陰謀の日本中世史 (角川新書) [Kindle]

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  • KADOKAWA (2018年3月10日発売)
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Amazon.co.jp ・電子書籍 (306ページ)

感想・レビュー・書評

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  • 陰謀論。数多、世に流布され姿を消していった。間違った情報は時に命に関わることさえある。人生を誤ることにもなりかねない。
    義経と頼朝の関係、本能寺の変や関ヶ原の戦い、歴史を検証していくとそれは地道なことの積み重ねであって、最終的な結果というものは、めくるめく状況の変化によってもたらされた偶発的なものであることが本書を通してわかった。単にミスが少なかった方が最終的に勝利するというのもそっちのほうが全然リアリティがある。
    本書からはなれるが、特に太平洋戦争については戦況が事細かに分析されているものがあり、「失敗の本質」のアナリシスを見ても頷ける。そんなことを思い出した。
    答えが一つしかないものや、一見革命的なものには用心したほうがよいと思う。
    現代は簡単に情報が得られ、また拡散できる時代だから、間違ったものトンデモ論も掴まされかねない。
    歴史の検証のように地道なところに大切なものはあるという気がするし、おしなべて真実というものは平凡、平均的なところに落ち着くものだと思う。今自分たちが手にすることができている便利さとか技術とかそうしたところから得られているのだと思う。

  • 前著「応仁の乱」は興味深く読んだが、新書のわりにヘビーな内容だった。今回は陰謀論。俗なテーマで気楽に読めるかと思ったが、軽くはなかった。本書は歴史上の陰謀および陰謀論の構造についての論じているが、アカデミックな作法に則っているため、議論は厳密で史料批判にも留意されている。複雑な内容を頭の中で整理しながら読み進めるのはなかなかヘビーだった。

    印象に残った箇所はいくつかあるが、本能寺の変などは多くの読者が関心を持つかもしれない。私も子供時分から信長の死の真相についてあれこれ想像をめぐらせたものだが、最近では「そもそも謎でも何でもなかったのではないか?」と考え方の前提から変えつつある。本書では本能寺について世に出回った一通りの説が紹介され議論が整理されている。呉座先生ご自身の主張がはっきりと提示されているわけではないものの、実行プロセスの現実性を重視する視座は私の価値観に近いと感じた。心強い限りである。

  • 日本の中世に視点を置いて、歴史によくある陰謀論の実際について解き明かされています。鎌倉幕府から北条の世、織田信長そして徳川と豊臣の戦い。その歴史の何故はどのように起こったのか、多くの人が謎を感じる理由についても書かれています。それを理解することで、陰謀論がなぜ出てくるのかが良く分かります。そして多くの人がそれに騙されることも。
    歴史の事件は、一部の人間が描いた通りにキレイにたどれるものではありません。多くの人が少ない情報の中で悩み、最後は目を瞑って決断したものの積み重ね。その人間味あるところを、私たちは複雑なので省いてしまいがちです。本書ではそれに対する自己反省を促すことで、現代に蔓延る似非情報から自身の身を守ることを警鐘されています。
    しかしながら、そんな情報に踊らされるような人間が読むには、少し難易度が高いかもしれません。それだけ日本中世は複雑だということかもしれませんが、この時代を好きでない人には、少し復習してから読んだほうが良いと思います。

  • 文系アカデミズムの力を見せられた気がする。いや、このところ印象に残る本の書き手って、なんか理系の方が多い気がしたから。源平合戦や武士政権の成立、応仁の乱など年表で知るくらいの話が、迫ってくる。最初のうちは、よく知らない時代の知らない人たちの動きを言われても、やや乗りにくかったんだけどさ。でも、だんだん引き込まれていったね。

     著者の本書を書いたひとつの動機として、陰謀史観についての危機意識があるという。歴史は陰謀、つまり誰か少数のはかりごとで動くものではない。そんなふうに見えるのは、結果を知っている後世のあとづけにすぎない、って。怒りすら感じる論調で説いてくれる。歴史だけではなく、より広い世界に視点を向けさせてくれる、考えさせてくれるあたり、アカデミズムとは、本来こういうものなのだと教えてくれる気がした。

