道ひらく、海わたる 大谷翔平の素顔 (扶桑社BOOKS) [Kindle]

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  • 是空の人 大谷翔平

    プロ野球で今までに凄いと思った選手は稲尾、野村、江夏、落合、野茂、新庄、イチローなど数多いが、今は大谷翔平である。

    読み始めたときは、大谷は人間的にも欠点のないヒーローであり余りにも話の出来すぎ感を感じたが、読み進んで一挙に引き込まれた。著者もかっては岩手の地で白球を追った高校球児であり、大谷が高校に入学した頃から綿密な取材を重ねた集大成が、マスコミだけでは知り得ない大谷翔平という人間の「何か」を鮮やかに浮き彫りにさせた労作である。

    栗山監督の話1
    「前にこんなことがあったんです。
    あと3イニングスを投げれば防御率のタイトルを二年連続で獲れるというときに、僕が『どうする?』と聞いたら、翔平は『どっちでみいいです』って。結果的にそのときは投げさせなかったんですが、改めて当時のことを訊いたら『う〜ん(タイトルを)欲しくないというわけじゃないんですけど、どっちでもいいですよね、そういうのは』みたいな感じで言うんです。そいう価値観なんですよね、翔平は」
     
     大谷翔平の価値観の最優先は記録ではない(ましてやお金 でもない)。彼の価値観の最優先は、自ら欲し求める理想 のプレイである。
     >う〜ん(タイトルを)欲しくないというわけじゃないん ですけど、どっちでもいいですよね、そういうのは
     こんなことをサラッと言うところに大谷の人間としてのレ ベルの凄さがある。

    栗山監督の話2
    「大谷はマイペースというか、いい意味で『計算をしていない』ところがあると思います。たとえばゴールが決まっていて、そこにいくために一番効率の良い答えや方法を求めようとしていない感覚みたいなものがある。もちろん野球の技術などはそういう考え方かもしれないですけど、彼の生き方として、計算して物事を判断するのではなくて何か湧き出るものに従っていこうという、すごく自然な生き方をしていると思います。何かをしたいと思えば自分の湧き出る思いに従ってするし、したくないと思ったらしない。自分の本能に従って生きている感じはします。それが堂々とした形になっていますし、それが伸びやかで大らかな部分なのかなあと思うこともあります。」
     
     お金や地位や名誉に優先的価値観をおく人間の湧き出るも の とは、全く違う純粋に湧き出るものである。純粋なし たいしたくない、純粋な本能である。天才は純粋である。

    高校時代にメジャーを志すきっかけを作った小島圭市は、大谷の本質に触れる。
    「センスに関しては、格好よく言えば『天から与えられたもの』です。でも、たとえばお金を儲けるために、彼はそういう野球の才能をもらったのではない。大谷翔平にとっての野球は、人生を磨くためのツールなんです。人よりも才能を持つというのは、他人よりも厳しい壁や山を乗り越えなければいけない使命を授かっていることだと思います。」

    選ばれし天賦の才は他人よりも高みを目指し乗り越えるため

    あえて大谷に訊いた。
    大谷翔平の哲学とは?
    「ないですよ。まったくないです、それは。そんなに長く生きてないですよ。
    これから・・・・一個、見つかるかどうかぐらいの大きなことだと思うので、哲学というのは。今は全然ないですね。そこまでの経験がないですから。」
    彼は、少しばかり上体を反らせて笑うばかりだ。
    何年か後にもう一度、哲学について訊いてもいい?
    「そのときも、ないと思います。僕は、自由に生きたいので」
     
     人間はちょっと成功したり世に名前を知られると、「俺の 哲学」みたいな誇示をしがちである。出版社なども時の人 が出現するとすぐ商売で「だれだれの人生哲学!」なんて 本を出したりそれがまたベストセラーになったり。
     
     >これから・・・・一個、見つかるかどうかぐらいの大き  なことだと思うので
     > そのときも、ないと思います。僕は、自由に生きたい  ので
     どんな世界でもトップレベルに行くには基本的な型はある と思うし、最初はひたすらその型を習得するための根気強 い反復練習は必要だろう。しかしある段階を越えると心も 技も体も、型にこだわることが進歩の妨げとなる。
     野球というひとつの世界のトップ選手とはいえ、20歳を 少し過ぎたくらいの若者がここまで言えるか!大谷の凄さ はホームランでも160km越えの速球でもない。大谷の凄 さは、その大谷翔平という生き方あり方である。

     哲学は
     無いという君
     是空なり

    メジャーのトップに行きたい。
    長く野球を続けたい。
    何か新しいことを、他人がしたことのないことをやりたい。
     
     金でも名誉でもない、自分に湧き上がってくるものに従っ て生きたい。大谷は、五十代まで現役でやりたいと言って いる。大谷が目指すべきものは、揺らぐことはない。

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著者プロフィール

北海道大学大学院文学研究院教授。1959年札幌生まれ。北海道大学大学院文学研究科修士課程修了。旅行代理店、民間シンクタンク、北海道立北方民族博物館(学芸員)勤務後、東北大学東北アジア研究センター助教授を経て現職。専門は博物館経営論、特にミュージアムにおいて数年かけて使命の再構築と事業評価設計のサポートを通した評価研究。主な論文、著書として「博物館における外部性と評価の今後の展開」『新訂 博物館経営論』(共編著)

「2021年 『学芸員がミュージアムを変える!』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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