- Amazon.co.jp ・電子書籍 (480ページ)
感想・レビュー・書評
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胸クソ案件でもあり、
傷口に塩(を丹念に揉み込まれる)案件でもあり、
「悪は普通の人の中にある」案件でもある。
一番辛くて悔しいのが、加害者が「なんで俺ら悪いわけ?」って思い続けていること。自分は運が悪かっただけだ、と。ただの遊びの延長なのに大袈裟にされていい迷惑だ、と。だいたいあんな女、ヤリたいとも思ってねえよ、と。反省なんて言葉は浮かびもしない。
これは最近よく報道される政治家の失言にも似ている。「ちょっと口が滑っただけなのに住みづらい世の中になったもんだ。」女性蔑視発言をしたあのおっさんはそう思っているに違いないし、なぜ自分が悪いとされるのか見当もつかないだろう。
そして悲しいかな、私もおよそ30年の人生のうち、彼らのような人種に出くわしたことが何度もある。(断っておきますが事件性のない範囲で)
もちろん「東大」が悪い訳ではない。(東大卒の友達が何人かいるが、きちんとモラルをもった人たちだ。)
東大、はあくまで本作の象徴で、社会人になればその煌びやかな学歴は「年収」や「社会的肩書き」に取って代わられる。
そのエッフェル塔(男根の象徴とか言われるよね、)のように高く高くそびえ立つステイタス(笑)を実物以上に高く掲げ、彼らは下々の民は自分たちより劣っていると、得意満面の表情を見せる。
今まで私が出会った、女性に平然とブスと言ったり、ヤッた女の数を公然と自慢したり、彼女の裸体の写真を他人に見せたり、クラブでD通の社員証見せてナンパしてくるような輩の延長線上に、本作の東大生が存在する気がする。
私はそんな奴に出くわすと「なんて下品な野郎なんだ」と思ってシラけて距離を置くし、だいたいそういう奴は女を穴としか思ってないので相手もこちらに興味を示さなくはなる。
ただ、私がこうした「嗅覚」を体得したのも、つい最近のことだった。
本作に登場するような美咲ちゃんはもっと純粋で素直な子だ。純粋とは言い換えればバカなのかもしれない。でも、20歳そこそこの「フツーの」女の子にそこまでの賢明さを身に付けろ、とは酷な話だ。
何より、私は彼女の気持ちが痛いほど分かってしまった。私もかつては自己肯定感がものすごく低かったし、男が「選ばない方」の女だった(過去形にできないけど)し。
美咲ちゃんは本当に刑事犯罪レベルの実害を被ったけど、彼女のような辛酸を味わった女性は多いのではないか?そういうことは歳を重ねてオトナにならないと解決できないんだと思う。社会が変わるのを待っていては時間がかかりすぎる。
読後に、本作の問題提起が宮台真司(社会学者)が主張していた「恋愛できない若者」論に似ていると気づいた。
彼曰く、恋愛とはそもそも理不尽で無駄が多いものだ。それを出来ず、彼氏彼女とは名ばかりの「セックスの安定供給」のためだけの関係性が増えているという。
そういった哲学なき者、そいつらが更に社会的発言権を持つ薄気味悪さを感じる。彼らは哲学や倫理について考えない。なぜならそれは勉強し、テストに合格し、競争を勝ち抜き、社会的にトップの地位を得る上で「無駄な」プロセスだからだ。
私より若い女の子に伝えたいことは2つ。
歳をきちんと重ねればもっと人生は楽しいよ!
そしてくれぐれも男に裸の写真を撮らせないこと!詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
実際にあった、東大生による強制わいせつ事件に着想を得た小説なんだけれど、事件が起きるのはごく終盤で、事件が起きるまでの加害者と被害者のそれぞれの家庭環境とか生い立ちとか、出会いとか日常生活とかが長く書かれていておもしろく、だから警戒していたほど、陰惨とか暗いとか怖いっていう感じはなかった。
あと書き方が独特で、小説なんだけど、ルポルタージュみたいなドキュメンタリーみたいなエッセイみたいなところもあって、引き込まれて読んだ。高校や大学のレベルの話だとか、「学歴は親の収入によって決まる」だとか、ゴシップ的ミーハー的におもしろかったところも多かった。
偏差値至上主義みたいな、すべてを人と比べることでしか考えられない人たちとか、まあだれもがみんなそうだとは思わないけれど、逆に、だれしも、自意識があって、人と比べないではいられないと思うので、多少の差はあってもこういうイヤな部分は自分にもあるなあと思いつつ。
あとやっぱり、社会として、男性が女性を下に見るっていうのはあって、それが根本的な問題としてもあるのかなと。
のちに被害者となってしまう美咲が、加害者となるつばさに出会って恋するところとか、ごく普通にきらきらした若者の恋愛小説にも読めて楽しかったりとかもした。それが事件につながるのだから衝撃は大きいのだけど。
なんか、姫野カオルコさんの作品読むと、なんというか「分相応」みたいなことを考えさせられるような。「どうせわたしなんか」と考えすぎるのもいいわけじゃないけれど、そこそこ自分の身の丈にあったというか、自分ならではの幸せを見つけることが大事なんじゃないかといつも考えさせられるような。 -
東大ヤリサーによる輪姦事件をベースにした半ドキュメンタリー小説。
被告達の家庭環境から事件に至る背景、それぞれの事件に対する対処を描き出す。
