オリバー・ストーン オン プーチン (文春e-book) [Kindle]

制作 : 鈴木宗男・解説 
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感想・レビュー・書評

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  • いやぁ、面白かったね。わりと分厚い本だから読めるかなぁと思ったけど、最後まで引き込まれて読み耽ってしまった。オリバー・ストーンがプーチンに行ったインタビュー集だ。

     プーチンといえば、今じゃヒトラーと並べられるくらいの悪役としてとらえられる向きもあるだろう。本書とドキュメンタリーが出たのは2018年。まだウクライナの戦争は始まっていないが、クリミア併合後ではある。プーチンといえば、もともとベビーフェイスではないだろうが、すでにヒールとしての立ち位置は確固たるものがあったはずだ。その時代に、ここまで突っ込んで話しするんだぁというのは、興味深い。

     もちろんプーチン、ロシア側としてはプロパガンダ的な側面はあるのだろうけど、それを織り込んだうえでも、ロシアからの視点というのは違う世界を見せてくれる気がした。

     オリバー・ストーンといえば、もともとアメリカ合衆国に対して、厳しい見方をするイメージはある。プーチンがオリバー・ストーンに対して、

    「一つ約束しようじゃないか。あなたがアメリカの政策に対して非常に批判的なのはわかっている。ただ私を反アメリカ主義に引きずり込むのはやめてほしい」

    というあたり、クスっと笑ってしまう。でも、プーチンにしてみれば、外交問題だ。同じ視点に乗っかることはできないだろう。

    それに対して、少し時間をおいてからオリバー・ストーンは答える。

    「あなたは二度、私を反アメリカ的だと言い、自分をそこに引きずり込まないでほしいと言った。それについて説明しておきたいんだ。私は母国を愛している。アメリカを愛している。そこで育ったのだから。母親との関係と同じだ。ときには意見が合わないこともあるが、それでも母親を愛している。ときに愛し、ときに憎む。それは母国も同じだ。母国と意見が合わないこともある。」

     プーチンはいう。
    「いいかい、あなたが自由に母国の指導者の行動を評価できること、そうする権利があるのは、アメリカ人だからだ。厳しい批判をすることだって許される。一方、われわれはあなたの国とだけでなく、政府とのパートナー関係を構築していいようとしている。だから身長にふるまう必要があるんだ。」

     このあたりから垣間見られるのは、厳しい政治、社会情勢を生き抜く大人の会話だ。

     どこぞの国のように適当に思いついたことをくっちゃべって、怒られたら、

    「真意が伝わらなかったのなら残念」
    とか、
    「誤解を与えたなら、謝る」
    とかいう国の指導者とは、成熟の度合いがちがう。

     厳しい世界を生き抜いてきたからこそ、言葉に重みがあるように思う。

    「重要なのはどれだけ権力を握っているかではない。手にした権力を正しく使うかどうかだ。権力がないから何かができないと言うのは、もともと権力など使う能力のない人間だ。それなのにもっと権力が必要だと言う。そして自分より権力がある者を見て、自分たちには足りないと考える。だが単にその効果的な使い方を知らないだけだ」

     日本についての発言もあった。すこしね。

    「たとえば日本。日本人は自分たちが外から敬意を払われているのか、いないのかという外的サインにきわめて敏感だ。名誉を重んじる、きわめて自尊心の高い国家だ。  これははっきり言っておくが、常に圧力にさらされているという感覚は、誰にとっても好ましいものではない。遅かれ早かれ、何らかの影響が出てくるだろう。それはまちがいない。」

     最後の方でイラク問題について語っている場面。

    「そもそも地政学的問題であろうと経済問題であろうと、武力で解決するのはまちがっている。その国の経済を破壊してしまうからだ」

     そう言っていたプーチンがウクライナとの現状について、どのように答えるのか聞いてみたい気はするね。

  • 2018年2月に興味を覚えていたのだが、今に至るまで未着手のままでいた。ウクライナ侵攻がなければ後回しにし続けていたかもしれない。

    本書によってまず得たのは「オリバー・ストーンは犬か」という印象だった。
    本文中でプロデューサーが存在することが語られ、オリバー・ストーンの企画ではなさそうな雰囲気を感じ、また同時に章ごとに編集者(あるいはインタビューをもとに文章を起こした担当者)が異なるのではないかという印象も得て、企画の底流は不統一で、関わった人物により思想や本書に託したものが異なるのではないかというふうに読めてきた。気のせいかもしれないが、そんなことを感じてしまった。
    加えて、訳者によるフィルターが付与されているようにも見える。

