オスマン帝国の解体 文化世界と国民国家 (講談社学術文庫) [Kindle]

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  • 講談社 (2018年3月11日発売)
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  • 20世紀から現在に至るまで民族紛争・宗教紛争の絶えない地域である中東、バルカン。
    これらの地域はいずれも、13世紀末から600年以上にわたり君臨したイスラム大帝国、オスマン帝国の広大な版図の一部であった。

    オスマン帝国は「多様性の帝国」であった。
    その広大な版図においては、多様な宗教、宗派、民族に属する人々が、比較的平穏に共存していた。
    イスラム帝国でありながら、一部のキリスト教徒やユダヤ教徒も、不平等はありながらも緩やかに共存していた。
    また、交易の利に支えられたオスマン帝国は「開かれた帝国」でもあった。

    そんな長い「パクス・オトマニカ(オスマンの平和)」が崩壊し始めたのはほんの200年前。
    近代西欧で生まれたナショナリズムの大波が「西洋の衝撃」としてオスマン帝国を直撃し、まずはバルカン半島のキリスト教諸民族が、続いて中東のムスリム諸民族がネーション・ステートとしての自立を目指して立ち上ががる。
    オスマンの平和を支えたアイデンティティと共存システムは破壊され、そのうねりの中で帝国は次第に崩壊していく。
    そして、バルカンは第一次世界大戦の引き鉄となり、20世紀終盤には凄惨な内戦で多くの犠牲者を出す。
    一方、中東は西欧植民地主義により恣意的に分断され、それが現代に至っても解決の困難なこの地域の複雑性の根本を覆っている。

    以上が、本書で語られる史観の提要である。
    なかなか馴染みにくい地域の話だが、特にオスマン帝国崩壊の過程が詳らかに解説されるあたりは興味深い。
    では、現代も未解決のままのこれら地政学的課題をどう解決すればよいのかという観点でのアイデアは本書では語られない。
    まさか時間を巻き戻してオスマン帝国を再興することがソリューションにはなり得ないだろうし。
    ただ、今のように宗教対立ばかりにフォーカスを当ててしまうと解決はさらに遠くなるということだけは言えそうだ。

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著者プロフィール

1947年生
1982年 東京大学大学院法学政治学研究科博士課程修了、法学博士
東京大学東洋文化研究所教授などを経て、
現 在 東京大学名誉教授

著書:
『オスマン帝国――イスラム世界の「柔らかい専制」』(講談社現代新書、1992年)
『オスマン帝国の権力とエリート』(東京大学出版会、1993年)
『オスマン帝国とイスラム世界』(東京大学出版会、1997年)
『世界の食文化(9) トルコ』(農村漁村文化協会、2003年)
『ナショナリズムとイスラム的共存』(千倉書房、2007年)
『文字と組織の世界史』(山川出版社、2018年)
『オスマン帝国の解体――文化世界と国民国家』(講談社学術文庫、2018年)
『文字世界で読む文明論――比較人類史七つの視点』(講談社現代新書、2020年)
『食はイスタンブルにあり――君府名物考』(講談社学術文庫、2020年)
『帝国の崩壊――歴史上の超大国はなぜ滅びたか』(編著、山川出版社、2022年)他

「2023年 『オスマン帝国の世界秩序と外交』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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