サカナとヤクザ ~暴力団の巨大資金源「密漁ビジネス」を追う~ [Kindle]

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  • 漁業は真っ黒。ごく普通の一般市民として生活していると、暴力団はどこかフィクションの存在のように思える。しかし、もしかしたら今日、昨日食べた魚は奴らの手によるものかもしれない。読むとそう思えてくる。

    これを読むと、資本主義、あるいは競争社会というものは適切なルールがあってこそだと言える。ルールがあり、違反者を的確に取り締まることができなくては、共有地の悲劇は避けられない。そして海は巨大な共有地なのだ。

    しかし著者はよくぞここまで様々な海産物について調べたものだと感心する。しかもただの調査ではなく、相手は法を犯している連中なのだ。余計なお世話ながら、これは割に合う仕事なのだろうかと思ってしまう。

  • サカナとヤクザ
    暴力団の巨大資金源「密漁ビジネス」を追う

    著者:鈴木智彦
    発行:2018年10月16日
    小学館

    暴対法以来、旧来のみかじめ料など資金源確保が容易でなくなった暴力団が、シノギとして正業を持つようになり、最近ではIT業にまで進出している。その一つとして漁業に関わっているのではと思いがちだが、そう単純な問題ではないらしい。漁業とヤクザは、戦後、深く関わりを持って今日に至っているという。どうやら、漁業は我々が想像するような単純な産業構造で成り立っているばかりではないらしい。

    戦後、GHQは農地改革に準じた改革を漁業にもしようとしたが、日本独自の概念である漁業権というものを、長年にわたって定着していたため撤廃することができなかった。漁業の”民主化”を目的にできた昭和漁業法により、漁協が受け皿になって漁業権が残ったが、そこに裏や闇社会の入り混む余地があったようだ。

    漁業権の歴史は古く、大宝律令が、村が面している海でとれる海藻類や貝類、入江に入り込むアジやイワシなどを独占的に漁獲できる権利をその村に与えた、というところまで遡れるという。そして、実質的にそれは村の有力者が独占するものとなった。明治維新後は官有化を試みるも頓挫し、漁師町の慣習や掟を参考に明治38年に漁業法が出来、それが敗戦まで続くことになった。

    著者はヤクザ専門誌「実話時代」編集部を経てフリーに。これまでも「ヤクザと原発」など、その世界の著作があるが、今回は密漁を6年前から5年間にわたって取材した成果を披露している。築地に職を得ての潜入取材(身元は明かしつつらしいが)もしている。

    各地でヤクザと密漁、漁業の関係を取材して紹介しているが、我々が日常的に魚屋で買ったり、飲食店で食べたりしている魚の多くが、そうした密漁や暴力団の資金源になっているものだという実態を、この本により突きつけられる。例えば・・・

    ▼岩手・宮城の取材で判明
    日本で取引されている45%のアワビが密漁。すなわち、我々がアワビを口にする時、2回に1回は暴力団に金を落としていることになる。
    という具合。

    *****(メモ)******

    ▼東京
    築地の競り場には鑑札を持ったただぶらぶらしているだけのオヤジがいる。大概は金貸しの相手。築地では給料を差し押さえれば取りっぱぐれがないため、どんな人間にも十一(といち)の利息で金を貸す。十一とは、10日で1割のこと。
    市場とヤクザは双子のような存在だった。築地の魚河岸も例外ではない。

    ▼北海道その①「北海道の密漁を仕切る者」
    道東を除く全ての海岸を、地元暴力団が細かく縄張(しま)割りしている。そこで密漁をする場合は、必ず当該暴力団にショバ代を払う。でなければ暴力的制裁を受ける。
    平成27年夏から山口組と神戸山口組の抗争が続いているが、北海道では山口組中核団体の弘道会傘下組織と、神戸山口組の山健組系の組長が兄弟分になって協力して密漁を仕切るという考えられない呉越同舟が実現している。
    中心は中国で人気の「黒いダイヤ」~ナマコ。

    ▼千葉
    銚子港を長年仕切っていたのは高寅一家だった。しかし高寅は昭和29年に千葉刑務所へ。銚子は平成23年以降、7年連続水揚げ日本一だが、黒い影はもはやどこにもない。

    ▼北海道その②「レポ船」
    ソ連のスパイをする代わりに、千島列島での密漁を許してもらう漁師「レポ船」は、ソ連の実効支配で島に置き去りにされた米や物資を引き揚げてきた漁師たちに原型がある。その時にできたツテを利用して物品を賄賂で渡して密漁。やがて物品ではなく日本の重要情報を渡すことになっていった。
    その情報とは親しい警察官から引き出した機密情報ばかりでなく、例えば、政府が出す白書を出版前に持ち出して渡すということも含まれていた。取材した元レポ船の漁師は「俺は河野洋平とべったりくっついて」、年に1度、白書を刊行前に渡したとのこと。
    レポ船がなくなったのは、平成5年ぐらい。
    昭和55年、あるレポ船主が逮捕された。彼は公安庁旭川地方公安調査局長の課長からの情報をソ連に渡していたが、船主逮捕後に課長は“自殺”した。しかし、口封じのため殺された可能性が大。結局、船主はその部分では起訴されず、情報公開せねばならない裁判をしなくてすむ軽い罪のみ問われ、罰金20万円。

    ▼北海道その③ソ連(ロシア)巡視船Vs特攻船
    昭和50年ごろから密漁新時代へ。船外機をいくつもつけた猛スピードで越境してソ連(ロシア)の巡視船を振り切る特高船が登場。これには、ヤクザの特高船と組合員にならない「不良漁民」(漁師の次男坊や三男坊)の特高船の、二つがあった。不良漁民は腕がなかったが、ヤクザは真面目で水揚げはカタギより多かった。
    ソ連が実効支配しているからといって、もともと北方領土は自分たちの漁場だったから、そこで密漁しても誰も損などしない、と漁師たちも彼らを批難しようとしなかった。
    ソ連は照明弾を撃ったり、威嚇射撃をしてくるだけだったが、特高船に対しては本気を出し、実弾を撃ってくるようになり、ヘリで木材を投下もしてくるようになった。それで特高船は壊滅。

