- Amazon.co.jp ・映画
- / ISBN・EAN: 4562474197557
感想・レビュー・書評
-
現在、ミャンマーで起きているような惨状がわずか40年前にも隣の韓国でもあった。そして、その9年後の今日・6月4日には中国で天安門事件も起きている。天安門事件は覚えていても、”光州事件”という単語が記憶にかすかなのは、2ヶ月後に長男を出産する個人的なイベントで、私はおそらくそれどころではなかったのだろう。
韓国映画の懐の深さがやはり本作にも現れている。政治に無関心で娘を愛し育てているシングルファーザーのタクシー運転手・マンソプが仕事と割り切って入った光州で、軍事クーデターに抵抗する市民を目の当たりにし、変わっていく様子を淡々と映し出しているのに好感を抱いた。ソン・ガンホがそこらのおっちゃん風情で演じ、ぴったりとはまっているのはさすがに名優だ。主人公が主義主張に走らず、ただ「人として許されないこと」を放っておけないという、一市民の視点で描いてあるのが良かった。
実話をベースにしてあるので、モデルとなったタクシー運転手は実在している。しかし、実際はホテル運転手で英語も堪能で寧ろエリート運転手だったと、映画を観た後で調べて知った。しかし、映画の主人公・マンソプは家賃が滞納して返済に困るような経済的弱者、お調子もので憎めない凡庸な運転手になっている。そこが監督の腕の見せ所だった。
マンソプは無事にピーターを空港まで送り届け再訪韓の約束を交わす。ピーターには偽名を告げて別れている。果たして、ピーターは再再訪韓してマンソプを探すのだがマンソプは依然として見つからない。最初からマンソプは毛頭会うつもりはなかったのだろう。記者のピーターが光州での出来事を世界に発信できた功労を、自分が受けるのは門違いと思ったのだろう。借金を返すために同僚の仕事を横取りしたような格好だったし、社会情勢に疎かった彼は光州で起きている事すら知らなかった。光州に入り銃撃される市民や大学生を見捨てられずに、結果的に支援する側にまわっただけ。他のタクシー運転手らの犠牲も目撃している。名乗ることはおこがましいと考えるマンソプの心情が想像できる。(実際にはピーターが再訪韓した時に運転手は亡くなっていて、時が経ち孫が2人が映った写真を発見し運転手の身元が分かった)。その事実を変えるために、マンソプのようなキャラクターにしたのではないか。監督が伝えたかったのは、エリート層で作られたヒューマンストーリーではなく、光州事件がそうだった様に庶民らの視点でストーリーを着地させたかったのだろう。こういった作品があって今の韓国の映画界が盛り上がっている。ドイツ人記者ピーター役を演じたトーマス・クレッチマンも「戦場のピアニスト」以来で懐かしかった。もう一人のタクシー運転手や大学生を演じた俳優陣も素晴らしい。
30年余り前に韓国を旅して喜怒哀楽に激しい国民性を肌で感じた。3歳と7歳の息子を連れ夫と4人でフリーで行ったのだが、どの電車に乗ろうかと困っているとすぐ寄って来て手助けしてくれたり、タクシーの乗車拒否に遭うとケンカ腰でタクシーを捕まえてくれた大学生、チャガッチ市場で日本人を疎ましく視る老翁の鋭い視線、キムチを漬ける早朝の元気の良い小母ちゃんたちに、次男が韓国系の顔立ちだと頭を撫でてもらったり、路上で激しい夫婦喧嘩があったりと実に賑やかだった。車代を高く吹っ掛けたタクシー運転手も居たし、古墳公園を丁寧に案内してくれた日本語に堪能な中年男性から、帰り際、入り口で妹が土産物店を開いているので、一品でもいいから買ってくれと言われ、紫アメジストのネックレスを購入もしたなぁ。博多ふ頭に帰り着いた時はほっとしたけれど、日本人の穏やかな表情が妙にのっぺりと感じられ気持ち悪かったのも、今思い出される。次男は船を下りて口を大きく開け私に見せた。旅行中妙におとなしかったのは、外国へ行った緊張からではなかった。韓国の食事があまりに辛過ぎて口の中が真っ赤に腫れていたのだ!
※ストーリー
ソウルのタクシー運転手マンソプは「通行禁止時間までに光州に行ったら大金を支払う」という言葉につられ、ドイツ人記者ピーターを乗せて英語も分からぬまま一路、光州を目指す。何としてもタクシー代を受け取りたいマンソプは機転を利かせて検問を切り抜け、時間ぎりぎりで光州に入る。“危険だからソウルに戻ろう”というマンソプの言葉に耳を貸さず、ピーターは大学生のジェシクとファン運転手の助けを借り、撮影を始める。しかし状況は徐々に悪化。マンソプは1人で留守番させている11歳の娘が気になり、ますます焦るのだが…。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
(Amazonより)
★韓国現代史上、最大の悲劇1980年光州事件を実在の人物をモチーフに描く実話!