  • 本能寺の変の黒幕は誰なのか。明智光秀を裏で操っていたのは、豊臣秀吉か、徳川家康か、足利将軍か、朝廷か、イエズス会か。歴史学者はもちろん、歴史好き庶民たちがワイワイと論争する。歴史上の「陰謀」はみんな大好き。

    そんな陰謀論争に著者はちょっと待て、と説く。歴史上の事件とは、偶然と人間の気まぐれがもたらしたものがほとんど。その結果が、特定の人物に有効に働いたからといって、その人物が仕組んだことにはならないのだ。

    信長、秀吉、家康など歴史に名を残した人物はしっかりと将来を見通し、万全の準備をした上で大きな行動、つまり陰謀を起こす。なんてことは現在の我々による都合の良い解釈にすぎない。歴史上の勝者たちは後先考えず、イチかバチかの大バクチに乗ることだってあるのだ。

    本書は、鎌倉時代から江戸時代直前までの武家社会における「陰謀」と呼ばれる大事件が、いかに単純で結果オーライであったとメッタ斬る。

    著者は言う。歴史学において、知っておくべきことは「本能寺の変で信長は光秀に殺された」ことだけだ。

  • 前著「応仁の乱」がベストセラーになったことで、一般認知度の高い歴史学者のトップ集団の仲間入りを果たした著者による中世史の解説本。

    取り上げられているのは、後白河法皇、源頼朝、足利尊氏、日野富子、本能寺の変の黒幕、徳川家康など、歴史ファンならおそらく一度は聞いたことがあるに違いない陰謀の数々を検証し、バッサリと小気味よく一刀両断している。
    陰謀論にありがちなキーワード、「真実の」「本当の」「教科書に載らない」などは思わずニヤリ。

    その一方で、歴史学者たちの怠慢にも警鐘を鳴らす。「すぐに偽物とわかる史料や、論ずるに値しないトンデモ説にかかわっている時間はないから黙殺」という姿勢こそが、世の中に陰謀論やトンデモを生かし続けている原因だとし、「誰かが猫の首に鈴をつけなければならない」と考えたのが、書くきっかけだったという。

    歴史を少しでも好きな人にはぜひ読んでもらいたい良書。
    一点だけ難を言えば、関ヶ原の戦いが瞬時に決着したという白峰旬氏ほかの説が「ほぼ確定した」としている点。そこはもう少しロマンを求めたい(笑)

  •  僕は陰謀論が大好きだ。それは物語として好きなのであって、歴史の真実を求めているわけではない。歴史は事実を大事にするが、陰謀論は仮説と想像で出来上がっている。ムーなどの雑誌なら仮説なんだろうと安心して読めるが、新書や文庫本で歴史がこれで変わるなんてと宣伝されると、信じてしまうかもしれない。この本では、キッパリと陰謀の研究など学会の研究者はしないと書かれている。
     陰謀論は大抵単純明快でわかりやすいが、本当の歴史は複雑で偶然も働いているだろう。
     でも、僕はやはり陰謀論は好きだ。それは物語として読む限りだが。

  • 本能寺の変には黒幕がいたなどの歴史にまつわる陰謀論(通説)を学術的に検証した本です。

    【こんな人におすすめ】
    日本中世史の入門書を探している人
    戦乱の背景について詳しく知りたい人
    中世の政治などをわかりやすく学びたい人

    【目次】
    貴族の陰謀に武力が加わり中世が生まれた
      保元の乱
      平治の乱

    陰謀を軸に「平家物語」を読みなおす
      平氏一門と反平氏勢力の抗争
      源義経は陰謀の犠牲者か

    鎌倉幕府の歴史は陰謀の連続だった
      源氏将軍家断絶
      北条得宗家と陰謀

    足利尊氏は陰謀家か
      打倒鎌倉幕府の陰謀
      観応の擾乱

    日野富子は悪女か
      応仁の乱と日野富子
      「応仁記」が生んだ富子悪女説

    本能寺の変に黒幕はいたか
      単独犯行説の紹介
      黒幕説の紹介
      黒幕説は陰謀論

    徳川家康は石田三成を嵌めたのか
      秀次事件
      七将襲撃事件
      関ヶ原への道

    陰謀論はなぜ人気があるのか
      陰謀論の特徴
      人はなぜ陰謀論を信じるのか

  • 読み始めると人名の海で溺れる

    特に平安末期は後白河法皇と清盛、義朝くらいしか頭の中から人名でてこないし、鎌倉初期でも幕府の主要人物くらいしか頭にはないのであるが、様々な人名がでて消化不良に陥った。
    ある程度人物の記憶がある応仁の乱とか戦国以降は結構スムースに読めた。

