ハッパノミクス――麻薬カルテルの経済学 [Kindle]

  • みすず書房 (2017年12月8日発売)
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みんなの感想まとめ

経済学の視点から麻薬カルテルを探求するこの作品は、刺激的でありながらも読みやすさを兼ね備えています。著者は中米の麻薬産業の関係者への取材を通じて、コカイン栽培の合法性やサプライ側への施策の意味を深く掘...

感想・レビュー・書評

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  • これ系の本は3回くらい読んだことあるけど、一番参考になった。さすがのみすずである。ボリビアはコカイン栽培が合法とか、ネットワーク理論使って高校のセックス関係の話とか、サプライ側への施策の意味のなさとか。

  • 中米の麻薬産業の関係者らへの取材と、経済学的な観点からの分析を組み合わせた、刺激的な一冊。健康被害を強調して、消費者を麻薬から遠ざけようとするのではなく、国家が管理する方が合理的である、と。このようなテーマを取り上げながらも、センセーショナルではなく、読みやすい。ノンフィクションはあまり読まないが、これだけおもしろいノンフィクションを読むと、小説を読む意欲が薄れてしまうのが困る。

  • EU各国は2014年に、GDP(国内総生産)を計算する際に売春や麻薬などの「地下産業」も含めるように計算方法を変えた。国によって違うが、それによってGDPは1~5%ほども増えたというのだから、これらの産業の経済規模がどれだけ大きいのかがよく分かる。麻薬産業で大きな影響力を持っているのが麻薬カルテルで、本書は彼らの活動――生産から販売までのサプライチェーンを、一般的なビジネスを営む企業の活動と対比しながら分析している。そこには「人材獲得の悩みからオンライン業者が実店舗に与える脅威まで」様々なレベルで共通点がある。

    著者は分析をつうじて、生産元(密売組織や大麻栽培農家)を根絶しようと試みる現在の対策には効果がないと指摘する。供給量を大幅に減らせたとしても、「独占企業」である麻薬カルテルは仕入れ価格を低く抑え続けることができるせいで、末端価格はほとんど変化しない(栽培農家がその割を食う)。つまり最終財としての麻薬市場では流通量に変化がない。さらに、麻薬を違法薬物として禁止するのではなく、政府のコントロールのもとに合法化な麻薬市場を作ることが現状を変えるのに有効な方法だろうと結論づける。つまり、麻薬カルテルを壊滅状態に追い詰めて、麻薬がらみの殺人などから一般市民を守るのに有効だということだ。

    麻薬カルテルが直面する課題についてジョークも交えながら書かれた本書は読んでいて思わず笑ってしまうこともあった。けれども本書で著者が何よりも示したかったのは、麻薬カルテルが麻薬を支配している現状では多くの暴力が生まれていて、それによって苦しむ人がたくさんいるという事実だろう。そのために、なんとかして麻薬カルテルをなくしたい、彼らへと通じるカネの流れを抑えたいという著者の気持ちが本書を読んでいると非常に伝わってくる。

    麻薬の消費量を減らすために、供給側ではなく需要側にアプローチするべきだという著者の主張は分かりやすい。入門的なミクロ経済学の授業で習う「需要曲線の下方シフト」によって、市場価格と流通量の両方が小さくなるということである。それによって麻薬カルテルへと流れるカネは減るだろう。他方で、麻薬の合法化はカルテルにダメージを与えるだろうが、消費量が減るかどうかは分からない。正直なところ、麻薬の消費量を減らすことそのものについて本書はさほど重きを置いていないように感じさせることがしばしばあり、そこが私にはやや不満だった(もちろん言及はあるし、麻薬カルテルが縮小すれば麻薬自体も減ると考えているのかもしれない)。

