地球46億年 気候大変動 炭素循環で読み解く、地球気候の過去・現在・未来 (ブルーバックス) [Kindle]

  • 講談社 (2018年10月17日発売)
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  • 温室効果ガス(主としてCO2)の増大による気候変動は今世界的なテーマですが、本書は地球の気候変動が長期そして短期的にどのような要因で変遷するのかを概観させてくれています。
    まず短期的なサイクルとして紹介されているのが、海流です。大気中のCO2は水に溶けやすく海水により取り込まれることで大気中の濃度が調節されます。南極付近では、海氷が作られる際に放出される高塩分のブライン水が深層水として深海に沈み込んでいきます。一方、北半球では北に向かう海流が途中で蒸発や降水による塩分濃度を高めていき、更にグリーンランド付近の大陸棚で冷却されて高密度の水となり深海に沈み込み、深層水海流となるそうです。深海に海水が沈み込む際に溶け込んだ炭素を沈殿させることとなるため、これらは熱塩循環システムとして、地球の温度調整に大きな役割を果たし、北半球を温暖に南半球を寒冷にしている、と言います。しかし、短期的にはハインリッヒイベントと呼ばれる氷床の大規模流出による海水の塩分濃度の低下が、このシステムによる炭素沈殿の効果を減じ、急激な北半球の寒冷化と南半球の温暖化をもたらしてきたという部分は、大変興味深く読みました。
    現在この熱塩循環システムが、グリーンランド付近の氷床の流失により弱められているため、理論的には北半球は寒冷化に向かうはずですが、人類起源の温室効果ガスの増加による気温上昇がそれを打消し上回っている可能性があると筆者は警鐘を鳴らしています。このまま継続すると、地球はホットハウスアースという新しい段階に突入し、極地の氷床の崩壊、融解による海水面上昇が危惧されています。
    こうした短期的サイクルに対比して、長期的なミランコビッチサイクルも紹介されています。4万年周期で変化する地軸の傾き(22-24.5度)、10万年周期の太陽の公転軌道の離心率の変化(地球の公転軌道が土星など他の惑星の引力により太陽からの距離が離れる)、そして2万6千年周期の歳差(地球が楕円形のため、回転軸が円を描く)が、日射の緯度分布の変化や、大気海洋の循環の変化や、温室効果ガスの増減を生み、寒冷化や温暖化といった長期の気候変動サイクルを生み出すと言います。長期と短期のイベントのバランスにより地球規模の気候が変動していくことが、よく分かりました。
    個人的には、すでに逝去した米国のマーティンが提唱した、海水中の鉄分による植物性プランクトンの増減が大気中の二酸化炭素量に影響している、という理論に興味を持ちました。実際、グリーンランドの1万年以上前の氷床コアでは、この説を裏付けるように間氷期のミネラル分(鉄分)の低下と、氷期の増加が観測されたそうです。鉄分を海洋に散布することにより、大気中の二酸化炭素量を調節できるのでしょうか? 地球の気候変動メカニズムを人為的に操作することをジオエンジニアリングとして、警戒する声があるようですが、全く知らなかった理論だけに別の機会にその論文のエッセンスだけでも読んでみたいと思いました。マーティン氏曰く、「タンカー半分の鉄で、地球を氷河期に突入させられる」、そうです。
    また、地軸の逆転の痕跡が、京大の松山教授により世界で最初に確認された場所として、兵庫県の玄武洞についても触れられていました。地軸の逆転は、千葉県のチバニアン地層でもその痕跡が見つかっていますが、これについても関連する本を読んでみたいと思いました。

  • 気候変動に関する地質の研究について,その歴史を交えながら記述した入門書。

  • 大阪樟蔭女子大学図書館OPACへのリンク
    https://library.osaka-shoin.ac.jp/opac/volume/658569

  • 地球46億年の気候変動の歴史を様々な科学者の努力によって切り開いてきたことがよくわかる本。
    物語調ゆえに冗長的ではあるが、どうやってその研究が生まれたのか、研究の繋がりまで見えるのは面白い。

    著者は基本的にIPCCサイドで近年の温暖化の影響は甚大、その原因は二酸化炭素によるところが大きいというスタンスではあり、最後にこれについて述べると本の中でも記載が出てくるが、結局二酸化炭素が主因であることの説得力のある説明はなく、影響が大きいというのも25cm/年(2.5m/100年)の海面上昇に終止していて今の人為的な排出を何が何でも止めようという気にはさせられない。
    2018年と新しい本のため最近の研究まで網羅されているが、太陽や宇宙線の影響については言及がない。

    気候変動は、1000万年、10万年、数十年とスパンによって異なるメカニズムが働いていて、それぞれについても確固たる解明はされていないが、多様な因果関係があり非常に興味深い。
    特にプレートテクトニクスにより表出する岩石層の種類が変わり、酸素、二酸化炭素の収支バランスが変わることで長期で温暖と寒冷な気候が繰り返されるという指摘は面白い。