    知識がある人であれば私より楽しめたかもしれない。

  • 多くの事例が陰謀は無かったとの結論なので、夢はないが、通説とは違う歴史の真実に迫るという意味では非常に面白く読めた。

  • 陰謀の日本中世史

    呉座勇一著
    2018年3月10日発行
    角川新書

    著者は47万部を超えるベストセラー「応仁の乱(中公新書)」を書いている若手の学者。あの複雑怪奇な応仁の乱がこれを読めばよく分かると期待して読んだものの、ますますややこしくなって応仁の乱のマスターを断念したという人は、私を含めて少なくないはずだ。
    この人は文に修辞が多すぎる。余分な情報を入れすぎる。
    「××のAと○○のBの仲介にCが入った」いう説明をする場合に、「□を前年まで務めていた××のAと、△△家の出でAの妻も出が同根である○○のBの仲介に、◇◇の生まれで▼▼の部下でもあるCが入った」という具合に余分な説明まで入れてしまう。張り切り過ぎて何でもかんでも説明に入れてしまおうとする地域の観光ボランティアガイドにありがちな説明だ。

    ただ、この本、「応仁の乱」でよく理解できなかった人にお勧めしたい章がある。応仁の乱について、第5章で30ページほどにまとめている。この部分だけを読んでもいいかもしれない。中公新書版よりよく分かった。

    さて、いつの世にも、どんな分野にも、陰謀好きはいる。情報や知識の断片だけに触れ、全てを理解できたように錯覚する。自分では科学的と思っているけど、実際はその逆。
    古くからあるものでは、フリーメイソンやロスチャイルドなど、ごく一握りが世界を牛耳っている・・・一体、いつになったら彼等は姿を現すねん?と聞きたくなる。
    最近では、LINEはKCIAの陰謀だとの説も。本気で信じている人がいるが、これは超右派のモラロジー研究所所長、西岡力が言っているに過ぎない戯言であることを知っている人も多い。

    日本史においてもそんな陰謀論は山ほどある。有名なのは、義経が生き延びてジンギスカンになったという話。この本では、さすがにその話は問題にしていないが、日本中世史においてよく言われる陰謀論めいた内容について、歴史学者として証拠の史料を示しつつ、解説をし、冷静に考察をして、そうしたものの多くを否定していく内容。

    保元・平治の乱、義経は陰謀の犠牲者説、足利尊氏陰謀家説、日野富子悪女説(応仁の乱)、本能寺の変に黒幕がいた説、石田三成は家康にはめられた説などを取り上げている。
    来年、大河ドラマの主役となるのは明智光秀。おそらく、「自分だけは日本史の真実を知っている」と思い込んでいる歴史好きが、いろんな黒幕説を闘わせることだろう。この本を読んで、そのほとんど全てに無理があることを知っておくのもいいかもしれない。

    陰謀論には、パターンや特徴がある。
    ・加害者(攻撃側)と被害者(防御側)の立場が実際には逆である可能性を探る手法(警察にはめられた、と言い逃れをする犯人と同じ)
    ・結果から逆算した陰謀論(勝者が仕組んだ陰謀だった、という説は、結果を知っているから言えること)
    ・事件によって最大の利益を得た者が真犯人である、という推理テクニック
    ・特定の個人・集団の筋書き通りに歴史が動いていくという典型的な陰謀論

    著者は言う。もし、本当にそんな陰謀だとしたら、仕掛けた者は先の先まで結果を完璧に読み、一切の間違いもなしに実行していく天才でなければならないと。
    まったくその通り。陰謀論は冗談だけの世界にしておかないと、後で恥ずかしい思いをすることになる。

