悪と全体主義 ハンナ・アーレントから考える (NHK出版新書) [Kindle]

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  • 普段は政治を他人任せにしている、何も考えていない「大衆」は、安直な安心材料や分かりやすいイデオロギーのようなものを求める。それを与えてくれたのがナチズム。
    オウム真理教に傾倒した人たちも、そうだったのかもしれない。
    ナチスは「ユダヤ人がいない世界」ではなく、「そもそもユダヤ人などいなかった世界」に仕立てようとした。それが可能だったのは、ナチスがドイツ人からも「道徳的人格」を奪っていたかららしい。この「道徳的人格」という概念は初めて知った。
    道徳的人格が否定された存在を殺すのは、物質を壊すことと同じ。


    「異なった意見を持つ他者と対話することがなく、常に同じ角度から世界を見ることを強いられた人たちは、次第に人間らしさを失っていきます。」
    全体主義は、単に妄信的な人の集まりではなく、実は「自分は分かっている」と信じている人の集まりだ、というのは覚えておいて自戒したい。
    私もいつアイヒマンになってしまうかわからない。恐ろしい。
    「自分と異なる意見を持ってる人と本当に接し、説得し合う」ことをしていきたい。


    『全体主義の起源』を読んでみたいけど、難しそう…。

  • 『イエルサレムのアイヒマン-悪の陳腐さについての報告』の著者ハンナ・アーレントから悪と全体主義について考察した本。
    この本を読むまで、アイヒマンは、自分が助かるために「法に従っただけ」「軍に従っただけ」と弁明している矮小な人物というイメージがあった。けれど、そうではなく、こう言えば反感を買うとわかっていて、終始自分がやったことの意味・意義、遵法の精神について冷静な態度で落ち着いて何時間も話したとか。「法」の正しさ。プラトンの『悪法もまた法なり』について考えさせられる。
    全体主義に陥らないためには、複合的な視点を持つこと。
    それは自分の主義主張を裏付ける意見を取り入れるのではなく、反対意見にこそあること。
    そして、討論は勝ち負けではなく、意見を高めるために行うもので、相手の弱い部分、浅い部分をつけこむ態度ではいけないこと。
    情報のあふれるインターネット社会で、簡単に自分の主張を肯定する意見が手に入り、弱点のある論理的でない箇所のある反論もまた簡単に手に入るからこそ、心がけたい。

  • 著者の『今こそアーレントを読み直す』は、仮面と闇と役割、というあたりが好きでした。

    本書ではその辺りは闇をのぞいてほぼなくなっていたりと、大体同じような内容のところも2冊で微妙に違っていてそれはそれで面白かった。

  • ガッツリ面白かった。

    数年前から、「コテンラジオ」という歴史をテーマにしたラジオ番組を聞いている。それまで「十字軍遠征なにそれ?医療チーム?」みたいな状態だったのだが、あっというまに歴史の面白さの沼にハマった。

    ヨーロッパの土地はなぜあんなにも国が多いのか?みんな共通の言語を話せばいいのではないか?アラビアの方ってヨーロッパと同関係があるの?かねてから疑問ではあったが、ゆっくりとその辺の知識が理解でき始めている。(もっと早くに学べられればよかったね、、、って思ってる。

    そしてこの本。
    なぜドイツと言う国が、他の国とは異なり全体主義に陥ったのか、なぜホロコーストの悲劇が起きてしまったのか、そしてアイヒマン。「最終解決」の最高責任者はなぜあの行為ができたのかをこの本は解説している。

    ヨーロッパ、ないし、ユダヤ人にかかわる歴史を知っていると理解がより深まるが、そうでない人に向けても丁寧に解説が書かれている。復習の意味にもなって個人的には非常に良かった。

    当時の人々のことを「なんでこんなことをしたんだ。本当に馬鹿だな」というのは簡単では有るが、それではだめだ。当時の人々の状況、文化、そこにいたるまでの背景を考えれば、今の僕達と何も変わらない。
    ともすれば、未来の人間に僕たちが同じように馬鹿にされる可能性はある。

    特定の状況が発生して人々が不安や恐怖に陥った場合、どのような希望にすがってしまうのか。分かり易い敵の存在、多数派は少数派をないがしろにしても良いという観念、思考を放棄したときに人は人でなくなる。

    ハンナ・アーレントは、人々に考える切っ掛けをあたえ、人が人らしく生きるために道を切り開いた人だ。

  • 全体主義はどのように起こりなぜ止められなかったのかハンナアーレントの名著を通じ自分の頭で考えることの重要性を説いた本。
    アーレントは第二次世界大戦後の声を諸国の政治思想に大きな影響与えた政治哲学者である。その著書の中で現代も全体主義をめぐる考察にとって自由なのが全体主義の起源とエルサレムのアイヒマンである。
    全体主義は全体主義的と言う言葉を明確な意味で使い始めたのはイタリアのファシズム政権はドイツのナチスよりの知識人。近代化の過程でバラバラになった個人に再び居場所を与えてくれるような国家こそが真の自由を実現すると言う考えをファシズム国家を全体主義的と彼らは形容。