戒厳令下の物々しい言論統制をくぐり抜け唯一、光州を取材し、全世界に5.18の実情を伝えたユルゲン・ヒンツペーター。
その彼をタクシーに乗せ、光州の中心部に入った平凡な市民であり、後日、ヒンツペーターでさえその行方を知ることのできなかったキム・サボク氏の心境を追うように作られた本作は、 実在した2人が肌で感じたありのままを描くことで、1980年5月の光州事件を紐解いていく。
1980年の光州事件時の実話を基に描いた2017年公開の韓国映画。
この映画を観て 光州事件の事を知りました。
いろいろと脚色はされているのだろうけど このドイツ人のユルゲン・ヒンツペーターの取材にかかわった人達は本当に命がけだなと思いました。
韓国の歴史ですが 昔を知り今を感謝することは必要だなと感じました。
ラストに年老いたユルゲン・ヒンツペーター本人がインタビューに答えていて とうとうタクシー運転手のキム・サボクとの再会は出来なかったみたいでとても残念に思いました。
再会出来なかったということは この映画に描かれている真実の報道後のタクシー運転手のことはフィクションなんだろうけど 実際もこの映画のままならいいのになぁと思いました。
ホントあらゆる争い事はなくなって欲しいです。 -
1980年の韓国では強権的な軍事政権に対して民主化を求める市民団体が対立。地方都市の光州市で政府軍は市民デモ隊に向かって銃を発砲、多数の市民が死亡した。が、政府はその事実を公にせず、世界も、当時の韓国国民も知ることがなかった。
ソン・ガンホ演じるソウルのタクシー運転手キムも光州事件のことなど知らず、その日その日を暮らすことで精一杯。考えることはタクシーの修理費や家賃の支払、一人娘の養育のことで、国や政治のことなんて知ったことじゃない。そんな彼が外国人ジャーナリストをタクシーで光州市へ送ることになったことから、物語は動き出す。
人なつっこいタクシードライバーによる人情コメディードラマ。そんな感じで始まる本作品だが、やがて銃声が響き、市民が叫び、人が死に、戦争のような情景が広がる。主人公キムも母国が大変な状況になっていることを理解する。そして、クライマックスではタクシードライバーたちが団結して、軍へ必死の抵抗。フィクションであることはわかっているけど、いいシーンだ。
今の韓国の民主主義は、彼ら名もなき庶民たちの犠牲があって、勝ち取ったもの。そして、政府が無抵抗な国民に向けて、発砲し、それを隠蔽した過去があったこと。本作品はこうした韓国の知られざる汚点に真正面から向き合いながら、ユーモアあり、人情あり、最後に歴史ミステリーもありのエンターテイメント作品だ。 -
レンタルで観ました。
韓国で40年前にこんなにも惨い事件が起こっていたなんて全く知らなくて衝撃しかありません。
〈光州事件〉を記録して世界に報道したジャーナリストと、彼を戒厳令下の光州へ送り届けたタクシー運転手という実際のエピソードを描いた作品でした。
前半のコメディタッチの明るい空気から、光州で軍隊が民衆を殺戮しているという凄惨な空気へと変わる落差が激しくて辛くなります。
タクシー運転手のキム役のソン・ガンホ目当てで観ましたがやっぱり名優でした。出た途端歌ってるし、軽やかなステップも踏むしでサービスショット?とほのぼの観ていたら、どんどんショックを受けて変化していくのがとても自然でしたし、胸にきました。
ピーターさんの姿も、ジャーナリズムは必要だけど、事件現場においては無力だ、というのがまざまざと感じられて辛かったです。でも彼の行動がなかったら光州事件は世界的には全く知られなかったかもしれないと思うと、ジャーナリズムの力も感じます。
光州のタクシー運転手たちもかっこよすぎて。カーチェイス…彼の最期が音だけというのもしばし呆然となります。
軍部も揺れてたのかな、と思う検問シーンも。
空港のキムさんとピーターさんの別れが永遠の別れに。長いようであっという間の数日間でした。
とても重い事件を圧倒されるほどの描写で描きつつ、惨たらしさだけではないので観て良かったです。韓国映画は力があるなぁ。 -
韓国映画もドラマも今まで観たことがなくて、ほとんど内容も知らず軽い気持ちで見始めたら、途中からどんどん引き込まれていった。
ソウルでタクシー運転手をしているマンソプは、妻を亡くし幼い娘と二人貧しく暮らしていた。ある日偶然、最近学生デモが騒がしい光州に封鎖前に行ければ大金を払ってくれるという外国人の話しを聞き、仕事を横取りしてドイツ人記者ピーターを乗せて光州に向かう。しかし光州に入るとそこには新聞やテレビでは伝えられていない光景が広がっていた。
