- Amazon.co.jp ・電子書籍 (331ページ)
感想・レビュー・書評
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人類は医学を発達させて様々な病気と闘い、天然痘やポリオを撲滅させることに成功した。それでも毎年のようにインフルエンザが流行し、妊婦の風疹が問題になり、エボラ出血熱のように新たな感染症が発生する。こうした感染症で苦しむアフリカを記者として取材していた著者が、病原体に対する敵意を持って本書を書き出したことは想像に難くない。
しかしながら、そこで見えてきたものは、人間との共生の道を選んだり、他の病原体の繁殖を抑制したりする、病原体の別の顔だった。あとがきに「はじめは病原体への復讐の気分だったが、書き終えて、彼らも人と同じように環境の変化に耐えながら、ともに進化をしてきた戦友のような気分になってきた」とあるが、本書を読み終えたワタシもこれには同感。人類がこれからも地球で生き残るための強さを育むには、これら病原体は(いくらかの犠牲を払ってでも)実は必要なものなのかもしれない。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
微生物と宿主との関係
①宿主が微生物の攻撃で敗北し死滅するパターン。
②宿主側の攻撃で微生物が死滅するパターン。
③宿主と微生物が和平関係を結ぶパターン。これらの微生物は、普段おとなしくしているため「日和見菌」と呼ばれる。抵抗力が減少すると猛威をふるう。
④宿主と微生物の両者が防御を固め、果てしない戦いを繰り広げるパターン。一度感染するとずっと神経に住み着く場合がある。
【エボラ→蝙蝠】
人→人感染あり。
蝙蝠は100種類以上のウイルスを媒介する運び屋であり、流行地帯では蝙蝠を食用とする風習があるか、蝙蝠を食べたゴリラを食べて人に感染する例だ。
何故こんなに広まった?→森林破壊によって本来の生息地を追われた動物たちが、人里に押し出されて感染を広げる。
【デング熱→蚊】
人→人感染は無く、人→蚊→人感染。
デング熱の世界的流行からは半世紀もたっておらず、これは人口密度の上昇により蚊に刺されるサイクルが早くなったことと、地球温暖化による越冬のしやすさや都市開発による水たまりの増加が原因である。
宿主と微生物のせめぎ合いは、軍拡競争である。人類は病気を抑え込むために新たな手段を開発し、防御手段を進化させてきたが、微生物は耐性を獲得し、宿主の防御手段を破って感染を拡大しようとする。
また、非体制の菌が別の菌から耐性遺伝子を受け取る「水平遺伝」という例もある。
抗生物質の乱用により耐性菌が増えてきたのも、重い感染症の拡大の一翼を担っている。
【環境変化】
家畜、河川の汚染、都市化など、人間の引き起こした環境変化によって、感染症が流行してきた。また、農業が始まって定住化し、集落が発達するにつれて、感染症が定着するようになった。灌漑のため、よどんだ水深の浅い水路が掘られたことで、昆虫や巻貝など病原体の宿主が集まり、感染症がはびこる環境が生まれた。
【ピロリ菌】
胃液の主成分は塩酸である。胃液はたんぱく質、脂肪、炭水化物を消化し吸収を助け、同時に病気の原因となる細菌やウイルスを殺し、感染を防ぐ役割も果たす。しかしこの胃液のなかで生きられる細菌が「ピロリ菌」だ。
日本人最大の感染症となっている。
ピロリ菌の感染者が胃がんになるリスクは、無菌者の5倍にもなるとされている。
しかし、そんなピロリ菌には、過剰な胃酸を中和し、胃酸の逆流を果たす役割があるのだ。
また、小児喘息とピロリ菌の関係を調べたところ、ピロリ菌に感染している人は、喘息にかかりにくいことがわかった。さらにピロリ菌がその他のアレルギーを抑制していることも判明した。
人々は感染症にかかりにくくなった代わりに、アレルギーになりやすくなった。衛生観念が上昇し、無菌状態になった代わりに、アレルギーへの抵抗力が弱くなっている。
もともと人類と共生してきたピロリ菌は、胃がんのリスクはあれども、寿命が50歳に届かない時代には大きな問題ではなかった。だが人類が長生きになったことで、細菌との共生環境が変わってしまったのである。
実はセックスはタバコ並みに危険。性交渉が原因とされる感染症によるがん死は、20%と、タバコ(22%)と変わらない。アナル、オーラルセックス、女性器、と細菌の温床であるからだ。
【インフルエンザウイルス】
インフルエンザウイルスは、感染を繰り返すうちにウイルスが遺伝子変異することが多く、他の動物や人にも感染して被害をもたらす。
人への感染には、豚が大きく関わっている。豚の呼吸器の上皮細胞には、人のインフルエンザウイルスを含め、多くの亜型ウイルスが感染できる。このとき水鳥の持つ亜型ウイルスとの間で遺伝子との組み換えが起きると、人に感染する亜型が生まれる。
豚は新亜型インフルエンザウイルスの「製造工場」だ。中国南部にはアヒルやガチョウを、豚と一緒に飼っている農家が多くあるため、中国が新型インフルエンザの震源地となることが多い。