    この本は、細かい話が多くて読んでいて飽きてくるが、史料を丁寧に説明してくれるので、学校で習ったりして”常識“と持っていたことに誤りがあることにも気づかせてくれる。例えば、応仁の乱は、ライバル同士、山名宗全と細川勝元の争いだと理解していたが、実は2人は仲がよく、戦いが始まろうとしている時でもまだ近い存在だったと解説されている。面白い部分もあった。

    (メモ、本能寺の変の黒幕説)
    ・朝廷黒幕説
    ・足利義昭黒幕説
    ・イエズス会黒幕説
    ・豊臣秀吉黒幕説
    →もちろん、どれもあり得ないと結論

  •  以前読んだ出口治明さんの本で紹介されていたので手に取ってみました。
     なかなか“刺激的なタイトル”ですが、「陰謀論」を紹介しているのではなく、実しやかに語られる陰謀論を論理立てて論破していく内容です。
     陰謀論にみられる共通の特徴の紹介も首肯できるものです。陰謀論者への憤懣やるかたない心情が溢れ出たような筆致ですね。

  • 歴史上のイロイロな説について解説、論じている。
    陰謀論的な物を否定的にとらえて解説している。
    読んでいて、面白くはない。
    オススメはしない一冊。

  • Twitterで見かけて
    面白かった
    アマチュアや門外漢の新説(資料が見つかったわけじゃなく解釈を変える、「この資料は信頼できない」として資料にない人物像を組み立てる)のには違和感バリバリなので、こういうの読むと気持ちいい
    まあ、その結果いままで知られてきた人物像が変わることだってあるんだけど、ちゃんと新史料に基づいた視点の転換ならそれはそれで気持ちいいもの
    単なる発想ゲームの結果を史学の到達点みたいに言うのがおかしいんだよな

  • まえがき
    第1章 貴族の陰謀に武力が加わり中世が生まれた
    第2章 陰謀を軸に『平家物語』を読みなおす
    第3章 鎌倉幕府の歴史は陰謀の連続だった
    第4章 足利尊氏は陰謀家か
    第5章 日野富子は悪女か
    第6章 本能寺の変に黒幕はいたか
    第7章 徳川家康は石田光成を嵌めたのか
    終章  陰謀論はなぜ人気があるのか?
    あとがき

  • 専門家としては駄作。もしこの本が優秀としているプロがいたら?

  • 中世日本史の中で「陰謀」と呼ばれるような事件を取り上げ、さまざまあるxxx黒幕説を検討。現在わかっている資料から確度の高そうなところを解説。帯にあるような感じで、俗説をバシバシぶった切ってくようなスタイルではなく、より落ち着いて資料や学説を検討している。
    ただし、本能寺の変について家康黒幕説を唱える明智憲三郎については、かなり強い調子で批判している。歴史学の基礎もできてないクソ素人が思い上がって妄想をべらべら語ってんじゃねえ、という研究者の怒りがよく出ている。

  • いや陰謀なんてなかなか無いのよ。明智光秀だって、別段よく囁かれるような黒幕がいたわけではなくて、やはりチャンス到来を見逃さなかっただけだろうと。呉座氏は文系だけどとても理系的な発想をされる方だなと感じられた。