冒頭は人好きのするマンソプの笑顔やコメディタッチのやり取りでゆるゆると見ていたが、段々と不穏な空気になっていく。
自分は恥ずかしながら光州事件というものを全く知らなかったので、同じように光州の実態を知らない主人公と共に目の前の出来事に翻弄されることになった。
映画のなかで、帰ってこない息子を心配する母親にマンソプが自分も軍隊にいたがそんな酷いことはしない大丈夫となだめる場面で、そういえば韓国は兵役が義務だったなと思い出した。成人男性の大半は軍隊の経験があるので、余計に軍が市民を攻撃するはずがないと思っているのかもしれない。
そうなるとあの広場にいた軍人と市民は、些細なきっかけで表裏に分かれただけの同じ存在に思える。
これが約40年前と最近の出来事であることに驚いてしまう。
思えば朝鮮半島の歴史はほとんど知らない。かつては日本の植民地だったことさえあるのに、教科書でも数行で終わっていた気がする。中国史の方が断然詳しい。この辺りに日本と朝鮮半島の歴史観に対する温度差を感じる。
欧州が中東などの問題を放ったらかしにしていることに複雑な気持ちになることがあるけれど、あれと同じだろうか。
マンソプのモデルになったキム・サボク氏は、実際はこんな偶然でピーター氏に出会ったわけではなく、5年程前から交流があり、民主化に参加していたらしい。彼のような歴史を作って歴史に埋もれた人々の上に、現代があるのだということを改めて実感する。
映画として綺麗にまとめている所はあるのだろうが、光州で戦った人々の想いや、それに心動かされたマンソプとピーターとの友情、彼らの志には胸を打たれるものがあった。いい映画。
-
まず光州事件の実相に驚く。民主化を求める市民に対し軍隊は銃を向け、多数の命を奪う。しかも通信を遮断して情報統制を行い、共産主義の学生による暴動などと虚偽のニュースを流す。これが1980年なんてつい最近に起こった出来事であることが信じがたいです。
そのような危険地帯となった光州へ潜入したドイツ人記者と韓国人運転手の話。主人公はもちろんソン・ガンホ演じるタクシー運転手で、金目当てで政治にも全く関心がなかった彼が、市民が次々と殺される悲惨な事態を目の当たりにし、ついに危険を賭して市民たちを助けに戻り、最後には記者に真実を報道してもらうために空港まで決死の逃走をする。この彼の驚くべき変貌と行動、そしてこの2人の熱い友情こそが本作の最大の感動であります。ソン・ガンホの名演は言うまでもないですが、アジアの映画にトーマス・クレッチマンというビッグネームが参加してくれたことにも感謝しないと。
で、クライマックスではもう1つ見どころがあり、この2人を守るために光州のタクシー運転手仲間が集結して護衛をするのです。さすがにこれはフィクションでしょうが、町山氏が言う通り、ホントに「怒りのデス・ロード」でした(笑)
余談ながら、ここ10年数年で韓国人の顔が変わったと言われて、妙にシュッとしたイケメンが最近は多いのですが、この映画に出てくるのは、昔ながらの伝統的な朝鮮人顔の俳優ばかりで(その代表がユ・ヘジン。いい役者だなぁ)、なんかそれも素晴らしかった。
そして偶然なのですが、この映画を見た日の朝日新聞に、本作の主人公の息子さんの記事が出ていました。キム・サボク氏はこの事件の後に酒量が増え、4年後に肝臓癌でなくなったそう。2人の再会は叶わなかったわけですが、ドイツ人記者の遺骨が納められている光州の墓地に彼の遺骨を移す計画が進んでいるそう。間もなく2人は再会するようです。 -
何ができるかわからない、でも何かしたくなる映画
国を良くしよう、その思いに賛同して命をだけ出す人がいた。
その人達がいなかったら今の国はありえない!なんていうことはないと正直思っている。これは冷たい感想かもしれない。
エジソンがいなかったら未だに白熱電球が発明されず2020年の私達は不便していたか、多分そうではない。エジソン以外の誰かが発明して、同じような2020年を過ごしていると思う。
でもその歴史的瞬間を作った人物に、その瞬間に立ち会った一人となったら、自分が自身に恥じない誇り高き人生だったと言えるだろう。
ソン・ガンホ演じる運転手に、その歴史的瞬間を作った人物が「この人無しでは成し得なかった」とまで言っている。そんな人物だと言われたら家族はどんなに誇りに思うだろうか。
でも多分この運転手はそんな事を誇らしげに語り散らかしたりはしないと思う。
テンキューテンキュー、でも俺も光州の皆に助けられたのさ、あんたたちがいなかったら何もできなかったよ、そんなふうに言うんじゃないかな。