おもかげ (毎日新聞出版) [Kindle]

  • 毎日新聞出版(インプレス) (2017年11月28日発売)
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感想・レビュー・書評

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  •  人の死や死に際の様子を通して登場人物それぞれの立場の人が思う感情に共感し、時に悲しく、時に心温まる物語でした。
    個人的には通勤電車で読むには所々涙をこらえることが大変だったので、家で1人ゆっくり読むことをお勧めします。(笑)

     定年退職して送別会の帰りに電車内で倒れ、集中治療室で眠る主人公。
    これからゆっくりと妻や娘家族たちと過ごす予定だったのに急に生死を彷徨う状態。
    よく死に際に「三途の川を渡る」とききますが、主人公も意識だけははっきりしていて意識の中で3人の女性や入院仲間に出会う。最後にきちんと伏線回収があってあたたかい感情で終われました。

     自分の身や身近で関わる人に起きなければ日常生活で「死」について考えたり思いを巡らすことは少ないので、触れられて良かったです。
    就職・転職・転勤・結婚・出産・離婚など人生で起きるイベントによって新しい出会いもあれば親交が途絶える人もいて、付き合いの優先順位や価値観も変わっていく。
    仕方のないことかもしれないけれど、「突然の別れ」となったときに後悔しないよう、人との付き合いを大事にしたいと思いました。

     また、主人公が有名大学を卒業したエリート商社マンで重役で何も知らない人からしたら羨ましい経歴だけれど、本人は自分の出自を含めた過去にずっと苦しんでいて色々な思いを持って選択して得た仕事であり家族であること。主人公に限らず1人ひとりの人生には様々な過去があってそれぞれに感情があって表面に見えていることだけが全てではないことを肝に銘じて人と向き合っていきたいです。

  • 浅田次郎さんの小説は大好きだけれど、この本は特に良くて、しばらくしたらもう一度読みたい

  • 私と生年が同じである浅田次郎の作品は、登場人物の過ごした少年期、学生時代、そして会社員時代の風景が自分の経験とドンピシャなので感情移入しやすい。この作品でも主人公は65歳の定年退職後、送別会の帰りに倒れるという設定であり、4年前自分が65歳で退職したときのことと重なって身につまされた。人は例外なくいずれは死の床に就く。その時に、家族にさえ明かしたことがなかった一生の想い出がよみがえるというストーリー。主人公が過酷な人生で出会った優しい人たちの性格描写が良かった。

  • 素晴らしく心に響く作品でした。読み終わってなんとも言えない暖かいものがこみ上げてきました。そういうことだったのかと胸が熱くなった。構成的にも素晴らしいし、心に訴えかけるストーリー…!渋めのファンタジーのような。
    エリート会社員の竹脇正一は定年の日の帰りの地下鉄で倒れ意識を失い病院に運びこまれる。重篤な状態であるが、本人の中での意識は普通にあって、心は病院の外にさまよい出す。そこで出会う謎の年上の女性たち。それが誰であるのかだんだんに明かされていく。
    真面目で優秀で社会人としては成功したといえる正一が秘かに抱える喪失感。それは自分の出生がわからないことが根源にある。親を知らない正一が普通に生きることを目標に懸命に生きた65年間。正一を生んだ母の事情がこの瀕死の状態での心の旅の中で明らかにされていく。
    もうね、本当にあぁ…!ってなります。正一も母も報われるようなラストに。幼い母が精一杯の気持ちで下した決断の想いが伝わったであろうことに。
    そしてこの小説の中での影の主役であると言っても過言ではない地下鉄の存在感。正一と地下鉄の運命的なつながりに心打たれました。母はそばにいなかったけど、あたたかな地下鉄と月の光に守られながら生きてきたんだなぁ。
    もう、本当に本当に良かったです。こんなストーリーを書ける浅田次郎さんは天才だと思う。
    正一本人のストーリーはもちろんのこと、その間の家族や周りの人たちのストーリーもまたひとつひとつが丁寧でさらにあたたかい世界が広がります。間違いなくおすすめの一冊です。

  • 定年退職の送別会の帰りに地下鉄の車内で倒れた竹脇正一。集中治療室で意識が戻らない。生と死を彷徨う中、35歳,60歳,80歳の女性や幼馴染みの永山徹、隣のベットの榊原勝男に誘われベットを魂が抜け出す。正一自身知らない出自、これまでの人生を振り返ることになる。誰もが持つ過去のしがらみや後悔が自分を重ねてジーンと胸を打つ。最終章で正一の出生の事実と三人の女性の事を地下鉄車内やホームで正一自身が目にする。「忘れざる人々の面影を胸いっぱいに抱えて僕はもう一度地下鉄から生まれた」正一は生還したんだと思いながら読了。

  • 六十年生きてきた人の、その人生は「幸せ」とか「不幸」だとか一言で言い表すことはできないな…としみじみと感じるお話でした。

    冒頭の同期の社長のくだりでは「悲惨な生い立ち」とあり、その後も「不幸」という言葉でミスリードされたにもかかわらず、そう感じました。

    主人公が昏睡中に出会う女性たちも謎めいていましたが、読み終えてから振り返ると、特に一番年配の白い貴婦人のような女性は「不幸」ではないように思えて何だかホッとしました。

    そして終盤でのあの子の登場では泣かされてしまい、すっかり物語に入り込んで一気読み。おもしろかったです。

  • 浅田次郎のおもかげを読みました。

    竹脇正一は65歳になり、会社を定年退職することにします。
    退職のその日同僚に送別されて地下鉄で帰宅する途中、正一は倒れてしまいICUに収容されてしまいます。

    ICUで体が動かせないまま、正一の意識は過去と現在をさまようのでした。
    身寄りのなかった正一の生い立ちや、友人・家族たちとの物語が語られていきます。

    konnokも現在65歳なので同じような状況に陥るかもしれませんが、たぶんkonnokの場合は恥ずかしい失敗談の数々を思い出してしまうんだろうな、と身震いしたのでした。

  • 著者会心の長編、地下鉄シリーズの一環。

  • 時空を超えて走る地下鉄。読みながら現実と幻を行き来する感じ。
    クライマックスに向けて「もしや、これは…」という興奮が高まってドキドキしました。
    物語の中に入り込め、余韻が長く続きました。

  • 孤児で施設でそだった竹脇は、定年退職の送別会の帰りに意識を失ってしまう。
    意識不明で入院する中、夢だか霊だかわからないような体験をする。
    主人公やまわりの人の温かさ、主人公の苦労を思うと、途中、涙腺が崩壊しそうになった。ちょっとあまりにも暖かい人ばかりが登場してきた気もするが、やさしい気持ちになる本。

  • ファンタジーだし、それにしてもできすぎた話なのだけれど、浅田氏の術中にはまったというか、ツボにはまって大変でした。終盤の舞台となる銀座線の、復刻特別仕様車に先日偶然乗れたこともあり、感動もひとしお。気持ちよく泣かせてもらえます。

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著者プロフィール

1951年東京生まれ。1995年『地下鉄に乗って』で「吉川英治文学新人賞」、97年『鉄道員』で「直木賞」を受賞。2000年『壬生義士伝』で「柴田錬三郎賞」、06年『お腹召しませ』で「中央公論文芸賞」「司馬遼太郎賞」、08年『中原の虹』で「吉川英治文学賞」、10年『終わらざる夏』で「毎日出版文化賞」を受賞する。16年『帰郷』で「大佛次郎賞」、19年「菊池寛賞」を受賞。15年「紫綬褒章」を受章する。その他、「蒼穹の昴」シリーズと人気作を発表する。

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