    地球の気候変動の全体像をつかむのに良い本だと思います。これに加え、スベンスマルクの理論も学ぶと全体像が見えてくると感じます。



    〇温暖化の正負フィードバック
    ・寒くなり雪が増えると、熱の反射が増幅され寒冷化が進行、歯止めなく進むと全球凍結
    ・火山活動を通じて火山ガスが凶器、これにより二酸化炭素が供給、温室効果で温度は上がっていく。
    ・ケイ酸塩の風化で生成された陽イオンや重炭素イオンが最終的に炭酸塩として沈殿することで結果的に大気中の二酸化炭素が取り除かれる。

    ◯気温のデータ
    ・恐竜が棲息した中世代白亜紀の平均気温が今より10度以上高かった。
    ・気温の推移:スクショ
    ・どうやって放射性同位体を用いた気温推定が見出されたか記載。

    ◯暗い太陽
    ・46億年前の太陽が誕生した当時はもっと太陽は暗かった。
    ・4つの水素から水素より0.7%軽いヘリウムが作られる核融合がおき、質量差に相当するエネルギーが生まれる(2個の陽電子と2個のニュートリノ分)。
    ・この反応は時間と共に加速、平均分子量と中心部分の密度と温度が上昇していく。
    ・この場合過去地球の気温がマイナスだったことになってしまうが、実際には海水が凍結していた痕跡はない。これは二酸化炭素を中心にメタンやアンモニア、酸化カルボニルなどが混合することでくらい太陽でも温室効果をもたらせたと考えられている。

    ◯地球酸化
    ・20〜25億年前の大酸化イベント(GOE)、5〜7億年前の原生代後期酸化(NOE)イベントにより現在と同レベルの酸素濃度になった。
    ・GOEの5億年ほど前からシアノバクテリアが光合成による酸素の供給を始めている。
    ・酸素を取り除く還元作用が強い苦鉄質岩がプレートテクトニクスが本格化したことで水が地下に供給されるようになり、ケイ長質岩石に置き交われたことで消費されなくなり酸素濃度が急増した。
    ・二酸化炭素の量が減ると光合成の律速になり酸素濃度の増加が止まる(空白の10億年)。
    ・プレートテクトニクスで大陸ができ、有機物の酸化により二酸化炭素の量が増えた。

    ◯恐竜繁栄時代の温室化
    ・2.5億年ほど前の中生代は恐竜が繁栄した時代で今より7度平均気温が高かった(現在15度)。1.5億年前の全盛期の白亜紀は24〜29度、南北両極に氷床が存在しなかった。
    ・二酸化炭素が当時1000〜2400ppm存在したと思われ、現在の400の6倍、海水準は50mほど高かった。
    ・活発な火山活動によりマントル内部の二酸化炭素が大量に排出されたと思われる。これは現在の2〜3倍程度が継続的に起こっている必要がある。
    ・温暖な環境では、風化ぎ促進、海洋に流れ込む陽イオン供給も増し、大気から二酸化炭素を取り除く方向に作用する。
    ・風化の原理: 大気中の二酸化炭素は雨に溶け込む。この弱酸性の水が地表を往来し岩石から陽イオンを溶け出させる、これが海に溶けた炭酸イオンや重炭酸イオンと反応して炭酸塩鉱物として沈殿する。こうして大気中の二酸化炭素が除去される。
    ・ユーリー反応: 炭酸塩とケイ酸塩の循環が地球表層で起きることで炭素循環もバランスさせているという説。
    ・2〜6倍の二酸化炭素を維持し続けるには今より3倍程度二酸化炭素が供給されている必要がある。

    ◯大陸漂流と寒冷化
    ・2億年以上に渡り繁栄した恐竜が絶滅した原因としてユカタン半島に直径10kmほどの巨大隕石が落ち、急激な寒冷化が起きたことが原因だとされている。
    ・炭素循環を100万年スケールで考えると、地球内部から大気に放出される温室効果ガスの時間当たりの量は、地球表層の風化反応で温室効果ガスが大気から除去される率と釣り合う。大気中への炭素の供給と消費はバランスする。
    ・南極の氷床は3千万km2あり海水準を70m下げる、これは3(万年という短いスパンで形成されたと考えられている。
    ・氷床の存在は冷却装置を意味する。冷やされた海水は海氷を作るがこの時塩分を排出し、重く冷たい水を作る。これご深海まで到達した水の流れを作る。

    ◯ミランコビッチサイクル
    ・現在は寒冷化の中の比較的温暖な間氷期にある。
    ・次の三つの変化が重なることで気候変動が起きる、特に2の10万年サイクルが大きく出る
    1. 自転軸の傾きが22-24.5どまで4万年のサイクルで変化、季節の影響が強くなる
    2. 太陽以外の惑星からの引力により楕円運動と真円運動を繰り返す1820万キロの距離差、日射量が変わる、10万年サイクル
    3. 地球は赤道付近が長いミカン型、地軸自体が回転している歳差運動、2.6万年サイクル

