- Amazon.co.jp ・電子書籍 (261ページ)
感想・レビュー・書評
-
2018年9月発行。ギリシャ危機やドイツのAfD台頭などについてEUの市井の人々を取材し、人々が政治・経済においてどのような考えを持っているかを取材した本。
リトアニアをはじめとするバルト三国が抱えるロシアに対して持っている緊張感。ギリシャ危機後、市民が抱えるEUや政府に対する不満。メルケル首相が打ち出した理念優先の政治と国民の距離感、ロシア・中国との接近など。取材対象は行政の人間もいるとはいえ、普通の人々が大半。生まれた地に暮らし、変化を見つめ続けた人たち。その人たちから語られる、現在のEUやEUを支える大国に対する考えは、遠い地に暮らす日本人が勝手に抱く考えよりもずっと重い。
・ロシアによるウクライナ侵攻を受けて、バルト三国ではロシアに対する危機感が募っていること。EUの大国ドイツの果たす役割が期待されている。その一方で、ドイツは天然ガスのパイプラインを通じてロシアとの関係を深めている。パイプライン敷設によりEUのエネルギー脆弱性を高める可能性もあるが。また中国との関係も貿易を通じて深めている。
・右傾化などと揶揄される現在のドイツの政局だが、大量の難民流入による弊害は確かに存在しているようで、それに対する民主的な意見が噴出している状況のようだ。(そうした意見を表明すると、左派との意見対立にもなるようだ。AfDの選挙妨害などもあるらしい。日本でもそうだが、ヘイトと左派が言うものの立派な政治意見のひとつであって、筆者がそれも言論の自由で保障されるべき意見では?としていたのは完全に同感)。
・ギリシャ危機の話題。現地のヒトで「私が日本の首相だとして、多くの企業が倒産しても日本の経済はよくなっている、国家財政が黒字になったからだ、と言ったらどう考える?」という話。ドイツの財政均衡に固執するあまり、インフラ整備が追いついていない話から、国家経済において財政均衡が必ずしも円滑な国家運営に結び付かないということを学べた。
財政均衡ということをまるで気にしない中国がドイツに対して影響力を持ちはじめているようだし。「16+1」というEUと中国の国際会議があることを初めて知った。また、中国と周辺の海洋国家の緊張についても、中国から得られる貿易の富に主に関心が向いている現状もわかった。(EUという大国は東側諸国に近づくかもしれないという可能性?イギリスやアメリカ、オーストラリアなどのイギリス派生の国々と日本は関係が益々深くなるのだろうなー。最近もイギリスと軍治関連の関係が深化したし。)
市井のヒトがどんな考えを持っているかという情報は貴重だった。これから変わるかもしれないけど、少なくともここ2・3年の政治の動き、ポピュリズムの台頭と揶揄される動きがある程度の「世論」に支えられたものだという自信?を持てた気がする。今回のシリア・アフリカからのヨーロッパへの難民流入は、それに対する反応を生み出して、ヨーロッパの政治理念を明らかに変化させた。
多様性を掲げ、異なる背景を持つ人々が同じ土地で、争うことなく暮らすというのは、多くのリベラルを標榜するヒトが夢見ていたことでもあると思うが、違う背景を持つヒトが流入すると争いが生まれるというのが本当のところだと、ドイツの例は伝える気がする。どう思うかはそれぞれだろうけど。
日本でも様々な民族が、一つに統合され来た。長い時間をかけて。しかし、それはお互いの特色を色濃く残すものではなく、大和民族とか日本国民としての大きな枠の中で統合された。
統合の結果として、今の文化と民族哲学ができた。いつかドイツでもこうした過程を経て、民族や文化が再統合されていくのだろうけど、それは間違いなく、今のドイツ人からそうした動きが出ているように、現在のドイツのままではいられないと思う。
移民による経済発展・人口増加を取るか(それも果たして達成できるのか個人的には疑問を持つけど)、それを代償に現在のアイデンティティを変化させていいのか、という議論は2010年代~2020年代まで活発に続きそう。詳細をみるコメント0件をすべて表示