  • 【2025.5.12 ※追加】
    著名な『応仁の乱』の呉座氏のものとして期待しましたが、メインとしている本能寺の変の謀略論に関する論旨は二番煎で、持論と思える箇所は根拠を示していません。(後述、A、B)しかし歴史に興味はあるが、小説を主に読む方の「中世陰謀論概要」としてはお勧めかと思います。そして各章のテーマを深めたい方は本書の巻尾参考文献の方を読みましょう!
     まず本書の前書きで特に本能寺の変の謀略説を例に挙げて、在野の歴史研究家(第六章「本能寺の変に黒幕はいたのか」や終章で何度か奇説と紹介している明智憲三郎氏のことでしょうか?)が妄想を綴った「愚劣な」ものを歴史の真実とすることを憂慮するとあります。終章でもまた歴史学者としてトンデモ説の氾濫を憂いています。
     一般の読者としては、真実に迫っていると思われれば、在野であるか専門の研究家であるかはさほど問題ではありません。研究家が一般書として出版しているものでも、参考文献の内容を超えていない、つまらないものもあります。問題は中身であって出自ではないのです。
     第六章前半の黒幕説については、呉座氏が今さら憂慮して正すまでもありません。確かに、本能寺の変の謀略論は多く出版されていますが、「本能寺の変の黒幕」に関する検証本や雑誌もまた多くあるからです。個人的には福知山城の天守閣で購入した「新説戦乱の日本史15本能寺の変」・小学舘(絶版)は本書の黒幕説をほぼ網羅していて、本能寺の変に興味を持つきっかけでした。出色は本書でも参考にしている『信長は謀略で殺されたのか 本能寺の変・謀略説を嗤う』鈴木 眞也・藤本 正行著 です。否定している謀略論でも丁寧に解説されており、実際に本能寺に突入した兵士が徳川時代になってから当時を記録した『本城惣右衛門覚書』を紹介するなど、謀略論を信ずる愚かな一般読者としても敵ながらあっぱれな一冊と思いました。総合的には『ここまでわかった!明智光秀の謎』歴史読本編集部 編 がお勧めです。謀略論の他、明智光秀の築城した城の解説や、巻末には本書でも取り上げている『惟任退治記』が収録されています。また光秀の前半生を文献に基づき解き明かそうとした『明智光秀 浪人出身の外様大名の実像』谷口研語 著 歴史新書 洋泉社 もお勧めします。そして「信長公記」と「フロイスの日本史」の口語訳(文庫本)はお勧めです。最近の「歴史読本」の明智光秀特集や「歴史人」の織田家臣団の実像も最新の学説を取り入れていて役に立ちます。
     さて第六章後半及び終章で、呉座氏は明智憲三郎氏の『本能寺の変436年後の真実』を批評しています。最大の批判点は憲三郎氏が展開している「信長が光秀に家康打ち」を命じたが、逆打ちにあったと言う主張でしょう。史料は二点。本能寺の変に赴く兵士の記録です。その部分を参考本から確認します。
    ①フロイスの日本史「兵士たちはかような動きがいったい何のためであるか訝り始め、おそらく明智は信長の命に基づいて、その義弟である三河の国主(家康)を殺すつもりであろうと考えた」
    ②本城惣右衛門覚書「その時、信長様を切腹させるなどと言うことは、夢にも思っていなかった。その頃、太閤秀吉様が備中で毛利輝元様と退陣中であり、光秀はその援軍に行くと言うことだった。それで山崎のほうへ進出するはずのところ、思いがけず京都に向かうという。私どもは、ちょうど徳川家康様が上洛していたから、目標は家康様とばかり思っていた」
     呉座氏は本書で兵士たちが消去法で多分家康を殺すと考えたのだろうと述べています。しかし当時の信長が家康を殺すことは動機がないとしてこの説を否定しています。しかし個人的には、当時の兵士たちは極自然に葛藤も無く家康打ちを受け入れているように見えます。また本城惣右衛門は実際に本能寺に突入して首二つを挙げている兵士ですが、信長の首が目標であるとは知らなかったのです。光秀は目標が家康であると言う命令を、実際に伝えていたと考えることも出来ます。フロイスが本能寺の変後に拾った噂は、火のない所に煙は立たないと言うことだと思います。また惣右衛門は実際にあった家康打ちの命令を、覚書執筆時には盤石であった徳川幕府に配慮して噂と言うことにしたのではないか?でもこれだけでは、信長の命令があったかどうか分かりません。
     この説を支持したいのは、呉座氏を含めた専門家が信長の油断と言う言葉で逃げて、一万を超える光秀軍が入洛したことに気が付かなかったことの説明が無いことです。(※乙夜之書物では斎藤利三が兵二千で襲撃、光秀は鳥羽で待機)一方で秀吉が中国大返しに成功したのは、変後の恩賞から細川幽斉の秀吉に対するリークがあったとする憲三郎氏に対して、呉座氏は光秀の幽斉に当てた書状から事前の謀議は無かったと判断されています。(書状は本書にも登場する立花京子氏が花押の筆跡などから偽書と断定していますが、本書では紹介していません)呉座氏は秀吉の敏速な行動は、信長の備中入りの時期を探るため秀吉が信長の周りにA・『情報網』(協力者や忍のこと?)を張り巡らしていた結果としています。何の根拠も示していませんが、呉座氏の『情報網』が仮に真実としたら、信長も配下の武将には制度としての目付や『情報網』を張り巡らしていたはずなので、より一層信長の油断説は成り立ちません。当時信長が絶頂期にあったとしても、『情報網』が油断するとは思え無いからです。信長が当日再入洛予定の家康打ちを光秀に命じていたと考えれば、疑問は解けます。また中国大返しの成功について、『信長は謀略で殺されたのか 本能寺の変・謀略説を嗤う』では謀略では無く幸運の産物であるとしています。さらに呉座氏も B・山崎の合戦当日には強行軍のため秀吉全軍が間に合わずに、多くが参加していないとしていますが、不勉強のためかこのような学説が定説だとは知りませんでした。山崎合戦の秀吉方の先鋒は戦場に近い摂津衆ですが、後方には秀吉本軍や織田信孝、丹羽長秀など総勢4万程と言うのが、定説だと思いますが。(呉座氏は秀吉が事前に本能寺の変を知らなかったと言う傍証のために持ち出しています)上記AやBといった曖昧な論証では、謀略好きな一般読者は納得出来ません。
     次に呉座氏は家康との謀議を安土で行ったとする憲三郎氏の説は、お膝元で危険であるとしていますが、これはそうかも知れません。ただその後の神君伊賀越えの内容は、憲三郎氏が多くの史料を上げて江戸時代の虚構だとしているのに対して、呉座氏は史実として論じていますが、憲三郎氏に対する反証は全く無く、個人的には(光秀から事前に情報を得ていたため)神君伊賀越えが虚構だとする憲三郎氏の説を否定する最大のポイントを逃していて、残念です。
     動機については憲三郎氏は信長の唐入り計画に対する家系の断絶に対する決断と言うことでしょうが、ここは個人的には飛躍があって賛成出来ません。専門家に付け入る隙を与えていて残念です。
     ここで本書に対する憲三郎氏の反論は2018/03/17のブログで確認出来ますが、憲三郎氏は以下のとおり具体的な反論をブログには載せていません。本を読んで欲しいとのことです。

