翻訳は「ザリガニの鳴くところ」。
どこでも大絶賛すぎて、逆になんだかずっと読むのをためらっていたんだけど読んでよかった。わたしの場合、すごく感動したとか、大絶賛とかいうほどではないけど(これもまわりの大絶賛にちょっと引いているせいかもしれないけど)、すごくおもしろかった。だれかが書いていたけど少女小説とか大河小説っぽさがあって楽しめた。
主人公Kyaが幼いころの話は、親兄弟がみんな出ていったあと、たったひとりで自然のなかでサバイバルしていく、自然と親しんで、貝を採ったり野菜を育てたりして食事をつくって家を整えて、っていうのが少女小説っぽくて、もちろん幼い子どもが苦しみ悲しむのは胸が痛むんだけど、なんとかやっていく姿はわくわくする感じもあって。
その後Kyaがティーンになって、これも少女小説みたいに出会った男の子との恋からはじまって、ちょっとロマンスものみたいな感じもあった。
相手にあわせて無理に笑ったときに、だれかを手に入れるためには自分の一部を差し出さなきゃならないんだ、とかkyaが思うところが印象に残ってる。
ほかにもいろいろ、意外と、女性の自由や権利、今の「Metoo運動」にもつながるような要素があって考えさせられたり。
あと、Kyaみたいにものすごく自然を愛して自然に愛されて、のちには天職みたいなものも見つかって、モノはなくても、ひとりでも、すごく充足してるように見えるのに、やっぱり人はひとりではいられないものなのか、とか考えた……。
そしてKyaが殺人容疑で逮捕されて裁判にかけられる。このあたりは、法廷モノ好きのしったかぶりで、こんな弱い証拠じゃ普通は不起訴じゃない?とかちょっといらいらしたんだけど、50年前くらいの田舎町の話だからかな、と思ったり。でもこの裁判のくだりのおかげで、Kyaとわずかなかかわりがあった町の人たちも冷たい人たちばかりじゃなかったってことがわかったわけで。
犯人はだれかっていうのは、たくさんレビューや感想を目にしてきたせいでわたしは最初からKyaなんだろうなと予想していたんだけど、ミスリードっぽい展開もあって、もしかして違う??と意外にドキドキした。
予想外だったのは、すぐに真相がわかるのではなくて、Kyaが幸せになって長い長い平和な年月がすぎたあとで最期にわかったこと。Kyaの幸せな姿が見られるとはまったく思っていなかったからうれしかった。Kyaが殺人を犯していたわけだけど、なんだかそれでもよかったなと思った。
それは、自然の摂理というか、種の存続のために雄が雌を、雌が雄をだますとか、交尾のあと雌が雄を食ってしまうとか、そういうエピソードが織り込まれていたせいかなと思ったり。自然の前では、人間社会のルールとか法とかがどうでもいいように見える。Kyaは人間社会じゃなくて自然のなかに生きたんだから、というような。