    麻薬の合法化というのは経済学の分野では昔から議論されてきたテーマの1つだ。自由市場での取引を推奨しがちと思われる経済学者の間でも合法化については意見がまちまちで、「薬物禁止という現行の制度と比べて、薬物自由化が優れた制度であるとはとうてい言えない」と主張する研究(*1)もあることは指摘しておこう(もっとも、この研究は薬物に関連する「暴力や犯罪は減るかもしれない」とも述べている)。

    カナダが今年(2018年)10月に大麻の所持・使用を合法化したことは記憶に新しい(米国では州レベルで合法化されている州はあるものの、国全体では違法)。麻薬カルテルにカネが流れるのを防ぐこと、そして大麻の生産・流通・消費に政府の目が届くようにすることが合法化の目的だ。これによって麻薬カルテルが大きなダメージを実際に受けるのか、また大麻の消費量がどう変化するのかなど、本書の著者は恐らく大きく注目していることだろう。

    「麻薬が欲しいのに禁止されているので、(仕方なく)闇市場で買う」ケースがほとんどだろうが、「禁止されているから(こそ)麻薬が欲しい」というケースもあるだろう。麻薬が合法化されれば後者のような消費者が市場から消えるので、その分は麻薬の消費量が減ることになる。けれども、一般的には、麻薬の合法化が消費量を減らすとは限らない。例えばオランダを例にあげてみよう。麻薬について、オランダは1976年から寛容な政策を採用している(麻薬の生産・所持・売買はすべて違法だが、個人使用は一定の範囲内で黙認する)。法改正から数年が経ち、若年層の間で大麻の使用が増えたことを指摘する研究が『サイエンス』に掲載された(*2)。寛容政策によって大麻へのアクセスが容易になった結果かも知れないと論文の著者たちは分析している。他方で、ハードドラッグ(コカインなど)も経験したことがある大麻の使用者は、割合で見ると米国よりもオランダの方が低い。この事実から、オランダの寛容政策がいわゆる「ゲートウェイ効果」を弱めている可能性があるとも指摘している。

    著者は、「もっとも危険性の高い麻薬」をこそ合法化して「法律で管理するべき」とも主張している(Conclusion章)。実際、ハードドラッグについて罰則を強化すると短期的にはドラッグの使用が減っても、長期的には中毒者やドラッグ消費量の増加をもたらす可能性があることを示した研究がある(*3)。ただしこの研究は不完全競争モデルを用いた理論的のもので、なおかつ消費量が増加するかどうかは中毒の程度によって変わるという点には注意が必要だ。また、先ほど紹介した論文(*2)の分析を見ると、ソフトドラッグを合法化しつつハードドラッグは違法にしておけばよいように思える。この辺りの問題はまだ十分に議論する必要があるのだろう。

    *1: Jeffery A. Miron and Jeffery Zwiebel, “The Economic Case Against Drug Prohibition,” Journal of Economic Perspectives, 9(4), Fall 1995, pp. 175-192.
    *2: Robert MacCoun and Peter Reuter “Interpreting Dutch Cannabis Policy: Reasoning by Analogy in the Legalization Debate,” Science, 278(5335), October 1997, pp. 47-52.
    *3: Peter Skott and Gunnar Thorlund Jepsen “Paradoxical Effects of Drug Policy in a Model with Imperfect Competition and Switching Costs,” Journal of Economic Behavior & Organization, 48(4), August 2002, pp. 335-354.

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著者プロフィール

『エコノミスト』誌エディター(イギリス)。以前は同誌のレポーターをメキシコシティで務め、メキシコ、中米、および米国国境周辺地域を担当。『タイムズ』『ガーディアン』『リテラリー・レビュー』にも寄稿している。オックスフォード大学で哲学、政治、経済学を修めた。Narconomics: How to Run a Drug Cartel (PublicAffairs, 2016, 『ハッパノミクス――麻薬カルテルの経済学』千葉敏生訳、みすず書房)が初の著作。

「2017年 『ハッパノミクス 麻薬カルテルの経済学』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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