     ほら、来た、来た! 呉座勇一著『陰謀の日本中世史』に「明智憲三郎氏の奇説」の見出し。藤本正行著『本能寺の変 信長の油断・光秀の殺意』2010年の「光秀の子孫が唱える奇説」の焼き直しです。十数ページ書いていただいていますが、専門外のテーマをにわか勉強で書いたためか、残念ながら内容に乏しく、藤本氏の「油断説」の踏襲で見るべきものがありません。加えて「明智氏は家康黒幕説の代表的論者」と決めつけているのだから開いた口がふさがらない。『「本能寺の変」は変だ!435年目の再審請求』文芸社文庫をお読みいただければ、呉座氏の信奉する怨恨説・野望説の方が奇説であることがご理解いただける。呉座氏のような定説護持学者からの批判への反論を先取りして出版したのが『「本能寺の変」は変だ!435年目の再審請求』なので、読み比べていただくとそのことがよく見えてくると思います。読み比べて、どちらが奇説であるかを是非ご判断いただきたい。


     中略

     さらに、「信長が光秀を使って家康を謀殺しようとしたところ、光秀に逆用されてしまったというアイデイアも藤田達生氏が披露してる」と書いている。いかにもアイデア盗用でオリジナリティがないという言いようである。藤田氏が初めて提示したアイデアであることは2009年の拙著『本能寺の変 四二七年目の真実』で私が次のように書いています。

     後略
     
     という具合です。憲三郎氏にはブログか著作として具体的な反論を希望します。また憲三郎氏は本書の終章でも展開される批評を確認されていないのではと思います。

     本書第六章を離れ、その他の章での推薦本を2冊。(個人的にはこの辺が限界です)

     第二章第二節 源義経は陰謀の犠牲者か? 
    菱沼一憲 その伝説と実像 源義経の合戦と実像 角川選書
     本書で語られている自由任官問題の否定や、腰越状的理解の脱却の他、一ノ谷から屋島、壇ノ浦の戦いの合戦の実像に迫って楽しい専門家の本です。

