮小な己の姿を知り、しかし護る強さを共有する絆。
    震災の被害状況の描写には忘れていた景色を再び目前に見せつけられたようで、喉元を過ぎていてしまっていることを突き付けられた。

  • 面白かった。学びがあり、読んでよかったと思います。

    舞台は、東日本大震災が起きた直後の東北。そこで起きる殺人事件から物語が進んでいきます。
    この本のすごいところは、東日本大震災と原発事故というノンフィクションの事件をベースに作られているところ。当時なんとなくでしかニュースを見ていなかった自分にとって、この本で書かれている原発事故の実態は驚くべきものだった。原発での労働環境に関する描写もリアルなのだろうか。そうならとても怖い。

    さてストーリーとしては、こんなジャンルがあるか分からないがとてもハードボイルドだった。困難に負けず立ち向かっていくある人物の勇姿は本当にかっこよかった。
    でもあの結末は流石にないぜ中山先生。。幼少期から辛い思いばかりしてきて、これまでも苦しい生活を余儀なくされ、ようやく愛する人が見つかった矢先今回の事件に巻き込まれて。。。読み終えて「お〜〜〜い、まじかよお。。」と声が出ました。うーーんショック。ショックすぎで星を減らしました。面白かったけど。。

  • ノンフィクションをベースにフィクションを織り交ぜた作品。震災の恐ろしさは元より、原発の知らぜらる雇用形態等を理解する事が出来る。孫請け、曾孫に留まらず玄孫まで発生しているとは。震災等の自然災害は防げないにしても、原発による二次災害は世界中の日照が取れる屋根をソーラー発電機に替えるとかしてどうにかならないのかな

  • 『月光のステイグマ』と若干時期被るのかな
    原発事故を題材にした刑事と逃亡者の話
    逃亡者の加瀬、不屈の闘志がかっこよすぎでしょ
    悲しい結末だね

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著者プロフィール

1961年岐阜県生まれ。『さよならドビュッシー』で第8回「このミステリーがすごい!」大賞を受賞し、2010年にデビュー。2011年刊行の『贖罪の奏鳴曲(ルビ:ソナタ)』が各誌紙で話題になる。本作は『贖罪の奏鳴曲(ソナタ)』『追憶の夜想曲(ノクターン)』『恩讐の鎮魂曲(レクイエム)』『悪徳の輪舞曲(ロンド)』から続く「御子柴弁護士」シリーズの第5作目。本シリーズは「悪魔の弁護人・御子柴礼司~贖罪の奏鳴曲~(ソナタ)」としてドラマ化。他著に『銀齢探偵社 静おばあちゃんと要介護探偵2』『能面検事の奮迅』『鑑定人 氏家京太郎』『人面島』『棘の家』『ヒポクラテスの悔恨』『嗤う淑女二人』『作家刑事毒島の嘲笑』『護られなかった者たちへ』など多数ある。


「2023年 『復讐の協奏曲』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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