- 講談社 (2018年4月26日発売)
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感想・レビュー・書評
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最近の問題関心として,「どこまでの格差ならば正当化できるか。逆に,正当化しえないほどの格差というものが存在するのではないか」ということが頭の片隅にあります。
本書は,この問題関心にも応えるものとなっています。
確かに,既に富んでいるものからすれば,所得の半分以上も税金や社会保険に取られるのはとんでもない,ということになるでしょう。
しかし,得られた富の源泉は何でしょうか。
むろん,努力や才覚によって差を付けることは否定しませんが,真に公平な社会を実現するのであれば,一部のリバタリアンが主張するように,相続税率を100%にしてスタートラインを可能な限り公平にし,あとは努力や才覚で勝負してください,という制度を採用すべきなのではないか,とも考えられるところです(もちろん,親の教育レベルや職業といった無形の文化的資産まで取り上げることは現実的ではありませんので,完全にスタートラインを揃えることはできないと思います。)。
また,本書で触れられているように,労働力を買い叩いて富を形成した人も多いのではないでしょうか。
そうであるならば,出自に恵まれた幸運や他人の犠牲の上に形成した富は,ある程度社会に還元していくことが,むしろ筋が通っているといえます。
ところで,格差が正当化しえないほどに拡大したとして,そのような社会で何が起きるかといえば,例えば本書で「バルス」が実行したような一種の暴力的手段による社会変革運動です(これが失敗すればテロ,成功すると革命と呼ばれることになります。)。
こう考えれば,富の再配分機能は社会を安定化するための装置であり,これを軽視すると社会が不安定となり富裕層のためにもならないといえるでしょう。
とはいえ,富裕層には,金持ちを優遇するシンガポールなどの国に脱出する途が残されており,富裕層への負担を過度に重くすることは,大事な税源が海外に流出していく事態につながりかねませんので,富の再配分をどこまで推し進めるかは微妙な問題となってきます(この辺りは,橘玲「タックスヘイブン」や清武英利「プライベートバンカー」に繋がるお話です。)。
結局,「正当化できない格差」に至らず,さりとて富裕層の負担も重すぎず,といったところでバランスをとらざるをえないのでしょう。
もう一つ,本書を読む前から考えていたのは,いわゆる非正規労働者が順調に(?)増加し,正規労働者の数を十分上回ったときに,何が起きるかということです。
現在,正規労働者から成る労働組合が,自らの権益を守ることに汲々としているというのが真実であるとするのであれば,非正規労働者が増加した世界では,数の論理によって自らの権益を切り崩されるのは明らかです。
そうなのであれば,労働組合に必要なのは非正規労働者の排除ではなく,包摂であるべきだと思います。詳細をみるコメント0件をすべて表示
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