    第四章第二節 観応の擾乱
    亀田俊和 観応の擾乱 中公新書
     個人的には、一読では敵味方の選択にも理解の困難な錯綜した時代です。しかし掲載の写真のほとんどが実際に亀田氏が歩かれた記録だと知って、また再読の楽しみも出ました。

    第七章 徳川家康は石田三成を嵌めたのか
     この章では何故か司馬遼太郎の小説『関ヶ原』の見解?を4回載せています。小説家の、しかも故人の見解を俗説の代表として載せることはどうでしょか?個人的には司馬遼太郎が大好きで、確かに東大阪の司馬遼太郎記念館の蔵書を見れば、並みの専門家もその見識には太刀打ち出来ないでしょうが、司馬氏は小説家です。歴史学者と違い、一部虚構だと知っていても歴史的事実を構築することを優先します。最新の学説に基づいて同じ土俵に上げることは反則だと思います。                      

    ※本書の出版後に異聞本能寺の変『乙夜之書物』が記す光秀の乱 萩原大輔著 を拝読しました。光秀が本能寺の当初の襲撃に参加していなかったと、史料にあることは、光秀が永禄の変や六条合戦での経験を踏まえて、周到に計画を練った結果として納得できます。


    永禄の変 
    三好松永軍が主力1万超を郊外に置き70騎で清水寺参詣装い奇襲
    義輝警戒も多勢に無勢で敗死
    →フロイス日本史

    六条合戦
    三好三人衆等が本国寺の義昭包囲
    光秀等が防戦
    後詰が撃退
    →信長公記 

    本能寺の変 
    光秀が主力を鳥羽に置き
    斎藤利三が兵2千で信長奇襲
    →乙夜之書物

    以上

    蛇足ながら光秀に関して、推薦本を2冊。

    小和田哲男 明智光秀・秀満:ときハ今あめが下しる五月哉 (ミネルヴァ日本評伝選 196)

    最新の研究も踏まえて、丁寧で押し付けがましくなく、確か光秀好きを公言されておられた著者の人柄も出ている良書だと思います。巻末の年譜、事項・人名索引もお役立ち。


    福島 克彦 明智光秀-織田政権の司令塔 (中公新書 2622)


    著者の福島克彦氏は私も何度か訪れている大山崎歴史資料館の館長で、光秀に関する著作や講演も多くされており、造詣も深く、光秀の最新の史料、学説も網羅されています。

     例えば、本能寺の変の後、秀吉が茨木の中川清秀に返書で送った信長生存の手紙(※梅林寺文書)について、他の学者が秀吉の情報戦略の一例として紹介しているところ、「当時茨木にいた清秀には、日々京都、畿内・近国の情勢がより正確に入ってきたはずである。」と冷静。

    梅林寺文書はもともと清秀が先に本能寺の異変を秀吉に伝えたもの(内容は伝わっていません)の返書で、私的には多分秀吉は信長生存説をばらまいたが、清秀にも同様の内容を送らないと齟齬が出ると考えたのではないかと思います。

    梅林寺文書
    ※『これから書状を出そうと思っている時に貴報を受けて嬉しく思う。さて、ただいま京都より下った使者の報告によると、信長様・信忠様はいづれも、なんのお障りもなく難を切り抜けられ、膳所ヶ崎へ退かれた。その間、福富平左衛門が三度も力戦をして比類ない働きをし、何事もなかったとのこと・・・なお、ただいま野澱(岡山県御津郡)まで到着したところ、貴殿(清秀)の書状を拝見しました。今日できれば沼(岡山県上道郡)まで進もうと思っている。また、古田左介(織部)にも同様にしたためておこう』
    わがまち茨木・茨木市教育委員会





     

  • 研究者の方たちはもっとこういう本を書いてほしい。

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著者プロフィール

国際日本文化研究センター助教
著書・論文:『応仁の乱 戦国時代を生んだ大乱』(中央公論新社、2016年)、「永享九年の『大乱』 関東永享の乱の始期をめぐって」(植田真平編『足利持氏』シリーズ・中世関東武士の研究第二〇巻、戎光祥出版、2016年、初出2013年)、「足利安王・春王の日光山逃避伝説の生成過程」(倉本一宏編『説話研究を拓く 説話文学と歴史史料の間に』思文閣出版、2019年)など。

「2019年 『平和の世は来るか 太平記』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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