言葉の魂の哲学 (講談社選書メチエ) [Kindle]

  • 講談社 (2018年4月10日発売)
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  • 言葉を選ぶ責任を放棄しないことが戦争を防ぐかもしれない。そのくらい大切なことだ。

    P25 この現象(ゲシュタルト崩壊)をめぐっては、例えば夏目漱石の小説『門』の出だしにも関連する叙述が見られる。
    【中略】幾ら容易しい字でも、こりゃ変だと思って疑り出すとわからなくなる。この間も今日の今野寺で大変迷った。紙の上へちゃんと書いてみて、じっと眺めていると、なんだか違ったような気がする。しまいには見れば見るほど、今らしくなくなってくる。

    P37 但し文字のゲシュタルト崩壊が束の間だけの体験で済んでいる人であっても、疑問を持ちうるだろう。それは、文字はどうすれば意味を持つのかという問い、言い換えれば、無機質な単なる線の集合はどうすれば生きた存在となるのか。という問いである。

    P75 一面では、言葉を理解するというのは。言葉をどんな時にどう発するか(どう振る舞うか)というパターンをマスターすることに尽きるように見えるが、他面では、感じること、体験するということが必要なのではないか。【中略】ただしここで問いが二つ生じてくる。(1)言葉を体験する、感じるというのははたしてどれほど重要なことなのか。「すばらしい」「スキーム」「アジェンダ」等々の言葉についても同様に言えるのだろうか。(2)またそもそも言葉全般に関してそれを「体験する」とか「感じる」というのはいったいどういうことなのか。【中略】あたかも霊魂が宿ったかのように、馴染みの言葉や物が表情をもって生き生きと立ち現れてくるという感覚を古今東西の人々が覚え、それが例えば中島敦やホーフマンスタールなどによって文学作品へと昇華されているというのも確かなことである。

    P91 言葉を理解しているということには、当該の言葉を他のどんな言葉に置き換えてもしっくりこないということも含まれるのである。

    P137 (エスペラント語は)冷たく、何の連想も呼び起こさないにもかかわらず「言語」のような顔をしているのだ。(ヴィトケンシュタイン)【中略】ここで注目すべきなのは、言葉が連想を呼び起こすという点に、彼が言語の本質的な特徴を見出しているという点である。

    P150 「ぴったり合う」とか「しっくりくる」というのは、例えば、パズルのピースが収まるべき場所に収まるというイメージ、すなわち、あらかじめそのピースの形に形成された場所にはまる・組み合うというイメージを喚起する。【中略】この言葉がぴったりおさまるべき場所があらかじめ存在し、そしてこの言葉が実際に収まったということになる。つまり、等の言葉がなくとも、言うなれば言葉の輪郭だけが ―言葉の表情、雰囲気、あるいは魂といったものだけが― 存在する、というイメージである。しかしそれは錯覚である。

    P157 文字は凝視に耐えられない。文字はそこに一転立ち止まって凝視してはならない。それは一瞬、瞥見した瞬間に何事かを感知し、あとは目を背けなければならない。(開高健)

    P161 言葉が際立ち、注意を惹かれても、それ自体に注意を集中し続けてはならない。言葉がどのような生活の流れの中に位置し、どのようなものと連関しているかを見渡していくこと、つまり、一つ所に留まらず、いわば次々にアスペクトを渡っていくことで初めて、言葉の輪郭というものを捉えることができるのである。

    P171 本来の用法や一般的な用法からすれば誤用とみなしうるが、その逸脱ゆえに独特の意味合いを帯びる言葉や、その逸脱をもっともと感じさせたりするような言葉は、様々にありうるだろう。…逸脱することによって実現する「正しさ」もありうる

    P201 「言葉を選び取るというのはそれ自体が人のとるべき一個の責任である」【中略】「行われるべきこととしては最も重要な責任でありながら、現に行われていることとしては最も安易な責任と化している」(クラウス)

    P208 物事を名指ししつつ、それに対応する心的なイメージを喚起しないことを欲した場合に、こうした決まり文句(フレージオロジー)が必要となるのだ。オーウェルによれば、政治の言葉の特徴とは、論点をぼやかす曖昧で婉曲な言い回し、物事を名指ししつつ、それに対するイメージを喚起させないことをねらった決まり文句である。

    P217 リツィートやシェア等の反射的な引用・拡散や「いいね」等の間髪入れない肯定的反応の累積がもたらすのは、それによって単に重量を増した言葉がほかの言葉を押しのけるという力学であり、かつてない速度と規模を持つデマや扇動の生産システムではないのか。

    P220 すっかり常套句と化したような無表情な言葉であっても、それをこれまでとは異なる文脈の中に置いたり、別の様々な言葉と組み合わせたりすることによって、再び生き生きとした表情を宿らせることができる。(ex「若者の深刻な犯罪離れ」

    P227 社会で生きていく上では、多面的な視点などもたないほうが波風が立たないし、気楽に暮らしていけるのではないか ― 確かにそのとおりで、<言葉の実習>などしなくても生きてはいける。クラウスが批判したような、誰かの言葉の反復に過ぎないものを自分の言葉として生きていく、ということも確かに可能だ。しかし・・・<言葉を選び取る責任>を自覚し、これを果たすことが重要である。【中略】自分でもよくわかっていない言葉を振り回して、自分や他人を煙に巻いてはならない。出来合いの言葉、中身のない常套句で迷い(ツヴァイフェル)を手っ取り早くやり過ごして思考を停止してはならない。

  • 大規模言語モデルchat GPTの質の高さにどきっとしたので、言葉というものが知りたくなって読みました。

    言葉の多面性について、人が言語を習得することについて、ぼんやりと実感していたことが言語化されて、納得感がありました(←この納得感を感じるという「感覚」もよく理解できました)
    アスペクト(相貌とか表情とか)がない人の例とか、エスペラントの薄っぺらさとか、面白かったです。

    過去の哲学者だけでなく、自分と同世代で今を生きている日本人の哲学者が書いたものも、少しずつ読んでいきたいです。

  • p.2022/7/13

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著者プロフィール

1979年、熊本県生まれ。東京大学大学院人文社会系研究科准教授。東京大学文学部卒業、同大学院人文社会系研究科博士課程修了。博士(文学)。新潟大学教育学部准教授、専修大学文学部准教授を経て、現職。専攻は、哲学・倫理学。著書『言葉の魂の哲学』(講談社)で第41回サントリー学芸賞受賞。

「2022年 『このゲームにはゴールがない』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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