狼の化身であるホロと、旅の行商人ロレンスの物語を描く『狼と香辛料』シリーズが17巻で完結した後の後日談となる『Spring Log』も、あっという間に3冊目になった。著者も今後も継続するつもりらしく、もはや後日談というよりもSeason 2と呼ぶ方が相応しい。
とはいえ、ホロの故郷であるヨイツを目指すという明確な目的があった行商時代とは異なり、2人が湯宿を開いて安住の地を得た後の日常を描く『Spring Log』には、明確な方向性があるわけではない。一人娘のミューリが家を出ていった後の、ほのぼのとした日常を描くのが、今のところのこのシリーズの特徴のようだ……といいたいところだが、次巻あたりからは物語が大きく動きそうな予感を漂わせているのがこお20巻になる。
本作はいつも通り中編が複数収録されている本作には、以下の5作品が収録されている。
・狼と春の落とし物
・狼と白い猟犬
・狼と飴色の日常
・狼と青色の夢
・狼と収穫の秋
長く続いているシリーズだけあって登場人物には安定感がある一方で、語り手を変えたり、新しいキャラクターを登場させたりと、飽きさせない工夫がなされているため、前作の純粋な日常系よりも読み応えが増している。
特に個人的にお気に入りなのが、異端審問官の視点から「狼と香辛料亭」の細やかな接客や経営の様子を描く二編目の「狼と白い猟犬」である。ホロの特殊能力とロレンスの商才によって経営がされているはずの湯屋が、どういった細かやかな心配りをして客を惹きつけているかが伝わってくる作品だ。
また最後の「狼と収穫の秋」では、これまでになく多くの「人ならざるもの」たちが登場する。彼らにとって”狼と香辛料”亭と、ホロとロレンスの家族は伝説のような存在になっているらしく、隊列を組んで夏季の閑散とした宿まで押しかけてくる。そして彼らの活動と、宿への愛着を見てホロは、ロレンスと共に新たな旅に出ることを決めるのだった。
新たな旅の目的は、一応家を出た娘ミューリたちの活動を見届けることだが、どちらかといえばほぼ永遠に生きるホロがロレンスと新たな思い出を作るための旅という側面が強いようだ。まだ伝聞でしかないもののミューリたちはどうやら、外の世界で宗教改革のようなことを引き起こしているらしく、これまでの旅ではあまりフォーカスされてこなかった宗教がより強く話に関わってくるのかもしれない。
基本的には甘酸っぱいテイストで進んでいくこのシリーズのことだから、何か血生臭いことは起こらないはずだが、宿を置いて旅にでたロレンスがまた頭を悩ますような事態がたくさん出てくるのだろう。