高所得家庭ほど子息が高学歴傾向であるというのはともかく、高所得家庭ほど示談に応じて不起訴に持ち込むというのは救いのない格差社会の一面を見た気がする。
受験戦争の勝者というプライドと世間の過剰な期待に屈折する東大生というのはわかりやすい構図だが、そうではない東大生も沢山いるわけで、これを事件の遠因とすると見誤るのではないか。プライドもコンプレックスも同質のものと考えると、それを乗り越えるだけの頭の良さや心の強さがなかったのだと思いたい。 -
小説のモチーフになった事件は
ニュースや雑誌で知っていたので、
前半を読んでいる段階では
「どのように、ああなってしまうのだろう」と
ドキドキしながら読み進めた。
後半は怒涛の展開。
怒り、諦め…… いろいろな感情がうずまいた。
「読後感が悪い」という意見もあろうが、
リアリティもあり、とても興味深い作品だった。
当り前のことだが、あらためて
「価値観は生まれ育った環境で形成され、
それは簡単に変わることはない」ということを
認識する。
だって、あんな事件があったのに、
彼らの本質は変わっていないのだから。
まったくコトの重大さを理解できていないし。
ただ、生まれ育つ環境はたいていの場合、
自分で選べない部分も大きいので
簡単に「よい」「悪い」とは言えないのかもしれない。
三浦紀子教授、山岸遥、つばさの兄。
それぞれ登場は短いが、
印象に残るキャラクターだった。 -
こういう時期ってあるなあ。男子も女子も大学になると一気に異性やファッションに目覚める。
高校まで選ばれたエリート世界にいた男性がそのホモソーシャルなノリを引きずったまま大学生デビュー。見た目はお洒落になっても内面は幼稚。自分が付き合う女性すらも周りの目を気にしてトロフィーとしての彼女にふさわしいか気になりながら関係を探る。女性を対等な同じ人間ではなく、自分はあくまでも選ばれた人間として、オンナを批評する対象物と考える男性はこの時期散見する。
私が怖かったのは、外野さえいなければ、可愛らしい恋人になるかもしれなかった2人なのに、周りの男友達からの「頭の悪い、イケテナイ女を選んだ男」という評価を恐れ、あんな女と俺が付き合うわけがない、と変質していく男の姿。
恐怖から人を裏切り貶めて行くいじめの構図がある。事件後も、自分のやったことの残酷さが分からない加害者の姿に集団心理の恐ろしさを感じた。
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淡々と書かれていく美咲と東大生達の日常。その中に散りばめられた東大生達の他人に対する歪んだ感情や表現が上手い。美咲の「どうせ」感は理解できるし、また共感もできる。彼女は沢山の若い女性の代表である。東大生達の感覚は理解は出来ても共感は出来ない。なぜなら自分は東大生ではないから。そしてきっと何が悪かったのか彼らに理解させることをわたしは出来ないだろう。何て言えば良いのかわからない。人間の尊厳の問題なんだろう。
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上野千鶴子さんの東大入学式の祝辞をニュースで読んで「ほんとそれ!」と頷いたため祝辞の中にあった本をkindleで読みました。
私の周囲に東大生がいないからか、ナウでもワズでも東大生じゃないと感想が書けないんじゃないかっていうくらい、「東大VS他の何か」な語り口でした。
あ、でもKOでもいいのかなーと思ったり。早稲田じゃねーなーとか。
要するに、環境がそうさせてるっていうのでしょうか?
東大以外の周囲の勝手な独り言ですけど。
まあでもこれを読んで、上野千鶴子さんの祝辞の言葉が重くのしかかるわけです。 -
読後感は悪い。もやっと感が残る、だけど読んでよかったと思える本。小説の力、文字の力を感じさせる。
加害者となるつばさやその仲間たちは、本当にこんな人(人たち)いるのだろうか?と思ってしまうようなキャラクター描写ではある。
ただ、彼らのような人間が本当にいるのかというよりも、狭い世界で暮らし、自分を客観視せずに生き、プライドだけを磨き続けると誰でもこうなってしまうかもしれない…と思わせるところに恐ろしさがある。 -
人の気持ちを想像できないやつが一番頭が悪い。
その日が来るまでが書いてあるから事件当日が切ない。 -
現実に起こった、東京大学の男子学生5人で1人の女子大学生を輪姦した…ように報じられた事件に、着想を得た小説です。
まず事件に至るまでの、ぞれぞれの人物の生き方が重点的に語られています。
後に事件の被害者となる女子大生美咲は、自分が「かわいい子」ではなく「そうでない子」だと受け入れ、そういうものだと思い、わきまえていました。恋愛経験は豊富ではないけれど、純粋で、家庭的で、笑ったらかわいくて、白馬に乗った王子様を夢見る、ふつうの女の子でした。
加害者の東大生つばさは、人の情感の機微について考えない、合理的な考え方をする秀才でした。そして、東大生として高すぎるプライドを持っていました。
東大生5人は事件後、強姦しようとしたのではないと語ります。ふざけて嗤いたかっただけなのです。東大生5人だけでなく、彼らの両親も、何で逮捕されるのかわからないと言います。さらに被害者に対して「勘違い女」といった批判が集まります。
これは、勘違いなのでしょうか。
東大生の親はお金持ちが多いという、生まれた環境による不平等も感じました。