    受け止め方を決めかねるという一点が企画の真意であるのではないかとまで思えてしまい、良し悪しを判断できない。深く考えて読んでいたわけではないのだが。

  • ふむ

  • 先進国の政治リーダーの中では圧倒的に長い在任期間を持っているプーチンだけに、本書でカバーしている時間的には非常に長い。プーチン自身も4人の米国大統領と仕事をしたと語っているが、一般的には日本の政治リーダーよりも長い期間その座にいると思われる米国大統領よりも、はるかに長い期間権力の座にいるということだ。ただ、中心になるのはあくまで欧米各国とロシアの関係なので、日本人の自分にはわかりづらいところもあった。特に話題の中心の一つであるウクライナのオレンジ革命について個人的に大変忙しい時期だったため、背景知識が足りず、そもそもオリバー・ストーンが議論したいポイントを明確にとらえることができなかった。ただ、そういった例外はあるにしても、ニュースを日頃見ている人であれば、全く新しいトピックというのはないと思う。

    本書はあくまでもオリバー・ストーンのインタビューにより構成されているので、プーチンは自分のイメージをコントロールしているのは間違いない。とはいえ、本書から浮かび上がってくるプーチン像というのは大変魅力的であるし、ロシア国民が長いこと支持をするのも理解できる・・・という感じを受ける。

    映像作品と書籍を読んで受けるイメージというのはだいぶ異なる。まず、わかりやすさだけでいけば、テーマごとに編集が行われている映像作品のほうが圧倒的にわかりやすい。書籍の方は、インタビューの書き起こしという感じで同じような話題が出てくるのが、映像作品は各テーマごとに複数回のインタビューを編集しているため、話の流れがスッキリしている。
    また、オリバー・ストーンとプーチンの議論の内容から受ける感覚もだいぶ違う。映像作品の方は、オリバー・ストーンが穏やかにプーチンに対してインタビューを行なってように見えるが、書籍化したものを読むと、もう少しオリバー・ストーンが強く自分の立場を主張し、時にプーチンはそれに同意し、時にやり過ごしているように見える。本来は映像作家であるはずのオリバー・ストーンの実像、米国人であるがゆえに米国の矛盾を許すことができずロシアに対する味方を是正したいと考えている、が書籍のほうがより強く見えるというのは不思議な感じがする。

    実際のところはわからないが、少なくとも本書からはプーチンは自分の国家を第一に考え、たとえ自分の役割が困難であったとしても全うしたいという政治家としての信念を感じることができる。それは「あなたは平和を支持するという。それは楽な立場だ。私は親ロシアだ。私のほうが難しい立場にある」というプーチンの言葉からも明らかだ。
    ロシアへの興味ある無しに関わらず、あるいは好悪に関わらず、多くの人が読むべき一冊である。

  • ひとりの社会人として、プーチンはリスペクトに値する人。高い教養、数々の修羅場を冷静沈着に切り抜けた人柄と経験、情報を事実と解釈にきっちり切り分け事実のみから自分の頭で考えた解釈を持つ思考。それらを大統領職にいかんなく発揮している。
    プーチンから見たアメリカ評は、日本の会社がAmazonやApple交渉するときの評に近いように感じた。一方的で高圧的な進め方。都合のいい情報を都合の良い時にのみ用いる。似てる。ただそれは、国家としてのアメリカも企業としてのAmazonやAppleも、それだけのパワーを創り出したことには敬意を払わなければいけない。自分たちが最後に勝つためには何をすべきか?に忠実なアメリカにもまた感嘆した。

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著者プロフィール

1946年生まれ。アメリカの映画監督、脚本化、映画プロデューサー。『プラトーン』、『7月4日に生まれて』でアカデミー賞監督賞を二度受賞。著書『オリバー・ストーンが語るもうひとつのアメリカ史』はベストセラー。

「2020年 『もうひとつの日米戦後史』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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