- Amazon.co.jp ・電子書籍 (231ページ)
感想・レビュー・書評
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「明るく静かに澄んでいて懐かしい文体
少しは甘えているようでありながら、厳しく深いものを湛えている文体、
夢のように美しいが現実のようにたしかな文体」
を物語にするとこんな感じになるのかな。
ピアノの調律師というあまり馴染みがなく、
私にとってはおぼろげな職業のお話だったが、
その深く美しい世界にどんどん引き込まれていった。
一見、自分との世界とは遠い話のようだが、
自分の仕事も形は違えどピアノの調律師のようにピアノと
ピアニストの橋渡しのような役割なのかもしれない。
まるで自分のことのように中に散りばめられた言葉に気づかされたり勇気づけられた。
主人公の外村もいたって平凡な田舎の青年で
自分の才能や素質に不安を感じている。
それに対して「ただやるだけ」
と先輩が返す言葉に私も救われた気がした。
和音が進む道を決めた瞬間の描写
「世界はこれまでと違って見えたのではないか、
突然目の前の霞がはれたような、
初めて自分の足が地面を蹴って歩き出したような喜び」
は当時の自分の感覚とも重なり熱くなった。
努力とも思わず努力できるひと。
もし才能があるという人がいるならば
そうゆう人を指すのだろう。
その道を根気よく一歩一歩歩き続けることの難しさを知った今だからこそ、外村の純粋さが尊く感じられた。
私もまだまだだな。また一歩一歩、歩み続けよう。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
目的もなく生きていた高校生が、ある日体育館のピアノ調律師に出会い、人生が変わる。
宮下さん、初ですが、とても楽しく読めました。小川洋子さんのお話に似た静謐さがあって、それが北海道の地方都市の描写にすごく合っているのと、森の描写が的確で、北海道の森が目に浮かぶようだったので宮下さんは道民に違いないと思いきや福井の人でした。
音に向き合う登場人物それぞれのエピソードがとても優しく、透明で美しいお話でした。ほかのも読んでみよう。
とりあえずピアノの森と一緒にお楽しみください。 -
かけ出し調律師の成長録。
調律会社の4名の先輩たち、お客さんである双子の姉妹のストーリーなど丁寧に書かれている。
特にこの姉妹のストーリーが秀逸。こっちがメインでも良さそうだけど、飽くまで主人公は北海道の田舎の山育ちの冴えない青年。
山育ちというバックボーンがどこで真価を発揮するのだろうと読み進めた。
正直なところ、音楽が個人的にかなり疎いこともあり、夢中になって読み進める感じにはならなかったが、ピアノをやっていた人はきっと好きになる一冊。 -
高校のピアノの調律にきた板鳥が整えた音に魅せられて調律師になった外村。
彼が目指す調律師の姿を、手探りでさがす。
朴訥とした素直さ、澄んだ静けさを感じた。
そして美しく善くピアノを鳴らす喜びにも触れられた気がする。 -
博士の愛した数式に少し似た雰囲気の本だ。静謐な感じで進んでいくのだが、読み進めてしまう。私も森の中を歩いているようだった。ピアノをひく全ての人を支える調律師の世界を知る事ができたことも良かったと思う。
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心が優しくなる話だったな~
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中学生になった息子に読ませようかと思って再読。やっぱりいい小説だ。主人公外村の成長物語を通して、生きていく上で肩肘張りすぎずに、無骨に頑張ることの大切さを知って欲しい。外村が調律師という職に、ピアノという存在に出合ったように、息子にもある日、想像もしない、出来ない出合いがあって欲しいし、その出合いを見逃さないで欲しい。才能なんか大事じゃないんだと知って欲しい。ぼくを含めて、世の中のほとんどの人が、才能とは関係なく、それでも一生懸命なのだから。