インフルエンザウイルスはHIVと同じRNAウイルスに属し、哺乳類が100万年かかる進化を1年で行うため、ワクチンが完成するころには姿を変えている。
インフルエンザが猛威を振るい続けているのは、その変異速度と、空気感染と言う過密社会に完璧に対応した特質である。また、人間社会側にも、過密化や畜産革命といった悪条件が整備されたからだ。
【エイズウイルス】
HIVにきわめて似ているSIVが発見された。SIVは霊長類におけるHIVのようなもので、HIVと遺伝子の配列がきわめて近い。この発見により、エイズの起源はアフリカ産霊長類であることが確定的になった。
また、もともとはチンパンジーと共生していたウイルスが突然変異を起こし、人間に感染した可能性が高い。
エイズウイルスが広がった理由
①仕事や収入を求める人々が都市へ流入し、それに合わせてセックスワーカーが集まってきた。
②性の解放
③注射針感染
エイズにかからない人の割合は民族による差が大きく、これは免疫系の遺伝子の突然変異が起こり、耐性人間ができるからである。
【感想】
数々の感染症における、ウイルスの種類、発生した起源、日時や波及経路などを網羅的に記述したした本作。
このコロナ禍の社会において、感染症への理解を深めるのに最適な一冊である。
感染症というのは、昔から人間と戦ったり共生したりしてきたウイルスが引き起こす病気であった。
野生動物を食す時代であった古代においては、ウイルスの原木との接触機会は多かったものの、
人口密度が低く、ウイルスが伝播する前に宿主達が死亡したため、パンデミックは起こりづらかった。
しかし、都市化、グローバル化、性交の低年齢化といった様々な「人間側」の要因により、
ウイルスは周期的に人間に甚大な被害を巻き起こしてきた。
ここで一番厄介なのは、ウイルスが様々な耐性を獲得し、より強力になることができても、
人間側は過密社会やグローバル化から後戻りできないことである。
ウイルスは人間が100万年かかる進化を1年で行うため、ワクチンの完成が間に合わない。
そして、ウイルスの生存条件である人間社会は、どんどんウイルスに好都合な環境に作り替えられていく。
また、一度パンデミックが発生してからは、経済活動が完全に停止してしまう。
人間社会の崩壊のきっかけはウイルスによる攻撃から始まるものの、最後は人間の壮大な自滅によって自らの命を絶つことになるのだ。
この先に待ち受けるのは、より強いウイルスとより脆弱な人間社会であり、これを止めるすべは、刻一刻と消滅している。 -
人類がこれまで苦しめられてきた感染症について、一章ずつ分かりやすく解説している。この本が刊行されたのは2014年だが、終章で今後感染症との激戦が予想される地域として中国があげられている。これまで世界を巻き込んだパンデミックの震源地であること、巨大な人口が経済力の向上にともなって国内外へ移動することなどを理由にあげているが、現在の新型コロナウィルスによる感染症の広まりを見事に予言している。
その他で興味深かったのが、過去の人たちの感染症の痕跡からウィルスの系統分析し、人類の歴史や移動の様子を推測する「ウィルス人類学」とよばれる研究がなされているという。 -
歴史における感染症と人類の関わりがまとめられており、多くの感染症を取り上げている。
ところどころ表現に感染症の専門家は使わないような、若干アラーミストのような印象を受けた。
類書よりも日本史に詳しく触れているのが良かった。
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人類の歴史は随所でさまざまな感染症が登場することは知っていたつもりでしたが,感染症を軸として歴史の流れを眺める視点は新鮮で,読んでいるうちにだんだん目に見えない微生物が人間を操って歴史が作られてきたような気になってきます。
この本が出版されたタイミングでは今回のCOVID-19は当然まだ出現していません。本来は宿主の動物と共存していたウイルスがやがて人間への感染力を得て経済活動とともに各地へ拡大する…という流れは目新しいものではありませんが,一筋縄ではいかないのもまた同様です。
感染の具体的な経緯を読んでいると,あたかも人間が感染を広げる意図をもって行動しているようにしか思えない事例もあったりしますが,感染拡大を阻止しようとそうした行動を禁じてもうまくいかないのもまた歴史の教えるところで,人間はそういう一見愚かにもみえる行動をしてしまう存在であることを前提に対策を講じる必要があるのでしょうね。 -
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コロナウイルスが私たちの生活に大きく影響を与えている中、人類はどのように感染症に対応してきたのかを学ぶことが出来る。
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感染症の歴史が網羅的に書かれている。