    ◯消えた氷床
    ・珊瑚の化石に放射性年代測定(ウラン)を用いて1.7万年前に今より121m±5m下がっていたことを突き止めた フォアバンクス
    ・アイソスタシー: 氷床が溶けると海水により海底はゆっくり沈み、逆に陸地は重しがとれ、200mほど場所により上昇する。
    ・130m分にも及ぶ氷河はどこにあったか、90m分はカナダのをすっぽり覆う規模で、3000mの高さがあった。スカンジナビア半島とバルト海で15m分、残りは南極
    ・Beは宇宙線が岩石に含まれる二酸化ケイ素に当たると作られる。この量を測ればどのくらいの期間宇宙線が当たっていたからわかり、年代がわかる。
    ・東南極の氷は14年のNASAの報告ではこの10年でわずかに大きくなっている。水温が上がり水蒸気量が増えたため

    ◯温室効果ガスの深海隔離
    ・ミランコビッチサイクルによれば北半球と南半球は逆の動きをするが、実際にはどちらも当時に表層ができる。これは地球に一様に分布する二酸化炭素による効果。
    ・南極の過去80万年の二酸化炭素濃度を見ると氷期は180〜200ppm、間氷期は280ppmとほぼ一定、5度の温度差では30ppm分の変動しか説明できない。
    ・1000万年を超えるスケールでは大気とマントル(固体地球)の炭素のやり取り、10万年周期では海と大気のやりとりが支配的。
    ・大気中の二酸化炭素が海洋に吸収されるには、五年以上の時間がかかる。1957 ロジャーレヴェル
    ・炭素の貯蔵庫のサイズは大気1とすると陸上植物1、土壌は2.5、海は45
    ・二酸化炭素の溶解度は温度と塩分に反比例
    1. 溶解ポンプ: 海水に溶けた二酸化炭素は炭酸などに変わり海流によって深海へ運ばれる
    2. 有機物ポンプ: 植物プランクトンは単細胞生物ゆえに個体を増やすスピードが圧倒的に速い。効率的に有機物を作れる。そして深海へ。深海は圧力が高いため二酸化炭素は簡単には気体に戻らない。もしこれが止まると大気の二酸化炭素は3倍になる
    3. 炭酸塩ポンプ: 二酸化炭素は海水に溶けると中和反応を起こす。ここで炭酸イオンが消費されるのでら炭酸カルシウムが溶解されて供給される。
    ・複数のメカニズムが考えられているがこの80ppmの差を説明する確かな説はまだない。
    ・リービッヒの最小養分の法則: 植物の生産量は生育に必要な元素の中で最も少ないものに支配される。窒素、リン、カリ
    ・表面は暖かく、深いところは冷たいので海の水は混ざりにくい。ここに熱流循環かあることで海流が生まれている。
    北大西洋のグリーンランド沖にアマゾン川の100倍の海水が沈むポイントがあり、ここから1000年で世界を一周する熱塩循環が始まる。

    ◯最も短いタイムスケールの気候変動
    ・数〜数十年で10度近い気温変化が起きた、1〜11万年前の間に25回ほど、ダンスガード-オシュガーサイクル
    ・ハインリッヒイベント: 巨大氷床が部分的に崩壊し、海洋に流れ出す。氷河が大きく成長すると、地表からの熱が逃げなくなり氷河のボトムが溶けて水になる。ここで滑って崩壊する。
    ・グリーンランド氷床の融解に伴う塩分低下が熱塩循環を弱める。これにより急激な気候変動が起こる。寒冷化。
    ・寒冷化すると、ハインリッヒイベントが起こりさらに促進。
    ・グリーンランドの氷床が解けると寒冷化に向かう、つまり温暖化により誘発され寒冷化に向かうとの意見もあれば否定する人もいる。
    ・ベルジェは氷期へ入るタイミングを論文に出した。
    ・温暖化の一番の問題は海面上昇、

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著者プロフィール

熊本市生まれ。東京大学大気海洋研究所教授。東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻、海洋研究開発機構招聘上席研究員を兼任。オーストラリア国立大地球科学研究所にて博士取得(PhD)後、アメリカに渡り、カリフォルニア大学バークレー校宇宙科学研究所、アメリカエネルギー省ローレンスリバモア国立研究所研究員を歴任し、2002年より東京大学にて教鞭をとる。American Geological Societyフェロー、文部科学大臣表彰若手科学者賞、アメリカテネシー州名誉市民など受賞。おもな研究分野は、古気候学・同位体地球化学、地球表層システム科学。趣味は、読書、スポーツ(ハンドボールは日本および豪州で国体出場)。

「2018年 『地球46億年 気候大変動 炭素循環で読み解く、地球気候の過去・現在・未来』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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