- Amazon.co.jp ・電子書籍 (528ページ)
感想・レビュー・書評
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第二次大戦末期の北海道が舞台。
まだアイヌや朝鮮人に対しての差別が残るなか、アイヌの血が半分流れている特高の青年が主人公。
ある事件の潜入捜査を成功させ元の任務に戻るが、アイヌが関わっていると思われる殺人事件が起き、主人公は駆り出される。しかし、アイヌを極端な蔑む同僚に嵌められ、無実の積みを被せられ網走刑務所に収監されてしまう。主人公はそれで終わらせるつもりはなく、真相を掴もうと行動を始める。
日本人が行ってきた人種差別、それを軸に戦争や腐敗した権力などが描かれる。
戦中の北海道の様子は知る機会が今までなかったのでテーマとして新鮮だった。
真相は賛否両論あると思うが、まぁ落とし所としては無しではないか。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
第21回大藪春彦賞、第72回日本推理作家協会賞受賞作。
太平洋戦争末期の北海道で相次ぐ毒殺事件。現場に残された血文字の謎を追っていくと、ある「軍事機密」が浮かび上がります。この機密に翻弄される人々を描いた小説です。
主人公の日崎はアイヌの血をひく特高刑事です。日崎の父親は日本人で、同化政策をすすめるためアイヌの村へやってきました。村の娘と結婚し、日崎が生まれます。特高の同僚で拷問王の異名を持つ三影は、なにかにつけ日崎の邪魔をします。
この二人の造形が素晴らしく、とくに三影の存在が物語の強度を上げています。
日崎と三影の所属する内鮮係は国内の朝鮮人を警戒監視する部署で、室蘭の軍需工場から朝鮮人工員が脱走した事件の捜査にあたります。脱走犯は拷問死したため、日崎が工場に潜入し、脱走経路を探ることになりました。
若い工員ヨンチュンと、日崎、三影の三人が絡み合い、文化習俗も織り込みながら、国家と人間、とりわけ国家に翻弄され蹂躙される人間の姿と、そこからどう立ち上がるかを描いていきます。全幅の信頼を寄せていた国家に裏切られたとき、人は何を支えに、何をよりどころとして生きるのか。人間とは、国家とはなんなのか。範なき現代に生きる私たちにとって、いまもっとも読むべき小説だと思いました。