  •  『全体主義の起源』で有名なハンナ・アーレントの伝記や著作をもとに、全体主義とはどんなもので、どんな背景から生まれ、何故広まったかを検証する。アーレントの著作はかなり難解なので多くの解説書が出ているが、本書は単にその主張をなぞるだけではなく、現代の世界や日本の状況にも当てはめる形で理解を深めている。

     アーレントはナチスから逃れてアメリカに亡命したユダヤ人であるため、まずはナチスのユダヤ人政策が掘り下げられる。フランスのドレフュス事件に現れるように、反ユダヤ主義はナチスが始めたわけではなくヨーロッパに以前から存在したもので、ナチスはそれを利用したに過ぎない。

     では何故ヨーロッパに反ユダヤ主義が生まれたのかというと、国民意識と関係している。国王と家臣と領民からなる従来の国家と異なり、国民国家は国民の同質性を基盤としている。同質性が存在するには同質でないもの、つまり「敵」を必要とする。ユダヤ人は社会の敵として、自分たちの社会に問題があった時に責任をなすりつける相手として格好の存在だった。

     全体主義運動は大衆運動だとアーレントは言う。ナチスがユダヤ人を排斥したのはユダヤ人を憎んでいたからではなく、多数派のドイツ人にとってそれが魅力的な方法だったからだ。ユダヤ人が世界を支配しようとしているという世界観は、社会に対する自分たちの責任を回避するのに都合が良い。「大衆」がそういうものを望んだのである。

     著者が何度か指摘するように、同じような大衆心理は現在もしばしば現れる。日本でも時々「本当の日本人」などと言う表現が出てくる。近年も「純ジャパ」なる言葉が物議を醸した。「本当の日本人」がいるなら「本当ではない日本人」がいることになる。この思想から異分子の排斥まではほんのわずかな距離だ。

     全体主義やファシズムの代名詞ともなったナチスはヒトラーという独裁者とセットで語られるが、全体主義の本質は独裁でも恐怖支配でもない。多数派が安直な安心感を得るために少数派を排斥することであり、それを一般大衆が支持することだ。つまり全体主義は民主主義からこそ生まれてくる。現代の民主主義国に生きる私たちには、自分たちの社会に全体主義の萌芽が出てきていないか、常に注意を払う必要と責任があると思う。

  • 新書って、複雑でよく知らないことを単純化して理解するときによく読むんだけど、この本は「ものごとを単純化してはいけない」と教えるもの。
    単純化したい人たちにアーレントは誤解され続けている。それをやりたい人たちにあるのは、「複数化」によって難しくなり、わからなくなることへの恐怖かもしれない。「知」は人間の手に余るものになってしまったのか。

  • アーレントの本は分かりにくいのであるが、手際よくまとめていて理解しやすい。

  • 全体主義とは、資本主義の発達によってそれ以前の階級社会に存在しなかった「大衆」の支持を集めて誕生したとある。「全体主義」の発生を未然に防ぐには、「大衆」に堕落する以前の、教養を持った「市民」が正しく考える習慣を維持すればよいのだが。西欧的な「市民」は、ちょっとエリート臭さがあり、〈意識高い系〉とどこがちがうのかよくわからない。

  • 忘れないためにメモとして……。 そもそも全体主義とは大衆運動である。大衆と市民との違いは、「市民」とは自分たちの利益や、それを守るためにどう行動すればよいか明確に意識している人たちで、「大衆」とは、何が自分にとって利益なのか分からない人たちで、その大衆が自分たちにふさわしいと思ったのが「全体主義」。「大衆」は国家や政治家が何か良いものを与えてくれるのを待っているだけのお客様で、周囲に合わせ没個性的漫然とした生き方をする。 コロナによって社会全体が不安定な状態になっている今、この全体主義に陥りやすい状況だ。

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著者プロフィール

1963年広島県生まれ。東京大学総合文化研究科地域文化研究専攻博士課程修了。金沢大学法学類教授。専門は法哲学、政治思想史、ドイツ文学。著書に『現代哲学の最前線』『悪と全体主義』(NHK出版新書)、『集中講義!日本の現代思想』『集中講義!アメリカ現代思想』(NHKブックス)、『現代思想の名著30』(ちくま新書)、『マルクス入門講義』(作品社)など多数。

「2022年 『現代哲学の論点』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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