    ▼九州・台湾・香港
    川に遡上するウナギは約15%。85%は海か河口で暮らす。海ウナギ、河口ウナギという。最新の研究では、それぞれ遺伝子が違う可能性もあることがわかってきた。海ウナギは雌雄の比率がほぼ1対1、川ウナギは雌が9割。養殖のウナギは95%がオス。シラスウナギの密輸(台湾→中国→香港)は捕まることが増えてきたので、漁船に紛れ込ませたり、クルーズ船をつかったりして、荷物検査のないようにする。少数なら飛行機のハンドキャリーでもいい。
    →飛行機のハンドキャリーだとX線検査があるのでは?死なないのか?

  • これは面白かった。

    令和の時代になっても暴力団が当たり前に関与することで経済が成立している業界、それが漁業。

    密漁ビジネスとそれを見て見ぬ振りしながら経済を回す問屋と消費者、密漁者と警察のいたちごっこ、そして外国マフィアの介入…
    横たわる問題が複雑すぎて、理想の姿になかなかたどり着かないという背景がよくわかる。

    近年ではうなぎの高騰などはニュース等でも一部取り上げられるようになり、水産庁の動きの悪さなどが批判対象にされているように感じる。しかし理想を主張するだけでは解決せず、絡まった糸を一個ずつ解いていくことが求められるんだろうなとも思い、少しだけ見方が変わった。

  • うに、なまこ、うなぎの産地、築地。漁業関係には暴力団の影がチラチラするのにびっくり。そこに潜入しての体当たりルポ。仲間にならないかと話を持ちかけられいるからかなり食い込んでのレポートになっている。

    根室でソ連のスパイ船として登録すると、北方領土海域で漁の仕放題になるということで、そういう船がたくさん出たなんて意外だった。

    暴力団が密猟してとった魚介類は、その分安く横流しされる。仲介業者や店にとってはそれも魅力だったりする。地元の店で地元ならではのスペシャルなルートがあると言ったら、それは暴力団の可能性があるとのことだ。カンタンに反社会的勢力と区別できない密接な関係であることが分かる。

    本の雑誌2018年ノンフィクションベスト1位

  • 素晴らしい取材力

  • 魚屋でバイトしていた時、貝類は国産のラベルがついてても、実際は北朝鮮でとれてるんだぜ。と社員が話していたのをふいに思い出して手に取る。内容はタイトル通りで、ヤクザが蔓延る日本の水産業の実態が赤裸々に。必要悪というべきなのかどうなのか。消費者には責任はないのか?

  • 完全なる「タイトル買い」。
    サブタイトル『暴力団の巨大資金源「密漁ビジネス」を
    追う』。コレに興味を持たないサカナ好きは探す方が難
    しい。

    登場する魚介類はアワビ・ナマコ・イワシ・ウニ・カニ、
    そしてウナギ。ナマコにはあまり興味は無い(^^;)のだが、
    他のモノは全て僕の「好物」としてリストアップされる
    モノ。この本によると、だが、結論から言えば、上に挙
    げた全ての魚介類は「密漁」が無ければ市場に並ばない、
    もしくは並ばなかったアイテムである。

    いやぁ、凄い。
    確かに絶滅危惧種に指定されたウナギが、未だにすき家
    やなか卯のメニューにあることにちょっと引っかかる点
    はあったのだが、まさかこういう絡繰りで闇流通してる
    とは・・・。そういう、腑に落ちる部分が多々ある、すばら
    しいノンフィクション作品だと思う。

    いちばん印象に残ったのは、やっぱり北海道・根室方面
    の密漁の歴史。「ハロー!張りネズミ」でお馴染みの
    「レポ船」の実態が詳細に描かれている。特に、旧ソ連
    の巡視艇から特攻船と呼ばれる密漁ボートが逃げる部分
    の解説は正に迫真。著者の取材力は半端ではない。

    ちなみに鈴木智彦とは、伝説のヤクザ専門誌「実話時代
    BULL」の編集長を勤めた、その筋では有名なライター。
    この取材姿勢、全てのライターは本当に見習うべき。

    久々のノンフィクション長編だったけど、殊の外満足。
    ジャンル云々の前に、読み物として非常に面白いです。
    オススメ!

  • 主題は面白いのだが、上手くまとまっているとは言い難い。個人的な取材経験や、戦後からの経緯がごちゃごちゃしている。海産物の種類によって、密漁が常態化し反社と結びついていることはよく分かった。体を張った取材もしているよう。それだけに、もう少し上手く書けるのではないかと思えて残念。

  • 潜入取材の仕方を知りたくて、築地のところを読みたくて読んでみたけど、文章はむっちゃ面白いけど、潜入取材としてはコスパ悪いな。

  • 北方領土と根室の密漁が特に読み応えがあった

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著者プロフィール

1966年、北海道生まれ。日本大学芸術学部写真学科除籍。雑誌・広告カメラマンを経て、ヤクザ専門誌『実話時代』編集部に入社。『実話時代BULL』編集長を務めた後、フリーに。週刊誌、実話誌などに広く暴力団関連記事を寄稿する。主な著書に『ヤクザと原発 福島第一潜入記』(文藝春秋)『潜入ルポ ヤクザの修羅場』(文藝春秋)『サカナとヤクザ』(小学館)などがある。

「2021年 『修羅の花』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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